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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜19

 ーーー生き残りを賭けて、


 三つに分割されたナム・ウゥー水力発電所・配備部隊。


 それらの中の一つが、ラオス・タイ連合国軍の榴弾砲の射程圏内へと到達した。


 ラオス・タイ連合国軍としては、念願叶っての状況が成立した。


 機会(チャンス)の到来を、人民解放軍の実効支配区域に放っておいたモン族の戦闘組織を通じて確認したラオス・タイ連合国軍は、夜間でありながら、直ちに救出作戦を選んで実行した。


 千載一遇の機会(チャンス)であるとして、前線へと復帰したばかり正規軍の全勢力を救出作戦へと惜しげも無く投入した。


 作戦は、暗闇の中で、ラオス・タイ連合国軍による不意を突く砲撃で始まった。


 ナム・ウゥー水力発電所・配備部隊の一隊が、想定以上にラオス・タイ連合国軍側へと移動している事にまったく気付いていなかった人民解放軍は、あわ食くった。


 自分達はハンターであり、狩っている立場であり、狩られる立場にはないと信じ切っていたからだ。だが、彼等の抗議も虚しく、砲撃に曝されていると言う現実は覆らなかった。


 肝の据わった軍曹さえいなければ、遁出(にげだ)すのに、投出したものであった。


 ラオス・タイ連合国軍の砲兵隊は、榴弾の弾着を徐々に手前側へと移動させた。


 こうやって、救出対象を完全にラオス・タイ連合国軍側の榴弾砲の射程圏内へ入れた後、救出対象のギリギリの後方へ榴弾を絶え間なく撃ち込み続ける事で更に厚い弾幕を作り上げた。


 驚いた人民解放軍の追尾部隊が少しだけ後方へと下がる。


 これは、ラオス・タイ連合国軍の願った通りだった。


 人民解放軍としては、これは飽くまでも一時的な後退のつもりだった。だが、良いタイミングで到着したタイ空軍のグリペンによる空対地攻撃までが砲撃に上乗せされた。


 これでは堪らないと、現場を直接に仕切っている軍曹は、人民解放軍・空軍による航空支援が届くまで身を隠すことにした。責任者である上校や党から派遣された政治移動員は、顎を外しかねないほどにアウアウしながら現場判断を追認するしかなかった。


 ーーー自分達のステイタスが、ハンターから獲物へとチェンジした事に驚き過ぎたせいだ。


 人民解放軍の後退によって、救出対象は追尾部隊の脅威を完全に振り切る事に成功した。それは、一時的ながらも安全地帯へと踏み入れたと言う事でもある。


 もちろん、この安全は期間限定。それもとても短い間しか成立しない。何故なら、グリペンの登場を知った人民解放軍・空軍が緊急発進(スクランブル)で現場へと到着しない筈がないからだ。


 しかし、救出作戦司令部は、この幸運故に手に出来た、この短い包囲網の切れ目を自分達に利する為に最大限に活用する事にした。


 救出対象をいくつかの(みね)に囲まれた、猫の額ほどの面積しかなさそうな小さな盆地へと誘導した。そして、スティンガーで対空武装したモン族の戦地達を(みね)に送って盆地を取り囲んだ。


 そこへヘリコプターで回収部隊を強行させ、ホバリング状態を維持したまま一気に拾い上げた。


 救出対象(パッケージ)を積み込んだヘリコプターがヴィエンチャン方面へと移動を開始した頃、早々に人民解放軍・空軍の二機のJ-20が現場へと近付いて来た。


 だが、急ぎ過ぎた。


 国境の向こう川から遠慮無くアフターバーナー全開で飛んで来た為、エンジンも機体も凄まじい赤外線を放っていた。御陰で、ステルス機であっても、Ir(赤外線)センサーで丸見えだった。


 ヘリコプターを追尾しようとする戦闘機の進路上に、朝間ナヲミ指揮下の自律無人機が覆い被さる。わざわざレーダー・リフレクターを展開する事で、スクランブル発進して来て、燃料の残量も気になるJ-20のパイロットにプレッシャーを掛けた。


 自律無人機の自律人工知性としては、J-20の撃墜は順位の高いタスクには並べられていなかった。むしろ、嫌がらせに徹して、救助ヘリコプターへの攻撃さえ反らせれば構わないと、精神的な母親(朝間ナヲミ)からの支持を受けていた。


 だが、自律人工知性的には意外な状況となった。J-20は、自らの生存性を優先して一次撤退する事なく、救助ヘリコプターへの攻撃へ凄まじい拘りを窺い知らせた。


 J-20のパイロットは、機体の頭を上空から完全に抑えられながらも、救助対象を積んで離陸したヘリコプターを火器管制システムで捉えようと尾根を擦らない程度に激しく機体を降下させた。


 J-20は無理矢理に機体前方にヘリコプターを持って来て、遠慮なく高出力レーダーを浴びせた。パイロット達は、ロックオン直後に打ちっ放しモードでミサイルを放つつもりだった。


 だが、共産主義の正しさを心の中で三度続けて唱えてから、大正義の化身たるミサイルの発射スイッチを押した。だが、ウェポン・ベイ内のパイロンからミサイルを開放する直前に、二機のJ-20は立て続けに攻撃を受けて飛行姿勢を崩した。


 これは、モン族の戦闘員が放った赤外線シーカーによるスティンガーが、複数弾が連続で命中したせいだった。更に、後方からの近接爆発がそれを(あお)った。


 自律人工知性は、この結果に驚いた(・・・)精神的な母親(朝間ナヲミ)が予期せぬ未来。未来と言う現象は、計算では導き出せない結果にも成り得る、得体の知れぬ現象であると学習した。


