星が落ちた跡で。 〜6
人民共和国が、ラオス領土上で、2020年代になってからメジャーになった、いわゆる隠語である「特別軍事作戦」を実行すると宣言してから、だいたい30分後。
シエンクワーン高原。ラオス最高峰「ビア山(2千,819m)」の山頂を望める山間の狭い広場に、ヘリコプターが強行着陸した。
タイ王国・空軍に配備されているエアバス・ヘリコプターズ・H225M「カラカル」だ。
ただし、タイの軍籍を示す部分は、水性ペンキが雑に塗り付けられてある。まさに、やっつけ仕事だ。養生テープやカッティング・シートを使う事を思い付かなかったのかも知れない。
その一事を見ても、隠密行動である事が分かる。それも高い緊急性を伴う。
回転翼を動かしたまま、ヘリコプターの荷室のドアが解放された。ほぼ同時に、アウトドア環境には不似合いな白色スーツと黒の濃いサングラスを纏った男が飛び降りた。ご丁寧に良く手入れされて光り輝く革靴まで履いている洒落者だ。
回転翼の動きの円周より離れた所に立っている、山中でのアウトドアが似合い過ぎる男に走り寄り、隙あらばと握手を求めるタイプの様だ。
「ミスターCIA。やっぱり噂通りの格好してんだな」
アウトドアが似合い過ぎる男は、求められた握手に応じなかった。代わりに責める様な視線込みで言った。
「オレ達は世界中の期待に応えなければならない。イメージに違わない外観ってのはとても大切なんだ。こっちはこっちで、イロイロと大変なのさ」
スーツとサングラスの男は、ペラペラと・・・とても使い慣れた言い訳で応じた。おそらく、世界の何処でも自らの服装について同じ感想を伝えられるのだろう。
見るからに「優男」の見本の様な外観だ。亜麻色の髪にはウエーブが掛かり、コーカソイドらしいメラニン少な目の肌は可哀相なくらいに日焼けし、サングラスの隙間からは沢山のソバカスが浮かんでいる。
それらの特徴に気付く。いや、否が応でも気付かせる様にと努力を払っている。いわゆる、第一印象の誘導行為に違いない。
おそらく、偽装キャラクターだ。この男と同じ印象を持つ多数のエージェントが、今この時も、この男と同じ様な口調でコミュニケーション中なのだろう。
交渉相手を煙に巻く為でなく、最低限の信頼関係だけを最も短期間で構築するのに最も効率が良い。少なくとも、本国のスーパーコンピュータが下した神託によれば、そう演じ続ける事が国益に繋がる。そう言う前提条件で施された訓練を受けたに違いない。
これで自宅に帰れば、案外、敬虔なクリスチャンで、寡黙で、ヴェジタリアンで、子供嫌いで、アステルパーム信望者で、休日には自宅や友人宅の庭でベジ・ハンバーグのBBQパーティーには付き合っても、絶対に合同キャンプの誘いには応じないタイプなのかも知れない。
その場では記号としてしか存在していない、その中央情報局のエージェントは、見る者を誰一人幸せにしない薄っぺらいスマイルを口元だけで浮かべながら、握手を求める腕を引っ込めた。
「空から降って来たって言う、曰く付きのパイロットはどこだ?」
中央情報局のエージェントは周辺に目を配る。
流星被害の直前に、合衆国の情報衛星は「複数」と言ってはかなり控え目な数のベイル・アウト信号をキャッチしていた。すべては、人民解放軍・空軍のAVIC・J-20「威龍」から振り落とされた流星迎撃隊のパイロット達だった。
その事実を察知した中央情報局は、直ちに、いくつか落下予想地域に存在する武装組織や非合法ビジネス組織へと、持ち前の不思議なコネを使って交渉を持ち掛けた。
ーーー今なら、救出した不法越境者とお望みのグッズと交換して差し上げますよ、と。
それは時間との勝負だった。ベイル・アウト信号を本来キャッチして、いち早く行動を起こすべき人民共和国が本腰を入れる前に交渉を纏め上げる必要があったからだ。
