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第28話:先生、変なのに絡まれました……

 たまに流れるような毒舌を披露してくれる人って見かけますが、あんなボキャブラリーどこで勉強したんでしょうね?


 宿屋の立ち並ぶ通りにて。手近なところに泊まろうとした時の事だった。

 大きな乗合馬車が、宿屋の前に駐車してあるのを見かけた。


「……このエンブレム、魔術学院のものですね」


「ほぇ~。盾に三角帽と杖……シンプルなんですね」


「私は好かんな。どうにも気取っている」


 ――さて。学院の外でこのエンブレムを目にするという事は、様々な理由が考えられる。

 課外授業、フィールドワーク、はたまた体験学習と銘打った無償労働……あげつらうと枚挙にいとまがない。


 これは、どこの学科だろうか? 流石に、馬車だけじゃ判別できないな。

 学科さえわかれば行動範囲も絞り込めそうなのだが……魔道具工房があるから魔道具学科、というのは流石に安直すぎるか?

 時間がかかりそうだし嫌な予感もする。ふたりには離れていてもらおう。


「アレットさんとウスティナさんは、近くで食事でも。空いている宿を見繕ったら、チェックインしてそちらに合流します」


「はーい!」


「心得た」


 万一の事が無いようにしないと。


「あらあら、ごきげんよう“バロウズ()先生?」


 聞き覚えのある声に振り向いた。

 ……魔道具学科のカレン・マデュリア。



 彼女が、かつて自らの生徒だったジュドー・ハプセンスキを引きこもりに追いやったのは、誰の目で見ても明らかである筈だった。


 反対意見は結果で黙らせた……と言えば聞こえはいい。

 だが彼女の学科においては、単に自らの教え方の“型に嵌まる”相手でなければ切り捨てるだけだ。


 生徒を徹底的に調教して、己の理想の発明品を作らせる。

 一切の多様性を認めない、画一的に過ぎる教育方針だ。

 ひとたび学院の外に出れば通用しないことくらい、解る筈だというのに。


 かつて俺は幾度となく説得を試みたが、ついぞ聞く耳など持ってはくれなかった。



 彼女は青色の髪を片手で弄りながら、ハイヒールの靴の音をカツカツと立てて近づいてきていた。


「僕などと話をしても時間の無駄でしょう。宿に戻り、お休みになられてはいかがですか。マデュリアさん」


「休憩がてらご挨拶に参りましたの。お気に召されなかったかしらぁ? フフ」


「いえ、別に」


 努めて平静を装う。下手に反応すれば、彼女はますます面白がる。

 出来ることなら他にストレス解消法を見つけて欲しかった。まさか今も変わらず、成績の劣る生徒を拷問用魔道具の実験台にしていないだろうな?


 くそ……訊きたい、調べて、もしも本当にそうだったら何とかしたい!


 だが魔術学院は部外者が口出ししたところで動くような、素直な組織じゃない。

 俺はあまりにも無力だ……。


「お噂を耳にしましてよ。何でも、生理用品を作っているとか」


「――ッ」


 誰かから聞き出したのか?


「女の領分に男が踏み入るなんて。はしたないにも程がありましてよ? バロウズ元先生? ああ! お金稼ぎのための副業かしら?」


 と、ここでアレットとウスティナが戻ってきた。


「先生、あっちに良さそうな食事処がありましたよ~!」


「冒険者ギルドもあったぞ」


 ――!

 くっ、なんてタイミングだ……!


「あらあら! あらあらあら! 元教師ともあろうお方が、生徒くらいの年齢の少女に、ダークエルフまで加えてハーレムパーティの真似事をなさいまして?」


「2点、訂正して下さい。ダークエルフではなく、黒エルフです。ハーレムではなく、ふたりは冒険者仲間です」


 冷静に。冷静に……。

 相手は直情径行に殴っては来ないから、この前みたいな手は通用しない。


「あら、事実がどうであろうと同じではなくて? 学院という組織の中で満足に仕事できないあなたが、自分を満足に守れなかったあなたが、冒険者などという、底辺の低所得で! ゴロツキばかりの業界で! 足手まといを抱えておいでですもの!」


 ぐ……! 冷静に! れーいーせーいーにッ!!


「ねぇ? 何か一つでも反論できまして? バロウズ! 元! 先生! ――アッハハハハハハ!! ほら、あなた達もあんな大人にはなってはなりませんわよ!」


「ワハハハ!」「アハハハハ!」

「ヒャハハハハハ!」「デァーッハッハッハ!」


 取り巻きの生徒達も笑い始める。


「――ふぅーん」


 あ!

 アレット、こっちに来ちゃ駄目だ!


「さぞかし立派な教育方針をお持ちのようですけど、他にする事ないんですか? わたし達の冒険者活動を馬鹿にする事と、あなたの授業と、どういう関係があるんですか?」


 ウスティナが咄嗟に、カレンとアレットとの間に入る。


「私も是非ともお聞かせ願いたいな。憂さ晴らしにしては品が無さすぎる。それこそゴロツキのようだ」


「まあ! やはり騒がしい人に教えられると、堪え性のない子に育ってしまわれますのねぇ?」


 介入、させちまったか……! こうなったら!


「あなた自身だって、自らの攻撃性を堪えられないでしょう」


 起点を設定……カレンの頭部周辺。

 振動相殺領域を空中に固定。

 ――“静音サイレント付与エンチャント”!


「……――! ――!? ――!」


 カレンは自分の声が出なくなった事に気付いて、地団駄を踏み始める。

 学院の外でまで好き勝手されてたまるかよ。


「どうぞ、潔く消え失せて下さい」


「……――」


 えっと……口の動きからすると“おぼえてなさい”かな?

 カレンは取り巻きの生徒達と共に、宿屋へと戻っていく。


「ちゃんと、これも(・・・)覚えておきますよ」


 今までの、生徒に対するお前の仕打ちは全部覚えている。

 忘れるものか。絶対に忘れてなるものか。

 お前も、他の教師も。



「ふぅ……とりあえず今回はおとなしく帰ってくれたか……」


「すみません、先生。ちょっと、頭にきちゃって、つい……」


「大丈夫……大丈夫ですよ。ありがとうございます。僕の為に戦ってくれて」


「いいんです。だって、あんな事を言うの、許せないじゃないですか!」


 頬を膨らませるアレット。よくよく見れば、目に涙が浮かんでいる。

 苦労させてしまったね……。


「ウスティナさんも、ありがとうございます」


「構わんさ。奴はあの分だと、遠からぬうちに何かを仕出かすぞ。見ものだな。クククッ……」


 至って涼しい表情のウスティナ。

 実際のところ俺も、カレンが何かしらの失態の末に自滅してくれるのをどこかで望んでいなくもない。だがそうなると、残された生徒達が心配だ。



 とりあえず、この近くの宿で泊まるのはやめておこうと心に誓った俺なのだった。

 触らぬ何とやらに祟りなしってやつだ。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

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