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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
72/143

墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜9

 ラオス時間(ICT)で午前9:00。


 ネモト三等空佐、いや、ネモト陸将補が率いる一群(猛者達)は、受領したばかりのライトガス・ガンの装備を完了していた。


 彼等の陣地を隠す様に聳える、最大標高1千,600m、平均で1千,200mくらいの広大な遮蔽物(南北に伸びる尾根)に都合良く刻み込まれている"隙間"からライトガス・ガンの砲身の先に敵陣地を収めていた。


 さすが、直線距離約80km離れていて、更にその間にそれなりに高い尾根が一本横たわっていれば、狙われている者達であっても、自分達に狙いを定めているハンターの群が存在しているとは悟れない。しかも、砲撃用のレーダー波など一切飛ばしていないので、効果的なパッシブ式の電磁波センサーを持ち合わせてたとしても役に立たない。


 そして、その尾根の頂上部の大気圧、大気温、風向き、風速などのリアルタイム天候情報まで届いている。間もなく通過するだろう砲弾が、どの辺りをどの位の速度で通過するかと言う観測情報も直ちに届く手筈となっていた。


 これで、長距離狙撃に有利な条件は完全に揃った。


 つまり、指令官であるネモト陸将補の命令があれば、いつでもライトガス・ガン全17門による斉射=敵の一掃、しかも完全な不意を突いた攻撃が出来る状態が創出されていたと言う事だ。


 ネモト陸将補が率いる一群が装備するライトガス・ガンは、航空自衛軍の「三九試90mm軽ガス火砲」を原型として開発された陸戦兵器だ。主に、超長距離から、派手な弾頭軌道ではなく、出来るだけ直線軌道を描いて弾頭(砲弾)を射出する、超長距離砲だ(※0)。


 弾頭(砲弾)その物は対した大きさでない。質量が小さい為に静止状態であれば大したエネルギーを持ち合わせていない。しかし、撃ち出された弾頭の移動速度が極めて高い為に、標的に到着した段階で解放する運動エネルギーを付け加えた破壊力は真に必殺である。


 水平砲撃で(気分的に)80km先の攻撃であれば、第二次世界大戦の欧州で活躍した大口径高射砲(アハト・アハト)の弾頭を、至近距離から喰らった程度のジュール数は確保されている。開発時には頭痛の種となっていた飛行中の弾頭を磨り減らす摩擦熱問題は既に解決されていた。


 弾頭前面への対熱コーティングと破壊力を両立する為の技術が確立されてからは、大気の厚い層を通過する水平砲撃でも摩擦熱で溶け大気中に蒸発または四散すると言う事故もほとんど発生しなくなった。


 ライトガス・ガンとは、「軽ガス・ガン」、「燃焼軽ガス銃」、「CLGG」とも呼ばれる、レール・ガンと同じジャンルで扱われがちだ。だが、その仕組みは大電力を必要とするレール・ガンとはまったく異なる近未来的兵器だ。


 スプリング・ピストン式の、どこの国でも安価に販売されている遊戯用途や競技用とのエア・ソフトガンと酷似する構造を引き継いでいる。ただ、ポンプ・チューブ内で圧力を高める為の移動するピストンを動かすのがスプリングではなくガンパウダー(火薬)が発生させる燃焼ガス(爆発)であると言う点が異なる。そして、ピストンが圧縮する"作動流体"が一般的な大気ではなく、使用する度に新たに注入(充塡)されるライトガス(軽ガス)である点も異なっている。


 撃ち出す弾頭の加速は二段階式。加速一段目はガンパウダー(火薬)。加速二段目には"作動流体"として火薬ガスに比べて軽い(・・)ガス、水素(H)やヘリウム(He)などを注入(充塡)する。ヘリウム・ガスなら大気の3倍、水素ガスなら3.8倍の音速=伝播速度を持っている。


 ガンパウダー(火薬)が発生させる押し出し力を、高い伝播速度を持つ"作動流体"が更に増加させる。そして、その全ての掛け合わされたパワーを撃ち出す弾頭(砲弾)に乗せる。