だが、意外にもその心配は杞憂だった。どう言う訳か、人民共和国は目立った行動を見せなかった。おかげで、取引交渉は短期間で纏まった。
アウトドアが似合い過ぎる男が、視線で「あっちだ」と伝えた。
お目当ての人物は、少し離れた茂みの向こうに、完全武装したゲリラ風の男達に囲まれていた。その風貌は、全盛期のマイク・タイソンが30分前に右ストレートを一発食らわせたブルース・リーそのものだった。手脚を拘束されていないのは、自身がこの場にいる誰よりも弱者であると言う経験則に基づく事実を、肉体言語を通じて学ばされたからに違いない。
ブルース・リー的な男が身に付けている服装は人民解放軍・空軍の高高度対応気密スーツ。
ーーー間違い無さそうだな。
中央情報局のエージェントは、今度は見る者であれば誰であっても幸せにしそうな満面の笑みを顔の全面に浮かべた。さっきとは違って。今度は目元から端々までキチンと笑っていた。
「約束モノは持って来たか?」
アウトドアが似合い過ぎる男は、抜け目のなさそうな視線を込めて言う。口約束を違えると言うなら、直ちに捕虜だか何だかを殺処分すると言うジェスチャーだ。しかし、脅しは全く不要だった。発展途上国の田舎では野良犬よりも頻繁に見掛けるギャングのチンピラと違って、中央情報局のエージェントは無意味な威勢を張らなかった。
「もちろんだ」
中央情報局のエージェントは、芝居がかった神妙な顔付きでサムアップして見せた。
「旧ソ連規格のカービン、アサルト・ライフル、その弾丸、グレネードを積めるだけ積んで来た」
中央情報局のエージェントが合図を送ると、ヘリコプターの中から、屈強な男達が重そうな木箱を次から次へと下ろし始める。
「ありがたい。これで我々の活動が阿る」
アウトドアが似合い過ぎる男が合図を送ると、部下達が回転翼の下へ進み出て、人民解放軍・空軍の高高度対応気密スーツを来た男をヘリコプターから降りた屈強な男達に引き渡した。そして、帰り道についでにと言う感じで、下ろされたばかりの木箱を担いで戻る。
それらの荷物持って来た屈強な外観をモル者達は、一箱に三人がかりだった。しかし、持って帰る小柄な体型の者達は一箱に二人がかりだった。長年ジムに通って鍛えた筋肉と、毎日の生活を通じて獲得した筋肉が抱える質の違いは明白だった。
「これはちょっとした贈り物だ。クリスマスにはまだ早いかも知れないが・・・」
中央情報局のエージェントは、小さめの木箱を指した。アウトドアが似合い過ぎる男が、木箱を開けて中身を確認すると、野戦用の通信機セットが入っていた。もちろん、旧ソ連規格のものだ。
「これなら訓練なしで使いこなせるだろう? こちらも、今はコーディネイターを置いていく余裕がない」
旧ソ連規格品であっても、中東やアフリカのやんちゃ者達の間ではまだまだ第一線で使用されているモデル。ご丁寧にスクランブル通信にまで対応している。上手くやれば、ラオス正規軍の暗号通信も傍受出来るだろう。しかし、山中に潜んで活動する反政府組織には贅沢が過ぎる。後先考えなければ、通信機セットを早急に転売して携帯武器の買い増しする費用に充てたくなってしまう。
だが、中央情報局なら、転売目的で不要な品をわざわざ持って来る筈もない。むしろ、現金の束で持って来る。後腐れが無いし、何より金の流れを追跡出来ないからだ。合衆国議会で野党に追及される可能性を微塵でも残したくないだろうに。
ならば、季節外れのクリスマス・プレゼントには必ず意味がある。
「確かにありがたい贈り物だが・・・何故だ? お前達はそんなに気前が良くはなかったはずだ」
アウトドアが似合い過ぎる男は、中央情報局の次の出方が気になった。
今回は、物資と引き替えで捕虜をくれてやるだけの商談であった筈だ。だが、彼等はそうとは考えていないのではないか?
