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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜12

 朝間ナヲミが三菱F-3Eの全機の定期整備を終えて、バンコク都北部にあるドンムアン空軍基地からウドーン・ターニー空軍基地へ戻るのとほぼ同時に、ラオス戦線の戦況が激変した。


 まるで、朝間ナヲミが本格的な戦闘の準備を整えるのを待ち兼ねていたかの様に、人民共和国・人民解放軍による大攻勢が始まった。


 ラオス側の国境の町「ボーデン」からラオス全土へと侵入する経路、ラオス国道13号線上に人民解放軍・陸軍の大型装輪車(装輪戦車)が溢れた。


 計測困難な程の戦力が、何と数珠繋ぎとなって(大渋滞の様相で)、人民共和国領からラオス領の地方都市「ウドムサイ」へと向かう。装輪戦車以外に、トラックに牽引された榴弾砲や工兵隊を運ぶ天蓋付き車両も混じっている。


 ヴィエンチャンを目指す大攻勢が迫っている事を察知し、ラオス・タイ連合軍全体に緊張が走る。だが、最前線を守備する兵士達には、日本風に語れば、ふんどしを引き締める余裕はなかった。


 ーーー大攻勢は、間髪入れずに開始されたからだ。


 ラオス・タイ連合軍が人民解放軍から取り返したトー山脈(プゥー・トー)要塞の周辺を多数の衝撃が襲う。後に判明した所では、10発の極超音速空対地ミサイルによる着弾だった。ただし、終末誘導作業に難があるためか、トー山脈(プゥー・トー)要塞への直撃は無かった。その代わりに周辺の尾根を吹っ飛ばしたり、5km以上も離れる明後日の方向で大規模な土砂崩れや森林の崩壊を起こしていた。


 続いて中距離弾道(IRBM)ミサイルの攻撃が始まる。こちらは20発程度が立て続けに着弾する。こちらもトー山脈(プゥー・トー)要塞への直撃はなかった。


 続けて、ネモト陸将補がライトガス・ガン部隊を展開させていたノーンキアウ峰の周辺にも中距離弾道(IRBM)ミサイルが着弾する。ただし、ライトガス・ガン部隊はすでに撤収済みだったので被害はゼロだ。


 おそらく、ノーンキアウ峰からトー山脈(プゥー・トー)要塞への支援射撃が再び行われる事を警戒しての事だろう。転ばぬ先の杖的に。


 ここまでの攻撃はハデさはあったが、戦果は実質的にゼロだった。ただ、騒がしいだけだった。


 だが、次に始まった、長距離攻撃の隙を縫って周辺に配置された多数の96式122mm榴弾砲から撃ち込まれる大量の榴弾は、徐々にトー山脈(プゥー・トー)要塞を捉え始める。


 この榴弾砲は、元々は旧ソ連が開発したD-30・122mm榴弾砲をデッド・コピーした砲だ。とは言え、人民共和国で鬼の様に大量生産した為、今では本家が製造した以上の生産数を誇って久しい。


 どうやら、榴弾砲部隊こそが攻撃の本命であった様だ。96式122mm榴弾砲を指揮官が望んだ位置へと移動させる為だけに、小国の軍事費の年間予算を軽く超える程の大金を注ぎ込んで、ロシア製のKh-47M2「キンジャール」のデッド・コピーと覚しき中距離弾道(IRBM)ミサイルを撃ち込んだらしい。


 おかげで、虚を突かれたトー山脈(プゥー・トー)要塞の守備隊は、上から下を狙っている、つまり圧倒的に有利であるに拘わらず効果的な反撃を行えなかった。


 突然に訪れたピンチを前にして右往左往している間に、AVIC・J-20「威龍」の低空侵攻型が4機編隊でラオス領内へ侵入する。至近距離から空対艦ミサイルであるYJ-12を8発ほどトー山脈(プゥー・トー)要塞へ見舞う。その内の3発がマウンテン・スキミングに成功して、トー山脈(プゥー・トー)要塞の尾根に、着弾直前に目標上空へ一度上がるホップ・アップ軌道を描かずに超音速の終末速度を維持したまま直撃する。


