表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/141

第2話:先生、馬車に乗ります

 本日はこれに加え、更にもう1話投稿予定です。


 心残りはある……けれど。


「もう行かないと」


 自分自身に言い聞かせて、俺は旅に出た。



 教師になった時にギルドの登録を解除しなきゃいけなかったから、今は初期のFランクからやり直しだ。

 けれどギルドカードの裏にあるスキル配分診断結果には【付与術士エンチャンター:Sクラス】の文字が刻まれている。


 なんとも、いびつじゃないか。

 異端者の烙印を押された俺にはよくお似合いなのかもね。



 山の付近で暴れている魔物を討伐するという依頼を受けた。


 俺は目的地に向かうため、大人が20人くらい乗れる大きな乗合馬車を幾つか乗り継いで移動する。

 なぜかって、この馬車なら運賃が安いからだ。


 終始ずっと徒歩だと時間が掛かりすぎるし、迅脚スプリント付与エンチャントは30秒ほどしか持たないから魔力がもったいない。

 それに、馬車の乗客の話を盗み聞きするのは、最も手軽な情報収集の一つだ。


 今のところ、有益な情報は何一つ無いけれど。



「オギャア! オギャア!」


 赤ちゃんの泣き声が響く。

 馬車に乗り合わせている女性は、この赤ちゃんを抱えている人の他には数人。後は男性だ。


 けれど老若男女様々な人達が、顔をしかめて「うるさいなあ」とか「早く泣き止ませろよ」「魔物が来るだろ」とか身勝手な陰口を叩いている。

 あまつさえ「子連れ女が一人かよ。未亡人か?」「口説いてこいよ」「やだよ、あんなババア」だのと下衆の勘繰りをしだす輩まで現れた。

 御者とその護衛も、どう対処していいか解らないようだ。


 魔物の大発生が収束してからもう70年も経とうとしている。

 にもかかわらず少子高齢化が進んでいるのは、こういった人達への教育がまともに行われてこなかったせいだ。


 ……観察することおよそ8秒。

 誰も動かないのは知ってたよ。

 だから、俺が行く。


 俺は周りの下衆共を睨んでから、ママさんのところに近付く。

 まずは赤子に挨拶だ。


「あらあら、大丈夫ですよ~」


「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」


 駄目か……でも糸口はつかめた。


「ああ、ごめんなさい。この子ったら、ちっとも泣き止まなくて……!

 おっぱいあげたばかりだし、おしめも変えたのに、どうしちゃったのかしらねぇ」


「この辺りの気候は、どうしても寒くなりがちですよね。ちょっと暖かくなるおまじないをしてみましょう……」


 対象を設定……――

 温熱効果発生範囲を設定……――

 必要魔力量、算出完了……――


温暖ウォーム付与エンチャント


 あと赤ちゃんの目の前で変顔もしてみる。


「キャッキャ!」


「よし、これでしばらくは大丈夫でしょう。すぐにお力になれず、申し訳ありません。心細かったでしょう」


「いえいえ! ありがとうございます! 世の中が、みんなアンタのような優しい人だったら良かったんですけどねぇ。

 まったく、ウチの亭主も見習って欲しいよ……」


「ハハハ……旦那様についてはノーコメントで。面識がありませんからね」


 ところで亭主――つまり夫がいるって事だね。

 下衆の勘繰りは、ものの見事に外れたわけだ。


 俺が周囲に視線で訴えると、さっきまで陰口を叩いていた連中は恥ずかしそうに顔を背けた。

 何やってんだ、悪いことしたなら謝れよ。



「――みんな、掴まれェ!」


 けれど謝罪の機会は、まだ先になりそうだった。

 馬車が急停車した。



 俺は窓から外を見る。

 あれは、大角鬼熊デーモンベアーだ……。


 大角鬼熊に押し倒された少女が一人、木の盾と中型のクロスボウで応戦している。


 が、王国の国教――“輪星りんせい教”の法衣である紺色のワンピーススカートはあちこちが破け、血が滲んでいた。

 このままでは確実に死ぬ。



 短縮術式呼び出し……対象を自身と、仮称:巡礼者に設定。

 ――“俊足スプリント付与エンチャント”!

 続いて“障壁バリア付与エンチャント”!

 “漸復リジェネレーション付与エンチャント”!

 “筋力マッスル付与エンチャント”!


 そして、俺は大角鬼熊の顔面目掛けて跳躍。

 ドロップキックを食らわせる。


「――!! GUAAAAAAHHHH!!」


 吹き飛んだ大角鬼熊は、何度もきりもみしながら転がっていき、大木にめり込んだ。

 間一髪だ。


「ふぅ……」


 だが、油断はしない!

 振り向いて声を掛ける。


「大丈夫ですか、そこのきみ! 今すぐ馬車の中に逃げてください!!」


「う、うぅ……」


 立ち上がるのもままならないくらいに消耗しているのか……!

 まずいな。


「御者の護衛さん、今すぐその子を連れて、馬車へ!」


「ああ!」



「GURRRRRR……」


 起き上がった大角鬼熊は対象を俺に変えたらしい。

 奴はへし折れた自慢の角を放り捨て、口元から煙のような息を吐いている。


 それでいい。

 俺がお前のターゲットであると同時に、お前は俺のターゲットでもあるんだ。


 何故なら討伐依頼の対象は、お前なのだから。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