「本当ならスティンガーくらいくれてやりたいんだが、訓練を施してやる余裕がない。使えないモノを渡して怪我をさせたり、横流しされても厄介だからな」
中央情報局のエージェントは、意図的にニヤニヤした表情を浮かべて新しい取引の申し出をした。
「我が国は、キミ達、つまり自由を求めて戦うヒーロー達のパトロンとなると決めた」
「?」
中央情報局のエージェントが、ラオス政府を仮想敵と見做しているとは思えない。だったら、自分達が援助されて戦うべき敵とは何なのか。
「定期的な軍用物資は食料の供給を行う。望むなら、新鮮な情報をも提供しよう。通信機はその為のものだ」
アウトドアが似合い過ぎる男は、中央情報局のエージェントの本気を、いや、正気を疑った。
「1970年代の同盟関係を復活させようと言うのか?」
合衆国の悪名高い暗躍組織・中央情報局と共闘したラオス・モン族は、生まれ故郷であるラオスに住み続けられなくなり、かなりの数が合衆国への亡命を余儀なくされた。
「いや。自由を守る為に戦う愛国者を見捨てては置けないだけさ」
中央情報局のエージェントは、過剰なジェスチャーを交えてあまりに胡散臭過ぎて真面な人間にはとても言えない台詞を咬まずに述べて見せた。
アウトドアが似合い過ぎる男は、あからさまな揶揄を受けて不愉快になった。
「何だと? 敵はどいつだ? ラオスで反革命の花でも狂い咲きさせろというのか?」
だが、それを待っていたかの様に、中央情報局のエージェントは最初の新鮮な情報を披露した。
「夜陰に紛れて人民解放軍の大部隊が国境線を越えた。そう遠くない未来にここ(シエンクワーン高原)まで到達するぞ」
中央情報局のエージェントは、口元だけで笑っていた。その一方で目元は笑っていない。その本音を伝える為に、わざわざサングラスを取って見せた。
「マジか?」
アウトドアが似合い過ぎる男は、想定外の事態に驚いた。
「ああ。マジだ。あいつら、ラオスをラオス民族自治州に作り替える気だぜ」
アウトドアが似合い過ぎる男は黙り込んでしまった。事態は彼が、いや、世界の軍事アナリストが想定している方向とは逆のベクトルで動き始めていた。これこそが主導権を奪われる=人民解放軍が常識の隙間を突いたと言う事態だ。
そんな馬鹿な事を相手がする筈がない。何故なら、相手だって馬鹿ではない筈だから。賢いと自認する人々の多くは、「もし自分が相手の立場にあったならどうする?」と言う想像の元に相手を評価したり対応を決断したりする。
我々の常識では、戦争、戦闘、侵略などの行為は、何かしらの政治的目的を達成する為の手段として行うべきものである。また、達成するに足りる能力と達成するまで継続可能な意思が不可欠である。しかし、それら常識は、必ずしも全世界や万人が共有する概念ではない。
ーーーついカッとなって。
この言い訳は個人の犯罪者だけが特権的に使用出来るものではない。個人の群=国家と言う集団にとっても有史以来何度も繰り返し使い回して来た定番な言い訳でもある。
○○であるべき。これは物事の本質を理解した者同士でしか共有出来ない知恵だ。夏休みの宿題は休みの前半からキチンと手を付けるべきのべきと同質の知恵だ。勝利条件を整える前に、そして達成すべき政治的目標を設定し終える前に戦争を始める指導者と言うのは、8月31日になって慌てている小学生と同程度に褒められた存在ではない。虚栄的欲望や生理的欲求と言った、非理的衝動に行動原理を縛られていると評価されて然るべきだろう。
