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第12話:先生、原因究明します

 逆転○判で言うところの捜査パートです。


 巡礼者カティウスという男性が、件の石碑に刺さっていた短剣の持ち主だという。


 犬が匂いを辿るように、アレットは地面を睨みながら進んでいく。

 宿屋の立ち並ぶ通りを突き進み、教会の人達が用いるとされる“清貧宿”へ。



 落とし物を届けると受付に伝えれば、多少訝しげな視線をもらうも、呼びに行ってくれた。

 待つこと数分。


 黒髪を短く刈り揃えた細身の男性が、おずおずと現れた。

 俺は、人通りの多い中庭のベンチを敢えて指定する。

(今にも掴み掛かりそうなアレットを、何とか落ち着かせた上で)


「こちらのお忘れ物をどうぞ」


 にこやかに渡したけど、却って怖がらせてしまったようだ。

 ままならないものだな。


「こ、このたびは、どうも……」


 ひどく怯えた様子なので、自分が何をしたのか、そして俺達がどういう目的でやってきたのかは理解しているようだ。


「何点か、確認したいことが」


「……その際、私に黙秘権はありますか?」


「構いませんが、我々には、あなたを不利な状況に追い込もうとする意図はないという事は信じて下さい」


 まずはこちらから説明だ。


 依頼主の情報――

 『鉱山を掘り進んでいたら偶然(・・)地下墓地を掘り当て、スケルトンの大群が湧いて出た』

 →『スケルトンの殲滅が達成目標』


 現状からの推測と行動の結果――

 『鉱山最奥部の祭壇に手を出した結果、地下墓地の白骨死体が野良スケルトンとして動き出した?』

 →『当時のしきたりに則り儀式を行ったところ、スケルトンは白骨死体に戻った』


「はい……間違いなく、私が祭壇に短剣を刺しました」


 肩に重量感。

 アレットが身を乗り出してきたからだ。


「ほらやっぱり!! 先生の貴重な血液が流出したんですからね!! 責任とってくださいよ!」


「アレットさん。どうどう」


「うぅうう……がるるるるる……」


 やめなさいってば。

 忠犬か。


「ハハハ……おたくのメンバーさんは立派に輪星教徒の巡礼者としての務めを果たしておいでですね」


「……どういう意味ですか?」


「己を伴侶としてくれる主人に尽くせというのが、輪星教徒の教義のひとつです。その妨げになる者には、たとえ同じ輪星教徒であっても立ち向かえと」


「大丈夫なんですか、それは」


「巡礼者とは元来、組織としての自浄作用を期待して導入された制度ですから。

 教義を広め、良いところは教会に取り入れる。殆ど形骸化して久しいですがね」


 ……異議を唱えるよ。そこには。

 そもそも、伴侶じゃなくて、それ以前にまず“仲間”だ。

 これが大前提だよ。

 だから言うぞ。


「違うと思います。いや……正確には、違って欲しいと願いました」


 と。



「あ、あの……と、言いますと……?」


 カティウスさん、あんまり怖がらないでね。

 言い難くなるからさ。


「あくまで仲間を傷つけた事について怒って欲しい。リーダーとか主人とかじゃなくて、純粋に仲間と思って欲しい。

 仮に僕が信用に値しないならば、そんな相手の為に自分を危険にさらしてほしくない……――だからね、アレットさん」


 向き直る。


「は、はい!?」


「仲間としてお願いします。盲目的に敵視するのは危険だ。起点となった事故がどうして起きたのかを冷静に聞く必要があるんだ。まず、それを解ってほしい」


「わかりました」


「僕を大切に思ってくれて、ありがとう」


「――! そういう言い方、ずるいと思います……」


 ずるくて結構。

 話が進まないから続けさせて貰おう。


「まず、どうして祭壇に?」


「王国外縁部の環状峡谷をもっと詳しく調べたいから拠点を作ろうという計画を聞かされまして。

 で、依頼主様に同行して掘り進めていたら落盤の形跡が。開通させて先に進むと祭壇がありまして。

 依頼主様の指示で封印を施そうとしたところ、却って刺激してしまったようで……」


 アレットを、ちらりと見やる。

 すると、アレットは俺の目を見てしっかり頷いた。

 つまり、カティウスは嘘を言っていないという事だ。


「スケルトンの存在は確認できましたか?」


「骨は全て、土砂に埋もれていましたし、ランタンの明かりのみが頼りでしたので」


「道中に照明を設置する時間が無かったということでしょうか?」


「なるべく短時間で済ませたいというのが先方の意向でして……。その、残念ながら、これ以上はお伝えできません。

 本当です。ほら、お布施の金額は年々、減少しているので……そうすると、大口の信奉者様はたいへん貴重なんですよ……何卒、ご理解いただけませんか?」


「充分です。お時間を頂き、ありがとうございました。最後にお伺いしますが、そちらの依頼主様のお名前を伺っても差し支えありませんか?」


 という質問をしながら、もちろんアレットとのアイコンタクトを忘れない。


「……」


「言いづらければ、結構ですよ。ちなみに、僕が依頼を受けたのはドーチック商会というところからです。聞き覚えは?」


 ギルドの依頼書を見れば解るから、俺達に守秘義務は無い。

 そしてカティウスは?

 数十秒の葛藤の末、重々しく口を開いた。


「……依頼主様も、同じ名前を名乗られました」


「わかりました。ありがとうございます」


 これだけ揃えば充分だ。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。


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