第1話:先生、クビになります
先週の頭くらいから温め続けていた新作がようやく形になったので、投稿いたします。
毎日がしんどい時に、ほんのちょっとだけ優しい気分になれたら。
そう思って書きました。
3/6追記
改題しました。
(旧名:異端のS級エンチャンター、教職をクビになったので優しさと誠実さで世界を救います)
(初期名:異端のS級付与術士は先生をクビになるも、優しさと誠実さで無双して救世主になります)
俺は、扉をノックし、少し間を開けてから名乗る。
「失礼します。付与術学科、ルクレシウス・バロウズです」
……。
数秒間の沈黙を挟んで、
「入れ」
と、老人の声が聞こえてくる。
俺はひと呼吸を置いて、質問した。
「……どうあっても、決定は覆りませんか。ガルデンリープ理事長」
理事長は書類から顔を上げもしない。
白髭を指でつまんでいるのは、機嫌が悪い時の彼の癖だ。
「これは学院の総意だ。二度は言わん。去れ、異端者。
貴様より優秀な教師など、幾らでもいる。ろくな結果も出さない落ちこぼれが、いたずらに秩序を乱しおって」
……憮然と言い放つその言葉は、どうあっても覆らないことを思い知らせた。
本日、付与術学科は解体される。
この付与術は文字通り、身体や周辺の無機物に微弱な魔術的反応を付与するという魔術体系だ。
が、この王立魔術学院における評価は「誰でもできる初歩的なもの」とか「魔術的素養の無い戦士達が気休めで行うもの」とか、散々だった。
加えて、その学科の唯一の教師だった俺の評価も、惨憺たるものだ。
――“学院の思想に反する異端者”
――“魔力放出量は並以下の無能教師”
――“担当した学科は学院において唯一、いじめが発生した”
それが、俺の評価らしい。
学院内の各所で発生していたいじめについて再三報告したのを握り潰したのは、あんたら上層部じゃないか。
何が“学院にいじめは存在しない”だ。ふざけるな。
「そう、ですか……今までお世話になりました」
「心にもない事を」
武力で抵抗しても無駄だから、無難な挨拶をするしかなかった。
だって、これ以上問題を大きくして投獄されようものなら、それこそ意味がない。
……まだ、やり残した事はいっぱいある。
生徒達はどうなる?
どうすれば正解だったんだ?
これでも、最善は尽くしたつもりなのに。
理事長室から長い廊下を渡っていると、大魔法学科のミゼール・ギャベラー先生が取り巻きの生徒達を従えて、わざわざ出迎えてくれた。
「やあやあ、異端者ビロウズくん! この後は王都で自棄酒かな!? それとも、このクレイスバルド王国から出てって、昔みたいに冒険者でもやるのかぁ!?」
生徒達はそれに合わせて、ゲラゲラと笑う。
なんたる不道徳……邪智暴虐の輩めが。
「バロウズですよ。ギャベラー先生は相変わらず名前を覚えるのが苦手なようで」
一応、訂正はしておこう。
「無能の名前を覚えてやる必要は無いぜ? そう思うだろ、君たちも!」
「その通り!」
「生徒に手を出したクソ教師!」
「テストの答案紛失した無能!」
「さっさと消えろ!」
「死ね異端者!」
「ほらほら~何か言い残したことはあるかよビロウズくぅ~ん? 恨み言とかさぁ!?」
ウェーブがかった金髪を指先で弄りながら、ミゼールはニタニタとした笑みを顔面に張り付かせている。
けれど売り言葉に買い言葉では、こいつの思う壺だ。
「おやおやぁ? 何も言い返せないのかなぁ?」
誰かを嘲る事を是とするよう大人がお墨付きを与えたら、それを学んだ子供たちは大人になってまた後の世代にそれを伝えてしまう。
それは耐えられない。
やめさせよう。
せめて、今この段階で俺が言えるのは……
「嘲笑するのは、俺で最後にして欲しい。俺のことは、いつまでも笑ってくれて構わないから」
これくらいだ。
俺が。俺が堰き止めておかなくては。
「はぁ……? なに模範解答気取っちゃってるワケぇ? そんなんだから出世もしないままクビになるんじゃないか、ビロウズくん!」
「それより、生徒を守ると約束してくれ。俺を笑った事についてはチャラにするから。頼んだよ。本当にね」
「だからそういうところが駄目だってゆーの。偽善者が」
せめて、大人な対応を心掛けないとね。
奴らと同じ次元にはなりたくない。
「……」
「おい、何か言ってみろよ? なぁ! あぁ!?」
けれど、やられっぱなしはちょっと癪だから、せめてこれくらいはやっておこう。
対象を決定……――
魔力量調節……――
痛覚神経系への危害対象範囲設定……――
……“痛倍付与”
続けて、対象をミゼールに設定……――
筋力系への魔力供給量を調節……――
……“筋力付与”
「殴るのですか? ギャベラー先生」
「殴ると言ったら?」
「どうぞ。僕は反撃しませんよ」
――ヒュッ
飛んできた拳を、サッと避ける。
ミゼールの拳は壁にヒビを入れてめり込んだ。
反撃は、既に済ませている。
「手、手ェエエエエ! いたいぃいいいいい! あ、はぁああああ、外れ、ない、あ、あぁああああああ!!!」
「キャー!?」「ギャベラー先生、大丈夫ですか!?」
「た、大変だ!」「医務室へ!」「霊薬学科の子を呼んできて!」
……これは俺の秘蔵スキルだ。
魔力の痕跡は残らないから、俺の仕業と立証することも不可能。
つまり、勝手に壁を殴って損壊させたというふうに言える。
お前がかつて壁に閉じ込めて放置していた生徒は、今や学園の誇るエース。生徒唯一のS級だ。
いじめられる側の気持ちになれば、少しは教え方も変わるのかな。
さておき、両手は半年くらい使い物にならないと思うから、どうかお大事に。
これでも手加減してやったほうだ。
……さて。
もともと薄給で消耗品も自腹だったから蓄えなんて殆どない。
その上、自主退職(ただし強制的な)にもかかわらず退職金も出なかった。
職に就くにも、そこから初任給が出るまでにも時間が掛かる、このご時世だ。
即金を手に入れないと、飢え死には免れられない。
そこで冒険者だ。
依頼をこなせば即金が手元に来るから、再就職を考えるにしても急場はしのげる。
15の頃から教師になるまでの7年間やっていたから、心得もある。
ただし国を転々としていたから、昔のツテなんてものは無い。
ほぼゼロからの再スタートだ。
まずは、生き残る事から始めないと。
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