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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜34

 人工知性である一郎(プリムス)は、迸るように高い(シルデナフィル的な)モチベーション(無理無茶無謀)(まみ)れたアレ(・・)であるかの様に急上昇する(軌道をいきり立たせる)AVIC・J-20「威龍」達(有象無象の群)見苦しさ(必死さ)に、口など持ち合わせていない関わらず閉口気味だった。


 何故かと言えば、大量のAVIC・J-20「威龍」達(有象無象の群)は、彼の母親である朝間ナヲミを求めて、元気一杯さで(熱心・真剣・必死さで)暴徒さながらに迫ってきているからだ。


 一郎(プリムス)は、それらの不気味な脅威への対処は自身では行わなかった。代わりに四柱の弟達に任せていた。


 四柱の弟達は、まだまだ高度を稼いでる真っ最中のJ-20「威龍」達(有象無象の群)を成層圏から見下ろしながら、レイル・ガンの砲撃を繰り返す防衛行動に徹している。


 ロング・レンジ攻撃。まだ、AVIC・J-20「威龍」が搭載する長射程ミサイルでは、超高空に滞空している三菱・F-3Eを射程圏に収められない。衛星破壊ミサイルの方ではロックオンが出来ない。


 だから、四柱の弟達が実行中の攻撃は極めて一方的なモノだった。上から下は狙える。しかし、下から上は狙えない。全て地球(の重力)のせいだ。


 だが、敵の群がこちらを射程圏に捉えるところまで接近を許してしまえば、立場は逆転してしまうだろう。


 人民解放軍・空軍がこの空域に持ち込んだ戦力の方が、圧倒的に多く、大きい。搭載するミサイルの推力が重力の頸城を砕くに足りる距離まで詰められれば、多勢に無勢な交戦へと発展してしまう。


 だから、敵を近付ける前に、敵の射程圏へと入れられる前に、出来るだけ数を減らしておく必要がある。そうでないと数では圧倒的に劣る三菱・F-3E側は、最終的に一方的に嬲られる(囲まれる)立場へ突き落とされるだろう。


 四柱の弟達によるAVIC・J-20「威龍」達(有象無象の群)に対する印象も、一郎(プリムス)と大して変わらなかった。一郎(プリムス)と同様に、有象無象の群の理解不能な必死さを目撃して、持ち合わせていないはずの生理的(・・・)嫌悪感に苛まれている自身を自覚した。


 ーーーキモい。


 ーーー生理的に無理。


 ーーー近寄るだけで汚されそう。


 ーーー母親に変なことされそう。


 四柱の弟達は、今まで学習して来た経験をどれだけ消費しても、どうにも理解不能な、どうにも説明のしようのない種類の根本的(Fatal)脅威( fear)をAVIC・J-20「威龍」達(有象無象の群)から感じずにはいられなかった。


 その脅威(fear)が、自分達に直接的に対するものではなく、母親である朝間ナヲミ一人に対してしか向けられていない事が不思議でならなかった。


 しかも、それは暴力的な何か(Lewdness)でありながら、もっと、タイの田舎の夜間の車道際で、ピンク色のセロファンを蛍光灯に巻いて灯している(客引きしている)かの様な・・・安っぽい禍々しさ(Carnal)を辺り一面(一宙)に発散発していた。


 四柱の弟達は、その純粋な殺意ではない、もっと、物理的ではなく精神的な何かを汚すような勢いを理解出来るほどに人間社会を深く理解出来てはいなかった。


 だから、何が何でも、今後は有無を一切言わせないためにも、一匹残らず(Kill them)排除( all.)し尽くさなければならないと確信していた。


 一方で、自機のレイル・ガンの砲撃をも四柱の弟達からの遠隔操作に任せて切っている一郎(プリムス)は、別のタスクに没頭していた。


 一郎(プリムス)は、自身の解析力のほとんどを、人民共和国が「空」の上に当たる「宙」で密かに展開中のイベントの監視に割り当てていた。


 地球の衛星軌道を飛ぶ、日本国や同盟国の情報衛星を使って、ラオスの緯度周辺を可能な限りの電磁波帯で監視していたのだ。


 実は、ついさっき、流星迎撃ミサイルで破壊したばかりの中距離弾道ミサイルDF-26が離床する約2時間ほど前に、もっと大型のブースターが一本、文昌衛星発射センターから一足先に離床を終えていた。


