第17話:先生と闘技場
ここまでのS級先生……
法廷では勝訴したが、クソおやじ達に逆恨みで絡まれ、ウスティナが「よろしいならば闘技場だ」と言い出したので試合開始! ファイッ
“深紅のソードマスター” ―― 剣士ガイローン。
“不屈なる大男” ―― 重戦士ジョー・ゴードン。
“魔術のエンターテイナー” ―― 魔術師ゲルホーク。
“必中のハーフエルフ” ―― 弓手ディスラン。
それが、熟練の冒険者達の内訳だ。
年齢は人間が平均40から50くらいか? ハーフエルフは解らない。
ランクは不明だが、装備の充実ぶりを見るに全員C以上はありそうだ。
リーダー格のガイローンが、赤い鎧に包まれた肩を怒らせ、大股開きで俺達に近付いてくる。
「おうボウズ、調子こくんじゃねぇぞ。ウチの若いもんをいじめてくれた落とし前をまだ付けてないだろうが」
沙汰が下る前に暴れる馬鹿が、落とし前を語るとはね。
「若いもん、とは?」
「しらばっくれんじゃねぇ! 若い魔術師がいただろうが! オメーが焼印つけた奴だ!」
あいつか……。
「先に危害を加えたのは、彼です」
「危害だぁ!? 訳知り顔で抜かすんじゃねぇ! あのギルドは俺達の憩いの場なんだ。これまで、ずっとそうだった!
洒落の通じない若造がもっともらしい事を言って乱していい場所じゃねぇんだ!」
「女の子のスカートを、本人の承諾も無しにめくるのが洒落と。そう仰るのですか」
「あの場所で女が働くってぇのはそういう事だ」
「契約書にはそう書かれていなかったそうですが」
ガイローンは俺の胸ぐらをつかんできた。
「それくらい察しろ。てめぇこの業界ナメてんのか? 甘い顔したら女が付いてくるとでも思ってやがるのか! おぉ!?
喧嘩売ってんだな? そんな事してモテると思ったら大間違いだぞ」
弱い(という偏見を抱いている)立場が反撃したら喧嘩を売った事になるなんて、おかしな世の中だ。
そしてガイローンの怒りの矛先は、この部屋で一緒にいるデイジーにも向けられた。
「そもそもデイジー! テメーがチクったからだろうが!」
「ひっ……」
そろそろ、もう限界だ。
「……アレットさん。ウスティナさんと二人で先に、みんなを避難させてもらえますか?」
「わたしは残ります」
見れば、周りの人達も睨みを効かせている。
泣きそうになりながらも踏み留まっている人もいた。
……早く、この老害共を追い返さないと。
「それで、僕達にどうしろっていうのでしょうか?」
俺の声は、自分で思っているより苛立たしげなトーンを伴っていた。
魔術師ゲルホークが返事をする。
「生意気な口を利くんじゃない。大人の常識っていうものをもっと勉強しなさい」
常識、常識って……。
全身の毛が逆立つ。
ビリビリと、殺気が込み上げてくる。
「……あんたら、いい加減にしろよ」
「あー、待て、貴公。落ち着け」
ガシッ。
後ろから腕を掴まれた。
「そこで私は考えた。闘技場にてエキシビジョンマッチをしよう」
「……えきしびじょん、まっち」
殺気が急激にしぼんでいく。
「いや、初めは大型ゴーレムとでもやりあうつもりだったのだが、熟練の冒険者のほうが張り合いもあると思い至ってね」
張り合いがあっても道徳心は無いのが問題だけどね。
「長年のチームワークというものを見せつけて、私を見事に討ち倒せば、ダークエルフも大したことはないと喧伝できる。逆に……」
鉄仮面のせいで目は解らないが、口元はニヤリと釣り上がっている。
「――この者らを完膚なきまでに叩きのめせば、そこらの老いぼれ共など物の数ではないと証明できるわけさ」
つまり合法的にブチのめせる、と。
悪くない考えだ。暴力は最終手段だからな。
「だがダークエルフよう、俺達が受けるメリットを提示してくれないとなァ?」
「勝ったほうが負けたほうに、自チームの人数分、言うことを聞かせる事ができるというのは、どうかな」
ガイローン達は一斉にツバを飲む。
その様子を見て、ウスティナは鼻で笑った。
「だが、果たして貴公らでは勝負になるかな」
「言わせておけば、呪われた闇の種族め……!!」
この野郎……と思った、が。
ウスティナは俺が身じろぎしたのを素早く察知して、ガシッと掴んできた。
「私から言わせてもらえば、呪われているのは、この世界のほうさ。
それで、どうする。今日中にやり合うか。裁判所の傍聴席にいた連中も、消化不良気味だろうからな」
◆ ◆ ◆
闘技場は冒険者ギルドの保有する施設で、ロビンズヤード内にあるから遠くもない。
そのおかげなのか、当日中に組まれた試合の割には、そこそこの人数が集まっている。
一応準備は済ませたけど、大丈夫かな……?
俺の不安はさておいて、ウスティナが前に出た。
「ルールを確認しよう。“不殺”と“全滅を以て勝負あり”だな。
武器と戦法は何でもあり。勝ったほうが負けたほうに、人数分の願い事が言える」
「おう。俺らは4人、そっちは3人なんだがいいのか?」
「構わんさ。実力差を考えればハンデは必要だろう。それに、こっちの願い事は3つで充分だ」
会場のざわめきの中でも、ウスティナの声はよく通る。
「「「「Boooooooo!!!」」」」
ブーイングすごいな……。
俺達を応援してくれている人達は、ごく僅かしかいなかった。
「舐めやがって……お高く止まったソロ専のコミュ障ダークエルフの分際でよぅ!
さくっと打ち負かして、可愛い鉄仮面ちゃんの素顔を暴いてやるぜ!」
ガイローンがダミ声でがなりたてる。
それに合わせて観客達が歓声を上げた。
正方形のリングの外側にある見張り櫓から、審判兼ナレーターが拡声魔術で声を上げる。
『さあさあ皆さんお待ちかね! これより始まりますは、ロビンズヤードの誇る冒険者たちが、ひよっこの余所者に挑む、決闘マッチだ!』
オオオオオオ!! ――観客席の歓声がすごい。
俺には、懸念事項があった。
スカートめくりを娯楽として消費する輩と戦うとあらば、ウスティナはともかくアレットが心配だ。
あいつらの娯楽の為に法衣をめくらせる訳にはいかない。
「アレットさん。なるべく彼らに接近しすぎないようにお願いします」
「……でもそれだとわたし、お荷物じゃないですか?」
「2人より3人のほうが心強いと僕は思っています」
「! はいっ!」
短縮術式呼び出し……対象をアレットに設定。
――“放電付与”
――“反射付与”
“俊足付与”……
「あなたに、武運と安寧を」
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