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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜2

 日本国から眺めれば赤道のあっち側。


 インドネシア共和国・ジャワ島の最西端。


 そこにはジャカルタ・コタ駅から伸びる、イン(PT. )ドネシア(Kereta)国鉄( Api)・メラック線のターミナル駅を中心に栄える港町がある。


 メラックと呼ばれる港町にはスマトラ島とジャワ島を結ぶフェリー業務を支える、6つの貨客船用のドッグが点在して、並んでいる。


 ドッグ番号の4番と6番が欠番となる「お安い(エコノミス)フェリー船乗り場」が5つ。


 もう一つは"エクセクティフ"と呼ばれる、運賃がちょっと「お高い(エクセクティフ)フェリー船乗り場」である。


 イン(PT. )ドネシア(Kereta)国鉄( Api)・メラック線は、インドネシア国民によって「ジャボデタベック(※1)」の略称とで呼ばれる、インドネシアで最も栄えた商業地区であるジャカルタ圏(首都圏)とスマトラ島全土の人々による交流を支える為に運営されている。


 しかし、永遠の繁栄が約束されている様に見えたメラック線の乗車率にも、20世紀末期に入ると陰りが見られる様になった。世界中のどこの繁栄する国で見られる現象。「モータリゼーション」と言う、"(鉄道原理主義者)"にとっては"悪魔との契約"としか表現し様のない、時代の荒波(津波)曝される(洗われる)様になってしまった。


 具体的には・・・自家用車が普及し始めると、富裕層やポケットマネーに余裕のある層は、海岸から波が退く勢いで鉄道列車の客室から姿を消して行った(そして、波と違って行った切り。決して引き返して来なかった。二度とだ!!)。


 それによって、かつては優勢を極めていた優等列車の群は根刮ぎ廃止の憂き目を見た。だが、今でもエコノミスと呼ばれる普通列車ならば走っている(※2)。


 その日、メラックのもっとも北側にある、メラック海港第7ドックでフェリー待ちをしていた人々は、目前にある風景に度肝を抜かれた。


 目前にはジャワ島とスマトラ島を隔てる狭い海峡がある。その海峡を南から北へ、彼等が普段乗船するフェリー船などとは比べものにならない高速で、抜けて行く巨大な艦船を立て続けに目撃したのだ。


 まず最初に、インドネシア海軍旗を掲げるフリゲート艦が海峡を抜けた。海峡地形を詳しく知る水先案内人として、後から続く艦をエスコートしている様にも見えた。


 続いて、オーストラリア海軍旗を掲げる駆逐艦(シドニー)フリゲート艦(タスマン)、素人には空母にしか見えない強襲揚陸艦(キャンベラ)誰の目にも古そうな艦シーホース・スピリットが続く。かつては犬猿の仲だったインドネシア・オーストラリア両国の海軍。


 オーストラリア・インドネシア海軍協調警備(AUSINDO CORPAT)等の活動を通じて、相互理解ではなく相互安全保障の為に協調活動を開始して、今では、同一行動を取れるまでに近い存在となっている。


 両国は、無頼漢的にな海洋進出を始めた某国による、自国領海内でのロウデイ(Rowdy)振りに頭を痛めていた。某国の「南シナ海における強制的な民兵戦術」は、既に南太平洋やインド洋までも適応範囲が拡大されつつあった。


 某国が好んで採る"戦狼外交"は21世紀中盤に入っても、収まる兆しを見せるどころか、激しさを更に更に増し続ける一方だった。


 一つの未来を共有する事よりも、一つの悩みを共有する事の方が、よっぽど仲間を増やし易い。ノーフレンドである事が強さの証明と信じる某国には、まず体験出来ない社会習慣であり、絶対に認める事の出来ない弱さであろう。


 ーーー友人(友邦)を作ると人間強度(国家品格)落ちる(下がる)