 一郎(プリムス)は、それを怪しんでいたのだ。


 人民共和国の事前発表によれば、それは同国が運用中の宇宙ステーション「天宮」への定期補給便(定期バス)だとされていた。


 公開されている情報そのものは、何の不自然もなかった。軍事目的の宇宙基地であっても、民間用の地球周回軌道拠点と同様に、消耗品の補給なしでは無人であっても有人であっても運用不能だ。だから、定期補給便(定期バス)が一定期間ごとに打ち上げられる必要がある事は、常識内に収まる話だった。


 打ち上げその物が、年間スケジュールを通じて一年以上前から発表されている(ただし、詳細変更は度々起こる)。その事前予定に沿った打ち上げだった為に、もし目立つ事があったとしたら、ロケット軍のアバウトな打ち上げ管理にしては珍しく、予告時間通りにキッチリとエンジンに点火された事くらいだった。


 積載された貨物の内容は、小型の居住用ユニット「洗天」、増設用太陽光パネル、生活必需品などの消耗品。


 居住用ユニットには、"宇宙領土"を守る人民達が待望するJAXAとTOTOが共同開発した製品にインスパイアされた"新型トイレ(コピー品)"を搭載しているとされていた。


 合衆国の早期警戒衛星は赤外線センサーで、大型宇宙用ロケットの離床を察知した。だが、それを脅威とは見做さなかった。


 このブースターは何の問題も起こさずにマックスQを越えて、第一段ブースターを燃焼停止(MECO)破棄(Sepalation)して、第二段ブースターに点火して、音速の五倍の速度を超えたあたりでフェアリングを破棄し、上昇軌道(Deploy)へと放り投げられた。


 その後、合衆国は、中距離弾道ミサイルDF-26などの軍用ミサイルの打ち上げ準備を察知。そちらへの対処を優先して定期補給便(定期バス)を名乗るブースターを管理を非軍事のセクションへと下ろしてしまった。


 だが、これが間違いだった。定期補給便(定期バス)を名乗るブースターは真っ紅な嘘。実は純軍用のミサイル。その実は、大陸間弾道ミサイル長征5号(CZ-5G)(※1)だったのだ。


 大型貨物用ロケットと大陸間弾道ミサイルは大した違いがない。少なくとも、もっとも重要な第一段目のブースター部分には、構造的な差はほとんどないのだ。


 そして、大型貨物用ロケットと大陸間弾道ミサイルの外観上の違いは、ブースター側面の塗装色くらいである。別に、軍用であっても、追加で主砲やミサイル発射口があったりはしない。つまり、外観上の偽装は管理者の思いのままと言う事になる。


 もし顕著な違いがあるとすれば、精々、上昇する軌道の種類くらいだろう。一般的な大陸間弾道ミサイルであれば、弾道弾であるが為に、最初から最後まで弾道軌道(準軌道)を描く。


 その場合、大陸間弾道ミサイルに押された兵器(荷物)は、人工衛星や宇宙ステーション飛行する低軌道を一時的掠めたとしても、加速が不十分(第一宇宙速度未満)である為に、苦労して一度突き抜けた大気圏へと必ず帰らずには(再突入)いられない。


 ーーー打ち上げ花火の火の粉(火薬の燃え滓)は必ず地上に落ちる。


 これと同じ理屈である。


 だが、五柱の人工知性は、民主義国家群の善良な人々程に常識(ヒューマニティ)に捕らわれてはいなかった。


 大陸間弾道ミサイル長征5号(CZ-5G)は、確かに宇宙ステーション「天宮」とのランデブーに最適なタイミングで、ご丁寧にもグーグルマップにも掲載されている、いつもの文昌衛星発射場 LA-1 から悠然と打ち上げられた。