 ーーー全知全能であると評価していた精神的な母親(朝間ナヲミ)が、そうではない可能性。


 自律人工知性は、計算では導き出せない「可能性」の実在を観測した。自律人工知性の計算では、モン族のスティンガーは決定打にはならない筈だった。元来の計画では、敵機の撃墜までは困難であった。母親からは、敢えて無理をする必要は無なく、脅して「敵機を撤退させれば、それだけで作戦は100%成功」と伝えられていたのだ。


 J-20のパイロット達は、機体と運命をする事はなく、直ちに脱出しようとした。一人目のパイロットは上手に機外へと射出された、しかし、二人目のパイロットは不幸にも射出シートが反応しなかった。結果として、二機は撃墜され、パイロットの一人が機体の爆発に巻き込まれて安否不明となった。


 自律人工知性は、世界には"見える部分()"と"見えない部分()"の二つに分かれていると判断した。そして、今まで精神的な母親(朝間ナヲミ)が見せていてくれたモノは、"見える部分()"だけに過ぎないと推測した。


 自律人工知性の驚きを他所に、ラオス・タイ連合国軍によるナム・ウゥー水力発電所・配備部隊救出作戦は、一部とは言え、始めの一歩は成功で終わった。


 当然、世界の多くの人々は歓喜した。あまり多くない人々は地団駄を踏んだ。


 地団駄を踏んだ人々、人民解放軍とそのシンパは、ラオス・タイ連合国軍に決定的に出し抜かれた。


 結果を知って、怒り狂った。


 怒って、狂うだけではなく、癇癪まで爆発させた。


 人民解放軍・司令部、或いは偉大なる党による指導部は、残る二つのナム・ウゥー水力発電所・配備部隊が潜伏していると思われる地帯目掛けて、太っ腹にも多数の短距離弾道弾攻撃を撃ち放った。


 ーーー即断即決で。


 このコスト計算を(あざ)笑い、経済性を完全に無視する事で表現可能となった憤怒は、点ではなく面を征圧して見せた。22人に上った救出対象の中の12人の魂と肉体を、ラオスの地盤と共にシェイクした。瓦礫と共に掻き回し、一体の何かへと昇華させた。つまり、12人は地上から永遠に姿を消し去られ(・・)た。


 取り残されていたナム・ウゥー水力発電所・配備部隊は、文字通りに全滅させられた。死体、いや、指一本も残らないほどの大打撃が加えられた。それどころか、ラオス北部の山岳地形に一部が盛大に変わってしまったほどのオツリまで投げつけられた。


 短距離弾道弾攻撃はかなりお高い兵器である。例えば、アラブの反政府系または原理主義系の武装組織であれば垂涎の、高値の花としか言えない、富裕軍隊しか持てない打撃兵器である。それを、戦術的には無価値としか言えない、本当に無力な孤立部隊に対して惜しげも無く大量に使用して見せた。


 だが、それは戦略的、或いは政治的には正しい攻撃であった様だ。もちろん、その高コストな攻撃を選択した組織の価値観によればであるが。


 独裁政権や独裁国家とは、他の形態の社会からは全く予想も出来ない(エキセントリックな)行動を取りがちなものである。おそらく、今回の虐殺、或いはオーバー・キルとしか我々には受け取れない攻撃もまた、彼等の価値観に照らし合わせれば至極当然な決断だったのだろう。


 これによって、ラオス・タイ連合国軍と人民解放軍のスコア比だけは、一対二となった。つまり、人民解放軍としては二勝一敗。これによって「対面は傷付いていない」とでも言いたいのかも知れない。 


 そして、朝間ナヲミ指揮下の自律無人機が救出作戦に参加してた事実は直ぐに偉大なる党の知るところなった。


 彼等は、それの一点を大層悔しがった。同時に、たった今消滅させたばかりの哀れな、不運な方のナム・ウゥー水力発電所・配備部隊と同様に、朝間ナヲミを確実に地上から消滅させなければならないと確信した。


 ーーーどれほどのコストを掛けようとも。


 朝間ナヲミ指揮下の自律無人機が救出作戦で果たした役割は、さほど大きくは無い。もっとも評価されるべきは、救出対象そのものに大被害を与えかねない、救出対象至近への着弾を許容して榴弾砲で弾幕を作る決定を下した司令部の度胸の方である。或いは、救出対象への一発の誤射もせずに一定時間の弾幕を作り上げた砲兵隊の方である。


 しかし、偉大なる党と、その背後から世間を斜視する「天上天下唯一の意思決定機関」は、全ての敗因を朝間ナヲミが暗躍したせいであるとの評価を下した。


 たかが、雑兵の集まりに精鋭部隊揃いの人民解放軍が出し抜かれるなどと言う事は絶対にあってはならない事だからだ。


 この事で、朝間ナヲミは本人が全く知らぬ所で、「新たな因縁」を付けられる事となる。ただし、共産主義者達から付けられた因縁の数は星の数にも及ぶので、朝間ナヲミ本人としては、一万(10,000)一万一(10,001)へと、たった「(1つ)」だけ増えた程度にしか考えてはいなかった。


 決して、一万一(10,001)つ目の、新たに積み重なった因縁によって、共産主義者達がとうとう堪忍袋の緒が切らしてしまう可能性などは全く考慮に入れていなかった。


 朝間ナヲミの間違いは、「窮鼠猫を噛む」と言う状況や可能性を多角的に検討しなかった事だ。


 自らの立場が「鼠」ではなく「猫」である。そう言う、"もしや(If)"を思い付けなかった事である。

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