 どこかのアリャリャギさんとは、きっと話が合いそうだ。かみまみた。


 しかし、共に地域大国であるインドネシア(人口大国)オーストラリア(経済大国)の犬猿の仲が解消されていると言う事実は、国際安全保障の現場にいる者達だけの認識だ。価値観が全くアップデートされていない一般人である、インドネシアの港湾関係者や船乗り達は自らが目にした光景に大変に驚かされた。


 最後に、日本海上自衛軍軍旗を掲げる、国内向けには海上プラットフォーム対応空母の実験艦、国際的な認識では日本海軍(・・)保有の軽空母(・・・)の一番艦「ひゅうが」と二番艦「いせ」が続いた。


 インドネシア海軍には、ひゅうが級ほどに大きな軍艦は実戦配備されていない(鳴り物入りでイタリアから中古で買った大きなアレ(・・)は、残念な事に"イベント専用"と言う扱いになり果てていた)。基本的な艦(隊)の構成は"デストロイヤー"ではなく"フリゲート"である。


 だから、メラックでその艦影を目にしたインドネシア国民達は度肝を抜かれた。国外には、これほどに大きな軍艦が存在している事を知らなかったからだ(あまり、そっち方面に興味が無かったとも言える)。


 しかも、「ひゅうが」と「いせ」の甲板には、それぞれ5機ずつのロッキード・マーチン・F-35B「ライトニングII」が、これ見よがしに整列させられていた。うっすらと見える機体番号は、日本国海上自衛軍の戦後初めての旗艦「ながと」に搭載されている航空隊のそれらと一致した。


 ーーーただ事ではない。奴らは本気だ。


 これは、インドネシア国民達の言葉ではない。海峡監視を行っていた人民解放軍の情報員達の評価だ。彼等はそれぞれが大急ぎで、事前に決められていたルートで「親」に向けて情報を上げた。


 ーーー日本海軍(・・)が、オーストラリア海軍とインドネシア海軍の戦艦(・・)を引き連れて北上中。


 この知らせを受けた人民解放軍・海軍は、情報員と同様に度肝を抜かれた。


 英国領インド洋地域・チャゴス諸島沖を彷徨いていた筈の半端物の軽空母二隻が、どう言う訳かたった今、ジャワ島とスマトラ島の商用海路を相当な速度で横切る形で通過。しかも、オーストラリア艦4隻とインドネシア艦1隻を従えて北上している。


 あからさまだ。これならば阿呆でも分かる。民主主義国家群は、タイランド湾付近に人民共和国を念頭に置いた対抗戦力を展開するつもりであると。そして、早急に遠征に対応出来る艦々だけを寄せ集めて、インスタントな"多国籍空母打撃群"を仕立てたのだ。


 どう考えても、これは、人民解放軍のラオス侵攻に対する反応である。


 人民解放軍・海軍としては、南シナ海を機雷で封鎖出来た事で一安心としていた。民主主義国家群に対して先手を取れたので、自軍が次の手を打つまでに必要な準備期間をしっかりと稼ぐとが出来たと評価していた。


 タイランド湾周辺での合衆国による艦隊レベルの軍事活動は、当面の間ならば避けられていた。実際、日本国の佐世保や横須賀を母港とする合衆国の戦闘艦の足を、完全に絡め止められていた。


 しかし、合衆国を中心とする民主主義国家群は、奇策をもって現在彼等が抱えている問題の解消する事にした。


 複数の国の海軍が捻出可能な艦を寄せ集めて一つの艦隊をでっち上げる。それを人民解放軍・海軍がまだ封鎖出来ていないシンガポール方面からタイランド湾へと突撃させる。


 真面な神経であれば、思い付いても実行に移す馬鹿はいない程の奇策だ。しかし、この奇策に人民解放軍・海軍は、今まで優勢に打ち続けられていた囲碁盤(いごばん)を根底・根本からひっくり返されてしまった。


