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第95話:先生VSシャノン・フランジェリク


 王都から王城までの道のりは、魔物達や、それらと戦う国防騎士団ばかりだった。

 その中から魔物だけを排除していく。

 当然、こっちにもアレットやグレン、フランといった魔物じみた見た目の者達がいるのだから、奇異の目で見られるどころか攻撃を受ける事だってままある。


 正直、そのたびに説明するのは死ぬほど面倒だ。



 ……というより、王都を中心に広まっているデマを皆が盲信しているのだ。


 ――『叛逆者バロウズ! 魔王を復活させた極悪人め!』


 ――『魔王!? 勇者が、ダンが倒しに行った筈ではなかったのか!?』


 などと、大半はそういって俺達の潔白を少しも信じてくれやしない。

 魔王は大昔に死んだっきりだし、アレットは魔剣による精神汚染で自らを魔王と思い込まされているだけだ。


 勇者ダン・ファルスレイなどというものは、ガルデンリープ理事長が作り出した自作自演のためのマリオネットだ。

 ……もちろん、彼がその役割を自らの意思で脱却するなら、その限りではない。


 彼の生い立ちについては同情するところも多々あるが、だからといって彼が今までたくさんの人たちをその無邪気さゆえの無思慮な言動で傷付けてきた事については……彼にも責任をとってもらう。

 そして当然、主犯格のガルデンリープ理事長にはたっぷり責任をとってもらおう。




 なんて思っていたのに。


 城門が見えてきた、その時だった。


「遠くで何か光った……?」


 俺は、ふとつぶやいて、それからすぐに進路上にいると思しき仲間たちを体当たりで押し出した。

 それから程なくして、強い熱を帯びた塊が飛んできた。



「グウウウゥゥ……私を捨てた、魔王ォ……殺すゥ!!」


「おおう、わたしですかぁ! あはは! 久しぶりの挨拶がこれとは、感動的ですね!」


 真っ赤に光った両目は、アレットへと向けられている。

 裂けそうなほどに大きく横に開いた口元からは、不揃いの鋭い牙が覗く。

 だが、その顔は間違いなく見覚えがあった。


「「……シャノンさん」」「シャノン殿」


 呼べば、シャノンの眼光は俺へと向けられた。


「お前も、魔王に肩入れするつもりかァア!」


「あなたも元は人間だった筈です! 一体何が起きたのですか! 誰に何をされたのですか!」


「うるさい! うるさいィイイ!! 魔王は殺す! 魔王は殺す! 殺す! 殺すゥウ!!」


 駄目だ。完全に冷静さを失っている。

 これにはザナットも思うところがあったようで、


「……何度か協力したことがある。できれば手心を加えてやりたいものだが……こう動き回られては」


 ザナットは言葉を区切って、それから俺を見た。


「頼めるか?」


「ふたりで受け止めましょう」


「ああ!」


 アレットには下がってもらおう。

 今のシャノンは、何らかの方法でアレットへの殺意が植え付けられている。ここで万一、アレットを殺されてはたまったものじゃない。

 アレットには再生能力はあるが、その能力にどのような代償が伴うか解らない以上、リスクは最小限にとどめておきたい。


 ――バギィンッ!!!


 両腕が変形して出来上がった巨大な鉤爪を、ザナットはサーベルで、俺は素手で受け止める。


 シャノンの思考能力は低下しているようだ。

 正直なところ喜ばしいことかどうかは別問題だが……動きは抑えきれる。




 対象をシャノンに設定……――

 魔力量、最大まで増強……――


 “鎮静スロウダウン付与エンチャント



「アッ……ウゥ……私は、私はァ……!!」


 まず会話できる状態にしないと、まさしく話にならない(・・・・・・)

 うずくまって痙攣しているのは、軽度の精神汚染で済んでいるからだ。

 ……アレットやグレンとフランでは魔剣の精神汚染が強すぎて、昂りを落ち着かせるだけだったからな。



「うぐ、く……私は、何を……!?」


 よしよし。いい徴候だ。

 記憶の混濁は若干見られるが、ちゃんと効き目がある。


「順を追って質問させて下さい。まず、最後に覚えている景色を教えてもらえますか?」


「がっ、学院……拷問を受けて……あれは、地下室……?」


「いい調子です! 深呼吸してっ」


「すぅー……はぁー……注射器……あと、魔石……赤黒く光っていて……――ぐッ、ううッ!?」


 まずい! 急ぎすぎたか!?


「ごめんなさい……あまり、よく覚えていないの……急に、自分が抑えられなくなって、別人みたいに……」


「大丈夫ですよ……ありがとうございます。充分です」


「アレットさんも、ごめんなさい」


「わたしはアレットじゃなくて魔王リリザレットです」


 あ……ザナットが眉間にシワを……


「……なあ、ルクレシウス。あの子は、毎回このやり取りを?」


 そろそろ来ると思っていたよ、その質問。


「今の彼女はそういう状態です。都度、周りで受け止めて、合わせてあげることが大切です」


 ここで、王女様が何とも言えない顔をする。


「そう、か。さぞかし大儀だったろう?」


 苦笑いを浮かべているが、違う……違うんだ。

 これは釈明が必要だろう。


「魔王様について面倒に思ったことはありませんよ。少なくとも、意識的には。深層心理でそう感じていないかどうかは断言できかねますが。僕はそれよりも、僕達を陥れた連中が憎い」


「お前の置かれた状況は、その尽くが証言と一致していた。私としても思うところがある。協力するも吝かではない」


「妾も同じく」


 ……助かるよ。

 理解されない、共感されない、尊重されない……そんなケースは山ほどある。

 俺は、恵まれている。

 こんな世界でも、俺は生きることを許されている(・・・・・・)のかもしれない。



「すみません。よろしくお願いします」


「良い。それに、助けられた恩もある」


「命の危機でしたから」


「だけではない。この王国を改革するために妾も奔走した。そなたがいなければ、きっと半分も成し遂げられなかった。礼は必ずする」


 ここで横合いからアレットが割り込んでくる。


「なぁ~にイイ雰囲気になっているんですか。お父上に直談判されるのでしょう?」


「ムッ! ンンッ、そ、そうだな」


「いや照れないでくださいよ。先生はわたしのダーリンなんですってば」


「違う、そうではない。妾としたことが見苦しい所をお見せしたと思ってな」


「嘘ではないようですね。ふぅ……まったく、紛らわしい……」


 ……どうにも締まらないな。



リリザレット「先生、ここ最近後書き芸しませんね? しんどいんですか?」


ルクレシウス「シリアスな空気を壊すのもどうかと思いましたので」


リリザレット「そこまで気を使わなくても……」

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