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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
96/143

墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜33

 一機の三菱・F-3Eと四機の三菱・QF-3Eの機首下面のギザ模様の合わせパネルが開き、収納式(リトラクタブル・)電磁砲(レイル・ガン)が滑らかに下ろされる。


 史上初、航空機搭載用レイル・ガンによる実戦が始まる(アウト・レンジ攻撃だ)


 ここに登場する"航空機搭載用"を名乗るレイル・ガンは、熾烈な技術革新を繰り返した末に誕生した優れモノ(・・・・)だ。


 技術革新とは一体どの様なものか。具体的には、システムの(コア)である超電導コイルの素材に、今まで広く利用されて来たニオブチタン(NbTi)合金ではなく、新たにビスマス(Bi2)系銅酸化物を採用した事こそが革新の本質に当たる。


 素材革新によって、色々な問題がドミノ崩し的(なし崩し)に解決し始め、最後には開発状況が一変した。例えば、新素材製の超電導コイルを使った事でリニア・モーター機器は、従来素材を使った機器と比較して、圧倒的なコンパクト化・省電力化を同時に達成した。


 レイル・ガンとは何であろうか。それは、超流動現象(高温超電導磁石)を用いた投射技術である。おそらく、もっとも古い歴史に書き残されているアイデア的な祖先(元ネタ)は、ローマ軍が利用した木製カタパルト(投射機)「バリスタ」ではないかと思われる。


 レイル・ガンは、一般的な銃や砲と違って、火薬による膨張を二次的(間接的に)に推進力へと変換するのではない。レイル・ガンは、電気と磁石を操って作り出す電磁圧を一次的(直接的)に推進力として利用する「投石器」である。


 なお、木製カタパルト(投射機)「バリスタ」では、電磁圧ではなく、無理矢理にねじ曲げた木材の復元力や紐で繋いで上方に持ち上げた(或いは巻き上げた)石材の質量の落下力(位置エネルギー)を推進力へと変換する「投石器」だった。


 だから、最新のレイル・ガンであっても、古代から中世まで戦場で利用されていた木製カタパルト(投射機)「バリスタ」であっても、「何か物を投射する為に発明された道具」だと言う点では同じである。もし何か違いあるとすれば、作動用途、或いは駆動用途の動力源が同じでない(・・・・・・・・・)と言う事くらいだろう。


 レイル・ガンとバリスタ。両者の射程距離の長短(違い)は全く関係ない。


 ーーーライフリングのない先込め式マスケット銃であっても、最新の2km先の目標を狙撃出来るマテリアル・ライフルであっても、それらは等しく銃である。


 これと同じ理屈だ。


 純粋なエネルギー効率としては、銃や砲と比較して、レイル・ガンの方が圧倒的に優れている。ただし、製造して運用する上でのハードルは、銃や砲と比較して、レイル・ガンの方が圧倒的に高い。


 だから、21世紀になっても、使用環境の制御が容易且つ電力供給も外部から有線で導入可能な陸上用(固定用)のレイル・ガンでさえ、簡単には実用化出来なかったのだ。


 朝間ナヲミによる命令(オーダー)が下り、レイル・ガンの(かなめ)である超電導コイルの直接冷却冷凍が直ちに開始される。


 臨界温度(転移温度)マイナス163度(110ケルビン)であるビスマス系銅酸化物(銅酸化物高温超伝導体)による超電導コイルを中心にして組まれた、この航空機搭載用レイル・ガンであれば、冷却冷凍作業は既に大仰な作業ではなくなった。


 それは、新たに採用された素材が、「高温」で超電導化効果を得られる特徴を持ち合わせているからである。平たく言えば、冷却対象である超電導コイルが、従来よりもずっと緩い温度で作動出来る様に仕様が変更されたと言う事である(従来よりもずっと「超伝導転移」し易い物質を発見し、超電導コイルへの応用に成功したとも言い直せる)。


 これを「超伝導転移」を起こし易い性質と言う。また、超電導コイルに用いるビスマス系銅酸化物は、ビスマス系超伝導体と書き表す事も出来る。そして、ビスマス系超伝導体を利用した超電導コイルを指して、「()温超電導コイル」を意味している事を我々は悟らねばならない。