 水素(H)を"作動流体"として利用すれば、砲弾に与えられる最終速度は、理論上では最大値で秒速11km。これは、物体を地上から衛星軌道上まで加速させられる運動エネルギーだ。


 ネモト陸将補は、それほどの運動エネルギーをこれから約80km先に布陣する人民解放軍の陣地に叩き付けようとしている。正直、こんなモノを喰らったら至近距離でなかったとしても、後から送れてやって来るソニック・ブームに吹き飛ばされてしまう。


 もし、そんな攻撃を直接に体験をしてしまったとしたら、きっと、一秒でも早く死んでしまった方が前向きな気分になってしまうだろう。少なくとも、QOL、クオリティー・オブ・ライフはその方が高くなるに違いない(ほとんどの場合、それ程に貴重な体験をしたと自覚する前に、体験者の身体は意識を創出するに足りる機能を喪失してるだろうが・・・)。


 その日のラオス・タイ連合軍によるトー山脈(プゥー・トー)要塞攻略作戦で採用された作戦は、装輪装甲と装輪装甲兵員輸送車で構成される行列だった。


 一つ東に位置する山脈の切れ目、バン・チアウ・ヒア付近に隠れる様に作られた陣地に残る味方が放つ榴弾砲による応援を受けながら、いつもの様に華々しく確保中の陣地を飛び出ていった。


 ラオス・タイ連合軍にしてみれば必死だった。だが、それを受ける立場にある人民解放軍の要塞守備隊としては、作戦の選択は、せいぜい流行らない飯店の"日替わりメニュー"くらいに変わり映えしない退屈な戦闘だった。


 攻撃を受け始めたトー山脈(プゥー・トー)要塞は、眠気を我慢する気怠さを醸し出す反撃で応える。


 尾根に掘った凹みへコンクリートでしっかりと備え付けられた86式、または96式122mm榴弾砲が火を吹き始める。


 長射程榴弾やERFB弾(Extended Range Full Bore)が、標高差にして400m程下方を移動する目標へ向けて撃ち出される。


 ERFB弾が流線系の砲弾が特有の音を立てながら空中を進む。装輪装甲と装輪装甲兵員輸送車を襲う。だが、今のところはラオス・タイ連合軍の戦闘車両の手前、或いは後方で破壊有効半径で作る爆発円を描くに留まっている。


 ERFB弾であるからして、 旋動安定性が許すギリギリまで砲弾の長さを稼いて炸薬量を維持している。ERSC弾の様に射程を伸ばして炸薬量を減らしている訳ではない。つまり、トー山脈(プゥー・トー)要塞守備隊も砲弾を威力的にはガチで殺せるレベルを選んで使用している。


 一昨日も昨日も、今日まで何度も繰り返されたトー山脈(プゥー・トー)要塞攻略戦が、守り手にとってはやや退屈な日常が、その日も再会された。


 トー山脈(プゥー・トー)要塞の守備兵としては、既に珍しくもない、繰り返し尽くした防衛戦である。だから、ラオス・タイ連合軍の様な切実さを自ら感じたり、見る物に対して必死さを醸し出したりはしない。


  ーーーそれもそうだ。


 人民解放軍は撃たれたら、撃って来たラオス・タイ連合軍に向かって適当に打ち返す。それを何度か繰り返せば、攻略側は観念して必ず引き返す。既にそう言う普遍の筋書きが存在すると、少なくともトー山脈(プゥー・トー)要塞の守備兵達は信じ始めていた。


 正直、欠伸が出る。ラオスを侵攻中でありながら、人民解放軍はそのくらいの緊張感で戦争をやり始めていた。


  ーーートー山脈(プゥー・トー)要塞守備隊の間では、日常バイアスが芽生え、それを下っ端の兵隊タイの間で共有をし終えていた、


 人民解放軍の兵士達は、自分達が欠伸を殺しながら撃つ砲弾が、ラオス・タイ連合軍の攻略部隊の兵士を殺したり、手脚をもいでその後の人生を傷痍軍人として生きる事を余儀なくさせたり、五体無事で除隊出来たとしてもPTSDを喰らって社会復帰出来ない兵士を生じさせてしまう可能性については、一切考慮していなかった。"清々しい"としか形容し様がない程に。


