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幕間:俺は勇者の筈なのに

 今回は、ダン・ファルスレイ視点です。

 鼻に付く描写が多いとは思いますが、私も書いていて吐き気を堪えていました。


 横転した視界。

 肘と、頬の痛み。

 立ち上がろうとしたが、頭痛と耳鳴りがそれを許さず。


 俺の思想に賛同した仲間達が、ルクレシウス・バロウズによって次々と気絶していき。

 もう、戦える者は殆ど残ってなんかいなかった。




 ……俺は、思う。




 果たして、俺――ダン・ファルスレイの人生はどこまでが作り物だったのだろうか?

 或いは俺の何もかもが、偽物だったのであろうか?


 牧歌的な、小さな町の、中流階級に生まれ。

 ドジだけど優しい母さんと、浮気性だけど快活な父さんに育てられ。

 幼少期は幼馴染達と町中を遊んで周り。


 冒険者に稽古をつけてもらい。

 高い実力を町のみんなに評価され。

 たまに町の外で、みんなには内緒でモンスターを倒し。

 バレて両親に「何かあったらどうするんだ」と叱られ。



 これが全部、偽物だったのであろうか?

 そんなの、認めない。



 俺は、俺にできる全てを尽くしてきた。

 魔術の才能とやらにはピンと来なかったが、全属性を扱えるまで修行を積んだ。

 やれば、できるんだって証明した。


 それなのに、この積み上げてきた何もかもが、作り物だったというのか?



 蛮飛竜ワイバーンの巣を壊滅させ。


 フレイヤの住まうエルフの森を解放し。


 オークの地下要塞を制圧し。


 孤立していたミサナを助け。


 ゴーストのはびこる廃墟を浄化し。


 王国から勲章を受け取り。


 裏稼業の奴隷商人を一網打尽。


 王立魔術学院へ紹介され。


 テストでは全教科で高い点数を取った事で朝礼で表彰され。


 課外授業では海賊島でストームドラゴンを誰よりも強く倒し。


 セルシディアではローディを助け。



 ……なあ。

 ここまでの人生は、作り物だっていうのか?

 俺は俺の意思で生きてきたんだが、父さんと母さんから教えてもらった事、何が正しいかを信じて戦ってきたんだが、俺は、偽物だっていうのか?





 ――なあ!





「――ルクレシウス・バロウズ!」


「“静音サイレント付与エンチャント”が解けた……!?」


 ――ガッシィイイ

 ――ガキィン

 ギギギ、バギギギギギギギギギギギリリリリリリリィイイイ


 ぶつかり合う、刀と。

 拳。


 視線と。

 視線。


「お前は、俺の根幹を成していた何もかもが、偽りだったと確信して、嘲笑っているんだろ!? 残念だったなぁ! 俺は、俺だ! 俺が、俺で在り続けられるのは、俺だけなんだ!」


「俺が怒っているのは、そこじゃないよ」


「は?」


 …………は?


「……………………は?」


「お前が踏みにじってきたものが何なのか、向き合おうともしてくれない」


「お前、なんにも解ってねぇんだな? 頭の病気か? マジでいっぺん死んでこいよ」


「……お前より5つ年下の子供でも、もう少しまともな罵声が思いつくよ」


 俺は、キレた。

 思いつく限りの攻撃魔術を片っ端から行使した。


 ――バゴォオオオオオン、ドゴォオオオオン


 俺が、この学院で受けた評価は。

 魔力の容量と出力の高さに加え。

 無詠唱。速度。妨害耐性。これらが他の生徒よりすごいという事だった。

 俺としては別に普通だろって思っていたんだが、どうやら普通のことじゃないらしい。


 そんな魔術を、ルクレシウスも無詠唱で何かを使ってかき消してきた。


 だったら……!

 何度も試したが成功しなかったが、それでも詠唱した結果黙らされるよりずっといいんだが、やってみるか。


 ――大いなる焔、世界の変革を拒絶せし者よ。泡沫うたかたの黒き御旗みはたのもと、我は汝に命ず。

 世界を在るべき姿へと還すべく、我らが前に示せ。遍く歪みに劫罰の雨を注ぎ、世界を修正する力を!


「――星覇斬ゼノ・スレイブ!!」


 ――ドバアアアアアアアアアシュンシュンシュンシュンシュンシュンポォヒィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ブゥウウウウウン……ズドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 上手く行ったぞ。

 ホールの屋根は羽毛のように吹き飛ぶ。

 ルクレシウスのようなしつこいクレーマーっていうのは、絶対的な力を見せつけて怯ませてやるのが一番いい。

 力関係を明確にすれば、少しは理性的に話をしてくれるだろう。



「黙らせても無駄だぜ?」


 ――ズズゥウウウン、ガラガラガラ


 遠くで色んなものが倒壊しているようだ。

 学院の設備を壊しちまったのは、まぁ不可抗力って事で。

 理事長に言い訳しとこう。


「……使わせたくはなかった」


「負けるからか?」


「生徒を怪我させるからだよ」


「この期に及んで敵の心配か! お前のそういう優等生ごっこが、一番気に食わねぇ!!」


 ファイヤーボール!!