 ()温超電導コイル。それは不可能を可能に書き換えた、リニア・モーターやレイル・ガンをの開発者が長年に渡って探し求めていたラスト・ピース。画竜点睛的な、龍に瞳を書き入れる行為に等しいモノだった。


 ()温超電導コイルがもたらす大恩恵。それは超電導コイル用の「冷却冷凍機」に、扱いが難しい液体窒素や液体ヘリウムを使用する必要がなくなった事である。これこそがまさに僥倖。


 ーーー温度管理条件の大幅緩和。


 そう、従来型レイル・ガンでは、液体窒素(沸点マイナス196度)液体ヘリウム(沸点マイナス269度)などを利用する特別な「冷却冷凍機」を利用しないと、超電導コイルが作動可能な転移温度=臨界温度まで冷却冷凍すると言う、"熱マネージメント"の達成が不可能だった。


 だが、レイル・ガンの(コア)パーツが新世代素材へと発展した御陰で、目標とすべき温度のハードルが大きく下がった。結果、液体窒素/液体ヘリウム系「冷却冷凍機」をシステム構成から排除出来た。それは、在り来たりな(簡素でコンパクトな)パルス管式「直接冷却冷凍機」と言う代替装置で、"熱マネージメント"の達成が出来る様になったからである。


 今まで大きな体積を占めていたモノ、構造の複雑な液体窒素/液体ヘリウム系「冷却冷凍機」がシステム内からゴッソリと消えてくれた為、新型レイル・ガンは無理なく小型に纏まり、重量の軽量化にも成功すると言う二次的な恩恵にも授かれた。


 新型の()温超電導コイルと「直接冷却冷凍機」を組み合わせた新型レイル・ガンは凄い。今、三菱・F-3Eに搭載されるレイル・ガンこそが、航空機搭載用としては真に完成品。本当の意味での決定版と言っても過言ではないだろう(※0)。


()温超電導コイル」と呼ばれる新型超電導コイルが、新型航空機搭載用レイル・ガンへもたらした最大の特徴。それは、高温度環境であっても従来型と同等の超電導化効果を得られる事である。


 実際、()温超電導コイルで組まれていた従来型レイル・ガンと比べて、格段に扱い易さが向上している。


 ーーー新型の()温超電導コイルは、従来型の()温超電導コイルと比べると、作動面での温度的な制約が比較的に緩い。


 リニア・モーターと言えば、ガチガチに凍り付く様な温度まで下げないと動き出さないと言う印象がある。それは正しい。しかし、ガチガチに凍り付く様な温度にも、"限界を越えて寒い"と"そこそこ寒い"の二種類が存在している。


 従来型の()温超電導コイルは、マイナス269度(4ケルビン)以下、つまり"限界を越えて寒い"まで冷却冷凍しない超電導化効果を得られなかった。これでは液体窒素や液体ヘリウムを使わない訳にはいかない。


 一方、新型の()温超電導コイルであれば、マイナス253度(20ケルビン)、いわゆる"そこそこ寒い"まで冷却冷凍してやるだけで、十分な超電導化効果を得られる。これならば液体窒素や液体ヘリウムを使わずに済む。


 扱いやすい機構を利用する冷却冷凍機でも、マイナス269度(4ケルビン)以下までは無理でも、マイナス253度(20ケルビン)までなら十分に冷却冷凍が可能である。


 新型と従来型の違い=動作温度の違い、絶対零度付近でのたった16ケルビン(・・・・・・・・・)の差とは、言葉で書く事は容易だ。だが、物理の世界では、それはどうにも覆せない圧倒的な格差として認識される。


 そして、「直接冷却冷凍機」で超電導コイルをマイナス253度(20ケルビン)まで低温下出来れば、新たに採用された()温超電導コイルであれば、従来型と同レベルの超伝導効果を引き出せる。


 つまり、マイナス253度(20ケルビン)でも従来型と等しく、1M J (メガ・ジュール)の充電エネルギーを注ぎ込めば約350gの飛翔体(弾丸)を音速の七倍と言う初速でバレルから投射出来るのだ。