 これは国家が国民に施す教育の方針と質と量のせいとも言える。それが、いや、それ以上に自分の身内以外の人間に対する興味の欠如がもたらしていた圧倒的な無関心と表現した方が正しいかも知れない。


「他人の立場になって考えてみよう」と言う、善良な人間達の間で共有されている"思い遣り"を発揮する上で。もっとも大切な価値観の一つを微塵も持ち合わせていない原因であったと言う意味で。


 ーーー敵兵を殺すための兵器を作動させるトリガーに対する抵抗力が、ラオス・タイ連合軍の兵士と比較してとても(ちい)さい。


 だからこそ、彼等は決して怯むことなく、ただただ果敢に戦えた。戦闘の結果が一方的な虐殺行為であっても、我々が無視出来ずに悩み、苦しみ、怖れ、苛つく「深刻な懸念」と対面するプレッシャーから極めて自由にいられた。


 そう言う意味で、人民解放軍の兵士達は過去には精神的には最強だったし、今現在の最強であり続けている。ただし、今後も以前と同様に最強であり続ける事が叶うかどうかは分からない。何故なら、彼等が(社会が)得意とする(経験して来た)戦闘は、自分達だけが自由気ままに撃てて、敵側はほとんど打ち返せないと言う、極めて限定的な(不平等な)ものである必然性があったからだ。


 人民解放軍が放ったEFP弾が、攻撃隊の先頭を走っていた装輪装甲車「EE-9」に、その日では初めて直撃した。


 装甲面に「コンニチハ」した成形炸薬弾が、設計者の意図した通りにモンロー/ノイマン効果を律儀に発生させる。


 隙間装甲(スペースドアーマー)など、成形炸薬弾の前では無力だ。弾頭は直ちに液体金属化し、メタルジェットとなって、装輪装甲車「EE-9」のやや時代遅れな装甲材を一瞬で貫通する。


 その直後に凄まじい爆圧(圧力が)装輪装甲車の装甲の内側へ潜り込んで、設計者が自らに課した役割を十二分に果たす。その結果、装輪装甲車に装備されていた、先ほどまで尾根に向けられていたコッカリル Mk.3 90mm低圧砲の短い砲身が、即座に大地に向かって項垂(うなだ)れてしまった。


 大方の人民解放軍の兵士達は、これでラオス・タイ連合軍がいつものように引き返すだろうと感じた。そして、すぐにクソ不味く、どう言う訳か妙に金属っぽい刺激臭まみれの昼飯(缶詰食)にありつけるだろうと期待した。


  何事も、いつもと同じく。昨日と同じ今日。そして今日と同じ明日が来ると信じ切っていた。


 今日も、日常バイアスを裏切らない午後がやって来るのが当然を考えていた。


 だが、その日の要塞攻略作戦には、人民解放軍の兵士達にとっては思い付きも出来ない"続き(サプライズ)"が隠されていた。


 たった今、侵略を受けているラオスの人々も、たった今、侵略を実行中の兵士達と同じ様に、何事も、いつもと同じく、昨日と同じ今日、そして今日と同じ明日が来ると信じ切っていた。


 だが、ラオスの人々の信じ切っていた毎日の繰り返しは、人民解放軍の兵士達がやって来て、土地を取り上げて、住民を徴用し、年頃の娘達を下品な視線の十字砲火で襲う事で終了させられてしまった。


 被侵略者であるラオスの人々と同じ様に、侵略者である人民解放軍の兵士達もまた、ラオスの人々が強制的学ばされた真新しい価値観を学ぶ為に不可欠な体験をする。


 被侵略者達は、日常の終了を望んで学んだ訳ではない。侵略者達も同様に、彼等なりの日常の終了を望んで学んだりはしないだろう。


 しかし、"人類皆平等"であると言うなら、望もうとも望まなくとも、富む者と貧しき者が平等であると言うなら、分け隔て無く、共に学びの機会が提供させれて然るべきだろう。


