第19話:先生の振り返り
これまでのS級エンチャンター:
スケルトン退治から帰ってきたらウスティナにネクロマンサーの疑いがかけられ投獄されるも、裁判にてそれまで助けてきた人達と、彼女らの呼んだ最強の助っ人が、反証を提示!
逆転無罪を勝ち取ったかと思ったら、変なおじさん達に喧嘩を売られた!
――……彼らの心無い言動にブチ切れたS級エンチャンターことルクレシウス・バロウズは、闘技場にて彼らを返り討ちにしたのだった。
さて、件の中年冒険者達にはしっかり3つの約束を取り付けた。
アレットとウスティナの合意も得ている。
1つめ、アレットとウスティナ、およびこれまでセクハラを働いた相手への謝罪
2つめ、俺の特別セミナーを受講する
3つめ、上記を踏まえてロビンズヤードの冒険者ギルドの環境改善に努める
破ればどうなるかと言うと、便りが俺宛に届くようギルドの人達に伝えてある。
この辺りはウスティナのネームバリューが効いている。
冒険者ギルドは権威主義的なところがあるからね……。
ウスティナが本物であると証明されている以上は、逆らった時の報復が怖いというのが彼らの正直な見解だろう。
そこら辺の偏見とか古い慣習を改めさせるのも含めて、ガイローン達に教育したというわけだ。
そんな、すっかり紳士的になったガイローン達を俺は今、冒険者ギルドまで連れてきた。
俺と彼らはギルドの隣の宿屋に泊まり、アレットとウスティナは件の女将さんのところに泊まってもらった。
「それでは、よろしくおねがいしますね」
「「「「イエス! トゥービージェントルマン!!」」」」
返事は文句なし。
あとは、変な気を起こさなければいいけれど。
しっかり従うふりをして、裏で何かをするというのは教育現場において常に存在するリスクだ。
ましてや数日前の野良試合までは俺達を敵視していたのだから、なおさら警戒が必要だろう。
――ちなみに、冒険者ギルドの隣の宿屋で読んだ新聞によれば。
デナーシュ・ドーチックには、裁判で為す術なく有罪判決が下されたそうだ。
多数の証拠が上がっていて、もはや誤魔化しようが無かったという。
そして、俺達を嵌めようとした某ギルド職員は、ギルド長の耳に届いて懲戒解雇処分となった。
あとは衛兵のヴィクトール・グランスバックは左遷された事をわざわざ本人が報告しに来たことも印象に残っている。
ガイローン達は、あくまで利用されただけという事で、報酬金の返金以外はお咎め無しとのこと。
釈然としないが、現時点では本人達で償ってもらうしかない。
ギルドからは俺達に、報酬の5倍の金額が示談金として支払われた。
おかげで当面、ひとまず生活する分には困らない。
……稼がなきゃいけない事に変わりはないけれど。
さて。見送りは済ませた。
ロビンズヤードの冒険者ギルドが、少しずつでも変わってくれる事を祈ろう。
「……アレットさん。もう、出てきても大丈夫ですよ」
「あ、はい、ありがとうございます、先生」
物陰から、アレットがおずおずと顔を出した。
……アレットは、あの試合が少しトラウマになっている。
ゲルホークが試合中に、生成した触手を使ってアレットのパンツを衆目に晒そうとしていたからだ。
他人の下着を当人の許可無く見世物にするなど、言語道断。
正直、彼らを去勢してしまうべきなのではとも思ったが、あいにくと丁度いい付与術が無い。
逆恨みで告発された際、こちらの潔白を伝えても認めてもらえなくなるリスクが高い。
「次の街へと移動しましょうか」
アレットとしても、いくら彼らが反省しているとしても、顔を見るのも辛いだろうからね。
あとで、武器防具販売店を覗いていこう。オーナーさんとドワーフさんが気掛かりだ。
「そういえばアレットさん。ウスティナさんは一緒ではありませんでしたか?」
「小腹が空いたとかで、露店街で買い食いしに行くって言ってましたよ」
「なるほど。ではその辺りで合流しますか」
なんというか、自由だな……。
往来を歩いていると、人々の反応は大きく分けて2種類だ。
一方は称賛。
「よくやってくれた」
「あんたは英雄だ」
「これからも頼んだ」
特に、亜人や黒騎士――肌の色が異なる人々からは特に、そのような反応をもらう事が多い。
もちろん彼らの中にも、そうでない言葉を投げかけてくる人はいる。
そう。もう一方、敵視だ。
「余計な真似を」
「若造が粋がりおって」
「不正な手段を使ったに違いない」
後者の人達がそう思うことを否定はしない。
けれども、敢えて聞き流させてもらうよ。
目の前で苦しんでいる人を助ける事が余計だと言われて頷けるほど、俺は諦めのいい性格をしてはいない。
見過ごして、どうなるか……見過ごされた人達の末路を、俺は知っているから。
せめてもの贖罪に、俺は……。
「せーんせっ」
ローブの背中を、きゅっと引かれる。
「どうかしましたか?」
「そういえば、ウスティナさんと相談したんですけど、次は南の――フィッツモンド湾のほうに行ってみるのはどうでしょうかって」
「フィッツモンド、ですか」
随分昔に、父の仕事で数週間ほど滞在したっけな。
距離はそこそこあるけれど、道中には街も村も沢山ある。
補給に困る事は、おそらくなさそうだ。
「はいっ! あの辺りは地形がなだらかで、なおかつ海が近いそうです。
ここよりも交流が盛んだから、きっといい情報が手に入るって言ってました。
わたしも、巡礼のお仕事で、あの辺りからのスタンプを本部に送りたいですし」
教会の仕組みはよく知らないが、俺も正直、次の行き先を決めかねていた。
久しぶりに、あの雑然とした港町の喧騒を肌で感じてみるのもいいかもしれない。
「では、決まりですね……む。アレットさん……――足の内側から……――!?」
――足の内側から、血!?
一体、どうしたんだ!?
「――うわ、しまったっ。もうそんな時期だったかぁ~、痛みがなかったから油断してた……」
アレット!
なんでそんなに落ち着いていられるんだ!?
思わず両肩を掴んで、揺さぶってしまう。
「何者かに攻撃をされましたか!? それとも、食事に何か毒が!?」
「あの。先生……」
「とりあえず傷の修復が先決ですね! 今、準備しま――」
「――先生! 落ち着いて下さいってば! 傷じゃないです!」
ぽむっ。
俺の頬は、アレットの両手に優しく挟まれた。
ひとまず詳しそうだから、話を聞いてみよう……。
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