 あまりピントが来ないかも知れないが、この材質変更がリニア・モーターに技術的ブレイク・スルーをもたらしてくれたのはれっきとした事実だ。


 超電導コイルをマイナス253度(20ケルビン)まで冷却冷凍する事は難しくない。しかし、その温度から更に極低温とされるマイナス269度(4ケルビン)まで温度を更に下げる事は、技術的にも、コスト的にも大変に難しい。


 もちろん、液体窒素や液体ヘリウムを使えばやって出来ない事もない。しかし、それらを使用する代償は大きい。


 マイナス253度(20ケルビン)を維持するより、マイナス269度(4ケルビン)を維持する方が、篦棒(べらぼう)に高いエネルギーを追加で消費してしまう。


 ーーー液体窒素や液体ヘリウムを液体に留めておくだけで、相当な電力を消費し、圧力を維持し続ける必要がある。


 そして、液体窒素や液体ヘリウムを使う冷却冷凍機は構造が複雑で大きい。冷却に液体やガスを利用している限り、レイル・ガンの小型化、軽量化、構造と運用の簡素化は不可能だった。


 冷却冷凍機の構造が巨大で複雑であれば、リニア・モーターやレイル・ガンを開発する上でのボトル・ネックとなってしまう。この問題を解決せずには、航空機搭載用レイル・ガンの実用化など夢のまた夢であった。


 だから、液体窒素や液体ヘリウムを利用する大型の冷却冷凍機に依存する()温超電導磁石システムを捨てて、簡素な冷却冷凍機さえあれば事が足りる高温超電導磁石システムを採用を目指す事は不可欠であり、必須であり、必然であった。


 この、夢のシステム、超電導コイルにビスマス系銅酸化物を利用する高温超電導磁石システムの実用化見込みを日本国が宣言したのは、2020年代だった(令和になってからだ)


 当時、JR東海系の鉄道総合技術研究所(※1)が、この新素材への世界からの問いに対して詳しく回答していた。そして、それから約半世紀が経過して、()温超電導磁石システムは"航空機搭載用兵器基準"が要求する"基本仕様(ミリタリー・スペック)"に応じられる程に熟れた技術へと登り詰めていた。


 実際、超伝導コイルの素材の変更は、リニア・モーターやレイル・ガンの設計・製造と言う分野において革新をもたらした。


 例えば、従来型では極めて扱いと管理の難しい液体窒素や液体ヘリウムなどを冷却冷凍機に利用する必要がなくなった事。


 例えば、冷却冷凍機周辺に、液体窒素や液体ヘリウムのタンクの設置したり、それらを超伝導コイル周りに無理なく循環させる為の複雑怪奇に入り組む配管を施す必要がなくなった事。


 例えば、液体窒素や液体ヘリウムのタンクや配管の点検・整備・補修を頻繁に行う必要がなくなった事。


 (トドメ)に、冷却冷凍機に回していた電力の大半を、超伝導コイルの駆動用途へ回せる様になった事。


 結果として、小型化と省電力化が同時に、容易に、実現出来てしまった。


 ついでに、製造・運用コストの方も圧倒的に下がった。


 良い事づくしである。


 民生品のリニア・モーターであっても、軍用品のレイル・ガンであっても同じメリットを享受出来る。


 以上の経過で、日本国にとっては、三自衛軍兵器体系へレイル・ガンを取り込むと言う念願が世代越しで叶えられた。


 おそらく、最初に超伝導コイルの冷却冷凍問題の解決に取り組んだ人々は、おそらくリニア・モーター・カーの研究者達だったに違いない。しかし、この難問を実際に解決出来たのは二〜三世代後の研究者達であった筈だ(※2)。


 そして、その複数世代の研究者達が達成した夢は、三菱・F-3Eに搭載された史上初の航空機に搭載する事を前提にパッケージされたレイル・ガンによって完全に具現化されていた(ここまで来れば、宇宙空間での応用も後一歩だ)。