 被侵略者達は学びのイニシエーションを既に終えている。だったら、次は侵略者達の番である。


 ーーーずん・・・・・・・。


 トー山脈(プゥー・トー)要塞、トー山脈(プゥー・トー)の尾根部が広域に渡って鈍い高周波振動で包まれた。


 六基の96式122mm榴弾砲の指揮者であった王中尉であった、建設されてからまだ一度も、至近弾すらもを喰らった事のない、傷一つ無い瀟洒なトーチカから外に首を出て、状況の確認をする事にした。


「なんだ?」


 首を出しただけでは何も分からない。仕方なく、軍幹部である彼の高貴な御身体をトーチカの上へと御登りさせる事にした。


 王中尉はまずは視界の左側を確認する。尾根全体に渡って点々と構築されていた砲台の大半が、酷く変形している様に見える。


 まるで圧倒的なパワーを持つ破城筒を喰らった城門の鉄製扉であるか様に、引き千切られる様に後方に向かって、伸ばされたゴムの様に"成型"されていた。続いて、砲弾や火薬に誘爆した。二度三度と爆発を続けた後に、油が燃えた覚しき黒煙を立ち始めた。


 続けて、右側を確認する。そちら側はもっと酷い様相だった。尾根に渡って構築されていた砲台どころか、尾根の相当な部分が、暴走大型トラックに減速(ブレーキ)なしで突っ込まれた貧民街の粗末な仮小屋(バラック)であるかの様に、根元から完全に消滅していた。或いは、温州市鉄道衝突脱線事故(現代の焚書坑儒)の直後の様に、大きな物体が無残に引き千切られつつも、引き千切られた何か(大きな破片)が周辺に見当たらなかった。


「そんな事が?」


 王中尉は、自軍の陣地が壊滅的な打撃を受けた事に対する"お気持ち"を最後まで表明する機会には恵まれなかった。次の瞬間、彼が立っているトーチカが、最初で最後の体験となる砲弾の直撃、それも多数の、を喰らったからだ。


 王中尉は、幸運にも、手脚をもがれてその後の人生を傷痍軍人として生きる心配をして途方に暮れたり、五体無事で除隊出来た後にPTSDを喰らって社会復帰出来なくなる不安に苛まれる必要がまったくなくなった。


 トーチカと王中尉の身体は、ほぼ同時に地球上から消失した。特に王中尉の身体は、身体を構成していた全ての有機物が蒸発して大気中へと四散=解き放たれた。まさに、人民解放軍の幹部に相応しい解放(・・)ぶりだった。


 砲弾を、地表から、人工衛星が無限に落下し続ける低軌道まで打ち上げるだけの運動エネルギーを与えられた防弾の斉射を受けて、原型を留められる人工物や人体は存在しない。


 しかも、三段式(トリプレット)成型炸薬砲弾頭。二段式(タンデム)弾頭より一段上の運動エネルギーを奢られた並みの金属を貫通した後で、要塞構造物の鉄筋や鉄骨、榴弾砲その物などを、単純に破壊した。それだけではなく、まるでそれらを飴細工の様に(ひしゃ)げさせたり、それでもなお余ったエネルギーがあった様で最後の仕事として攻撃目標を爆散させたりした。


 砲弾の前面側開口に収められたライナーは、スラグとジェットを発生させる。ジェットがスラグを追い越し、激流の様に内部構造を流動化させたり、破裂させたりさせた。こんな凄まじい砲弾を、たった80km程度の至近距離から撃ち込まれてしまっては、どんな構造物であっても無事で済ましてもらえる筈がない。


 せめてもの情けは、砲弾が進んだ80kmが、とても濃い大気のある地表スレスレであると言う事実だった。もしかしたら、約15秒間の飛行中に体験した膨大な大気摩擦のせいで、ある程度は荒ぶる運動エネルギーが削がれたかも知れない。


