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第102話:先生VSガルデンリープ理事長


 どうすれば正解だったんだ?

 最善は尽くしたつもりだったとしても、きっとどこかで間違えた。

 もっと、食い違いの少ない道を辿れた筈なんだ。


 それでも、今更もしもの事を振り返ったところで状況が変わるわけでもない。

 俺は、扉をノックし、少し間を開けてから名乗る。


「失礼します。付与術エンチャント学科、ルクレシウス・バロウズです」


 ……。

 数秒間の沈黙を挟んで、俺は――






 ――ドアを蹴破った。


「いや、まさかとは思っていたけど」


「本当に理事長室にいらっしゃるとはですねぇ~アハハ」


 俺は、国防騎士団から受け取った魔力遮断器を、後ろ手に握り締めた。

 手枷をかたどったそれは、ギシリと小さく軋む。



 俺達の侵入にも、理事長は書類から顔を上げもしない。

 白髭を指でつまんでいるのは、機嫌が悪い時の彼の癖だ。


「やはり異端者だな。いたずらに秩序を乱しおって」


 ……憮然と言い放つその言葉は、自らの有利を少しも疑っていないからだろうか?



 付与術は文字通り、身体や周辺の無機物に微弱な魔術的反応を付与するという魔術体系だ。

 が、この王立魔術学院における評価は「誰でもできる初歩的なもの」とか「魔術的素養の無い戦士達が気休めで行うもの」とか、散々だった。


 加えて、その学科の唯一の教師だった俺の評価も、惨憺たるものだった。

 ――“学院の思想に反する異端者”

 ――“魔力放出量は並以下の無能教師”

 ――“担当した学科は学院において唯一、いじめが発生した”


 それが学院の俺に対する評価で、再び戻ってきてからも大して変わらなかった。

 むしろ当初は、外での評判の反動か、学内での俺は生徒達から聞こえよがしに陰口を叩かれる事も多かった。

 いつの間にか陰口は鳴りを潜め、扱いは幾らか軟化した。

 それは別にいい。


 俺の受け持っていた生徒達が、今までどんな扱いを受けてきたか。

 話したそうにしていた生徒についてはすんなり聞き出せた。

 そうでない生徒は、エミールに頼るしかなかった。



 俺は……教師としては落第点もいいところだ。

 それでも、しつこく食い下がるのは……妄念だからか。

 或いは、アレットを悲しませたくないからなのか。



「生徒達も、教師達も、みんな逃げたか鎮圧されたか、降伏した」


それがどうした(・・・・・・・)。儂がここに立っている。戦を続けるには充分よ」


「抵抗は止せ、理事長。ダン・ファルスレイはもう戦えない」


 当然、伏兵にホプキンスがいる事も予想の範疇だ。

 が……それを伝えてやる義理も無い。


「吠えるなよ、雑兵めが。この学院に異物など不要だ」


 話が通じない。

 同じ言語を使っているはずなのに、まったく会話が噛み合わない。

 こんなにも、こんなにも、こんなにも、こんなにも、すれ違いを重ねないといけない。


 思い返してみよう、ルクレシウス・バロウズ。

 お前は何度、誰かに“伝える”事を邪魔された? 握り潰された? 掻き消された?


 数え切れない程だ。

 遠慮は、必要だったか?

 おもねる事で奴らが少しでも優しくなってくれたか?