 一機の三菱・F-3Eと四機の三菱・QF-3Eの二機のエンジンの発電状況は順調。コンデンサーの発熱も歪みも定格内に収まっている。


 三菱・F-3Eと四機の三菱・QF-3Eの計器が、レイル・ガンの使用に対してトリプル・グリーン信号を表示した。


 これでレイル・ガンが求める温環境が整い、リニア・モーター(無軸式電気モーター)が、必要とされる加速力を潜在的に獲得し終えた。


 このまま強引にトリガーを引いてしまっても、狙い手も標的のいずれもが文句は言えないレベルにまでコンデンサーの電荷的圧力は高まっている。


 レイル・ガンを、欲望に忠実にぶっ放すに求められる前戯は全て終えていると言う事だ。


 だが、朝間ナヲミはベテランらしく、実際に行動を起こす態度は極めて慎重だった。


 弾丸(飛翔体)、いや超電導磁石(弾丸)の無駄の消費を最大限に抑える為に、標的となる無数の(48機以上の)AVIC・J-20「威龍」の動きの完全なフォローを試みる。


 多用してもバレルは持つだろう。電力供給も足りるだろう。だが、弾丸(飛翔体)の搭載数には限りがある。手持ちの数だけで、無数の(48機以上の)目標を裁かなければならない。だから、一発も無駄にしたくないのだ。


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」の早期警戒管制機、虎の子の旧式機(合衆国からのお下がり)、ボーイング・E-3「セントリー」が送信する敵機の情報のリアルタイム・アップデートから標的の未来位置を割り出し、気象庁ホームページの「高層天気図」と「数値予報天気図」から自機と標的の間に立ち塞がる気流要素(気圧断層)の把握に努める。


 最初に、朝間ナヲミが搭乗する小隊唯一の有人機である三菱・F-3Eだけが、第一射を行う。


 撃ち出された飛翔体(弾丸)が生み出す反作用が、三菱・F-3Eへと帰って来る。


 フェアチャイルド・リパブリック社製の攻撃機A-10 「サンダーボルトII(イボイノシシ)」名物であるGAU-8 アヴェンジャー・ガトリング砲で30mm徹甲弾を撃ち出すよりもハデな衝撃が、戦闘機の華奢な構造を襲う。


 しかも、現状の三菱・F-3Eのウエポン・ベイにはサブ・フレームが外されている。構造的にとても貧弱な状態にある。


 しかし、三菱・F-3Eには機首部分、初期実験機の頃から「間接」が搭載されている。それが砲撃とほぼ同時に衝撃を緩和する為に作用する。


「間接」は、自動装填式銃器の、ショート・リコイルのティルト・バレル状態の様に、一時的に結合が解かれ、上方と後方へ一回移動して、その後に正位置へと復帰する。


 主翼などに塗布されているドルフィン・スキンを、予め決められた模様で自動起動して大気の受け止めと流れ去りを調整する。この補助動作によって、砲撃の衝撃を周辺大気へと蒸発(・・)させもした。


 三菱・F-3Eは、この一連の動きで、強大な衝撃を効果的に受け流す事に成功した。後は、砲撃の度にこれを繰り返せば良い。


 この様な可動式の反動制御機構を採用している為に、航空機搭載用レイル・ガンは通常の20mmガトリング砲の様な高速な連射性は発揮出来ない。しかし、これは本来は撃ち漏らした流星、弾道弾、滑空爆弾などの迎撃任務用オプションとして開発された道具である。


 開発時に求められたのは速射性ではなく、長距離射程の方だった。開発目的以外の用途で無理矢理に利用しているので、こればかりは潔く諦めるしかない。


 電磁カタパルトで加速された約350gの超電導磁石(弾丸)は、朝間ナヲミを目指して必死に上昇中の無数の(48機以上の)AVIC・J-20「威龍」の、纏まりのない群の中央、と言うより上空を通過した。


 その後、AVIC・J-20「威龍」の遙か後方で、飛翔体(弾丸)が自然発火。直ぐにそのまま燃え尽きて、地表へ到達する前に消散した。超高速な射出速度の上に、重力加速度が相乗りし、更に気圧が増した低空大気を圧縮・摩擦する事で飛翔体(弾丸)が加熱・発火したせいだ。