 ルアン・パバーン県にある山頂に持ち込まれた17門のライトガス・ガンは、ウドムサイ空港からトー山脈(プゥー・トー)の尾根まで、Z-8G輸送ヘリコプターで必死に運び上げた全ての榴弾砲、ロケット兵器、物資、兵員のほとんどを、文字通り粉砕してしまった。


 昨日までお盆に催される盆踊りの会場の様に騒がしかったトー山脈(プゥー・トー)は、初段が直撃してからほぼ5分後には完全に沈黙してしまった。


 トー山脈(プゥー・トー)要塞が多大なダメージを負って、統一した反撃をする機能を失ったと確信を持ってから、ラオス・タイ連合軍の要塞攻略部隊の本隊(本命)が、自分達のバン・チアウ・ヒア陣地から新たに登場する。


 今回の攻略部隊は過去のそれらとは少し違った。ソフトリコイル機能(超低反動ダンパー搭載)105mm自走榴弾砲が新たに含まれていた。それらは、中古の高機動多用途装輪車両「ハンビー」やサムロン工場(サムットプラカーン県)から直接に徴用されたトヨタ製のピックアップトラック「ハイラックス・レボ」に、砲撃の度に大きな反動を叩き付ける105mm榴弾砲を搭載した兵器だ。


 牽引式である為に砲撃準備と撤収に相当に時間が掛かる105mm榴弾砲を、「ハンビー」や「ハイラックス・レボ(※1)」などの大型車両の荷台に極めて強引な手法で備え付けて、何と自走砲へと仕立て上げた軍用車両である。


 ただし、一般的な自走砲と比較して圧倒的に軽くて不安定な車両に据え付けた状態で砲撃を行えば、その反動で車体が酷く傾斜してしまう事になる。運が悪ければ直ちに横転してしまう(主砲を横に向けて撃つと引っ繰り返りそうになると噂される戦車(電車)も存在する)。


 合衆国は、その問題の"大き過ぎる反動"を吸収(解決)する為に自国で開発・製造した「ソフトリコイル機能」搭載の"砲台座"をタイへ供与した(※2)。


 この新兵器。本命の攻撃となる今回に備えて、ラオス・タイ連合軍が保有していると悟られない様に、今の今まで隠し通していた。


 ラオス国道13号線の横に転がっている、連日の戦闘で破壊された自軍の戦闘車両には脇目も振らずに前進を続ける。


 105mm自走榴弾砲が砲撃位置に着く。


 更に先に進んだ攻略隊の歩兵と工兵が、トー山脈(プゥー・トー)へ取り付く。


 105mm自走(・・)榴弾砲が、生き残っているトー山脈(プゥー・トー)要塞へ砲台や銃座を狙った砲撃を始める。


 本来であれば少し離れた、例えば丘越しの後方から、砲弾に放物線の軌道を描かせる攻撃を行う。しかし、今はそれが難しい。据え付けではない牽引式や自走式の榴弾砲がある程度姿を曝しながら砲撃を行う作戦など邪道も良い所だ。


 ーーーRPGのダンジョンゲームで、後衛専門の魔術師を、筋肉馬鹿の剣士と一緒に階層主戦で突撃させるかの様に、極めてリスクの高い攻撃をさせている。


 しかし、それしか手段がない。そして、今こそが待ち望んだ圧し時である。やるしかない。


 105mm自走榴弾砲(砲据え付けテクニカル)は、何回か砲撃を繰り返すと大急ぎで砲撃位置を変える。本来なら、攻撃目標から直視出来る様な間近な位置での砲撃は行わない(それでも推定射撃位置を狙って集中的に砲弾が返される)。


 実際、105mm自走榴弾砲が撤収・移動・設置を終えた途端に、ついさっきまで居た場所を狙ったと覚しき砲弾や小型ミサイルが立て続けに弾着する。小回りが利いて移動作業が早い"自走式"だからこそ、攻撃を回避出来た訳だ。


 新しい場所に設置を終えた105mm自走榴弾砲は、トー山脈(プゥー・トー)要塞からの反撃によって新たに明らかになった抵抗勢力を目掛けて。新しい砲撃位置から砲撃を再開する。


