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第104話:先生、この戦いを振り返る


 王立魔術学院における騒動は幕を閉じた。


 首謀者のセプテミリウス・ウィン・ガルデンリープ元理事長は牢獄行きが決まった。

 取り調べで確定した罪状によって量刑が変わるようだが、教育に携わる事はもう二度と有り得ないだろう。


 ホプキンスを始めとする教員達は、自己保身の為に言い逃れをしているようだが……団結して反抗を企てる機会に恵まれなかった人達はまだしも、デモ参加者を積極的に拷問していた連中までもお目こぼしを受けるのは……駄目だ。抑止力にならない。


 その手の屈折した行動をする連中は、量刑を軽くしてもらうために必死に取り繕う。

 いかにも自分達こそが被害者だったとでも言いたげに、憐憫を誘う調子で!

 でも無駄だ。審問官インクィジタースキルで嘘を暴けば、すぐ解ってしまう。


 ぜひ厳しく罰せられて、二度と変な気を起こさないよう静かにしていてくれ。

 仮に逆恨みで手を出すなら、俺だけにしてくれ。

 俺以外の誰かに手を出したなら、穏便に済ませられる自信がない。



 ダン・ファルスレイ。

 俺が無力化してからは全く抵抗を見せず、おとなしく国防騎士団に拘束された。

 ガルデンリープ元理事長による犯罪教唆があったなら、これを鑑みて酌量は必要だろう。ただし、それ以外の――自分の意志で犯した罪は、しっかり償ってもらう。



 ダンのパーティにいたエルフ……フレイヤは、ダンを勇者と信じて疑わず、ダン以外を何も信じていないという考え方だった。

 意思決定を他人に丸投げ、つまり依存するという悪癖は、だいたいの場合において自分に自信がない事の裏返しだ。

 精密検査の結果、ダンの子を身籠っていると判明したけど……あいつがいい父親になれるとは、あまり考えられない。

 当然、支援は考慮に入れないといけない。



 ダンのパーティから離脱したドワーフ……ミサナは、今回の騒動の鎮圧に協力したという事でお咎めなしとなった。

 つまり蛇咬石じゃこうせきの鉱毒でオスカー達の局部を腐敗させた事についても不問、というわけだ。



 ローディは……心神喪失状態で、問いかけに反応が殆ど無かったという。

 ただ一言「全部、償います」とだけ、ぽつりとこぼして、それきり何も言わなかったそうだ。

 耐え難い苦痛を伴う葛藤の末にそこへ至ったのは、想像に難くない。



 オスカー・テラネセムは他の生徒達数人と共に、違法薬物研究と婦女暴行の罪で逮捕された。

 もちろん退学処分だし、幾つかの資格は剥奪される。それから、被害者に対する賠償金の支払いが義務付けられる。

 オスカーの両親はひどく激昂した様子で、しきりに「教師達が歯止めをかけなくてどうする、全寮制である以上お前たち教師の責任だろう」と喚き散らしていた。

 ……俺が出向いて「ですので、責任を取らせ(・・・・・・)ました」と言ったら黙った。



 他の生徒達も、個別に取り調べを行う。

 こちらも教師達と同じように、ダンの武装蜂起に積極的に参加していた者達と、周囲に反抗できず参加せざるを得なかった者達とで大きく分けられる。


 入れ知恵などの無いように念話も遮断する機能のついた個室に詰め込まれ、取り調べが終わるまでは囚人同然の暮らしを強いられるという。

 教師達より数が多い以上、そうせざるを得ないというのが向こうの言い分だが……

 対案を用意して反論するも、すぐには実現できないと断られてしまった。

(せいぜい、食事の内容をほんの少し豪華にするくらいだった)



 シャノン・フランジェリク。

 弟のエミール・フランジェリクに支えられつつ、各地と再び連絡・情報交換を開始した。

 拷問の際に受けた魔物化の呪いを逆に利用して、国防騎士団や聖堂騎士団だけでは手が回らない箇所に直接赴く。つまり、空も飛べる冒険者だ。

 ただでは転ばないしたたかさを感じる……。



 そんなシャノンの恋人リサ・アルバは、学院側に拷問を受けていた最中に、戻ってきた魔物化シャノンによって救出された。

 服が破かれた状態で、あと少しでも遅れていたら……想像もしたくない。

 間に合ってよかった。



 グレン――メルグレーネ・ダシークとその従者フランは、オストラクル邸で療養中だ。

 現当主シルヴェストラ・オストラクルの娘――チェルトの強い希望で、できる限りの高待遇だとか。

 フランは、アレットの惚れた相手が俺で良かったとこぼしていた。

 ――『他の無節操な男にでも惚れていたら、私の意に反して発せられた様々な甘言を真に受けて、グレンとの間に挟まろうとしていただろうから……こうして正気に戻った時にそんな記憶があったなら、とても堪えきれるものじゃないと思う』と。

 不幸中の幸いだった……と、言っていいのかな。



 そして、アレットは……



 アレットは、王立魔術学院の医務室のベッドに仰向けになって、ゆっくりと寝息を立てている。

 3日も昏睡状態だった。



 俺は半ば祈るように、アレットの手を握り続けていた。

 ウスティナとピーチプレート卿の手も、俺の手に重なる。


 俺達の横で、カレン・マデュリアが小さくため息を付いた。

 カレンは元々、魔道具学科で侵蝕型魔道具……つまり呪いの武具についての研究もしていた事があって、その治療法の知識があった。

 シャノンから連絡を受けて、急いで運んでもらってきたのだ。


「ひとまず、容態は安定しつつありますわよ。ピーチプレート卿の鎧は万能ですわね」


「お役に立てて何よりですぞ」


「まさか、審問官スキルという言葉を再び耳にするとは……わたくし夢にも思いませんでしたわ」




 魔剣の侵蝕を受けている状態から、その魔剣の制御を担っていたガルデンリープ元理事長からの魔力供給が遮断器によって絶たれた。

 それにより、アレットの体内に吸収されている俺の右腕の骨と、アレットを侵食していた魔剣とのバランスが大きく変化。


 更にその不安定な状態で審問官スキルを使った結果、アレットの身体に膨大な負荷が掛かり、それに伴う魔力の急速な枯渇が原因だった。


 ……俺とした事が、馬鹿な真似をした。

 魔力の流れを調べてから使わせていたら……或いはあの場ではなく後回しにするという選択肢だってあった。


 現時点では命に別条はないらしいが、身体への負担は想像を絶するものだったろう。

 アレット……ごめんよ……。




「ん……」


 アレットが身じろぎして、まぶたを少しずつ開いていく。


「アレットさん……」


「先生……? ……――」


 眠そうな顔で、首をかしげるアレット。

 たまらず俺は、抱きしめた。



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