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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜30


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」が、ラオス・タイ上空に用意出来た「盾」はたった五枚だけ。


 内訳は、


 パイロットと人工自律(・・)知性の「一郎(プリムス)」が協力して制御する有人機(Fighter)、三菱F-3Eが一機。


 人工自律(・・)知性の二郎(セクンドゥス)三郎(テルティウス)四郎(クァルトゥス)五郎(クィーントゥス)がそれぞれに完全自律制御している無人機(Q Fighter)、三菱QF-3Eが4機。


 となっている。


 あまにりに急激な展開(エスカレート)のあまり、友邦国の援助が間に合わなかった為だ。


 何の予告もなしで(一人で勝手に絶望して)、戦略級の弾道ミサイルまで持ち出すとは。


 ラオスとタイへと正式に派遣されている合衆国人の軍事顧問も、人民共和国内に多数の現地工作員を抱えている民主義国家群の情報機関も、"殿の御乱心"としか思えない過激な未来像は想定出来ていなかったのだ。


 ーーー自国が撃った(要撃を失敗した)流星迎撃ミサイルに搭載されていた核弾頭がメコン川沿いの丘の斜面で発見され、民間人の動画配信者によって世界に向けて曝された。


 しかも、不発弾として発見されるばかりでなく、隣国(ラオス)を放射線物質で汚染済みである事がバレでしまった。


 言い訳のしようがない。面子を失った。極めて認めがたい現実だ。合衆国(胖虎)日本国(小夫)による共謀(隠謀)の一端に違いない。巨大な現実が小さな心の容器から盛大に溢れた。だから、直ちに、"そう思い込まないと死んでしまう病"に罹患するしかなくなった。


 しかし、まさか、そんな事に大きなショックを受けて、暴走・暴発をしてしまうとは。


 不愉快の連続に慣れていない人民共和国は、世界の予想を超えるほどに盛大にショックを受けてしまった(不愉快を隣国に限らず世界へ撒き散らす事に関しては、ベテラン中のベテラン、稀代の大天才であったに関わらず)。その結果、チェーンリアクションが発生。大量の中性子が放出される程の規模でヒステリーを熱変換させてしまった。


 ただし、その行動を支える"メカニズム"。「人民共和国の真実(割れたガラスの心)」の惨状は、前線のラオスや後方のタイへ派遣されている合衆国人の軍事顧問も、各国の情報機関のエージェントも、未だに把握出来ていなかった。


 ただし、真実の内訳を隅々まで、懇切丁寧に陳列して(パワー・ポイントで)解説してもらったとしても、民主主義国家の価値観の持ち主達には、人民共和国のそれ(・・)に対する共感・同情は不可能だったろう。


 同じ人類同士であっても、価値観を共有出来ない者同士が理解し合う事は難しい。出来た(ため)しがない。挑戦する事自体が、馬鹿げた妄想なのかも知れない。


 むしろ、飼い犬と飼い猫の方が、人と人よりもずっと簡単に、早急に、深い所まで理解し合えそうな気がしないでもない。飼い主の自宅内で出会った直後は牙と爪で争い合っても、最終的に双方の事情を理解した上で共存する(妥協し合う)方がより(・・)文化的である様な気がしてならない。


 想定外(不理解)が続き過ぎて、準備期間はほぼゼロだった。これでは、何の遣り繰りも出来ない。


 主導権を奪われていると言う事は、こう言う事である。


 主導権を奪わない限り、こう言う事はこの先は無限に繰り返される。


 主導権なしでは、積極的に攻める事も出来ないのだ。


 もし、複数の弾道弾の落下ポイントが、せめて、深深度を持つ外海や水道付近、せめて沿岸地域であれば、合衆国からの援護射撃を受けられたかも知れない。例えば、海軍の艦船などの遠く離れた場所から、長距離射程ミサイルによる迎撃活動を行える可能性もあった。


 しかし、今回の戦場の中心地は完全に内陸部である。合衆国の最新兵装であっても、艦船搭載型の(とても小さな)迎撃ミサイルでは、射程距離や上昇限界が不足しているのは明白だった(それを承知しているからこそ、人民解放軍も安心して暴挙に出られたのだ)。