相手が常に自分と同じ算段が出来る。だからこそ、自分と同様に理性的な決断を下さない筈がないと一方的に信じる事は許される。しかし、相手に対してそれを強要出来ないと言う事実を忘れてはならない。万が一にでもその事実を失念して評価・判断しまうと、酷い損害を被る経験を通じてその事実を再発見させられる事になるからだ。
この精神的なギャップこそが、"自称文明人"が足下を頻繁に掬われる理由の一つである。ユーラシア大陸の歴史で、腹が減ると気軽に侵略して来る蛮族とやらへの対処に、過去に栄えたほとんど(※1)の文化発展国が後手後手に回ってしまった最大の原因もそれである。
どの国家でもどの指導者でも、戦争を始める時はだいたいの場合は冒険的に行動するのに対し、戦争を終える時はだいたいの場合は現実的に行動するものである。
実際、意図的に馬鹿な事をすれば敵の目論見を崩せると言うのは事実だ。例えば、戦争を始める際の勝利条件に、「政治的目標」ではなく「正義の鉄槌」を掲げれば、相手が現実的であればあるほどに効果的に虚を付ける。
ーーー正義の戦争などあったのか。驚いた。文化が違い過ぎる。
敵の想定を崩す=想定外の暴挙に出れば、少なくとも初戦に限っては、相当に高い確率で主導権を奪える。あたふたせずにはいられないだろうから。前提条件が完全に崩れ、それを大至急で再構築する必要に迫られる。
もちろん、暴挙に出れば、暴挙に出た国家は、後に高い代償を支払う事になるだろうが、その手の人々はその辺りの見積もり作業を疎かに仕勝ちである。
戦争の初期に限れば、攻め手の方が有利。それは、攻め手だけが主導権を握ることが出来るからだ。何時、何処を、どの様に攻める。これを決められるのは攻め手側だけが持つ特権である。そして、馬鹿な攻め方をしても、受け手は大抵の場合は大変に驚いて、一時的にしても大混乱に陥る。
ラオスへ侵入して来た人民解放軍は、そうやって初戦での主導権を握った。既に国境を越えてシエンクワーン高原に迫りつつあると言うのだから、完全に隙を突かれた自分達が一方的に主導権を奪われていた事は間違いない。
主導権を失った敗戦後に、後手後手に回る捨て身の防衛戦や必死の退却戦を行う事で戦局を立て直す。その過程は間違いなく悲惨を極める。だから、無理をしてでも、犠牲を払ってでも、先手先手を取りに行かなければならない。そうでなければ、小国に巣くう反政府戦力など直ぐに擂り潰されて消滅してしまう。
中央情報局のエージェントが、アウトドアが似合い過ぎる男を現実世界へと無理矢理に引きずり落とす。
「どうだ。我々の重要性が上がったとは思わないか?」
アウトドアが似合い過ぎる男は、頭脳を高速で回転させながら中央情報局のエージェントの言葉に同意した。とても面倒臭そうに。
「まったくその通りだ」
「ラオスそのものを獲得すれば、人民共和国国内の不安も一気に解消する見込みらしいぞ?」
「どういう事だ?」
「自国民があの躺平主義へ逃避するのを、軍事力と警察力で辛うじて防止している」
「それがどうした?」
「高考を勝ち抜き、1千,000万人近くの大卒者が毎年誕生している。全てを捨てて勉学だけに心身を捧げてきたアカデミック・モンスター揃いだ。そんなモンスター達を待つのは、更に過酷なバトル・ロワイヤルだ。卒業後にも、更に1千,000倍の競争率を勝ち抜いて上級公務員にならなければ、権力や金に無縁な若い男にとっては、どこの組織に潜り込めても夜のパートナー探しも覚束ない。女性出生率が極めて低い現状では、ほとんどの男達にとって結婚なんか夢また夢」
「作文の試験に"偉大なる指導者"の演説が取り上げられるあの高考か。長い経済不況なんだろ。金欠は若い男女のデカップリングを促進するんだから、仕方ないじゃないか? まあ、祖国統一と民族団結に重点を置いた教育を積み重ねれば、いつかどんな問題でも克服出来るんじゃないか? 知らんけど」
