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第4話:先生“が”襲われます

 これまでのS級先生――

 学院をクビになって冒険者になったルクレシウスは、旅の途中で巡礼者の少女をモンスターから助ける。

 宿で寝る前、少女アレットは「襲わないで下さいね?」と意味深な発言をするが……


 アレットを隣の部屋に送った後。

 俺は、寝る前に部屋でくつろぎつつ、明日の予定について考える。



 アレットのギルドカードはFランク、【神職プリースト:Eクラス】とあった。

 得意なスキルについてお互いに情報を開示して、それを基に請け負う依頼を選定しよう。


 あまり遠出はしないほうがいいかな。

 地図は周辺を詳しく書いてあるものを買おう。


 装備は修理しなくても大丈夫かな?

 俺は自分の指の骨が魔術の触媒になっている特異体質らしいから、アレットの分だけ考えればいいか。


 ……ガチャリ。


 ふと、物音がしたので振り向いた。


「アレットさん、どうかしまし――」


 俺は思わず言葉を失った。

 なんでこの子はパジャマを脱いで、下着姿なんだ!?


「……部屋に来てくれなかったので、こっちから来ちゃいましたよぅ。

 せっかく、わたしの“はじめて”をあげたいなって思ってたのに」


 はい……?

 あ、あの。何を……?


 口を尖らせて両指を突き合わせる彼女に、悪びれた様子は無い。

 とりあえず、俺は背を向けよう!

 いくら彼女が自分でやろうとした事とはいえ、そこに乗じてジロジロと見るのは俺の流儀に反する……!!


「あっ、なんで背中向けるんですか! 据え膳食って下さいよ! ほら……乙女の柔肌ですよ……」


 なんて言い出して、アレットは事もあろうに俺の手を取ってなにかに触らせた。

 ぎょっとして振り向けば、俺の手は彼女の胸へと当てられていた。


 何、やってんだよ、君というやつは……!

 手、震えているじゃないか。


 俺は深呼吸をしながら、アレットの手を努めてゆっくりと引き剥がした。

 それから、両手を包み込むように掴んで、彼女の目を見る。


「いいですか。ゆっくり、離れて。服を、着て下さい」


「はい……お、怒ってますか?」


 俺は耐えきれず、手を離してもう一度背を向けた。


「……少し、びっくりしただけです。だから、誰があなたにそんな事を教えたのか、言って下さい」


「教会の人達ですよ。若い処女が初めてを捧げる時にこうすれば、喜ばない男はいないって……。

 あ、もしかして襲いたい側でしたか? アプローチまずったなー……確かにそっちのほうが主流だったもんな……」


 だから自ら進んで、報酬そのものになろうとしているのか、君は。

 なんてグロテスクな構図なんだ……。そんな事が道徳規範として存在するなんて。


 よりにもよって、神職で、年端もいかない少女じゃないか!

 ふざけるな……震えていたじゃないか、君の手は……!


 こんなの、むごすぎる!


「……っぐ……」


 くそ、駄目だ……!

 涙を止められない!


「ねぇ、話聞いてますか? って……え! なんで泣いてるんですか!? まさか、どこかぶつけたんですか!? 嬉し泣き、じゃないですよね? えっ、わっ、わっ、泣かないで下さい~!」


 なんで、君のほうがワタワタしているんだ……。

 ああ、落ち着け、俺。


 すぅー……はぁー……


 対象を自身に設定……――

 魔力量最小限で算出……――


 “鎮静スロウダウン付与エンチャント


 よし、落ち着いた。

 若干だけど。

 精神作用系のエンチャント魔法は魔力の消費が大きいから、出力を下げないと大変なことになる。


 涙を拭って、アレットの目を見る。

 身体には絶対に触れないよう気をつける。


「……いいかい、アレットさん。君を助けたのは、こんなこと(・・・・・)をするためじゃあないんだ。

 君が勇気を出して恩返しをしようとしてくれていることは解るけど、恋人でも娼婦でもない君の好意に、差し出せる対価を僕は持ち合わせていないよ」


「でも、でも! 辛すぎるじゃないですか! 頑張ってきたのに、全部、無かったことにされて!

 それなのにまだ頑張ろうとしている! じゃあ、先生は誰に甘えればいいんですか!」


「それでも、君に甘えて負担を掛けたくない。それだけは、しちゃいけない。

 老人が若者を食い物にする歪んだ規範に甘えて、本来は見守り育てなきゃいけない子供に親の役割を強いる、そんな醜い生き方はしたくない。

 君が健やかに育ってくれること……それが君にできる、僕への最高の恩返しだ」


「先生は、優しすぎます……なんで、そこまで誠実な人が苦労し続けなきゃいけないんですか……理不尽に何かを背負っているのは、先生だって同じじゃないですか……」


 いつの間にか、アレットも泣いていた。

 向かい合いながら、お互い指一本触れずに沈黙が続いた。


「……」


 ……やがて、アレットは突っ伏して寝てしまった。

 俺は起こさないように、アレットの位置を変えた。

 枕に頭を乗せないと、首を痛めてしまうからね。

 俺の寝る場所は……まぁ扉に背中を預けて寝ればいいか。


「おやすみ、アレット」



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

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