 もっとも近い海は、ヴェトナムのトンキン湾だ。まさか、人民共和国の凶暴な腕が無理なく届く距離にある海南島の裏庭に移動して、援護目的とは言えミサイルを打ち上げる訳にもいかない。いや、人民解放軍・海軍の監視を欺いて、安全にトンキン湾の奥まで入れる筈もないだろう。


 結局、「連合スペースガード(U.S.G.A.)」が、尻ぬぐいを買わされて(・・・・・)出る羽目となった。


 合わせて五機の投射機(バリスタ)が正しい宙域へ到着し、正しい姿勢を取り終えた。


 これから直ちに始まる戦いは、ロードス島(ゆかり)のディアドコイ戦争でも共和制ローマ(ゆかり)のポエニ戦争の様に世界を賭けた闘いではない。


 だが、多数の国家や国家群が掲げている民主主義と言うイデオロギーを守り切れるかどうかの瀬戸際の闘いではある。


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」を収める「人形遣い」も、指揮するクィーン・オブ・クローバーも、最前線での対応を押し付けられた朝間ナヲミも、そのあたりを十分に理解していた。


 こちら側にとって瀬戸際であれば、あちら側にとっても瀬戸際となり得る筈だ。だったら、この急場を上手に凌ぎ切れれば、主導権を奪えなくとも、人民共和国の激烈なプレッシャーならばかなり緩和出来る様になるだろう。


 これ以上の戦闘をエスカレートさせてしまえば、この先に残られた展開予想(カード)は人民共和国vs民主主義国家群と言う、第三次世界大戦くらいしかなくなっている。ここで人民共和国を(いな)なせなければ、残りはお互いに遠慮なく核の花火を打ち合う、全面核戦争への到達は必至と言う状況だった。


 しかし、意外にもそれは人民共和国が最も嫌うシナリオである筈だ("嫌い嫌いも好きの中"という考え方もある?)。


 実は、人民共和国が、第三次世界大戦突入シナリオを嫌う最大の理由は戦勝率の高低ではない。長大な国境線を共有する隣国のロシアが、120%の確率で火事場泥棒に走る事が分かり切っているからだ。


 最前線で孤立奮闘する事になる朝間ナヲミの両肩にのし掛かるプレッシャーは、地球規模の重さを誇っていた。それでも、彼女が若い頃に背負わされたプレッシャー、配偶者である(もり) 葉子(はこ)の保護と安全の確保に比べればそう重いとは感じなかった。


 実際、どちらかと言えば、人工肩筋の力を抜けるほどにリラックス出来ていた。失敗できない作戦を押し付けられた事は面倒臭いとは思っていたが、同時に「人()を尽くして天命を待てば良い」くらいに達観していた。


 大舞台に立った時に緊張しても、しなくても、大事態の大勢には大した影響を与えたりはしないと、不愉快な事実を嫌になる程見せ付けられる人生を送って来た。だから、経験に裏付けられた無力感に対して、好き好んで、徒手空拳で挑む気になれなかったのだ。


 若い頃と違って、熱くもならないし(簡単に怒らないし)急に覚めたり(早急に絶望したり)もしなかった。ただし、自分の役割は、何が何でも義務だけは責任を持って果たすつもりだった。そして、果たした後にもたらされるだろう結果については、すべて「運命次第(神の都合次第)」と割り切っていた。


 ーーーこれこそが、成熟した大人(若者を卒業した者)に相応しい振る舞いである。


 そして、どことなく他人所であるとも感じていた。それは、これが家族や身内を守る戦いでなかったからだ。


 流石に他人には伝えられなかったが、本音ではラオスやタイの運命よりも、目前に広がる宇宙の方への興味の方が強かった。彼女の長女は既に長い宇宙生活を経験していた。しかし、本人はせいぜいカーマン・ラインを僅かに及ばない高度の体験(・・)がある程度。


 発展途上国社会の子の親であれば、もう孫々を抱いてもおかしくない年齢となっていた朝間ナヲミは、自分自身が正義の守り手ではない事を十分に承知していた。そんなモノには、今だけでなく、過去にもなりたいと願った事もなかったし、今後もなりたいと思い付きさえ(・・)もしなかった。


 彼女が知っている自分自身は、ただの俗人に過ぎない。当然、家族の為であれば社会的理念をも躊躇なく捻じ曲げられる。誰かを犠牲にする事も厭わない。善人になるか悪人になるかは、すべては状況へ対処した結果次第に過ぎないのだ。


 そんな、どこにでもいる様な普通の母親でしかない自身を恥じてもいなかったし、今後も、死ぬまでずっと、普通の母親である事を止めるつもりはなかった。


 朝間ナヲミは、今、漆黒色とも激深の藍色とも取れる、これから五本の核弾頭収納再突入カプセルが通過するだろう空を眺めている。


 ーーーいつか、自分も行けるだろうか?