 これを何回か繰り返すと、トー山脈(プゥー・トー)は静かになった。散発的な反撃が見られなくなった為だ。


 後は、ラオス・タイ連合軍の歩兵と工兵の攻撃ターンとなる。


 既に、ラオス・タイ連合軍の攻略作業の邪魔を出来る、統一した行動を取れる兵力は、トー山脈(プゥー・トー)要塞守備部隊には残されていない。それでも、片っ端から、僅かでも脅威を認識すれば、躊躇する事なく発砲する。これを繰り返す。


 途中、偵察ヘリコプターがトー山脈(プゥー・トー)の尾根の向こうから姿を見せた。ウドムサイ駐留軍が要塞守備隊の衰勢に気付いて送り出したのだろう。


 だが、偵察ヘリコプターはトー山脈(プゥー・トー)の東側斜面を視界に捉える前に撃墜された。追加の偵察ヘリコプターはその後に二回現れた。だが、漏れなく直線距離約80km離れた別の陣地から実行される、長距離攻撃によって呆気なく撃墜された。


 その日のラオス・タイ連合軍は、たった1時間でトー山脈(プゥー・トー)の解放を成し遂げた。その頃になると、人民解放軍・陸軍のウドムサイ駐留軍は、嫌でも、不都合な事態が進行中である可能性を把握出来たらしい。


 国境の向こうに展開する人民解放軍・空軍が、対地攻撃をするつもりなのか、多用途戦闘機のJF-17「梟龍(サンダー)」差し向けて来た。人民解放軍・陸軍を主体とするウドムサイ駐留軍からの依頼が、広大な迷路としか形容し様のない複雑な指揮系統をやっと通り抜けて、人民解放軍・空軍の現地指令官の手元にやっと届いたのだろう。


 しかし、その頃はラオス・タイ連合軍は、携帯式防空ミサイルシステムでハリネズミの様に自己武装し終えていた。もし、攻撃隊の到着がもう10分早ければれば危なかった。その位にギリギリのタイミングで片方は間に合い、もう片方は間に合わなかった。


 ラオス・タイ連合軍は、合衆国が気前よく提供してくれた、実は民間組織が管理する倉庫に眠っていた(から発掘された)デッドストックのFIM-43「レッドアイ」を9割の比率で、合衆国がしっかりと集金を確認した上で配達してくれたちょっと古いブロックのままFIM-92「 スティンガー」を1割の比率で惜しみなく発射して見せた。


 招かれざる客の歓迎式典を盛大に敢行したのだ。


 まともに追尾するのは、たった1割のFIM-92「 スティンガー」だけだったが、歓迎行事に強制参加させられたパイロット達が受けた印象では、一度に裁ききれないほどに大量の自動追尾ミサイルが打ち上げられた!! としか感じられなかった。


 たった2機の攻撃に対して、確認出来るだけで30発の携帯式防空ミサイルが上がって来たのだから仕方がない。JF-17「梟龍(サンダー)」のパイロット達は、ラオス・タイ連合軍の贅沢が過ぎる対空兵器の活用振りに直面して気が動転した。


 ーーーいったいどれだけの数の携帯式防空ミサイルを持ち込んでいやがるんだ!!


 高価な携帯式地対空ミサイルを湯水の様に使えるのは、それを敵から戦利品として奪った反政府戦闘組織の末端の(使い捨ての)戦闘員くらいである。少し頭が回れば。不要な分は闇市場へ回して資金調達したり、不可欠な消耗品と物々交換するものである。


 ラオス・タイ連合軍としては、屁のツッパリ的な乱射をしただけだった。人民解放軍・空軍を驚かせて、新たに獲得した拠点に武装を施す時間を稼げれば、それ以外は全て些末な話だった。


 結果は、ラオス・タイ連合軍の目論見通りになった。


 JF-17「梟龍(サンダー)」の攻撃隊は、たった一回のアタックを試みた直後にブレイクし、大量のフレアーを撒き散らして、谷と谷を縫うような低空飛行で引き上げ様と試みる。