 ラオス・タイ連合軍の野戦司令部は、総司令部の指示を待たずに直ちにトー山脈(プゥー・トー)要塞の放棄を決定する。行き居残った守備兵は可能な限りに負傷兵を引き摺って、全ての兵器を放棄して撤退を開始する。トー山脈プゥー・トー要塞攻略の為に築いたバン・チアウ・ヒア陣地も放棄して、更に後方へと下がった。


 その後、人民解放軍・陸軍の大型装輪車(装輪戦車)がウドムサイを越えて、ラオス・タイ連合軍撤退後のバン・チアウ・ヒア陣地を確保・占領した。


 その日、ラオス・タイ連合軍はそれまで必死に積み重ねた戦果のほとんど、或いはそれ以上を失った。


 人民解放軍とラオス・タイ連合軍が擁する戦力と軍事費の格差は、その開きは大人と子供以上だった。


 本気を出した人民解放軍の実力を、ラオス・タイ連合軍はこれ以上無いほどに知らしめられた。


 ーーー少なければ(すなわ)ちよくこれを()がる。


 多数の敵であれば、戦わずにさっさと逃げろ。


 戦うなら、出来るだけ多く味方を集め終えてから戦え。


 味方の数が敵の数を上回れば上回る程に勝利の確率が上がる。逆もまた然り。人民共和国の古い思想家である孫子の兵法書に書かれている「寡戦」への誘惑に負けるなと言う戒めである。


 同じく大陸の思想家である孟子も、この思想に賛意を示す言葉を残している。なお、欧州の思想家であるクラウゼヴィッツはその限り(数よりも大和魂的に)ではない(強烈な戦意が重要だ)みたいな記述を著書(※)に残している。


 常識的な話として語れば、圧倒的な量は圧倒的な質を凌駕する。例え、一騎当千の敵であっても、万の味方で戦えば滅する事は容易い。


 人民共和国は、自らの手駒である人民解放軍に圧倒的な戦力を与えた。それによって、ラオス・タイ連合軍に寡戦を強いた。


 民主主義国家群は、人民共和国の実力を認め、大国の一つであると再認識した。


 それまでは、有り触れた破落戸国家の親玉(一つ)に過ぎず、ただ図体だけが大きいので注視する必要があると言う評価を過去のものとし、改めた。


 高く評価したのだ。しかし、その直後、人民共和国は、世界に向けて、「反ファシズム戦争勝利への最初の歩みを始めた」と公式発表を行った。


 ーーー何を言っているのかさっぱり分からない。


 民主主義国家群は、人民共和国の価値観の前に圧倒された。続けて、その発表の内容を吟味し、ゆっくりと恐怖を心に染み渡らせた。


 そんな支離滅裂な主張を一切臆せずに発表出来る巨大国家が存在する。


 その巨大国家が小国に対して兵器を弄ぶ様な戦争を、問答無用で一方的に開始していたのだ。


 そして、その巨大国家を支配する極一部の権力者達を結びつけているのは、民主主義国家群の繁栄や団結に対する怒り、鬱憤、嫉妬である。それらの負の要素が核融合を果たし、我々にも彼等自身にも訳の分からない原動力へと昇華させ、合理性に束縛されない行動へと突き動かしている。


 支と離と滅と裂と言う四つの元素による核融合プロセスを通じて誕生した新事象(非合理)は、リアルポリティックの世界では忘れ去られて久しい「恨み」の辛みであるのかも知れない。世界(客観)が下された自国や自身へに評価を(くつがえ)す為に、呂辱をすすぐために、不当へ抗議する為に、事実ではなく巨大な「情」のうねりを証拠として並べるしかない。現状認識の受け入れ拒否を掲げている(力一杯表明している)のかも知れない。