 朝間ナヲミと五柱の人工知性は、この戦況(本日の天候)においての超電導磁石(弾丸)の投射速度限界を読み取り、大気による通過物質への干渉のシミュレーションを行い、上昇中である標的が発揮可能な機動力のエヴァリュエーションを終えた。


 それによって、一機の三菱・F-3Eと四機の三菱・QF-3Eがどの標的を担当するかまでが、話し合いや擦り合わせもなしで決められた。


 共に飛ぶ狩人達にとって、この状況で互いに何をどうするかなど語り合う必要なかった。


 それは朝間ナヲミと五柱の人工知性にとっては、話し合うまでもない自明の理であったからだ。一目見れば分かる。全者が価値観を完全に共有出来ていた。


 もちろん、判断へ至る(下す)道は六つの知性それぞれ異なるだろう。しかし、至った(下った)判断ならばまったく同一だったのだ。


「Open to attack by our flights!!」


 朝間ナヲミは、全機に攻撃許可を出した。交戦、Engagementの許可ではなく。つまり、この戦闘を一方的な蹂躙行為で終えるつもりだったのだ。


 各機が、それぞれの標的を自発的に捕捉。


 レイル・ガン内部に渡された、平行する二本の砲身レールが磁界を発生・膨張させる。


 超電導磁石(弾丸)の磁界と推進コイルに電流を通す。


 超電導磁石(弾丸)は、"引き合う力"と"反発力"の影響で前方へ、推進力を得て滑空砲の出口を目指して移動を開始する。


 超電導磁石(弾丸)は約350gで、移動を開始した直後から、前方への移動と同様に"引き合う力"と"反発力"でガイド=滑空砲の内壁から浮上(・・)する。


 磁界の膨張速度は、無煙火薬と薬室が発生・膨張させる大気圧力よりも圧倒的に速い。


 砲身レールに上下左右の四方を挟まれた磁界が、電機子(伝導体)を磁気的圧力で推す。


 電機子(伝導体)に包まれた飛翔体(弾丸)は、従来型である無煙火薬を使った砲よりも圧倒的に速い、音速の七倍程の初速で撃ち出される。


 全機が、長距離砲として、レイル・ガンを次から次へと発射し始める。


「Gun's Gun's Gun's.」


 どうやら、レイル・ガンであっても、NATO基準の"コール"は搭載機銃扱いである様だ。対レーダー・ミサイルの"Magnum"の様に、もう少しハデな専用コールがあっても良さそうなものだ。しかし、日本国は大人の事情で、軍事面であまり悪目立ちしたくないなかった。


 レイル・ガンは飽くまでも「従来の搭載機銃の延長に過ぎない」と言い張り続ける予定であるらしい。


 これが民主主義国家の面倒な所だ。「平和の為なら自分も含めた家族全員の命を差し出す」と本気とも嘘とも取れない主張を繰り返す人々も、そうでない人々と同様に、政策闘争の雌雄を決する"清き一票"を持っている。だから、政治はそんな彼等(こんな人達)への出来る限りの配慮を忘れないのだ。


 超電導磁石(弾丸)は有効射程距離と比べれば圧倒的に短いバレル、口径40mmの滑空砲内のガイド先端まで押し出された末に、地上と比べれば3割程度の大気圧しかない対流圏上層へと次から次へと解放(・・)される。


 超電導磁石(弾丸)=飛翔体(弾丸)は、約350gと質量だけを見れば大した脅威ではない。


 しかし、飛翔体(弾丸)は、圧倒的に巨大な運動エネルギーを纏い、圧倒的に長い射程を誇り、標的に命中した時は非常識な貫通力を発揮する。それは何故か。


 それは、飛翔体(弾丸)の貫通力は、重量×弾速の二乗に比例するからだ(※3)。


 レイル・ガンによる(に限らず)砲撃であれば、飛翔体(弾丸)が重ければ重いほどに貫通力は上がる。そして、飛行速度が速ければ速いほどに貫通力は上がる。


 自動車事故であれば被害を抑える為に、車重は出来るだけ軽く設計し、走行速度は出来るだけ遅く運転するべきだ。


 しかし、レイル・ガンによる射撃であれば遠慮は無用だ。飛翔体(弾丸)出来るだけ重く、飛行速度は出来るだけ速くすべきだ。


飛翔体(弾丸)の重さ」と「飛行速度の速い遅い」は二乗出来る事が望ましい。だが、仮に重さと速度のいずれか片方を抑制しなければならないと言う制限を設けられた場合、残された片方を増やす事で補完する事も可能だ。


