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第20話:先生は生理を勉強します

 1章まるまる生理の話につぎ込むなろう作家なんて、私くらいのものだろうとは思うんです。

 けれど、けれどね……書いている側としては、やり甲斐を感じております。キャラクターというより、人間って感じがして。


「生、理……? そういえば、そんな概念を聞いたような。聞かなかったような……」


 だが俺は、そこまで詳しくない。


 あいにく、学院は一国の城にも匹敵する大きさにもかかわらず、そこに内包されている図書館の蔵書は魔術に関するものばかりだった。

 人体の構造について詳細な学術書が必要になっても、取り寄せるのは俺くらいのものだ。


 教師達は誰もが口を揃えてこう言った。

 ――『目と脳と心臓と、骨がわかればあとはポーションか治癒魔術でどうとでもなる』と。

 大雑把にも程がある!


 いや、多分、王国全体でそういう慣習なんだろう。

 昔に冒険者やっていた頃も、短期契約のパーティだった事もあったかもしれないが、女性のメンバーは誰ひとりとしてそんな素振りを見せなかった。

 秘密裏にどうにか処理していたのかもしれない。



 ――が、しかし!

 きっと知る機会は探せば幾らでもあった。

 無知ゆえに混乱してしまったのは、俺の落ち度だ……!!


「申し訳ございません、取り乱してしまいました」


「わ!? か、顔を上げて下さい! 先生がご存じないのも、無理ないですよ!

 母から娘、または教会の修道女さんから女の子にだけ口伝てで教えられる事らしいですから……」


「何故、文献に残さないのでしょうか?」


「概要なら教典にありますね。女の人のお腹には赤ちゃんを育てる袋があるのはご存知ですよね?」


「はい。そこは大丈夫です」


 コウノトリがキャベツに包んで運んでくるなんて迷信は流石にね。


「えー、で。此処から先がちょっとグロテスクなんですけど、いいですか?」


「後学のために是非、教えて下さい。僕にはその知識が必要です」


「わかりました。ある時期が来ると神様がそこに指で穴を開け、以降その時の事を忘れて淫らな行いに耽らないように1ヶ月に数日は“戒めの日”として血を流させるんですって」


「……え? それ、だけ……ですか?」


「あとは……文献じゃないですけど、11歳頃に初めて生理が来た時、修道女さんからは再三、口酸っぱく言われましたよ。

 細かいことは男の人に教えないように、赤ちゃんが産める体になった事だけ知らせるようにって。多分、そういう風潮のせいかも?

 あ! でも、初めて生理が来た日の女の子の晩御飯がみんな一切の例外なくザクロ粥だったのは覚えてます」


 そ、そんな馬鹿な……。

 なんでだよ、輪星教……。

 秘密にするものがズレているじゃないか!


 いや、これも王国全体で、そうなのかな……。


「もっと、他にも、こう……生活に根ざした経験談とかありますか?」


「他には、えーっと……人によっては生理の痛みとか、身体がだるくなっちゃって仕事にならないとか……そういう情報ならありますね。

 それと、規則正しく来るとは限らないです。今回だって、一週間ほど遅く来ました。わたしはすっかり忘れてたけど」


 そこ“てへぺろ”するところかな?


 さておき、既婚者の人はどうしているんだろう?

 母さんは、どうだったかな……巧妙に隠していた気がする。


「あっ! あとたまに誤解されるんですけど、機嫌が悪くなるのは生理中より生理の直前です」


 初めて知る事が多くて、クエスチョンマークが溢れそうになるのを、俺は必死にこらえた。

 おお、生理よ……なんて度し難い概念なんだ……。




 ◆ ◆ ◆




 なんとかウスティナと合流できたので、緊急対策会議だ。

(何故かウスティナは花束と手紙を山ほど抱えていたが、気にしないことにしよう)

 とにかく、アレットが血を流したままはマズい。


「ふむ、経血か。参考にならないと思うが一応言っておくと、私は垂れ流していたぞ」


 とはウスティナの弁。


「「豪快すぎませんか?」」


「クククッ……返り血で汚れたボロ布に、新しい血が付いていたところで誰も訝しんだりはしないものさ。独り身ゆえ気遣う相手もおらず、また他に方法も知らんのでな」


 ああ、そういえば装備を新調する前はボロ布だったもんね……。


「それに、魔物を引き寄せる撒き餌にもなるし、溜め込んで手で掻き出して目潰しに使う事だってできるぞ」


 ちょっと豪快すぎないか!?


「わぁ~、あけすけ~」


 アレットが、またしても変顔をしながら両手で指さす。

 やめなさいってば。



「こほんっ。さておき。わたしはいつも、綿瓜わたうりって植物を使っています。

 けど、大角鬼熊デーモンベアーと戦った時に、カバンごと投げ捨てちゃったのを、すっかり忘れてました……」


「綿瓜、ですね。確か別名、海綿草かいめんそう。魔道具作成に使う事がありますから、どんな見た目かはわかります」


「紐で先端を縛って使う必要があります。アイテム屋さんで取り揃えている筈……お願いしていいですか?

 綿瓜と、匂い消しポーションと、細い紐です。洗って使うから2セットで充分です」


 紐……なるほど、解ったぞ。

 先端を縛るというのは、これを引き抜く時に必要なんだな。

 出血箇所は、子供を産む際に用いられる箇所だから、そこに挿入……?

 ううん……普段まったく考えていなかった事を考えたら、頭が熱くなってきた。


「だ、大丈夫ですか? 顔、赤いですよ……?」


「知恵熱です」


「わかんなかったら、女性の店員さんに訊いて下さい。たぶん察してくれます」


「はい」


「ごめんなさい、先生……初めて知ったことなのに、色々と詰め込んでしまって」


「こちらこそ、申し訳ございません。知る努力を怠っていた事は僕の不徳の致すところでした」


 なるべく自力で探そう。

 おそらく生理という現象についての認識がこんなだから、俺のパーティメンバーがそれに備えられなかった事を(俺ではなくアレットを)軽蔑されるというリスクがある。


 あ、下着はどうするんだろう?


「アレットさん。替えの下着は大丈夫ですか?」


「カバンにあるので、買わなくて大丈夫ですよ~」


 助かった。

 いくら緊急事態とはいえ、さすがに下着まではためらうから……。



 短縮術式呼び出し……対象を自身に設定……

 ――“俊足スプリント付与エンチャント


 俺は、装備販売店へと小走りで向かう。

 アイテム屋も合併しているから、とりあえずそこで揃えるのが手っ取り早いし、何よりも道を知っている。



 ……それにしても。

 道理で女性用の防具はどれもこれも足回りの露出が多いわけだ。

 股から血が出た時の異常を察知する手段の一つであったという、ある意味では合理的な考え方の下だったのか。


 ……いや、もしかしたらそれは副産物だったのかもしれないが。

 とにかく今は、集中しよう。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

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