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第94話:先生と、王女


「魔王軍を跋扈させた国賊を許すわけには行かんなぁ? 元王女、ミルディロズネ!」


「そなたの口ぶりではよく解らぬ。妾の罪状について、書面で説明願いたいが」


「税金でタダ飯を喰らうだけのブタ女が! お前のようなド低能なんぞに、罪状なんぞ読んで解るものかぁ!!」


 あの騎士……!! 王女の頬を足蹴に!!

 だが王女の鋭い眼光は衰えていない。


「悲しいほどに狭量な輩共よな。国防騎士団の肩書が泣いて――」


 ――バシィ、バキィッ


「命乞いするつもりは無いようだな! 陛下もお前なんか知らねぇと仰せだ!! 好きにやらせてもらう!」


 見殺しにはしない。

 だが、やり方は考えないと。


「ザナットさん。王女を救出したいのですが」


「同意見だ」


 話が早くて助かるよ。

 ――“悪寒コールド付与エンチャント”!

 ――“静止ステイシス付与エンチャント”!




 ――ビタァンッ


「な、なんだァ!?」


 勢いをつけて攻撃しようとした所を部分的に止めたから、そりゃあ転ぶだろう。



 対象を設定――俺、アレット、グレン、フラン、ピーチプレート卿、ミルディロズネ王女それぞれの耳……

 範囲拡大――王女の側近および聖堂騎士団に設定……

 魔力量、20%……

 ――“防音サウンドプルーフ付与エンチャント


 対象を設定――自身の喉……

 魔力量、反動危険領域オーバーチャージ……

 ――“咆哮ロアー付与エンチャント”!!

 ――“反響エコー付与エンチャント”!!


 そして俺は叫んだ。


「止まれッッッ!!!」



 まだ終わらせるものか。

 ――“虚脱コラプス付与エンチャント”!!


「な、ん……だ……」「か、身体が、重たい……」

「死ぬのか……」「立っていられん……」


 国防騎士団は次々と、武器を取り落していく。

 当然、俺も反動で動けなくなる。

(どうにも周囲の理解を得られにくいが、これでもかなり繊細で大掛かりな技を使っているんだよ……)


 ザナットは前に出る。


「国防騎士団、貴殿らの隊を言ってみろ!!」


「第11師団……」


「隊長は誰だ!? 貴殿か!?」


「俺だ……」


「ルクレシウス。解除できるか?」


「わかりました」


 

 


「後ろに連れているのは誰だ? 魔王じゃあないのか? 聖堂騎士団の面汚しが!!」


「当人は魔王を自称しているが、何者かの手によって魔剣を寄生させられている哀れな呪われ人に過ぎん。貴殿こそ国防騎士団の看板に泥を塗るような真似は控えろ。王女殿下は我らが王国に混乱をもたらす国賊などではない」




「祭司長はどこだ? 貴様のような独断専行のイノシシ頭は、神の裁きを受けるべきだ!」


 いや、お前が言うか?

 だがザナットは意に介さない。返答する価値すら無いと言わんばかりだ。


「デナーシュ・ドーチックという名前に聞き覚えは?」


「知らんなァ!? 陰謀論を盲信する馬鹿は目の前にいるようだが!! もはや貴様も国賊だ!! 国の安寧のために首を落とされろぉおおお――」


 ――ゴチンッ


 ザナットは剣の腹で、凄まじい勢いで頭を殴った。


「ぐ、はぁ、あっ……!」


「……少し、寝ていてくれ」


 隊長格が気絶しているから、あとは動けない奴ばかりだ。

 各種妨害系の付与術は解除しないまま、俺は王女に駆け寄る。


「王女様、大丈夫ですか!」


「すみませんねぇ~、わたしが魔王になっちゃったばっかりに。ほら、これ原因の魔剣です。あっ、素手で触っちゃダメですよ~」


 アレットも。

 それから、ピーチプレート卿にザナットも。


「ご無事ですかッッッ!!!」

「……殿下。申し訳ございません。馳せ参じるのが遅くなりました」


 縄をダガーナイフで切ってもらって、王女は立ち上がる。

 王女は自身の服や顔についた汚れを払うことなく、ザナットの謝罪を手で制した。


「良い。それより、魔王だ。この場で解呪はできるのか?」


「……残念ながら、解析中です。が、魔剣を用いた者達は特定できました」


「なるほど。まあ……たとえ解呪できずとも、結果次第で民はそなたらに味方するであろう」


「はは」


 短く答えてから、ザナットの視線は俺達へと向けられた。

 ほんの少しだけ沈黙を挟んで、それからザナットは王女へと向き直る。


「王城まで護衛します。代わりに、現状をお聞かせ願えますか。なにぶん、情報が錯綜していますので」


「構わぬ」




 * * *




 王女から聞かされた内容は、それほど衝撃的というものでもなかった。

 というのも、先ほどの国防騎士団のやり取りなどからある程度、想像がつくものばかりだったのだ。


 降誕祭の演劇が終わった後にシャノン・フランジェリクを褒めた事。

 そしてシャノンが俺の後援団体を営んでいる事。

 それらを紐付けて、魔王の誕生に関与しているとの疑いがかけられたようだ。


 こじつけと言い掛かりでしかない。

 70年前の大戦が終結した前後の時期には、魔女裁判があったそうだが……集団ヒステリーは相変わらず存在するようだ。


 こんな事があっていい筈がない。

 王女は被害者じゃないか。



 だが王女も、自身の介入が俺達の状況に少なからず関わっていると考えているらしく、しきりに謝罪の言葉を向けてきた。

 違う……悪いのは、あんたじゃない。

 つい俺も語気を荒げてしまう。


「殿下。何度も言わせないで下さい。あなたのせいでは断じてない」


 俺は言ったあとで、少しきつい言い方をしてしまったかもしれない事に気付いた。

 王女は明らかに意気消沈している。


「責任くらいは取らせてほしい。でなければ、人の上に立つ事の義理が果たせんだろう?」


「……」


「事態を収拾する。実行者はそなただが、名目上は私が指揮を執る。失敗したら地獄行きは私だけだ。そなたは気負いすぎるなよ。難しいだろうがな」


 ああ、本当に難しいことを言ってくれる。

 どうやったら、こんな状況で気負いすぎるなというのか。



 付与術を解除しても、誰も追い掛けては来なかった。

 王を守ろうとせずに、王女というスケープゴートに八つ当たりをしていただけ。

 国防騎士団の名が泣くよ。


 もちろん彼ら全員がそうというわけではないのだろう。

 悪の軍団を倒せばそれでめでたく大団円とはならないから、やっぱり人生ってしんどいよ。


 ……もっとも。

 世の中には“悪の軍団が陰謀を企てている”と本気で思いこんでいる奴も少なくはない。

 大抵はご多分に漏れず、本物の下衆達に利用されているだけなのだけど。


 あいつ(・・・)も、そのうちのひとりだ。



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