 答えは断じて否だった。

 邪魔しに来る誰もが、よりいっそう付け上がるだけだったじゃないか。


 ……。


「よくわかった。この学院から、お前という遺物(・・)を排除する」


「先生さっすがー! わたしもお手伝いしますよ!」




「無駄な足掻きを――む!?」


 距離を詰めて、喉元に手を掛ける。

 ここから付与術で爪を尖らせたり伸ばしたりといった事もできる。

 もちろん、首の骨を折ったり呼吸を封じたりもできる。


 人は、素手で殺せる。


「儂を殺すか? バロウズよ」


「お前次第だ」


「愚かよな。伏兵の可能性を少しでも――」


「――クククッ……伏兵とは、こやつの事かな」


 突如現れたウスティナが放り投げたのは、満身創痍となったホプキンスだった。

 地面に転がるホプキンスの顔面を、ウスティナは容赦なく踏みつける。


「な、に……!?」


 理事長、愕然とする。


「存外に骨のある奴だったが、生徒を盾にし始めた辺りで興が失せたので手短に済ませた(・・・・・・・)


 最後のそれが何を意味しているかは、考えないほうが良さそうだ。


「ぐ、ぐぬぬ……」


「頼むよ、理事長。お前の親友が、色々と訊きたいそうだ。誰の事かは、言わなくても察しが付くんじゃないか?」


 だから、その杖と魔導書を手放せ。

 今のところ魔力の流れを検知していないが、土壇場でだって何でもできるのが高位の魔術師というものだ。

 出方によっては即座に殺さないとならない。

 と、ここで理事長が口を開いて……



「メテオストライ――」


 ――ゴチンッ!!


 俺とアレットで、理事長の顔面にストレートパンチを叩き込む。

 危ないところだった……


「アレットさん! 取り押さえて!」


「はい!」


 ――ガキンッ

 理事長の両手に、手枷をかたどった魔力遮断器が取り付けられる。


「ふぅ……」


「それだけの力を持っておきながら、魔王の力を求めず、中和・分解に至るとは」


 捨てて当然だ。

 魂の在り方を塗り替えて、元のアレットが失われるなんて。

 そうして過去の亡霊達の操り人形にされてしまうような力を、どうして求めないといけない?


「お仕着せの力なんて、持たせないで欲しい。成長速度は人それぞれだから」


「だが学院に魔物共が押し寄せておるぞ? それを制御――」


「――私が片付けたが」


「何ぃ!?」



 驚く事でもないだろ。

 こっちは魔王軍とやらが現れてからずっと、正面から叩き潰してきた。


「だ、だが、犠牲者も少なくはあるまい。怪我人をどれだけ治療できるというのだ? 敵を倒すだけでは何も――」


「――それがしが治したッッッ!!! ワハハハハッッッ!!!」


 壁をタックルで壊して、ピーチプレート卿が割り込んでくる。

 普段はそういう事をしない辺り、かなり苛ついているな……。

 そしてガルデンリープ理事長は驚嘆のあまり、胸を押さえてしばらく咳き込んでいた。


「ゲホッゲホッ……いきなり何用か!? 心臓に悪いだろう! いや、知っているぞ……男色のオークであろう?」


「初めに申し上げるが、そなたに恋慕の情など懐きませぬぞ。素っ首へし折ってくれようかと思うほどよッッッ!!!」


 あー……うん。

 怒っているね。


「くっ!」


「足掻くなよ。何かの弾みで殺めてしまうぞ。クククッ……」


 ウスティナってば、それじゃあまるで悪党みたいな口ぶりじゃないか……

 こっちも大概、苛立っているようだ。



 ……まぁ俺も同じくらい腹を立てているけど。

 大切な仲間に、生徒達に、散々やってくれたからね……。


 そして発言を振り返ってみよう。


 ――『それだけの力を持っておきながら、魔王の力を求めず、中和・分解に至るとは』


 どうして、そこまで詳しいのか。

 関係者でもない限り、そんな情報がいきなりポンと出てくる筈がない。

 万が一、彼が黒幕ではない場合もありうるから、早いところ白黒つけるためにも洗いざらい吐き出してもらおう。

(と言っても、殆ど確定だろうけど……)


「臨時で取調室を用意してある……ガルデンリープ、お前を連行――」




「――まかり通るぞ!!」




「……」


 ……俺の声を遮ったのは、王様だった。

 嘘でしょ……おとなしく待っておけよ……なんでこっち来ちゃうかな……



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