第14話:先生と法廷
「待った!」のギザギザ吹き出しと共に現れる証言者によって流れが変わる展開、控えめに言って最高に好きなんです。
元ギルドウェイトレスさん(現:冒険者)が面会に来てくれた。
名前はデイジーという。
「今、受付嬢の何人かに、皆さんのサインのある依頼書を探して貰ってます」
「助かります」
ここで、アレットが首をかしげる。
「あの。素朴な疑問なんですけど、ウェイトレスやめたらギルドにとっては部外者なんじゃないですか……?」
それに対し、デイジーは得意げに微笑む。
「って思うじゃないですか? なんかー、辞める前にこの件で相談したら“部署が違うんだし、派遣のくせにしゃしゃり出るな”って怒られたんですよねー」
「うーわぁー……そんな職場が本当に存在するんですね……」
「うん。だから、やめちった。客の立場なら部署もクソもねーだろって話ですし。
制服の下はパンツ以外着けちゃいけないクソルールとも、これでおさらばです」
「退職に際して、凡骨職員に何か言われなかったか」
と、ウスティナ。
対するデイジーは、肩をすくめた。
「“あの程度で音を上げたら、よそでもやっていけないぞ”って言ってました」
「クククッ……何と滑稽な。精神論で繋ぎ止めようとするなど、前時代的に過ぎるよな」
「今どき悪徳貴族でもそんな有り触れたこと言いませんよね~ってワケで、今、逆恨みで一枚噛んでたりしないか調べてるところなんです」
何が“ってワケで”なのかはさておこう。
「調べはどれくらいついていますか?」
「ルクレシウスさんに処分を下そうとしてウスティナさんに掴み上げられた後、他の冒険者パーティが彼に接触したってところと……。
あと、ドーチック商会さんと結託して、同じ内容の依頼書をもう一枚作って、別のパーティにサインさせていました」
「ありがとうございました。ちなみに裏はどれくらい取れていますか?」
「この二つは動かぬ証拠を押さえてますよ……100%混じりっけ無しの真っ黒です。目撃者だっていっぱいいますし、指紋のベッタリ付いた命令書だって」
「信じられません……あの職員さんがまさかこれほどとは」
「結局、あいつも自分のメンツを潰された事が許せないんですよ。ほんっと、男――じゃなくて、ああいう奴って馬鹿みたい」
言い直さなくてもいいんだよ。
実際その通りだと、男の俺でも思うし。
「あーあ。世界中の男の人が、ルクレシウスさんみたいに紳士的だったらな~」
などとデイジーさんは羨ましそうな表情で、指をくわえる。
突如、俺の両肩が引っ張られた。背中に感触があるのは、アレット……また君か。
「先生はわたしがお嫁さんになるんです」
「アハハ……だいじょーぶ、ひとの旦那さん取るほど飢えてないって……」
「あの、僕はアレットさんとは結婚どころか婚約してませんからね!?」
まったく……。
さておき、もうちょっと解決の糸口を探してもらおう。
「お手数ですが、裁判の当日までにスキル鑑定士さんにも声を掛けてもらえませんか? あとは件のパーティの詳細な足取りも……できれば、物的証拠を」
「任せて下さい。アテがあるんです」
「助かります」
「それじゃ、サイキョーの助っ人を連れてきますから!」
去り際に、彼女はそう言い残していった。
最強の助っ人とは、いったいどんな人なのだろう?
◆ ◆ ◆
そして、裁判の日がやってきた。
ドーチック商会側は証言者を6人用意した。
…… 件の冒険者パーティ4人
…… 件のギルド職員1人
…… 巡礼者カティウス
――あ! カティウスが、そっち側に!
くそ……カティウスを囲い込まれたか……これは不覚だった。
いや、仮に俺達側として出てもらう約束を取り付けていたとしても、きっと弱みを握られて同じ結果になっていただろう……。
ん、なんだ?
口を動かしている……?
“わたし”
“を”
“しんじて”
……何かしようとしているのか。
けれど、本当に信じていいものか。
どうだろう。
アレット、どうかな!?
「……声を出してくれない事には何ともですね」
「難しいか……わかりました。過信はしないでおきます」
ドーチック商会側の冒険者パーティが証言台に立つ。
“深紅のソードマスター” ―― 剣士ガイローン。
“不屈なる大男” ―― 重戦士ジョー・ゴードン。
“魔術のエンターテイナー” ―― 魔術師ゲルホーク。
“必中のハーフエルフ” ―― 弓手ディスラン。
ディスランを除く全員が、中年男性の熟練者といった外見だ。
なるほど、ベテランの風格を出しているな。
彼らから出た証言は俺からすればまったくのデタラメだけど、一部はデイジーの提供してくれた情報を裏付けてくれた。
件のギルド職員も、このパーティから依頼受諾のサインを貰ったと証言している。
そして彼らの証言には、大きな穴がある。
俺達はあの坑道に一度しか行っていない。
状況証拠が無ければ、立証できない。
さて、次はカティウスの証言がどうなる?
と、そう思っていたが……。
「以上の証言に矛盾は見られない。よって、ルクレシウス・バロウズおよびアレットの冒険者ライセンスの無期限剥奪、およびウスティナを騙るダークエルフの死刑判決を言い渡す!」
判事は、冷徹にそう言い放った。
……流石に一方的すぎるじゃないか。
20年も前に沢山の人が、それで冤罪のまま死刑になって大問題になっただろう!?
少しは反省しろよ。何か弱みでも握られているのか?
俺は思わず挙手した。
「待って下さい! こっち側の反証がまだです!」
「その必要があるとは思えない。死霊術は王国の法律で禁じられている」
「使った証拠が無い!」
「これ以上の審議は無意味だ」
あわやこのまま判決が下るか、と思ったその時。
ドカッ。
大扉が開かれ、
「――無意味とは何事でありましょうか! 判事殿!」
よく通る声の男性が裁判所に乱入してきた。
銀色の鎧には、黄金の円の意匠がある。
もしかして、この人が最強の助っ人?
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