 これによって、スリランカやパキスタンから回航中だった人民解放軍・海軍の戦闘艦によるタイランド湾への侵入が難しくなる。ほとんど妨害されずに、悠然とカンボジアのシハヌークヴィル港へ入港へ出来る段取りで作戦を進めていた。そして、自分達がタイランド湾を封鎖するつもりだった。


 だが、それは無理だ。もう間に合わない。初心貫徹するならば、タイランド湾へ入る為には多国籍空母打撃群と一戦交える覚悟が必要となるだろう。


 最悪の場合、交戦海域はタイランド湾付近とは限らない。多国籍空母打撃群がマラッカ海峡を抜けた辺りで人民解放軍・艦隊を待ち構えていて、海峡を抜けた艦々から順々に狙い撃ちするかも知れない。


 もし、初期の想定のままでこの作戦を続行すれば、カンボジアに駐留させている陸軍戦力をタイまで輸送出来るだけの輸送力は完全に奪われる。それどころか、ロッキード・マーチン・F-35B「ライトニングII」による先制攻撃に曝されれば、自国の艦隊がタイランド湾まで辿り着けるかどうかさえ疑わしい。


 ーーー行き当たりばったりで侵攻なんか始めるからいけないんだ。


 雑な軍事行動は良くない。何て本音は口には出せない。もし、口から想いが漏れてしまえば、敗北主義者と叱咤され、直ぐに(後日になって)社会的(物理的に)に撲殺されてしまう。だから、人民解放軍・海軍の情報分析官は本音を漏らす代わりに冷や汗をたっぷりと掻いたかいた。


 ーーーせめて、まともな規模の輸送艦隊くらいは、カンボジアに常駐は無理でも事前に回航させて置けば良かったんだ。


"多国籍空母打撃群"は、そのままボルネオ島とマレー半島の間に点在する島々の海峡を次から次へと抜けて北上し続けた。


 途中、シンガポール海軍のフリゲート(ストルワート)コルベット(ヴェンジェンス)。更にマレーシア海軍のフリゲート(レキウ)を艦列に加えた。


 最後に、タイ王国海軍からヘリ(チャクリ・)空母(ナルエベト)が艦隊に加わった。日本海に現れたバルチック艦隊の様な黒煙を吐きながら。広いとは言い難いスキージャンプ式の甲板には、公式には2006年に全機退役済みとされていた、V/STOL機(マタドール)が3機も載せられていた。おそらく、共食い整備の繰り返しの結果、最後まで生き残った秘蔵中の秘蔵機達に違いない。


 タイ王国も、今回は対岸の火事としてお茶を濁すような態度を取ることはなく、自分の母屋に放火する為に敢えて海の向こうからやって来る奴らに対峙するつおりだと、間接的ながらも認めた様だ。おそらくは、周辺国家に対して、今回の軍事行動には出し惜しみはしないと言う政治アピールでもある筈だ。


 タイは全くどうして。こう言う演出だけはとても上手だ。そうであっても、盤がもう一度引っ繰り返った場合に備えて、とても上手い(ウルトラC級の)言い訳も既に考えてもいるに違いないだろうけれど。


 その後、"多国籍空母打撃群"はタイ領海に入り、一時的に、タイ王国のソンクラー海軍基地沖に碇泊した。


 湾内は深度が浅めな事から、対潜水艦警戒が比較的に容易だろうと見込んでである。


 急変した軍事的均衡の乱れは、人民解放軍・海軍の情報分析官が考えるほど、民主主義国家群側に優勢に働いている訳ではなかった。


 実は、寄せ集めの多国籍空母打撃群は、情報共有回線の構築以前に、通常通信のやりとりの規格策定の真っ最中だったのだ。いつもなら、合衆国が中心になって、物凄いノウハウを駆使して上手く揃えてしまう。しかし、これだけの多国籍軍による演習を、自力でホストした事のあるチームはこの海域には存在していなかったのだ。