「愛国主義教育法の事まで知っているとは驚いたな」
「ご近所に住む巨大な脅威だ。無視出来る筈もない」
「素晴らしい。そこで質問だ。ラオスには一体どれほどの数の若い女性が存在する?」
「おい。まさか」
「まあ、想像のその先は真に"神のみぞ知る"だ。とりえず、妙な事にならない様に気をつけないとな。防犯ってもんは起こってからの対処は困難だが、起こる前にならいくらでも対処のしようがあるってもんだ」
「あいつら、ラオスを使って出生率を向上させるつもりか」
「所詮は焼け石に水だろうけどな」
「それでも当たりくじの数だけは確実に増えるって訳か。侵略にも多用性の時代が到来って訳だな」
「世界的に有名な大陸名物「996労働」の代償と言うか、正当な報酬とか考えるかもな。少なくとも、確率変動イベントの可能性を臭わせれば・・・今回の長征に対する国内支持者も増えるってもんだ」
「そんなヤバイ奴らが大量に国境を越えてるって話か。既に・・・。悪い冗談にしか聞こえないぜ」
アウトドアが似合い過ぎる男は、状況を俯瞰で眺めるべく、情報を整理する。
出生率どうこうを何とかさせるだけならば、人民共和国としては占領地の被支配民に直接的に受け入れを強制させる必要はない。ラオスを完全支配後に、ラオス人から自力で食い扶持を稼ぐ手段を奪う政策を取れば良い。それだけで、利に目敏い者は狙い通りに動く。男女に限らず。まあ、こちらの問題は防衛に失敗してから対処すれば良いだろう。後回しで十分だ。
明日にも対面する問題が軍事的な衝突の方だ。人民解放軍にとって、シエンクワーン高原はあくまで通過点に過ぎない。侵略軍の進路は間違いなく首都ヴィエンチャン方面だ。平地まで攻め落とさなければ、メコン川を国境と言う防衛戦に取り込めなければ、ラオスの安定的な支配は不可能だろう。
「ラオス政府には既に話を付けてある。キミ達がラオス反政府勢力だからと言って、正規軍から後ろから突かれる心配はない。だから、後方の憂い無く前方での戦いにだけ集中してくれ」
アウトドアが似合い過ぎる男は、目の前に立つサングラス男からもたらされた、あまりに想定外な話に驚いた。彼等がシエンクワーン高原に留まって侵略者と対峙する場合は、後方に正規軍を抱える二正面作戦を余儀なくされると考えていたからだ。
北から人民解放軍。南からラオス正規軍と言う形で。
「政府軍はそれほどにヤバイ状況にあるのか?」
南からラオス正規軍が自分達を攻めない、正確には攻める実行力を完全に喪失していると言うことは、軍全体を通じた指揮系統が失われた=一時的かも知れないが現状では壊滅状態にあるに違いない。
「今、ラオス軍はまともに動ける状態にない。これからメコン川沿いの対岸に流星被害の救援名目で「連合スペースガード(USGA)」の"行動部隊"が展開する予定だ。だが、それにはまだしばらく時間が掛かる。だから、キミ達「ネオ・パテト・ラオ」に短期間で良いから"行動部隊"が活動出来る様になるまでの時間を稼いで欲しいんだ」
アウトドアが似合い過ぎる男は、あまりに虫が良い話だと感じた。しかし、ネオ・パテト・ラオがシエンクワーン高原を保持する為には、「連合スペースガード(USGA)」とやらの使い走りとして戦ってやるしかない。だが、山岳地形を利用したとしても、自力だけでは圧倒的な大軍の侵攻を押し留められないだろう。
「「連合スペースガード(USGA)」の地上軍の展開は?」
「まず最初に空軍が到着する。上手く行けば、彼等がキミ達にエア・カバーを提供出来るだろう」