 ーーートー山脈(プゥー・トー)が陥落し、完全に反革命主義者達の手に落ちている。


 ーーー航空戦力による有視界攻撃は困難。


 その様に報告すると同時に、司令部や航空管制との通信が切れた。そして、通信は二度と復活する事はなかったし、2機のJF-17「梟龍(サンダー)」が飛び立った基地へと帰投する事はなかった。


 その頃、2機の三菱QF-3Eがトー山脈(プゥー・トー)の上空を飛行していた。リフレクション・カバーを収納する完全ステルスモードで、人民解放軍に気づかれる事なくラオス北部奥深くまで進入していた。


 脅威の完全排除を確認した後で、トー山脈(プゥー・トー)の尾根から高度差500mまで降下した。尾根を占領して、この要害の地に新たに自分達の陣地を設置を急ぐ工兵達の上空を二〜三度旋回して見せた。


 手を振る工兵達に見える様に、二・三度主翼を大きく振ってから、敢えてリフレクション・カバーを国境の北側に向けて展開した。人民解放軍・空軍に、馬毛島の田原航空警備保障の航空団が派遣した三菱F-3Eがトー山脈(プゥー・トー)付近に展開している知らせる為だ。


 真打ちの登場と言うプレッシャーを与える為だった。


 ーーー来るなら来い。


 民主主義国家群が、珍しくも(奇しくも)わざわざ(不意に)叩き付けた真性の「売り言葉」が投げられた。この時の人民解放軍・空軍は大勢の期待を裏切った。普段の勇ましい態度に似付かわしくない事に売られた喧嘩を直ぐには買わなかったのだ。


 ただ、一連の流れ、煮え切らない(停滞気味だった)人民解放軍による戦線への態度を変えさせる切っ掛けとはならなかった筈がない。


 ーーー"人民の敵"として名高い朝間ナヲミ(ラスボス)


"労働者階級(プロレタリアート)にとってに最大の怨敵"が、ラオス戦線に加わった。


 それは、主導権を今まで握り付けていた人民共和国の立ち位置に、守勢に回らざる得なかった民主主義国家群が手が届くところまで追い上げつつある事の証明だった。


 あの、腰の重い日本国が機敏な行動を取った。


 それだけでも、人民解放軍としては驚くに十分な情報だった。


 人民共和国は、かつて、日本国の在任中の首相、朝間ナヲミの親友であり愛人であった万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)を、もっとも卑怯な(公務中に)手段(テロリズム)を重ねて(を積み重ねた)遂に(末に)殺し終えた(・・・)と言う自らの所業(畜生振り)をすっかり忘れ終えていた(・・・・・)


 労働者階級(プロレタリアート)の首領達にしてみれば、既に終えてしまった(旬を逸した)遊戯の悦楽を長々と憶えておいてあげる様な義理はなかった。


 殺害の首謀者達にとっては、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)殺処分(・・・)は、三日前に食べた昼食のメニューを同じ程度の重みしかなかった。或いは、認知力の変化(・・)がもたらす問題によって、目の前の事にしか興味を示せなくなっていたのかも知れない。


 しかし、それは日本国と朝間ナヲミが、彼等と同様に、受けた仕打ち(怨み辛み)忘れていた(許した)と言う証拠にはならない。


 この様に事態は進んだ。前へなのか、それとも後ろへなのかは分からないが。


 兎も角にも、情報交換(コミュニケーション)は叶った。

※0= 大気圏外では、民主主義国家群が打ち上げ、組み立てた、多くの大規模構造物が対デブリ自衛砲として採用している。


※1= 当然、追加装甲は施されている。イメージは、UNTACが活動していた頃にカンボジア鉄道が運用していたフランス製の液体式ディーゼル機関車「BB1050形」の運転台周りに施されていた隙間装甲な感じ。なお、21世紀になってから件の装甲は撤去された。


※2= 155mm砲搭載の簡易自走榴弾砲「ブルータス」の弟分みたいなイメージ。ヘッツァーとヘッツァーのお兄ちゃんみたいなやつ(ラング)みたいな関係の小型自走榴弾砲。

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