第13話:先生、連行されました
ちゃんと仕事している衛兵さんですが、誰かが印象を悪くさせると組織全体がそういう目で見られちゃいますよね……
ロビンズヤードの冒険者ギルドに戻った俺達を待ち受けていたのは。
「ネクロマンサーの一味め、覚悟しろ」
俺達に槍を向ける衛兵隊だった。
これは……いわゆる冤罪というやつかな?
ウスティナは冷めた眼差しで衛兵を見ている。
アレットは今にも暴走しそうだから、俺は手で制しつつ、
「何故、僕達をネクロマンサーだと?」
と質問する。
「ギルドから通報があった。そこのダークエルフが現場に向かったという声もな」
「……歪曲されています。彼女はあくまで剣士ですし、あの場所に赴いたのも初めてです。依頼書に僕のサインがある筈ですが」
「スケルトンなら、他のパーティが片付けてくれたよ。証拠の依頼書もある」
なるほど、巧妙に偽装してくれたね。
動きが随分と早いけど、一体どうなってるんだ?
俺達では感知できなかったスパイが現場付近で潜伏していて、情報をやり取りしていた可能性が高い。
「さあ、続きは尋問小屋で聞かせて貰おうか」
ウスティナの背に衛兵の手が置かれる。
だがウスティナは特に動じることなく、肩をすくめた。
「申し開きならこの場で済ませればいいだろう」
「黙れッ!! 我が国の誇る冒険者“鉄仮面のウスティナ”の名を騙る、薄汚いダークエルフがッ!!」
激昂した衛兵が、ウスティナの背に蹴りを入れた。
彼女自身はびくともしていないけど、流石に看過できないな。
「ちょっと衛兵さん。それは侮辱的な発言じゃないか? ダークエルフがどう薄汚いのか論理的に説明できないだろ。それにいきなり暴力は良くないよ」
「ルクレシウス。良いのだ。肌を見せる時に、そのくらい覚悟していたさ」
「言われた事を見過ごす必要なんて無い。だって……“これだから人間の男は”って呆れたトーンで言われたら、みんな怒るだろ。ウスティナさんだって怒っていいんだ」
「貴公の言うことも、一理ある。だが、私がネクロマンサーではなく“鉄仮面のウスティナ”であると証明すれば良いのだろう」
「大立ち回りして強行突破はやめて下さいね」
「それをやれば同族の顔にまで泥を塗る事になる。そこで、だ」
ズビシッ。
「闘技場を使う」
「どういう発想ですか!?」
アレットが驚愕する。
相変わらず、一見すると脳筋みたいな発想だ。
だが、冷静に考えるともう一つの目的が見えてくる。
「さては同族の皆様や、他の種族の方々を勇気付ける為ですね?」
「流石だな、ルクレシウス」
何かしらの評価できる優秀さを示さねば評価されないというのも、正直どうかと思う。
それってつまり裏を返せば『役立たずは不要』と言っているみたいじゃないか。
でも、自分達の種族から凄い人が出てきたという事実は、きっと勇気付けるきっかけになるだろう。
そこを起点に理解と想像力を伸ばし続けたなら、社会は今よりずっと優しくなる筈。
「とびきり強い奴を用意してくれ。並の挑戦者では太刀打ちできない程に強い奴を。パーティのリーダーは、ルクレシウス・バロウズだ」
手で指し示された俺を見ながら、衛兵達はウスティナのボディチェックを済ませる。
少しして、リーダー格が嘲笑した。
「まずはテメーの無実を証明する手立てを考えるこったな。まぁ無理だろうがよ。
しかし驚いた。こんな凶暴そうな種族なのに、首輪も付けずに管理しているなんて……バロウズさん、あんた何を考えてるんだ」
「そっちこそ何を考えている? 奴隷制度は70年前に廃止された筈だし、この人は自立した一個人の冒険者だ」
「トンガリ耳は平気で盗みを働くからな。常識も通じないし、さっさと峡谷の向こう側にでも追っ払っちまえばいいんだ」
腐っても公僕だろうに、そんな事を言うのか。
あんたは衛兵の面汚しだ。
「さっさと連行して頂けますか?」
「言われなくてもそうするよ。おい、運べ」
「「「「了解」」」」
◆ ◆ ◆
「――証言は、それで全部か?」
取調室にて。
俺はさっきの、ウスティナをコケにしたリーダー格の衛兵――ヴィクトール・グランスバックから取り調べを受けていた。
「清貧宿にいる巡礼者のカティウスさんに裏を取って下さい。状況を詳細に説明してくれます。
あとは、ドーチック商会にも連絡をお願いします。スケルトンの討伐依頼は、最初は僕が受けた筈です。
何ら断りなく、別の冒険者に報酬を渡して依頼達成としてしまうのは、重大な規約違反です」
ヴィクトールは冷たくあしらう。
「そっちの問題は冒険者ギルドの管轄だ。俺はね、バロウズさん……あんたがスケルトン騒ぎの首謀者であるっていう裏付けさえ取れりゃそれでいいの。
実行犯がダークエルフで、あの巡礼者のガキは人質って線で証明できればいいんだ」
「雑な仕事をしますね」
大半の衛兵は、ちゃんとマニュアルに沿って慎重に捜査すると聞くけど。
ロビンズヤードの衛兵は、こんな奴ばかりじゃないよな?
「ただでさえ立て込んでる時期でね。あんまり残業が多いと、カミさんと娘に怒られちまう」
などと嘯いて、ヴィクトールはコーヒーをすする。
……こんな奴と一緒に生活する奥さんと娘さんは苦労するだろうなぁ。
無意識に、何ら悪気なく酷い偏見を吐き出せるのだから。
「3日後には裁判だ。人間なら死刑にはならないから安心しな。あのダークエルフはどうだか知らんがね」
この野郎……ッ!!
全員分の取り調べが終わって、再び牢屋に。
まったく納得行かないが、沙汰を待つしかない。
少なくとも、一方的にその場で罪を認めさせられた、あの学院よりは何倍もマシだ。
3人一緒の牢屋なのは、そのほうが管理しやすいという理由だろうか?
「先生、わたしたち、これからどうなっちゃうんでしょうか……」
「どうにかして、無罪を勝ち取るしかありません。ひとまずアリバイは証明しました」
あとは祈るしかない。
「――おい。お前達に面会希望者だ」
看守の声に振り向けば、そこには先日のウェイトレスさんが立っていた。
いや、元ウェイトレスさんか。
今は制服姿じゃない。帯剣していて、革鎧にショートパンツのスタイルだ。
つまり彼女は無事に、冒険者に転職できたらしい。
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