表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/141

第15話:先生と聖堂騎士

 前回うっかり短時間で2話連続更新しちゃったので、日曜日はちょっとお休みします。

 ご迷惑をおかけいたします。


「確か貴殿は……聖堂騎士団の」


 判事の言葉が途切れるのを待って、鎧姿の男が敬礼する。


「は。第8巡礼隊・隊長、ザナット・ブランキーであります」


「“百眼ひゃくがんのザナット”だと!?」


 裁判所の多数の人々が、どよめく。

 それもその筈、ブランキー子爵家は、かつてこの世界が魔物で溢れかえった時代に活躍した名家だ。

 私財を投げ売って自領民を王都まで退避させた英雄ファウリム・ブランキー。

 ……ザナットは、そのファウリムの孫だ。


「して、ブランキー卿。何故ここへ」


「は。ドーチック商会を追及する為であります。バロウズ氏を騙し、隠れ蓑に使ったとの告発がありましたゆえ」


 なるほど、その方向性で来たか。デイジー、ありがとう。

 ここで、アレットが俺のローブをきゅっと握る。



「どうしましたか?」


「聖堂騎士団は、教区内の背信行為を取り締まるべく組織されました。もちろん、その中には不当な目的でスキルを使用したり、アンデッドの発生を意図的に隠蔽したりした場合も含まれます」


 敵の敵は味方、という事か。

 だけど……この場合、カティウスはどうなる?

 今しばらく、状況を静観しよう……。



「ザナット・ブランキーの名に於いて、これより尋問を行います」


「……許可する」


 判事が手で示すと、ザナットはドーチックを瞠目する。


「デナーシュ・ドーチック!」


「ははァ……!」


「部下に調べさせたが、バロウズ一行が現場に赴いた回数はたったの一度だ。それと、退魔系のスキルの使用痕跡が確認された。

 貴殿に同行させた巡礼者カティウスのスキルに退魔系スキルはあったか?」


「巡礼者なら誰もが持っている筈です」


「冒険者ギルドのスキル鑑定士を呼んでいる」


 やっぱり、デイジーが声を掛けてくれたようだ。

 けれど、俺はウスティナを見てもらうつもりで頼んだ筈。


「待て、待て! カティウスより先に! そこのダークエルフを調べるべきだ! そうでしょう、判事殿!」


 こいつと意見が一致するのは気に食わないな。


「ふむ……ブランキー卿、先にそちらから」


「承知しました。ではダークエルフ。前へ」


「名前で呼んでくれないのは……ルクレシウスを安心させてくれた事に免じて、赦してやるさ」


 ウスティナは、鑑定装置に手をかざす。

 しばらくして鑑定士は、ザナットに向き直った。


「判定結果、出ました。登録プロフィール、スキル一覧、共にギルドカードと一致します」


「ほらな。私は紛れもなく“鉄仮面のウスティナ”だったろう」


 ウスティナが腰に手を当てて得意げにうなずいたことを皮切りに、辺りはどよめいた。


「そんな馬鹿な……」

「信じられん! あんな汚れた者に……」

「闇に魅入られ堕落したエルフだぞ……」



「お言葉だが、それは旧い連中の迷信だよ。黒エルフとは、いち種族に過ぎん。みな生まれた時からこの肌だし、はるか昔から存在している。

 人間の髪の色だって数えきれない程なのだから、肌の色くらいで目くじらを立てないで頂きたいな」


 よく言った。その通りだよ、ウスティナ。

 多数派の金、茶、黒、赤。

 青や紫はそれなりで、緑と橙はかなり少ない。


 他にもいっぱい種類がある。

 目の色との組み合わせも考えると、もう把握しきれない。



「……やはり長講釈は疲れる。剣闘大会で実際に動いてみせたほうがいいな」


 その結論には無理があると思うけどね。

 既にウスティナがなりすましではない事は証明できたわけだし。



「そんな……ダークエルフなのに死霊術も使わんのか!」


 愕然とするドーチックに、誰も返事をしなかった。

 ザナットは冷淡に続ける。


「続いて巡礼者カティウス。前へ」


「はい……!」


 初対面の時のような、おどおどした感じがない。

 どこか、覚悟を決めたような面持ちだ。


 デナーシュ・ドーチックは、ヒゲをしきりに撫でながらカティウスに視線を送っている。

 まるで『くれぐれも余計なことは言うなよ』と伝えているみたいだ。


 カティウスが鑑定装置に手をかざす。

 しばらくして、鑑定士は告げる。


「鑑定結果、退魔系スキルは確認できませんでした」


「ドーチック。これはどういう了見か」


「そ、そうおっしゃられましても、計測を間違えたのでは……?」


 ザナットは手振りで鑑定士に合図した。

 再びの鑑定……そして。


「やはり確認できません」


 という鑑定士の言葉を受けて、カティウスが静かに言葉を紡ぐ。


「事前にザナットさんらに話を通しておいてよかった。これで、心置きなくお伝えできます。やっと、やっとです!

 巡礼者として恥ずべき愚行を、少しだけでも償いたい……どうか、ご静聴を」


 ……まさか、カティウスの(口パクで)言った“信じて”というのは、そういう事か!


 俺がデイジーに鑑定士を呼ぶように言ったのは、あくまでウスティナがネクロマンサーでない事を証明するため。

 カティウスを見てもらうのは、カティウス本人がそのように伝えたからか!


「私たち巡礼者の大半は、自衛するにも事欠く程度の力しか持っていません。

 権力者が大義名分をかざして命令すれば、身命を賭して断り殉教者となるか、唯々諾々と従うしか選択肢はありません。

 私の場合、後者でした……恥ずかしい事に、私は我が身可愛さに、教義を裏切ったのです。

 後に詳細を供述しますが、封をして、他の者達に委ねるという提案に乗ってしまった。

 私の名が悪名にならなくて済む、誤魔化しの選択肢に手を伸ばしてしまった!

 以来、私は、ずっと悩み続けました。言うべきか、言わざるべきか。

 けれど、ルクレシウス・バロウズさんは、そんな私の不徳を、私の代わりに購ってくださった……」


 そんな葛藤が、あなたにはあったのだね、カティウス。


「私に退魔のスキルが無い事を証明した今こそ、包み隠さずお伝えせねばなりません」


 さて、明らかに空気が変わったぞ……。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