 軽い飛翔体(弾丸)×速い速度。


 重い飛翔体(弾丸)×遅い速度。


 前者であれば、スペースにより多くの弾丸を同じ搭載出来る様になる。


 後者であれば、砲身の小型化と耐久性(耐熱性)の向上を期待出来る。


 日本国はレイル・ガンを対極超音速兵器用の高射砲(二番槍)として、2040年代後半に実用化済みだ。当初は、迎撃用の長距離ミサイルが撃ち漏らした標的を狩る高射砲の代替として試験運用を始めている。


 ただし、日本国では標的の未来位置を予測するクラウド・シューティング・システムの開発に手間取っていた。だから、一つの標的に対して多数の砲門を同時使用すると言う、無理を押し通して問題を解決した。


 合衆国はレイル・ガンを、海軍の戦艦に搭載する対地/対艦攻撃用の主砲などの兵器の代替として開発していた。射程距離の長い大砲として、武器体系に取り入れる事を望んだ。


 だが、レイル・ガン用の弾頭に搭載する遅延信管(或いはそれに相当するシステム)の開発が困難であると判断し、無理を押し通さずに、大口径の試作品を完成させながら実用化をキッパリと諦めた。


 今回朝間ナヲミが使用しているレイル・ガンは、貫通力こそ高いが、破壊力の方はほどほどだ(合衆国が作った試作品と比べれば、正直なところ豆鉄砲と形容するのが適当だ)。だが、それでも相手が航空機やミサイルと言うペラ装甲+軽量化優先構造であれば十分な打撃を加えられる。


 実際、重要部分への被弾でなくとも、機体のどこかに一発でも当てられてしまえば作戦の継続は不可能→中断→阻止成功となる。案外、基地への帰還の途中にバランスを崩して墜落するかも知れない。


 もし、飛翔体(弾丸)に近接信管が使えれば、至近弾でも散弾をばらまける様になるのでもう少し運用価値が上がるだろう(遅延信管と同じ理由で実用化は困難だろうが)。


 ます最初に、二郎(セクンドゥス)から放たれた飛翔体(弾丸)が、AVIC・J-20「威龍」の左主翼を大穴を開けて貫通した。だが、主翼を根本からもぎり取るまでは至らなかった。主翼を一つ失った機体は、バランスを崩して、そのまま今まで運動エネルギーに引っ張られて南向きに落下した。途中から一次元、二次元、三次元とスピンの複雑化を達成し、空中分解を始めた。


 その次は、五郎(クィーントゥス)から放たれた飛翔体(弾丸)が、AVIC・J-20「威龍」の機首にあるレーダー・ドームをもぎり取った。パイロットは何が起こったか分からないまま、急激に増した空気抵抗に翻弄された。不意に機体を(つまづ)かせる。傷付いた機体はそのまま大地のある方向へと、パイロットが全く意図していないペースで力強い重力加速を開始した。


 そして、第二射になると、敵機の動きに対する未来予測の精度が飛躍的に増し始める。


 一郎(プリムス)から放たれた飛翔体(弾丸)が、AVIC・J-20「威龍」の中心部、コックピット裏の背中に当たる部分を貫く。貫通中に、飛翔体(弾丸)が回転して暴れたらしい。標的の機体は、大して大きな穴が開いた訳でもないのに、やがてバラバラに崩れた。


