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第99話:先生と最終決戦前


 ウスティナは、ウスティナなりに筋を通すつもりだったのだろう。

 あくまでも人間達の味方で在り続けようとして、学院の人達を守ろうとしていた。


 国王が現れた事で道を譲る。

 それによって――


「――これにて学院に義理を果たし終えたという事だ」


 そうウスティナは締めくくる。

 隣でアレットが「だったら魔物化でもして誠意を見せてくれたらいいのに、強い方に付くための詭弁にしか聞こえませんけど」などと毒づいているが、ウスティナは至って涼しい顔で聞き流しているようだった。


 ……と、ここで。


 大集会所から騒がしい声が聞こえてきた。

 拡声器を使っているのか、大きく響いた声だ。



「この王国は、奪われようとしている! ひとりの、傲慢で独善的な、暴走する青年によって!」


 ――“透視シースルー付与エンチャント”!

 気付かれないよう、小さな覗き穴を作る。



 ……。


 以前に孤島でフランが使っていたゴーレムと、それから記録水晶と……あれは遠隔送信の魔道具か。幾つかの機材は降誕祭で使われていたものだろう。


「俺は……理事長の手によって、いつか訪れる魔王襲来に備え、高い能力を持って生まれるよう調整して作られた。そう……俺は、厳密には人間じゃないんだ。ホムンクルスに近い。この世界を救うという使命があった。だが!!」


 手を振り払う動作。

 情感が込められていて、それを見る生徒達の中にも泣き出す者達がいた。


「そんな俺を、奴はあらゆる手を使って勇者の地位から引きずり下ろした」


 そこかしこから「ひどい」とか「なんて奴だ」とか、合いの手が入った。

 どこまでが仕込みだ? もちろん、純粋にそう思って発言した生徒もいるのだろう。


「俺には、妹がいた。みんなも知ってると思う。最近ここに転入してきたアレットという名前の女の子だ」


 アレットが、いつの間にか俺の真横にいた。

 そして、苛立たしげに短く溜息をつく。

 気持ちは、わかるよ。

 ダンはそんな俺達なんてお構いなしに続ける。


「そのアレットを、奴は我が物にしようとし! 魔剣を使って魔物化し! 魔王に仕立て上げ! この国を奪おうとしている!」


 演説会場はざわめきに包まれた。

 今しがた出てきたその辺りのくだり、随分前にお前達が言いふらしたんじゃないのか。


「それだけじゃない……俺の仲間だったドワーフの、ミサナを……あいつは洗脳した! そうして、俺の友人であるオスカー達は、毒を埋め込まれ、女の身体にさせられた! 毒を作ったのは、ヒルダ・ラグザー! あいつは、とある男に惚れていた!」


 ……。

 ヒルダも、壁に寄りかかりながら黙って聞いていた。

 ドアを開けるまでもなく、魔道具のおかげで声がよく響く。


「誰だと思う? そう、もう解っているだろう? 俺達の王国をメチャクチャにした真犯人は、もうあいつしかいない!! ――誰だと思う!?」



「「「「「ルクレシウス・バロウズ!!」」」」」



「そうだ! そして、奴は王様をも懐柔した!」


 あ、そこまだ続けるんだ。


「隣国と手を結び、この王国を崩壊させ、金、資源、そして人、そのすべてを売り渡そうと企んでいる! 王国を、世界の恥部であると喧伝し! 私腹を肥やし! 世界に混乱をもたらそうとしている! 少し前にあったデモ行進も、価値観を破壊し! 俺達を混乱させる罠だった! 今の王国に差別なんて存在しない! それを、少し前の価値観を、言い方を変えて伝えただけだ……そうやって女、黒騎士、異種族……既に幸せだった筈の人達を騙して、自分の思い通りに動く歯車へと変えていく……“社会に無視される弱者”だと思わせて、繋がりを断ち切る……とんだ新興宗教だ!! あんな見え透いたペテン師に騙されて、ゴロツキへと成り下がった奴らも、罪を償わせる!」


 そのくだり正直もう聞き飽きたよ……

 とはいえ俺以外の、他の人達はそうとも限らない。



「俺達の真実を葬ろうとする歪んだ偽善者は、必ず殺さなくちゃいけない! あいつを討ち取って、掴み取ろう! 俺達の明日を!! 本当の、自由を!! 俺が先陣を切る!!! みんな、力を貸してくれ!!!」


 振り上げられた拳。

 そして、生徒一同から歓声が上がった。


「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 いや……



 違う。生徒達だけじゃない。

 大人達も拍手している。

 教師が。


 一体……何を、しているんだ……

 なあ、お前達は教師だろう? どうして自分達で責任を取ろうとせず、生徒達の暴走を見て見ぬ振りで放置する?


 俺達、教師は……その暴走を止める義務がある。


 後ろを振り向く。

 王様は、近衛騎士団に守られながら俺に視線を返した。


 それでいい。

 俺は自分なりに頑張って、笑顔になろうとした。


「陛下、ご采配を」


 俺は、あくまでも自分達は主導権を握っていないという体裁で問いかける。

 王の勅命には逆らえない、という事にしておく。


「そなたらが先へ行け。余は後から向かう」


「御意に」


 従うふりをする。

 先へ行くよ。その後は、俺が好きなようにする。


「ウスティナさん」


「ああ」


「ピーチプレート卿」


「応ッッッ!!!」


「ザナットさん」


「陛下の護衛は任せろ」


「シャノンさん」


「ええ。馬鹿げた茶番はこれきりにしないとね。諸々片付けたいわ」


「グレン」


「終わった後が、今から楽しみだわ。ウフフ……」


「フランさん」


「ふたりで、お待ちしておりますよ……もちろん魔王様の後で」


「エミールさん」


「今度こそ、お役に立ってみせますよ、お師匠様」


「ヒルダさん」


「……あーいよ」


「クゥトさん」


「が、が、がんばり、ます」


「……最後に」


 アレットの手を、ぎゅっと握る。

 両目を、じっと見る。


「……行こう、アレット。俺の大切な人(・・・・)


 魔王(リリザレット)とは呼ばなかったけど、アレットは言い返さなかった。

 代わりに、はにかんだような笑みを浮かべた。



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