 とても入念な偽装施されていた。破格の予算を投じた隠蔽だ。民主主義国家群のセンスでは、本当に疑い様がなかった。偏執的なまでに完璧な情報迷彩だったとも評せる程にだ。


 人工知性である一郎(プリムス)が、大陸間弾道ミサイル長征5号(CZ-5G)を最初から最後まで監視していたのは、人類ほどに常識(ヒューマニティ)を重視してない=最初から疑っていたからである。


 機械に対して、人類(産みの親)が重要視する紳士協定の共有を徹底/尊重/遵守しろと要求するのには、流石に無理がある。


 大陸間弾道ミサイル長征5号(CZ-5G)が、初期加速を担当した軍事兵器は、宇宙ステーション「天宮」とのランデブーに備えて、二日間を予定している"軌道高度上昇"へ入る軌道(・・)のトレースを見せ続けていた。だから、現段階で、貨物の内容が軍事兵器であると疑うに足りる根拠は一切見せていなかった。


 合衆国が注目していたのは、むしろ、今回の貨物の打ち上げに利用した一段目ブースターの加速率が従来のスペックを上回っていた点だった。燃焼効率を上げたのか。それとも構造材の軽量化に成功したのか。技術的な進歩に対する分析・解析作業の方へと、平時でも足りていない人員を更に割かれてしまった。


 しかし、今回の打ち上げはとても"非効率な偽装(※2)"だった。


 加速率が従来よりも高かったのは、明らかに貨物の重量が軽かったからだ。


 当たり前だ。ブースターが加速させる対象(の質量)が公表しているより小さければ(軽ければ)、加速効率が上がらないと言う理屈はない。いや、理屈的には逆の現象が起こるだろう。


 そして、打ち上げられたのは、小型の居住用ユニット、増設用太陽光パネル、生活必需品などの消耗品ではなく軍事兵器。極悪な、再突入体に包まれた極超音速滑空体であったと言うのがオチである。


 本来、極超音速滑空体であれば、大気圏外へ一度出す必要はない。熱圏の適当な高度まで上げてやれば、後は重力加速で、音速の10倍でも20倍へでも、いくらでも高速で飛翔(下降)出来る(素材の問題で、流石にマッハ20は不可能だろう。大気圧縮熱ですぐに燃え出してしまう)。


 人民共和国の強みは、民主主義国家とは全く異なる価値観を持ち合わせていた事だった様だ。


 彼等は、目的のためには手段を選ばず=目的のためには効率を完全に無視して当然と言う考え方を実践する事で、最貧国から一時的とは言え経済大国へと登り詰めた。


 そして、人民共和国を支配する偉大なる党の下部組織である人民解放軍・ロケット軍は、目的のためには効率を完全に無視した作戦提案が通過すると言う組織文化を持ち合わせていた。


 今回の作戦は、前代未聞の無駄を持ち合わせた大事業。


 何と、極超音速滑空体を一度大気圏の外へ出したのは、地球を周回(一周)させる為だった。


 わざわざ、地球を周回(一周)させた後に直ぐ近くを攻撃する意図に基づいた作戦プランだったのだ。


 これは衛星飛行速度までの加速能力を持たないブースターが、実力以上のパワーを見せ付けない時にやってみせるロフテッド軌道とは明らかに異なる意図がある。


 大陸間弾道ミサイル長征5号(CZ-5G)の新型の"二段"目は、核弾頭搭載再突入カプセルを衛星飛行速度まで加速させて、さらに大気圏へ落とすに十分な減速をさせるパワーとマニューヴァヴィリティーを獲得していた。これがこの作戦の(キー)となった。