 飛翔体(弾丸)は、標的外壁を容易く突き破り、内部までを潜り込んで、通過している出来る限りの破壊し尽くす。


 飛翔体(弾丸)が標的に届く頃には、航空機用レイル・ガンの機構内部では、次弾装填と高温超電導コイルの冷却冷凍が終わっている。


 当然、次の標的を求めて次弾が発射される。


 これの繰り返しだ。


 砲身レールそのものは通電制御やコーティングの進化によって強度が十分。一回の戦闘でオシャカと言う訳ではなく、かなりの回数の連射は可能だ。


 しかし、主電源制御機を航空機に搭載可能なレベルまで小型化してしまうと、充電エネルギーのチャージ・ラグの問題で、地上備え付け砲や艦載砲の様な速射をする事は出来ない。速射を強行すると初速にバラツキが出てしまう。


 三菱・F-3Eから地表の距離で計れば約140Km先で、ミトコンドリア・モーター動力推進式セリンプロテアーゼの様に群れて、それでいて群を出し抜く努力をしながら、朝間ナヲミ(標的)を目指してひたすら(浅ましく)飛ぶAVIC・J-20「威龍」が、次から次へと落とされていく。


 ゆっくりと一つずつ、ただし正確に、一つ残らず破壊していく。


 朝間ナヲミは、その様子を満足そうに見守る。


 この勢いなら、すぐに敵勢力の無力化が完了する。


 終わったら、後は基地へと帰還するだけだ。


 朝間ナヲミは、仮想現実的に振り返ってタイ側の空域を眺める。


 一機の有人機も飛んでいない。4千,000〜8千,000mの高度では、観測用の無人機が何機が見える程度だった。


 ーーーおかしいな。私達の帰還を援護するエアカバー隊が離陸している筈なのに。


 過去に、ドゥクパ王国・空軍が流星迎撃任務直後に、領空侵犯して来た人民解放軍・空軍からの襲撃を受けた事がある(人民解放軍・空軍は、「自国領空に無断侵犯して来たドゥクパ王国・空軍機から一方的な攻撃を受けた、飽くまでも自衛攻撃を行ったまでだ」とスジの通らない言い訳に徹している)。その教訓により、迎撃隊の帰還中には、時間差を付けて(やや遅れて)離陸したエアカバー隊とすれ違う取り決めが作られた。


 だから、朝間ナヲミの小隊の任務終了後に、事前の打ち合わせでは、タイ空軍がラオス空域で北に向かって睨みを効かせてくれる事になっていた。


 段取りが狂った。


 朝間ナヲミは、タイ領空に気を取られ過ぎていたかも知れない。


 突然、最上位操縦権を固定している筈の自機の三菱・F-3Eが、パイロットに無断で急激な進行変更と高度下げを行った。


 予期せぬ急激な大機動のせいで、パイロットの擬体がコックピット内で振り回される。


 想定外の方向から火器管制レーダーを受けて、人工知性の一郎(プリムス)が緊急に回避行動を取ったのか? と閃いた。


 仮想現実的に、三菱・F-3E周辺の空域を把握し直す。


 ーーー?


 しかし、半径100km内に脅威となる敵勢力が見当たらない。


 最上位操縦権で自機の制御を取り戻して機体を敵軍を見下ろせる空域へ返そう試みる。


「ーーー!!」


 しかし、三菱・F-3Eの操縦系が反応しない。それどころか、朝間ナヲミの第二小脳へ直接に自動メッセージ表示を送り返してくる。


 ーーーFatal error.


 朝間ナヲミは予期せぬ状況に面食らう。


 一体、何が起こっている?


 朝間ナヲミが搭乗する三菱・F-3E、一機だけが戦闘空域を離脱。


 四機の僚機をラオス北部に残し、タイ領空を目指して高速で離れつつあった。

※0= 正確には、ビスマス系銅酸化物を用いる超電導コイルで構成されたレイル・ガンの機能を、一時的とは言え最大9Gの負荷が繰り返し掛かる環境で(最大9Gの負荷が掛かった後で安定姿勢へと回復出来れば)、動作保証出来るところまで熟成させた事で航空機搭載用レイル・ガンが完成した。()温超電導コイルそのものは、目新しい技術ではない。日本国では、ビスマス系銅酸化物の超電導コイルを使用した磁気浮上式鉄道の走行実験に、2005年の段階で既に成功している。ビスマス系銅酸化物の通称は「BSCCO」。化学式だと「Bi2Sr2Ca2Cu3O10」となるので、非常に面倒臭い。


