第23話:先生と生理用品・手作り試作編
もはや過保護なワクワクさんと化している。
今、俺は自分の鼻血を使って、擬似的に経血の染み込みを再現しようとしている。
と言っても、量がそこまでではないから慎重にやらないと。
それに、鼻血と経血では厳密に言えば成分が違うから、そこを加味して考えねばならないだろう。
そっと、サンプルに手を伸ばして、この上に垂らして……と。
「先生……いきなり何をやってるんですか……?」
いつもならノリノリでセクハラ寸前の言動を俺にしてくる(俺の鼻血も半ば彼女が原因だ)というのに、俺が何か通常とは異なる行動を取るとドン引きするのは何故なんだ!
仕方ない……わかりやすく説明しよう。
「巻物用紙に鼻血を垂らしています」
「なるほど~! ――って、見りゃ解りますよッ!!」
手の平に拳を乗せて、合点がいったというポーズ。
かと思えば、テーブルを叩いて叫ぶ。
いきなりどうして怒るのか……ああ! 説明が足りなかったのか。
「もっと踏み込んで説明すると生理用品の実験です」
「経血に見立てて鼻血を使ったと」
「よく解りましたね」
「でしょ! でしょ! 褒めてくれてもいいんですよ? ほらほら~撫でろ撫でろ~♪」
アレットが屈んで頭を差し出してくる。
……。
…………。
撫でてあげるべきなのかな。
ここでにべもなく断るのは、却って失礼にあたるのかもしれない。
「……よ、よしよし」
「ごろにゃ~ん♪ ――でもなくてッ!!」
突如、撫でていた俺の右手が、乱雑に振り落とされた。
「痛ッ!? 何故!?」
「わたしはですね! なぜ! 先生が! またしても! 自分の傷を使おうとしているのか訊いてるんです!」
「ピンチをチャンスに変えてみました」
「そんなポジティブさはいらない……! うぅうう! さっきのわたしのしょんぼりを返せー!」
く……ッ! 腹にぐるぐるパンチはやめて頂きたい!
「痛ッ、痛い」
こっちは抵抗できない!
くそ、なるほど考えたな……!
途中で、アレットがウスティナに持ち上げられる。
両者では結構な身長差があるからか、アレットはさながら掲げられた猫だ。
「まあ良いのではないのかな。貴公が気に病む必要は一切ないという事だ」
「いやいや! 気に病むでしょ!? わたしのせいで鼻血を出させちゃったんですよ!? ――っていうか、まだ実験続けてるぅー! んノォオオオ!」
◆ ◆ ◆
「ふぅ……少し慌ただしかったですが、無事に性能試験が終了しました。名付けて“魔導ナプキン”です」
テーブルの上には、試作品が幾つか並んでいる。
ちなみに、鼻血はすっかり止まった。
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……スケルトンを切腹で鎮魂させた件といい、先生って、もしかして自己犠牲に躊躇がまったくないタイプですか……!?」
「大切な人が近くにいると、壊滅の危険が無い範囲での無茶ならしていいかなとは思います。
もちろん、他人にまでそのスタイルを強要する事は断じてなくて、あくまでも僕が個人でやっている事です」
なんて言ったら、今度は俺がアレットに頭を撫でられた。
「無茶しすぎて倒れたら、わたしが申し訳なくなって、胸が苦しくなっちゃいますよぅ……」
「冒険者、というか人は皆それぞれ異なるのですから、なるべくあらゆる刺激にも適応できるようにしますよ。ほどほどに、ですが」
「えっと、ごめんなさい……」
その話はこの辺にしておこう。
俺は、それよりも生理用品について説明したいのだ。
「今回これに使用したのは、もちろん幾つかの付与術です」
「ほえぇ~……無機物にもできるんですか?」
「戦士系の方々は、無機物――つまり武器に使う事のほうが多い筈です。ですよね? ウスティナさん」
「すまんな。あいにく私は使ったことがないし、ずっと一人でやってきたからな」
「あ、はい……」
これも詮索は、しないでおこう。
「話を戻すと、吸収、乾燥、脱臭、微量冷感、魔力変換、自動回復発動、一時的魔力循環経路形成の魔術的加工を施しました」
「な、な、なんという変態的発想……それってつまり経血を魔力に変換するって事ですよね!? しかも魔術系の素養が無い人でも!」
「はい、その通りです。経血を魔力に変換して術式が継続して作用するようになりますし、失われた体力も、ある程度は回復できます」
「さらっと何そのとんでもない発明!? これは、生理用品界隈に革命の旋風が巻き起こりますよ!?」
「そんなに凄いんですか?」
「当たり前じゃないですか! 綿瓜なんて、まずお店で材料買って、加工して、紐を巻いて、匂い消しにひたして、股の間に挿れて、紐が赤くなったら交換……不便でしょ?
対するこの魔導ナプキン……完成品だし、ぱんつの中に敷くだけだし、使い捨てだから洗わなくて済むし薄手だから嵩張らない!
買い手が付きますよ……あ、でも交換するタイミングが解りやすいほうがいいですね。気がついたら漏れ出してたとかだと……あの、先生? もしかして全部メモをしてらっしゃいますか?」
「そうですが?」
「わたし、整理して物を言っていないので、たぶんところどころ滅茶苦茶なこと言ってるかもです……」
「大丈夫ですよ」
それに――少なくとも、女性の目線でも歓迎できる技術だという事が解った。その収穫は大きい。
早速、性能試験だ!
アレットに使ってもらいつつ、試作品をウスティナに配ってもらおう。
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