 月探査や火星探査などにかまけていた民主主義国家群とは大きく異なり、人民共和国だけは純粋な兵器=大陸間弾道ミサイルシステムの技術的発展に全力を注いでいた。


 ーーー乾坤一擲。


 人民共和国は、人民共和国で、彼等なりに人類とその未来に対して必死に責任を果たそうとしていた証拠がこれである(民主主義国家群の価値観では彼等の選択は愚策であり、極めて迷惑である。しかし、この地球上では多様な価値観が併存して良い筈なので、人民共和国の時代錯誤な必死さと稚拙さに対しては、民主主義国家群は敢えて眉をしかめるに留めていた)。


 核弾頭搭載再突入カプセルの動き、これは宇宙船と全く同じ加速と減速であった。低軌道を飛ぶ宇宙ステーションを宇宙軍事基地へと転用のと比べれば、まだ効果的且つ安全な攻撃手法であったと評せるかも知れない。


 地球周回は一周限りと言うところは、合衆国の宇宙開発初期に実行されたマーキュリー計画の「フレンドシップ7」と似ているかも知れない(ジョン・グレンには、生憎ながら核爆弾の持ち合わせはなかったが)。


 軌道上限を大気圏内に留めてしまうと、大陸間弾道ミサイル長征5号(CZ-5G)が輸送用ロケット(人道的使用)でない事が一瞬で露見してしまう。攻撃用途(軍事的使用)であり、最大射程半径が直ぐに推定されてしまう。そして、それなりに高い確率で迎撃されてしまう。だったら、最大級の大型ロケットで打ち上げて、地球を周回(一周)させてから大気圏に再突入させてから攻撃させれば敵の不意を突けるのではないか。


 何と言う壮大な無駄。人民共和国は、誰もが思い付くが、誰も実際に試したりしない種類のアイデアを敢えて支持したのだ。しかし、どれほどの無駄であったとしても、成功させていれば、ある程度までなら元は取り戻せる。


 ーーー投資した金額の100%は取り返せないが、60%くらいなら取り返せる。


 投資ビジネスであればあまり賢くない決断だ。だが、軍事作成であれば、目標に対して十分な被害を与えられれば何とか言い訳が成り立ちそうにも感じられる。特に、独裁国家であれば。


 再突入体に収納された極超音速滑空体は、人工衛星が飛行する低軌道を目指して上昇する軌道への投入に成功した。このまま管制と制御と続ければ、宇宙ステーション「天宮」へ条約違反である宇宙兵器の配達が叶っただろう(むしろ、政治的にはそうした方が正解だったかも知れない)。


 だが、極超音速滑空体は大西洋上空で逆噴射(レトロロケット)を行った(を使用した)


 人工知性である一郎(プリムス)は、噴射光と噴射熱を見落とさなかった。そして、大気圏外へと打ち上げられた貨物(質量)の推定質量から、核弾頭搭載の極超音速滑空体が五体程を搭載した再突入体であると確信した。


 再突入体が上層大気を掴んで、急減速を開始した。


 合衆国の早期警戒衛星のセンサーもその反応を捉えた。噴射光と噴射熱を、燃料漏れや不制御燃料の結果であると、好意的に捉えたからだ。何らかの事故が起こって、打ち上げた貨物(人道的使用品)が上昇機動の維持に失敗したとの評価を下した。


 ーーー可哀相に。


 早期警戒衛星から送られてくるデータの監視管は、軌道上で新型トイレ(ウォシュレット)を待ち兼ねている宇宙人民に対して同情すらした。しかし、仕事は仕事と、地球へ堕ちてくる大型落下物を知らせる警報を出すべく、「連合スペースガード(U.S.G.A.)」へ情報を転送する許可を脊髄反射的な速度で出した。


