第9話:先生とダンジョン攻略
ウスティナさんの防具理論。
全身金属鎧 → 重たい! 三角跳びできない! だが硬い! 似合うやつが着ればおk!
ビキニアーマー → 軽い! 三角跳びできる! 当たらなければどうということはない。
ところで話は変わりますが、
おうちで料理をやり始めておよそ二年弱の弱卒から申し上げさせて頂くと、自発的に料理するきっかけが無いと料理なんて絶対やりませんでした。
装備を整えてアイテムの準備も万端だ。
アレットの装備と消耗品は俺持ちで購入。
ウスティナは自費で装備を更新、消耗品は据え置きだ。
ロビンズヤードから東に向かって馬車で移動、それから歩きで山道を登っていく。
道中でキャンプをしたが、出くわした魔物はせいぜい墓場鳥くらいのものだ。
アレットのクロスボウの腕前は並程度で、名手とまでは行かないが命中率は安定している。
ウスティナの投げナイフは言わずもがな百発百中の上、墓場鳥の首と胴体が引きちぎれた。
更に驚くべきは、木々を三角跳びしながらの投擲という点だ。これは確かにウスティナの言う通り、身軽なほうが好都合だ。
これについてアレットは、
「なんか劣等感です……」
と、しょぼくれた。
俺はすぐに説得した。
「得意分野はそれぞれ違いますから、大丈夫ですよ。そも初心者が最初から熟練者並に動けることなんて滅多にありません」
「わかってはいるんですけどね」
頭では理解できても感情は制御しかねる、それは俺だって何回も味わったからよく解るよ。
だから、何度でも正解の選択肢を探し続けて、君を肯定したい。
「アレットさんを馬鹿にする輩は、僕が説教しに行きます」
「……先生って、やっぱり優しすぎますよ」
夜は、焚き火を囲んで過ごす。
アレットが最初お茶汲みをしようとしていたが、俺はすぐに止めた。
茶くらい、自分でつげる。何故か学院の教師達の男達はそれができなかったみたいだけど。
「――そういえば、今更だが。私がダークエルフだというのに、貴公らは恐れないのだな」
と問いかけるウスティナは、少しだけ戸惑っているようにも見えた。
「ウスティナさんは、僕の人となりを見て仲間に加わってくれたでしょう。
僕も同じですよ。それに僕は……アレットさんの、人を見る目を信じたい」
「わたしは、最初にウスティナさんに話しかけた時、何となく“そんな感じがした”んです。同じではなくても、通じる何かがあるなって」
やっぱり、度々意味深なことを言うよなぁ、アレットは……。
「ありがとう。では私も、貴公らの信用に応えるとしよう」
ウスティナの声音が、ほんの少し柔らかくなったような気がする。
それから、アレットの表情も。
「……それにしても、先生の調理したお肉、すごく美味しいですね~」
「同感だ。もっとも、私はいつも生で食っているが。貴公、一体どんな手品を使ったのだ」
「自家製ハーブのスパイスですよ」
「すごーい! 先生、お母さんみたい!」
「父にも料理をしてほしかったのが正直な感想です」
父さんは料理含めた家事全般なんて絶対しなかったし、母さんは俺が10歳の時にいなくなった。
必然、俺が家事をするしかなくなるわけだ。
飯が不味けりゃ文句を言われたから、上達は早かった。
ましてや覚えたての頃は、まだ父さんが家に人を呼んで宴会していたから。
親に手放しで感謝する気は無い。けれど……
「ですが……まぁ、お役に立てたなら幸いです」
おかげで二人の笑顔が見られるなら、充分な成果といっていいだろう。
◆ ◆ ◆
“暗視付与”を使いながら坑道を進むと、結界が張られていた。
結界の向こう側では、スケルトンがウロウロしている。
「うわぁ~、雑な結界ですねぇ~」
「さすがは巡礼者。門外漢の僕にはさっぱりです」
実際、どこに問題があるのかよく解らない。
するとアレットが指をさす。
「見てください、コレ。端っこが欠けちゃってるせいで、隙間からスケルトンの槍が出てきちゃってますよ。振り回してきて危ないです」
「ふんっ」
バキャアッ、カララ……
ウスティナは槍持ちスケルトンを引っ張って、拳で粉砕した。
嘘だろ、片手でやらなかったか今……?
「出てきた奴を全て潰せば問題ないようだな」
「あらヤダこの脳筋かっこいい……」
アレットがボソリと呟く。
が、少しして我に返る。
「でも、それだとウスティナさんに任せきりなので、こうです!」
アレットは小瓶から真鍮製の聖杯に聖水を注ぎ、右手に腰だめで持つ。
「主よ、苦難に立ち向かう我ら光の軍勢に、授けたもう……閉ざされた道を開く刃を。冷雨を打ち払う風を……――“聖弾射出”」
右手を前に突き出すと同時に、光の弾が飛んで行く。
――ヒュゴッ。
スケルトンの群れが一直線に撃ち抜かれ、命中した箇所が円形にえぐれた。
これは確かに強力だ……。
「あ。ちなみにゾンビが相手だとあまり貫通しませんし、悪魔が相手だと更に貫通力が落ちます」
「私にはどうだろうか。ホーリー・ミストで巻き添えにしたりはしないよな」
ウスティナの問いかけに、アレットは血相を変えて両手を振り始めた。
「いやいやいやいや!! やりませんからね!?」
「それなら安心して背中を任せられるな」
「経典ではフツーにダークエルフの集落をホーリー・ミストで弱体化させて嬲り殺しにしたことをこれでもかってくらい正当化してましたけど、正直……モヤモヤしました。
わたしが不信心なのがいけないのかなって思ったんですけど……ウスティナさんと出会って、確信しました。あれ使うのはやめようって」
饒舌に説明していくアレットに対しても、ウスティナは決意が固かった。
「だが、それを敢えて試そう」
「ふえぇええ!? 正気ですか!?」
「無論、秘策はある。ルクレシウス、貴公の付与術であれば、ホーリー・ミストの悪影響を遮断できるのではないだろうか」
なるほどね。
そこで俺にお鉢が回ってくる、と。
「試してみる価値はあります。ですが、危なくなったらすぐに撤退しますよ」
「恩に着る」
「ところでもしかして、僕達と出会った時には既に、その実験の事を思い付いていませんでしたか?」
「ククク……どうだろうな。私は脳筋さんだから、そんなことまで考えていなかったかもしれん」
ウスティナの言葉に、アレットが反応する。
「ウスティナさんの嘘つき……」
つまり考えついていたと。
伊達にAランクじゃあないという事だ。
頼もしいよ。
そして同時に……もしかして、これほどまでに優秀でなければ黒エルフを始めとする異種族の冒険者への風当たりは変えられないのだろうかと、少し複雑な気分になった。
悲嘆は後回しだ。
必ず成功させるぞ。
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