 もし、その状態で不意を突かれて人民解放軍・海軍による攻撃を受けたなら、個々の艦艇が個別対処するしかない状態だった。


 タイ・ソンクラーン県沖に突如出現した"多国籍空母打撃群"は、実はハッタリであったのだ。


 また、もう一つ言えない秘密があった。


「ひゅうが」と「いせ」の甲板に並んでいたロッキード・マーチン・F-35B「ライトニングII」は、いつの間にか艦内へ収納されいた。


 御陰で、その後に通過した海峡で待ち構えていた人民解放軍の情報員は、わざわざ日本製の超高画素カメラと超望遠レンズを持参したに関わらず、お目当ての情報を写真には収められなかった。


 実は、それらのF-35Bは全て良く出来た偽物。精巧な作りのバルーン(模型)だった。ジャワ島とスマトラ島の海峡で人民解放軍の情報員を騙す目的で為に、急いで甲板上に展開させていた。意図的な情報開示の後は、次の監視(盗撮)ポイントで超高画素カメラと超望遠レンズなどで情報収集されて嘘がバレてしまわない様に、円を描く水平線の内側に島嶼や船舶が存在しない事を確認してから、大急ぎでバルーンから空気を抜いて格納庫の隅に押し戻したのだ。


 ただし、超高画素カメラと超望遠レンズを容易した情報員は、人民共和国が想定してなかった情報を掴んだ。甲板上には、F-35Bの代わりに三菱・元XF-3Eを改装してF-3Eとして完成させた、F-3Eの事実上の一号機の姿を捉えたのだ。


 末端の情報員は知らなかったが、それは、人民共和国が、密かに"プロレタリアート最大の敵"と認識して恨みを連ねる、日本海軍(・・)随一の超右翼パイロットの朝間ナヲミ技術三佐の事実上の専用機と推測されていた機体だったのだ。


 プロレタリアートのエリート達にとって、朝間ナヲミ技術三佐が馬毛島にある田原航空警備保障からの出向者に過ぎないと言う事実はどうでも良い情報であるらしい。

※1 ちょっと前までは「ジャボタベック」だった。ジャボデタベック(Jabodetabek)は、"(de)"が表すデポック市が後から加わったと言う事情がある。"ジャ"は大都会ジャカルタ。"ボ"は古都ボゴール。"タ"は空港近くのタンゲラン。"ブ"はブカシ(Bekasi)(ベカシじゃないよ。"E"の母音は"U"で発音するから。)。ジャカルタ首都圏と訳せる。フィリピンのメトロ・マニラみたいなもん。Jabodetabekの最後のbekはBekasiの頭三文字。Jabodetabekと並ぶと、英語読みになるのかな? ジャボデタブックでなくジャボデタベックと読む。タイとマレーシアの国境の駅にPadang Besarがある。タイ語読みだとパダンベサール駅で、マレーシア語読みだとパダンブサール駅になる。これと同じ理屈。習うより慣れろ。


※2= 当然、エコノミス列車にはクソ暑いインドネシア(赤道付近)にありながらエアコンはない。しかし、小銭を稼ぐアカペラ・サービスや、無理矢理にチップを要求しておいて断れば足下に履いているゴミを打っ掛けてくる押し掛け掃除人サービスなど、素晴らしい人々が織り成す異文化体験と遭遇出来る。まあ・・・、そんな事情で、金の出来た人々から順にどんどんエコノミス列車から距離を置き始める。これも時代の流れである。しかし、インドネシアの鉄道は死んだ訳ではない。ジャカルタ圏(首都圏)では、都市交通が大活躍。ATCを採用していない為に、人力管理ではもう増発不能な程に過密なダイヤで走っている。また、ジャワ島の東方面の長距離高級列車は健在どころか更なる飛躍の途上にある。ただし、ジャワ島高速鉄道だけは例外である。停車する新駅のすべてが街の中心部から等々に離れた場所に建ち過ぎている為に、少しばかり寂しい事になっている。お高い設定の運賃と高速鉄道駅から街の繁華街までの追加で必要となる所要時間を考慮すれば、どう考えても高速バスには太刀打ち出来まい。

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