第24話:先生VSアレットの生理2日目
ぽんぽんぺいん「生理が1日で終わるといつから勘違いしていた?」
ルクレシウス「なん……だと……!?」
アレット「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛……」
「う゛ぅう゛え゛ぇぇぇぇ……痛ぐで、ぎぼぢわるい゛……」
「本日は宿屋でゆっくり休みましょうね」
「あ゛ぃ……」
アレットいわく生理2日目。
当のアレット本人は、脂汗を流しながらベッドの上でうずくまっている。
食事が当たってしまったわけではないようだから、そこは安心だけど……そうか、2日目は、こんなにつらいのか……。
痛み止めを飲ませても尚、こんなに苦しそうなのだ。
ウスティナは今、買い出しと試作型魔導ナプキンの配布に出かけている。
(ちなみに女性からのファンレターにも、追記のメッセージを添えて同封し、送付しに行くそうだ)
つまりこの部屋にいるのは俺とアレットだけだ。
今の俺にできる事を、やるしかない。
――対象を設定、アレットの下腹部。
魔力量のルーチンを設定、微量、巡回……。
……――“鎮痛付与”!
「うぅ……ぐぐ……ちょっと楽になったかも……」
「気休め程度にはなるかと思います」
「すみません……先生……今月のっ、やつ、すごく、重くて……これじゃ、んぐぐ……冒険者失格です……」
アレットの手を、俺は両手で包み込むようにして握る。
「大丈夫。決して失格ではありませんし、僕は見捨てませんよ。
色んな人がいる。手間のかかる人、かからない人。話すのが得意な人、苦手な人。
同じ人が時期によってそれらを行き来する事だってあります。だから僕は絶対に見捨てない」
「ありがとうございます……あーあ……持ってたら、読んでもらえたのかな……先生は優しいし……」
……?
なんだろう。本かな?
「読んで欲しい本があればいつでも仰って下さい。学術書でも、研究書でも、絵本でも、何でも読みますよ」
「――あっ。その、えっと……今のは、聞かなかったことにして、ください……」
アレットは顔を真赤にしてシーツで顔を覆った。
ホントに何だったのだろうか……まぁ、詮索はやめよう。
きわめてデリケートでセンシティブな内容に違いない。
――コンコンッ。
「客人を連れてきたぞ。下の食堂にいた」
買い物から帰ってきたウスティナの後ろから、デイジーがひょっこりと首を出した。
「デイジーでーす。お二人とも元気してました? んげっ、アレットちゃん!? あらー……重たいの来ちゃったかー……」
「はい、重たいの来ちゃいました……」
すぐさま部屋に入り、アレットの頭を撫でる。
「よしよし、大丈夫だからねー……」
「わー、わー、デイジーさんのおてて柔らかいですー」
「でしょ~? いいグローブ使ってるから、手の皮が荒れないんだよね~」
他にも色々な話をした。
デイジーとカティウスがパーティを組み、それなりにメンバーが集まってきているという事。
新しく加入してきた、戦士バラドゥは元黒騎士で、雰囲気の変わったロビンズヤードを歓迎しているという。
「鎖の使い方がとにかく上手くて。あと、薬草に関する知識もすごいんですよ。もうちょっとこの近辺でやったら、あたし達も別の所に行こうかなって」
冒険者ギルドの空気感も、以前と比べて大きく変化したそうだ。
年長者におもねって、若者達がうやうやしく頭を垂れていたかつてのロビンズヤード冒険者ギルドは無くなった。
黒騎士達は兜を脱いで堂々と依頼を受けるようになったし、黒騎士とそうでない冒険者が少しずつ気軽にパーティを組めるようになった。
……俺のしてきた事は、間違いではなかったと信じていいんだね?
どうか、信じさせてくれ。
中には、きっとそれを歓迎していない者もいるだろう。
彼らの間で争いが無いのは、せめてもの救いだ。
「お水、新しく貰ってきます」
「あー! いえいえ、むしろ客人のあたしが!」
「私が貰ってこよう。どうせ暇だ」
俺が立ち上がるなり、デイジーとウスティナが俺を両側から掴んできた。
え、何この状況。
「……ウスティナさんは買い出しの帰りで、デイジーさんはお客人、そしてアレットさんはご覧の通りです。
僕は女性にばかりお茶汲みをさせたくない。僕に、行かせて下さい」
俺は至極真面目に言ったつもりだったが、デイジーは変なツボに入ってしまったようだ。
俺の言葉の途中から、両肩を震わせて笑いを必死にこらえている。
「ほらな、デイジー。私の言ったとおりだろう。この男はいつもそうだ。
馬鹿のように真面目で、儀に篤く、そこらの男連中がいかに矮小であるかを思い知らせてくれる。
更に面白いのは、客人の前でなくとも自然体でそう動けるところだ」
「分裂して1人分けて欲しい……あいや、カティウスさんはあくまでもメンバーであってですね」
「大丈夫です、それくらいは解りますよ。
男女が並んだだけで恋愛に紐付けて考えたりはしません。それがどれくらい危険な考え方であるかも、解っています」
「そういうところだぞ、貴公」
なんか優しく背中を叩かれた。
周りで誰もそうしないなら、せめて俺だけはそうしよう、俺の先の世代からはそれが普通になるように、みんなに伝えていこう……俺はそう考えているだけだ。
俺は特別なんかじゃないよ。
……特別であっては、ならないんだ。
「先生ぇ……? せっかくみんなから褒められてるのに、ちっとも嬉しそうじゃないの、どうしてですか!?」
「え、あ。あははは……社会の現状を鑑みると素直に喜べなくて」
「むぅ……わたしの分、りんごジュースで」
アレットが頬を膨らませながら注文を増やす。
「じゃああたしもそれで!」
「では私はワインで」
そこで敢えて合わせたりしないのがウスティナらしいや。
「では、貰ってきますね」
「先生やっぱりわたしエールほしいです!」
「おくすり飲んだでしょう。我慢しなさい」
「ぶぅ~……はーい」
まったく……。
あ、そうだ。
せっかくだから、デイジーにも魔導ナプキンの性能テストを受けてもらおうかな。
本人だけじゃなくて、そのご友人にも普及してもらう。
交渉役はウスティナにやってもらうとして、どうやって振るべきか。
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