 それでいて、民主主義国家群がもたらす文化・技術的恩恵を無視不可能と言う矛盾を抱えている事実を時々思い出して()着する。そんな冷静さも時折ながら垣間見せる。本の一瞬だけ正気を取り戻しながら、その正気は巨大な「(恨み)」のうねり(辛み)に呑み込まれて、直ちに埋没してしまう。


 この(恨み)」は到底理解出来なくとも、それがもたらす被害の大きさは怨まれる方もしっかりと考慮すべきだ。しかし、怨まれている民主主義国家群にとって、はるか昔に切り捨てて久しい本能的な衝動を今更受け入れる事は困難だった。どちらかと言えば、不愉快なものとして、見て見ぬふりをしたかった。


 何故か。


 それは、まるで自分の忘れたい過去。中二病真っ盛りだった頃の自身の姿を、封印して久しい黒歴史(前近代史)をこれ見よがしに見せ付けられている様な気がしてならなかったからだ。


 だいたい。"戦狼外交"なんて、口に出す方はカッコイイと思うかも知れないけれど、聞かされた方は苦笑せざる得ない。


 平たく言えば、将来的に就寝前に過去を振り返って、何かを思い出して、いたたまれなくなり、枕を殴ったり、ベットの上を()絶しながらゴロゴロと左右に転がりたくなるアレを回避したいと言う想い(羞恥心)に似ている。


 この差は、自尊心に対する攻撃を常に受けている(と感じる)者と、そう言った葛藤めいた苦しみから自由である(と感じる)者の違い()にこそ集約される。


 また、民主主義国家群の盟主である合衆国と並ぶ「責任ある大国」であると、国際社会で気丈に振る舞っていても、人民共和国(正確には偉大なる党)は「責任」を果たす前に、「責任」とは一体何であるのかを把握するに到っていなかった様でもある。


 おそらく、地政学的な「仮想敵(脅威)」を共有していない国家同士間で共有可能な「連帯感(利念的同盟)」を醸し出す(固持し続ける)事の難しさならば分かっていただろう。


 だからこそ、人民共和国は、東南アジアや南アジアにおける合衆国や民主主義国家群の友邦達を金銭的誘惑を駆使して、傘下(覇権)へと加える事が出来たのだ。具体的には、東南アジアや南アジアの国々が隣国事ごとに抱えている国際問題を梃子として、互いに離反させて、その上で人民共和国は個別に連帯感を持たせる事に成功していだから。


 もっとも上手く言った例が、カンボジアとパキスタンとスリランカだった。それぞれの国家は、個別に、港湾施設を人民解放軍・海軍向けに長期租借する事を認めていた。また、空軍向けの専用の管理空域や陸軍向けの中継地点や演習場の提供に関する交渉も進んでいた。


 しかし、それだけでは不十分だった。それでは飽くまでも親分と子分の関係に過ぎず、単なる子分のままでは自発的な貢献を全く期待出来なかったからだ。だが、人民共和国は合衆国と違って、それが国際関係上の致命的な問題である事が分かっていなかった。


 何故分かっていなかったのか。それは、人民共和国(正確には偉大なる党)と合衆国(拡大解釈では民主主義国家群)の間で、「責任」の本質が何であるのかを共有出来ていなかった。残念な事に、それは最低限の信頼関係を構築する上で、致命的な障害となってしまった。


 或いは、戦術的な「連帯感」の必要性までなら醸し出せた(固持し続けられた)としても、戦略的な「連帯感」の意義の方までは手を伸ばす事が出来なかったようだ。


 このままでは、何百年経っても、人民共和国は永遠に独り相撲を取り続けなければならなくなってしまう。


 もちろん、何百年経っても、人民共和国が今日と同じ形で存続しているとが限らないのだが。

※= 戦争論は著者が原稿を書き上げる前に異世界へ転生されたので未完。多分、探せば、この著者がどこかの異世界に転生して、何かしらの状況で無双するなんて話を既に誰かが何処かで書いている。そんな気がする。ハンニバルとかカエサルに現代戦の指揮を執らせてみたい。どんな采配をする事やら・・・。

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