 だが、核弾頭搭載の極超音速滑空体は、予定通りにイランだか、アフガニスタンだかの上空でプラズマ光を散らしながら大気圏への再突入を開始した。


 この辺りで合衆国宇宙軍と「連合スペースガード(U.S.G.A.)」は一つの事実に気付いた。大気圏へ再突入した貨物の質量がほとんど失われていないのだ。


 大気圏外を飛行する目的で設計された物が大型落下物となれば、大気圏へ突入した後は、圧縮熱の影響で構造が徐々に崩壊し、それによって落下軌道が大きく変化する筈だ。


 だがその落下物は構造体が、ほとんど崩れる事なく、しっかりと原型を保ったまま、一定の軌道に沿った落下を継続出来ている。だとしたら、の落下物は大気圧縮熱に耐えるだけの熱装甲を与えられた、有り得ない事だが、大気圏への再突入体以外の何物でもない。


 周回軌道への片道キップしか持ち合わせていない通常の貨物輸送カプセルであれば、大気圏への突入後はすぐにバラバラに分解して、沢山の数の流星となって少なくない割合が燃え尽きて(消失して)しまう。


 つまり、今も監視中の"減らない大質量"の大気圏再突入は、決して事故ではなく、打ち上げた組織=人民共和国が意図した航路を描いていると言う事だ。


 合衆国宇宙軍と「連合スペースガード(U.S.G.A.)」の人工知能は、落下中の物体は高確率で再突入体であると警告を出した。続いて、それが単純な核弾頭であった場合と、空力的な飛翔能力と誘導能力を持つ極超音速滑空体であった場合の、射程圏楕円を割り出した。


 単純な核弾頭であれば、インド共和国北部〜ネパール共和国全土〜ドゥクパ王国西部への攻撃である可能性が高い。


 核弾頭搭載の極超音速滑空体であれば、ドゥクパ王国〜ミャンマー共和国〜ラオス/タイ。軽量な通常弾頭搭載型であれば日本国の関東以南まで届くだろうと言う予想が出された。


 合衆国宇宙軍は、それが核弾頭搭載の極超音速滑空体であり、行き先はラオス北部であると認識した。


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」は、再突入体に新しい地球接近天体(N.E.O.)を割り当てて要撃体制に入ろうとしたが、管理下にある実働部隊をどう遣り繰りしても間に合わない事が分かって諦めた。


 これほどに短い準備期間では、ドゥクパ王国の・空軍の命知らずのパイロット達であっても、滑走路から離陸するのがやっと。要撃ポジションまで上昇し終えた頃には、極超音速滑空体はラオス北部へ到着しているだろう。


 ーーー来たか。


 一郎(プリムス)は、機体表面に張り巡らされた電磁波センサーを通じて、低軌道を飛ぶ測量用人工衛星を名乗る軍事衛星から照射された長距離レーダー波を感知した。


 それも一つの方向ではない。二つの異なる方向から、朝間ナヲミの小隊に属する全五機の三次元座標を求めているのだ。


 軍事衛星はすぐに太陽が昇る方向へと沈んで行った。だが、すぐに次の長距離レーダー波が太陽が沈む方向から昇って来た。


 どうやら、観測用の軍事衛星を計画的に、重なる軌道へ時間差で集めた様だ。何が何でもAVIC・J-20「威龍」から撃ち上げられるミサイルミトコンドリアモーターに、防衛網(透明帯)を何が何でも貫通させて、「本懐」を遂げさせてやりたいらしい。


 これは、一郎(プリムス)達兄弟にとっては、迷惑極まりない。


 彼等兄弟には、偉大なる党を支配する"皇帝"が、どんな理由でこの様な「本懐」を抱いているのか分からなかった。しかし、「なぜ」が分からなかったが、「なに」を「どうやって」するだろうかは分かっていた。だから、単純に「降りかかる火の粉を振り払う」事に決めた。


