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第100話:先生VSダン・ファルスレイと賛同者達


 短縮術式呼び出し……対象を味方全員に設定。


 ――“反射リフレクター付与エンチャント

 “俊足スプリント付与エンチャント

 “障壁バリア付与エンチャント

 “漸復リジェネレーション付与エンチャント

 “筋力マッスル付与エンチャント

 “鎮痛アンチペイン付与エンチャント”!




 ――バァンッ


 扉を蹴破る音が、ホールに響き渡る。

 拍手喝采は一瞬にして掻き消された。


 それでいい。

 何らかの危機に対して、ちゃんと意識を向けているならば。



「ダン・ファルスレイ。ゆっくり話し合う気はないか?」


 俺は、ゆっくりと語りかけた。

 俺の隣にはアレット。

 後ろには仲間達が続いている。


 俺の前を塞ぐ人だかりは、静かに割れていく。

 ダンは……目を見開いた。

 背中から引き抜いた白銀色の剣に、黄金の雷がほとばしる。


「ルクレシウス……寝ぼけたことを言うな!! 話し合うつもりなら、なぜ一人で来なかった!? 押し入って止めるつもりじゃないのか!?」


「ひとりじゃないのはお前もだろう!」


「お前、デモの時だって人数を武器にしていたよなぁ……? 素手でも人は殺せるだろ?」


「お前と違って武器は持たなかったし、参加者にも武力は行使するなと伝えていた! お前が演説で言っていた新興宗教とやらも、事実無根のデタラメだ!」


「学院では実際に尋問して答えを聞き出しているんだぞ!?」


「過去にこの国でそういう事件があったように、拷問で無理やり聞き出す方法だってある」


「……お前、仲間の強さを信じていないのか?」


「人間だよ。耐え難い苦痛に屈する事だってある」


「それは俺が作り物だって言いたいんだろ? 無意味だよ。仲間を心から信じる事もできないなら、やっぱりお前……リーダーの才能無いよ。失格だ、失格」


 話が、まったく噛み合っていない。

 次から次へと話題をすり替えているだけだ。



「仲間を信じて送り出すこともできないお前には、覚悟が足りていない! 俺は……覚悟している!! たとえお前と刺し違えたって、すべてを失ったって、このクレイスバルド王国を、お前の手から取り戻してみせる!! お前さえ殺せるなら、それが実現可能だ!!」


 何から何まで小難しい綺麗事で取り繕ってはいるが……結局は、自分が作られた存在である事への劣等感の裏返しでしかない。

 そういう飾り方を覚えちゃ駄目だろ。

 仮に覚えたとしても、こんなところで使っちゃ駄目だ。

 我慢の限界だから言わせてもらう。


「お前のそれは“覚悟”じゃなくて――“自暴自棄やけっぱち”だよ」


 戦いの準備は整った。


「……――あ? ……あぁ!? どこまで上から目線すりゃ気が済むんだ!?」


「何キレてんだ? 落ち着けよ」


「お前のせい、だろうがぁああああああああッッッ!!!」


 ――グォオンッ


 強風と共に、宙に浮いた状態で俺の目の前まで瞬間移動してきていた。

 凄まじい速さで兜割りをしてくる。


 それでも……――

 捌ききれない程でもない!


 ――複合術式“瞬絶防壁ジャストガード”!!



「――っく!」


 これでも衝撃を吸収できず、後ずさるしかない。

 そこにダンは更に力を込めた。


「ほら、先生! 防ぐだけで手一杯か!? 情けねぇぞ!」


 だが横合いから飛んできた赤黒い光に、ダンは叩き落される。


「どうしてタイマンでやり合うと思っていたんですか?」


 首を傾げて口を尖らせる仕草は可愛らしい。

 が、右手の人差し指から黒い煙が出ている。

 赤黒い光は、もしかしなくてもアレットの仕業だ。


 それにしても、睡眠スリープ付与エンチャントが通らない。

 ダンだけじゃなくて、他の生徒達にも。

 さては、対象をこれに絞った遮断魔術ブロックを使っているな……


 このホール全体にかけられているなら、厄介だな。

 アレットもいつもの眠らせる戦法が通用しないから、光線を使ったのだろう。



「アレット、正気に戻ってくれ!」


 ダン、叫ぶ。


「そうよ! あんたには本当の家族がいるでしょ!」


 ローディが加わる。


 言っている事は格好いいけれど、戦い方は子供の喧嘩じみている。

 ダンが一人で戦っていたなら、立ち回りにさほどの影響は無く、十全に能力を引き出していたのだろう。


 だが正直、こいつらは仲間との連携が上手く行っていない。

 役割分担が絶妙に食い違っているからか、それぞれの動きが阻害されている。


 遠くにいるエルフの女性は矢を弓につがえるまでは早いが、そこからは狙いを定めるのに時間が掛かりすぎている。

 そもそも、隠れる場所が無いから逆に狙われやすい。


 だから――


「貴公をこんな場所で戦わせるとはな」


 彼女はウスティナに背後から絞め落とされ、動かなくなった。

 殺してはいないと思うけど……後で確認しておかないと。



「おいおい? どうしたんだよルクレシウス、よそ見――フレイヤ!?」


 よし、脇を晒したな。

 ――“放電スパーク付与エンチャント


 俺は、ダンの横腹に回し蹴りを叩き込む。


「ぐうぅ!?」


 呻き声と共に、ダンは転がっていった。

 それでもダンは強い。途中で体勢を整えて、両足を床に食い込ませつつ左手の拳で地面を殴り、立ち上がった。

 右手に持った刀も、手放してはくれなかった。


「そうまでして俺達を支配、管理したいのか!?」


「お前を支配しているのは別の誰かだよ」


 無詠唱で滅多打ちに放たれる火柱も、最低限の動きでいくらでも回避ができる。

 ただ、俺も近づく事ができない。一見デタラメなようで、実は寄せ付けないように計算しているのか……その間にも、奴は詠唱を始める。


「――大いなる焔、世界の変革を拒絶せし者よ。泡沫うたかたの黒き御旗みはたのもと、我は汝――」


 ――“静音サイレント付与エンチャント”!

 よし、通じた! 危ないところだった……


「――!? ――!!」


「何をしようとしているんだ、お前は!! お前に賛同して付いてきたクラスメート達まで犠牲にするつもりか!?」


 確か、星覇斬ゼノ・スレイブと言う大型攻撃魔術だったな。

 あんなものを撃ったら、学院が吹き飛ぶぞ……


「――ッ!」


 氷の塊、光の矢、炎の蝶……様々な攻撃魔術が四方八方から飛び交う。

 教師達と生徒達の援護射撃だ。そしてそれらは全て、俺へと向けて放たれている。


 飛び退いたその場所に、隕石が屋根を貫いて突き刺さった。

 俺を殺したいのか。なるほど、油断大敵だな。


 いいだろう……だったら、一人ずつおとなしく(・・・・・)させるまでだ。



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