上空からの情報支援と火器支援があれば、シエンクワーン高原まで南進する侵略軍の戦力をそれなりに削げるだろう。
「人民解放軍の規模は?」
「現在確認出来ているのが歩兵師団が2つ、装甲師団が1つ。これから更に増えるだろう。もちろん、空挺部隊による挺身攻撃もありだ」
アウトドアが似合い過ぎる男は眩暈を感じる。それだけで、数的にラオス正規軍を上回りそうだ。
「戦況が不利になれば更に大動員だな」
「我々の勝機は大動員を如何に防ぐかにある。まあ、そっちの方はオレ達に任せろ。アンタ達はジャングル戦に不慣れな都会兵の南進を妨害してくれれば良い」
アウトドアが似合い過ぎる男は、合衆国が本気でネオ・パテト・ラオの戦力を当てにしている事を確信した。それだけに、仮に戦況が膠着して、「連合スペースガード(USGA)」が布陣を終えるまでは、仮に自分達を擂り潰しても、敵に向けるべき弾丸や砲弾の供与をケチることはないと理解した。
「妨害だけで良いのか?」
一応、確認をしておく必要がある。口約束だったとしても、無いよりは有る方が良い。
「撃破や敗走させるまでは期待しない。キミ達が構わないなら、一定期間後であればシエンクワーン高原の一時的な陥落も許容する。防衛最終ラインはヴァンビエンのラインだ。時間稼ぎが終わったなら、オレ達と入れ替わりでメコン川まで転進してくれても構わない」
「ラオス軍は?」
「どんな条件でも追認するしかない状態だ。言いにくいが、今キミ達が首都へ攻め上るのだけは勘弁して欲しい」
「何だと?」
「ーーーする必要がないんだ」
中央情報局のエージェントは、薄ら笑いのヴェールを剥がした。事態がネオ・パテト・ラオが考えているよりも、ずっと深刻である事の自覚を求めた。
「今、ラオスで戦闘力を維持出来ているのは、キミ達の様な不正規戦力だけだ」
「・・・」
中央情報局のエージェントは、ヘリコプターを降りた時とは別人の様に軽々しさを捨てて、まるで真剣に諭すように語る。
「もし、ネオ・パテト・ラオが戦闘を放棄して、たった今から逃亡を始めたならば、ラオスと言う国家は確実に消滅するだろう」
アウトドアが似合い過ぎる男は、取り敢えず戦ってみる気になった。形成があからさまな不利となったなら、全ての装備を捨ててメコン川へ逃走すれば事は足りる。地の利がある山岳地帯だけに、空身であれば重装備の余所者の大軍から容易に逃げ切る自信はある。
それに、真面な侵略者であれば、逃走させた事を確信した所で追撃を止めるだろう。崩壊した防衛戦力の壊滅に拘るよりも、初期の戦略目標である首都攻略を優先しない筈がないからだ。
「定期的な補給が可能と言ったな?」
長距離の山岳地形を縦断しなければならない侵略者にとっても、守りに徹する側にとっても、物資輸送の効率性が勝敗を分ける事は間違いない。もし、侵略者の補給を立つ事が出来れば、一歩も前進出来なくなる。それどころか、撤退すら覚束なくなる。数で劣る防衛側としては、勝機はそこにある。
更に、防衛側だけが十分に補給を受ける事が出来れば、一方的に有利に戦いを進められる。防衛側だけが弾丸も砲弾も撃ち放題であれば、侵略者に対して一方的に犠牲者を積み上げさせる事が出来る。
中央情報局のエージェントは、更なる信用を得るためにちょっとした大盤振る舞いを確約した。
「ああ。だから、軽飛行機が着陸可能な臨時滑走路を想定される戦場の後方にどんどん作れ。キミ達の先人が作った「ビクター・サイト」の様な補給ネットワークを復活させるんだ。そうすれば、RPG-7みたいな携帯対戦車擲弾発射器だけでなく、まともな陣地が築ける様な重迫撃砲も数を揃えて送ってやる。阻止射撃可能な数の砲弾も供給しよう」