ニオブの臨界温度(転移温度)は、数ある超伝導体の中では高い方。多分、元素の中では一番高い。しかも、多様な環境下で超伝導化してくれるので、使い勝手は良かった。超伝導体の元素はニオブの他に、鉛、錫、タンタル、チタン、アルミニウム、バナジウムなどがある。元素の他には、合金、金属加工物、有機物なども超伝導化する。全て合わせると2千,000種近く発見されているそうで。


ビスマス系銅酸化物は、1988年に日本で開発(・・)された。今のところ、もっとも広い分野で実用化出来そうな素材。


今回の航空機搭載用レイル・ガンの話は、近い将来に東京〜名古屋間を走る事になる「リニア・モーター・カー用の技術を航空機用に軍事転用可能なレベルに仕上げるまでに30年以上を費やしてしまった」と言う話となる。航空機に搭載して兵器として利用する場合、気温、気圧、重力(慣性力)がプラス方面とマイナス方面に著しく変化する環境下でも動作保証を行えなければならない。ベトナムで活躍した「最後のガン・ファイター」とやらは、旋回で+3Gが加わると肝心の「ガン」に不調を来して作動不良となる事が多かった。どちらかと言うと、「ガン」よりも「ミサイル」で稼いだ戦果の方が大きかったらしい。メーカーが謳うスペックと言うものは、基本的に信じてはならない。"信じる者は救われる"なる格言の効力は、残念ながら戦場は除くである(人類社会に戦場以外の環境があるとは思えないが)。


そして、動作保証を達成した後は、続けて効果的なメインテナンス作業の手法も確立しなければならない。そうでないと、現場が扱いを持て余す事になる。



※1= 真空化された輻射シールド内で超伝導コイルを冷却冷凍する点は、JR東海系の鉄道総合技術研究所や国土交通省が配布している概念図(ポンチ絵)的には新型も従来型も変わらない。だが、冷却冷凍部と超伝導コイルを直接的に繋げて冷やす様になった点のみ変わっている事は見て取れる。


従来型(低温)超電導磁石システムには輻射シールド外に連接されていた、液体窒素や液体ヘリウムのタンクと配管がゴッソリと消えている。それと、新型(高温)超電導磁石システムには超電導コイルに接触する形で冷却冷凍装置の冷却冷凍面の枝が書き加えられている。



※2= 初期の研究者達は、おそらくこの快挙を目にする事なく鬼籍へと入っただろう。素材選定と冷却冷凍の問題の完全解決には、それほどに長い時間を要した。ニオブスズとか、いろいろ難ありの物質といろいろな冷却冷凍技術の組み合わせを気が遠くなるほどの回数を繰り返し試したのかも知れない。



※3= これは自動車教習所で習って、後で各自治体の運転免許センターでマーク・シートに試される、「自動車事故の被害は車速の二乗に比例する」と同じ考え方である。だから、決して限定的な状況だけで通用する特別な法則であったり、無理して通用を試みている訳ではない。


破壊力=運動エネルギーの総量は質量と速さの2乗に比例する。同じ速度で移動する物体同士の比較であれば、より重い物体の方が破壊力=運動エネルギーの総量は大きくなる。調べた。一番最初にヒットした秀英予備校のWebにると・・・「質量と速さと運動エネルギー」は中3理科の物理分野で学んでいる筈だそうで。多分、これを理解する事は成績アップと第一志望校に合格するより、もっと人生に重要な気がする。


同じ速度で走行していると言う条件なら、一般的な軽自動車(1t以下で軽い)よりもトヨタのアルファード(2t以上で重い)の方が圧倒的に大きな自動車事故の被害をもたらす。運動エネルギー的に考えれば、弾丸も自動車も大きな違いはない。当てられる人間からしてみても、いずれであってもNo Thank youだ(45ACP弾やスーパー・カーに当てられて死にたいと類いの特殊性癖者はノーカンで)。安全運転を心掛けよう(トラック・ドライバーが安全運転に徹すると、異世界転生主人公の数は激減するかも知れない。救える異世界は激減するが、けれど、それはそれでしょーがない。異世界英雄なしで自力更生願います)。

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