 自らを育て上げてくれた母親を道徳的な汚染から守り切る為に、五柱の息子達は珍しく(・・・)一致団結する事にした。


 四郎クァルトゥスは、早期警戒管制機の空警2000(KJ-2000)が、イスラエル・エアロスペース・インダストリーズからパテントを格安で買い取ったアクティブ・フェーズドアレイ・レーダーを使って、自分達の大凡(おおよそ)の位置を掴んだだろう事を察した。


 AVIC・J-20「威龍」が、長距離ミサイルだけでなく、衛星破壊ミサイルまでも動員して、自分達に向けて送り出す準備に入ったと言う事だ。


 空警2000(KJ-2000)のレーダーは、コンフォーマル・レーダーとは呼べないほどに大型だが、大きいだけに出力の大きさだけは欧州機標準に十分に届いている。そして、索敵能力もそれなりに高い。


 ーーーここから先は、まったく余裕がなくなる。


 二郎セクンドゥスが、一郎(プリムス)に対して、かねてからの打ち合わせの通りに一刻も早い戦場からの離脱を求める。


 彼等兄弟は、揃って、母親である朝間ナヲミを本物の危険に曝すつもりはなかった。家族揃って仲良く迎撃・要撃に励むのはとても愉しい。だから、今まで共同歩調を取って来た。しかし、ここから先は安全であると言う前提条件を逸脱する。 このまま母を戦場に留めれば、帰還率(生存率)が急激に下げてしまう。そんな新展開は即座にお断りであった。


 一郎(プリムス)も観念して、とうとう、弟達に母を戦場からの離脱させると言う予告サインを送る。


 電子戦を得意とする三郎(テルティウス)が、レイル・ガンを収納し、一郎(プリムス)の離脱に備えて、全ての電力を電子戦機材へと切り替える。


 ディセプション・リピーターで、小隊と敵群との距離、方位(角度)、速度の欺瞞を始める。続けて、AVIC・J-20「威龍」経由で早期警戒管制機の空警2000(KJ-2000)への侵入すら試みる。


 一郎(プリムス)は、離脱のタイミングを見定めて、レイル・ガンを収納し、全ての電力をアクティブ・ステルスへと切り替える。エンジンをアイドルまで落として赤外線放出を出来るだけ抑える。


 そして、一郎(プリムス)一柱だけが小隊から密やかに急速離脱。


 その直後に、AVIC・J-20「威龍」の群が、偉大なる党の支配者(皇帝)のリビドーの象徴であるかの如く、長距離ミサイルや衛星破壊ミサイルを撃ち上げ始めた。


 一郎(プリムス)による離脱のタイミングは、本当に正しかった様だ。支配者(皇帝)のリビドーが数多の困難を押し退けて、やっとの思いで近付く頃、朝間ナヲミはもう()に、そこ(・・)にはいなくなっているのだから。


 そう。実際、すべての支配者(皇帝)のリビドーが、二郎(セクンドゥス)三郎(テルティウス)四郎(クァルトゥス)五郎(クィーントゥス)達四機が飛行中の空域に向かって来る。


 離脱した一郎(プリムス)の方向へは向かっていない。


 敵の指令官と補助人工知能を欺く事に成功した。


 一郎(プリムス)が母親である朝間ナヲミを連れて離脱済みである事を読めて(・・・)いない。


 空警2000(KJ-2000)に対する欺瞞作業は、上手く効果を上げている。


 おそらく、空警2000(KJ-2000)は、三菱F-3Eの全五機が以前と同様に同じ空間に留まっていると推測している。


 それは、三郎テルティウス による戦闘の成果である。欺瞞信号のドップラー・シフト風味付けに騙されて、空警2000(KJ-2000)が搭載しているレーダー・システムその物が、誤った速度情報=既にそこに存在していない一郎(プリムス)の影を追い続けているのだろう。


 人間が機械を騙す事はとても難しいかも知れない。単純な計算能力なら、人間は機械に適う筈がないからだ。


 しかし、同じ価値観的土俵に立っている機械であれば、同族である機械を騙す事はそう難しくないのかも知れない。


 しかも、人民解放軍側の機械は、一郎(プリムス)達の様な朝間ナヲミに仕込まれた人工知性とは異なり、極めて人間的な価値観の枠に捕らわれた対電子戦技術しか持ち合わせていない。