「負傷兵の輸送と治療は?」
「請け負おう」
「恩を売って我々の指揮に干渉するつもりか?」
「いや。ここはキミ達の庭だ。自分達よりも優秀な者達を指導する様な傲慢さを我々は持ち合わせていない」
「間もなく姿を現す共産主義者達は、大量破壊を目的とする大規模兵器は投入するだろうか?」
「条件付きでYesだ。最も可能性が高いのはサーモバリック弾だな。とにかく、兵力を一箇所に密集させない方が良い。一網打尽に出来ると判断したら、採算度外視で空から仕掛けて来るぞ。私見によれば、大規模攻勢を試みたり、大軍を誘導して包囲戦に挑戦したりするよりも、多数の小部隊による小規模なゲリラ戦に徹した方が賢い」
「機甲部隊が来るんだろう?」
「実際には来れないだろう。国境を超えた後のラオス国道があっちこっちで不通状態だ。工兵がいくら頑張っても、重車両が通行するには一カ月は掛かる。だから、地上戦力はデジタル化された歩兵部隊と空挺部隊くらしか有効投入出来ないだろう」
「無人攻撃機は?」
「電子戦で数を減らしてみせよう」
「我々の他に愛国者はいないのか?」
「他の地域に存在するいくつかの私兵団と交渉中だ。結果は追って伝えさせよう」
「報酬は物資の供与だけか?」
「望むモノがあれば聞いておこう」
「シエンクワーン周辺に我々の自治区を作りたい。政治的に中央から完全に独立する事を、貴国から承認を受けたい」
「戦後の交渉テーブルにキミ達の代表者を参加させる。それならば確約しよう」
「交渉成立だ。じゃあ、さっさと捕虜を連れて帰れ。時間が惜しい」
「ビジネスマンとして合格だ。Time is money.」
「オレ達はアンタ個人の事をどう呼べば良い。呼び出しには応じるのか?」
「オレと言う記号は"アークエンジェル"とでも呼んでくれ。将来的に別人が呼び出しに応じたとしても、話がそれ以前の天使と同じ様に通じる仕組みになっている」
「じゃあ、オレの事は"ホーク"とでも呼んでくれよ」
二人は、最後の瞬間になってやっと握手を交わした。
「分かった。ホーク!! じゃあな。幸運を!!」
「Ever notice how you come across somebody once in a while you shouldn't have fucked with? That's me. (この世には絶対に怒らせちゃいけない人間ってヤツがいるかもって想像した事はあるか? 教えてやろう。俺がソイツだ)」
「ウォルト・コワルスキー(※2)か。あの映画はオレも見た。ああ。その通りだ。その事実を共産貴族共に教えてやれ!!」
中央情報局のエージェントは、ヘリコプターに乗り込んだ。パイロットはすぐに期待を上昇させて、ラオス最強の山岳兵達の視界から消え去った。
着陸していたのは、たった5分間だけだった。
アウトドアが似合い過ぎるモン族の血を引く戦士は、中央情報局のエージェントを見送らなかった。
代わりに、周辺の山に散らばっていた中級指揮官達に、至急でアジトへ集まる様にと信号を送らせた。
※1= ローマ帝国時代のハドリアヌスの防壁と言った、極々稀に先手に回った対策も存在している。ユリウス・カエサルのガリア征服もその要素が強いんじゃないかと思う。
※2= 参考資料。 https://www.facebook.com/HistoryOfCinemaGroup/videos/ever-notice-how-you-come-across-somebody-once-in-a-while-you-shouldnt-have-fucke/262577461389894/