 それが、朝間ナヲミの宇宙に対する想いだった。もしかしたら、宇宙こそが、数少ない、今でも興味を示す事が出来る対象だったのかも知れない。


 管制官と義務的な言葉のやりとりを繰り返す。間もなく、作戦は最終フェーズへと入る。


 どうやら、大気圏に再突入してプラズマで燃え上がる再突入カプセルを、赤外線センサーで完全に捕捉出来た様だ。同じタイミングで再突入する(オトリ)との区別が完了したに違いない。


 朝間ナヲミは、腹に抱えている流星破壊ミサイルへ、最終要撃軌道が上書きされているのが分かった。


 それら(Those)は、人が人に向けて投げ付けた、混じりけなしの(純粋・純然たる)悪意。それら(They)は星の世界を通過して地上へと落とされる「人工モノの流星」となって、これから直ちにラオスやタイに住む人々の頭上を目掛けて、音速の10倍以上の速度で接近中(速度まで減速中)だ。


 彼女がここまで運んで来た、衛星破壊ミサイルを起源として開発された、流星破壊ミサイルは、悪意の塊(それら)一塊残らず(根刮ぎに)破砕しなければならない。


「Roger. We(・ ・) are Go(・ ・) for launch.」


『T-Minus Six Seconds. Five Seconds counting. Four, Three, Two, One, Go!』


「・・・」


 五機の三菱F-3Eのウェイポン・ベイが、管制官の「Go!」と同時に開放される。


 五本の大型の流星破壊ミサイルが、ウェイポン・ベイから懸架柱に吊られながら押し出される。


 五本の大型の流星破壊ミサイルが姿勢制御噴射によって、懸架柱から、五機の三菱F-3Eから押し出される。


 自由落下と大気圧でゆっくりと三菱F-3Eから離れる。規定通りの安全距離を確保した後に、管制官の最後の声が聞こえた。


『Boosters ignition and liftoff of "Spears of Justice"!!』


 五本の大型の流星破壊ミサイルの固体燃料ロケットが点火される。


 地球接近天体(N.E.O.)「バンブーI/小惑星番号 299943」〜地球接近天体(N.E.O.)「バンブーV/小惑星番号 299946」を目指す短い旅へと出発した。


 五本のロケットは、五つの標的との物理的接触を果たす。それだけが与えられた役割だ。燃料は片道しか持ち合わせないのだから。


 朝間ナヲミは、RCS(=Reaction Control System)のヘリウム・ガス噴射を使った、ミサイル放出後(のオツリ)の機体の安定制御を人工知性に依託し、自分自身は調光ヘッドアップモニターではなく、有線で直接に擬体へと送り込まれて来る視覚情報から固体燃料ロケットの炎を眺めていた。


 これで「Spears of Justice」とのコード・ネームを与えられた、五本の大型の流星破壊ミサイルの管理は、どこに潜んでいるのか分からない管制官の手からも離れた(それは機密である)。ここから先は、終末誘導へ入るギリギリまでは、地上か空中のどこかにある、おそらくはロッキード・マーティン製の地球防空システムの誘導下へと入った筈だ。


 五本の大型の流星破壊ミサイルは、世界中のレーダーを束ねて活用する、エンゲージ・オン・リモート・モードへ入り、接触ポイントまでの軌道はクラウド・シューティング・システムで最適解が算出され、自動的に実行される。


 最後の終末誘導、期間にして最後の3秒間、が始まると、流星破壊ミサイルが独自判断で追尾・指令誘導を担当するオーガニック・モードへと切り替わる。全周半球空間を捜索出来るレーダー網に頼るよりも、通信タイムラグを考慮して個別に搭載される自動計算機にほぼ全権が託される。


 ほぼ、である。完全に管理権が放棄していない。残された最後のキーは、自爆機能だ。もし、何かしらの理由で要撃を中止する必要が生じた場合、終末誘導中であっても最後の瞬間まで自爆させる事ぐらいならば可能だった。

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