 メテオストライク!!

 ダイヤモンドダスト!!


 煙の中から、ぬっと現れる、ルクレシウス・バロウズ。


「……敵じゃなくて、生徒だ」


 は!?

 なんで範囲攻撃に巻き込まれておいて無傷なんだよ!?

 俺いま確実に範囲内にお前をブチ込んだよね!?

 ちくしょうふざけんな!


「さすが、生徒で童貞捨てた奴は心の余裕が違うな! 俺なんてついこの前やっと童貞卒業だぞ!」


 殴る。

 豪炎ストレートパンチ!!

 だが、顔で受け止められた。首の骨の音すら響いてこない。


「俺は童貞だよ」


「嘘だ!!」


「そもそも、そんな古くて迷惑なだけの価値観を再生産して何の意味があるんだ? 童貞を捨てなきゃ男じゃない、そんな考え方のせいで、どれだけの女性が資源のように扱われてきた?」


「うるせぇ! お前は女じゃなくて男だろうが! 女に詳しいふりをするな! 既に満ち足りてる女までそそのかして、男を踏み台にするような悪魔を作るな!」


「……世界中で、差別を見てきた。それでも、口を封じられる王国ほどはひどくなかったよ」


「お前が差別だと思ってたそれらが、単なる被害妄想のわがままでない保証はあるのかよ? 王国が嫌いなら出ていけばいいだろ! これ以上、めちゃくちゃにするなよ!」


 極炎世界樹像ワールド・オブ・インフェルノ!!!

 ――フシュッ、ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 灼熱の炎が、大木のような形を作る!

 ちゃんと対象を指定しているから、味方は巻き添えにならない。


 S級モンスター“彷徨える(フライング)暗黒塊ダークマター”すらも焼き尽くした大技だ。

 これで、少しは堪え――


「――……は?」


 おかしいだろ……!?

 なんで焦げ目ひとつ付いてないんだ……!?


「これが、童貞卒業パワーだというのか……?」


「俺は真面目な話をしているんだけどな!?」


 いや真面目な話だろどう考えても。

 男が生きていく上で必要な事の一つなんだぞ……?

 わかってるのか?



 ――スッ


 首元に冷たい感触。

 恐る恐る、後ろを見ようとする。

 身体が、動かない……


 耳元からかけられる声。


「仕方ないですよ」


「――!? アレット!?」


「あくまでも指揮官として戦っているわたしと、指示を出す側でありながら一人で戦っているお馬鹿さんとでは、どうやっても違いが出てきますよねぇ……っふふ」


「どうして……お前には、戦いは似合わなかった筈なのに……」


「あのぉ~笑わせないでくれますぅ!? 似合うか似合わないかを、会って間もないあなたに決められる謂れがどこにあるっていうんですかぁ? ほら、よぉ~く見てくださいよ。今までたかだか3人だか4人を率いるだけがせいぜいだったあなたが、いきなり大勢を率いようとした結果がこれですよ!」


 頭を片手で押さえられて、無理やり見せられた。

 たくさんの仲間が、騎士団に捕らえられていた。


 ん? 騎士団……?


「国王と一緒にいた聖堂騎士団の連中か? いや……――」


 ……聖堂騎士団だけじゃなかった。

 いつの間にか国防騎士団も加わって、生徒達を捕まえていた。


 嘘だろオイ、俺達は国防騎士団の味方だったろ!?

 今更になって裏切るとか騎士の風上にも置けないぞ!?



 愕然とする俺にはお構いなしに、ルクレシウスは涼しい顔で問いかける。


「まだ諦めないか?」


 こいつ……ざっけんな……ざっけんなよ……!


「俺が最後のひとりになっても、降伏はしない!」


 それが、男の覚悟って奴だ。

 こんだけやられておいて俺だけ尻尾を巻いて逃げるのは、先に捕まった奴らに申し訳が立たないだろ。

 アレットに拘束されてはいるが、脱出は可能だ。

 どうやる? どうする?


 だが……


「私、降りるわ」


「ローディ!?」



 なんでだよ……なんで、どうして……

 まさか、お前まで……


「お前まで、俺を裏切るのか?」


「諦めないっていうのなら、勝手にどうぞ」


「俺が勝てないと思って、手のひらを返すのか!? このままじゃ、こいつらに王国を乗っ取られるんだぞ!? 奴らは残酷だ……相手が女だろうと、敵なら容赦なく処断する筈だ……いや、むしろ女だからこそ、その追及は更に厳しいものとなる。男に加担した悪魔だと。女の権利を侵害する忌むべき病巣だと。吊るし上げられ、焼き殺されるかもしれな――」


「――もう疲れたわ。早く最後の一人にでもなっちゃいなさいよ」


 は?


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「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!! ――星覇斬ゼノ・スレイブ!!」


 俺を中心に。

 光の柱。

 アレットを吹っ飛ばす。


 もういい。

 この世界は、ここで終わる。

 座して終わりを待つくらいなら、俺が終わらせてやる。



 二度とこの話の遂行などしとうない。

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