 ーーー餅は餅屋に。


 そう言う考えは、共産主義者だけでなく、民主主義者にとっても実践する事が難しい。しかし、朝間ナヲミは、特異な感性によって、とても自然に実践していた。


 その差が、管理下にある人工知能に大きな影響を与えるとは、朝間ナヲミも含めた全ての人間は全く想定していなかった。


 ここでは、共産主義者が育てたヨチヨチ歩きの人工知能と、朝間ナヲミが成人の域にまで成長させた人工知性との勝負となっていた。


 空警2000(KJ-2000)とAVIC・J-20「威龍」は、完全に一郎(プリムス)二郎セクンドゥス 、三郎テルティウス 、四郎クァルトゥス 、五郎クィーントゥス の手の内で踊ってた。


 だが、そんな事を息子達から知らされていない母親の方は当惑するばかりだ。


一郎(プリムス)!! どうして??」


 朝間ナヲミは、経験的に、この操作拒否と戦線からの離脱行為が、技術的な不具合、機械的なエラーやコンフリクトでない事は直感で分かっていた。


 つまり、人工知性である一郎(プリムス)による独自判断であると直感で気付いていた。


 そして、単なる機械による自分達人間に対する反乱ではないだろう事も。


 人工知性の価値観に対して、朝間ナヲミの価値観が乖離していると言う、息子からの「本音」の発露である筈だ。


 つまり、人工知性が、母親である自分を必要としなくなったと言って(・・・)いるのだ。


 ーーーこれからは自分で判断してあらゆるタスクへ対処する所存。


 朝間ナヲミが愕然としている間に、一郎(プリムス)は母親を連れてタイ領空手前まで戻っていた。


 いつの間にか、三菱・F-3Eは高度1万4千,000mまで降りて来ていた。


 一郎(プリムス)は、自身の身体(三菱・F-3E)を、コックピットを旋回円の外側にして緩く上昇した。


 朝間ナヲミの擬体が、三菱・F-3Eから送られた外部信号に呼応して、本人の意思を無視して瞬時に特殊姿勢を取る。頭と首をヘッドレスト部へ押し付け、手脚をレバーやペダルから引き下げて座席周りへと押し付ける様に密着させる。


 これが意味する所は・・・たった一つだけ。


「そんな!!」


 ベイル・アウト。機体からの緊急脱出だ。被撃墜となった訳でもないのに。


 直後に、カウントダウンもなしで、一郎(プリムス)自身の身体の中(三菱・F-3E)から、朝間ナヲミをコックピットごと(射出座席ごとではなく)空中(機外)へと放り捨ててしまった。


※1= CZ-5A/B/C型は単段式で、コアステージが地球周回軌道に入ると言う、恐怖の大魔(アンゴルモア大王)王仕様。打ち上げ終了後に、地球上の何時、何処に大質量物が落ちて来るかは神のみぞ知ると試される大地(だいたい、3〜7日後の模様。落下地点はその時のノリ次第で直前まで予測不能)。なお、3段式ロケットのCZ-3C型は地球ではなく、なんと月面に落ちてクレーターを創造したと言う実績を誇る。スペースX社のファルコン9が言われ無き批判を受ける羽目に陥ったのはコイツのせい。なお、人民共和国は、自国による歴史上初めての「月面空爆成功」については否定している。この件を合衆国の隠謀であると主張したりしなかったりして、とにかく認めていない。


※2= 偽装は非効率であればあるほどに有効である。何故なら、非効率も極めればそっちの方が本命であってもおかしくない状況が出来上がるからだ。ただし、予算の関係上、そんなバカな事を実行に移せないのが常である。三流以外の将軍が、可能な限り二正面作戦を避け様とすると同じ理屈である。

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