表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
52/143

星が落ちた国で。 〜5

 自然災害由来の人災がポーンサワンを壊滅させる5分ほど前。


 人民解放軍・宇宙軍が保有する三基(虎の子)の宇宙ステーションの中の二基を、流星迎撃プラットホームとして使用した。


 それらは、地球周回軌道の低軌道を飛行する宇宙要塞「雅克薩(やくさ)」と宇宙要塞「寧古塔(にんぐだ)」である。


 宇宙要塞。いや、宇宙ステーションの外部係留部に連結されていたコンテナのドアが開放される。


 そこから、合わせて4発の戦術核弾頭搭載滑空体が、地球の自転方向に合わせて発射(解放)された。


 発射と言って想像するほど勇ましい光景にはならない。事実上、解放元に反する慣性力を与えて突き放すだけだ。


 宇宙ステーションは、"カナダアーム"をやたらに太くして補強した独自開発(インスパイア品)のモービルサービス(MSS)システムを使って、戦術核弾頭搭載滑空体をコンテナから掴み出す。放す。なお、"カナダアーム2"のデクスターに相当するサブアームは実装されていない。


 ゆっくりと離()してから、宙に浮かんで(無限落下状態の)宇宙要塞とランデブー状態にある戦術核弾頭搭載滑空体は、独自に姿勢制御用ヴァーニアを軽く拭かせて、母機から十分な距離を取る。


 その後はメイン・ロケットの推力で加速され、大気圏へ向けて浅い角度で落下して行った。


 宇宙要塞「雅克薩(やくさ)」と「寧古塔(にんぐだ)」は、世界に向けて「それぞれ民間企業(神舟航天技術有限公司)が運営する「宇宙人民自由解放港」である」と宣言されていた(天下第一・二・三が打ち上げられている)。誰もその言葉を信じる者はいなかったが。


 ※= 民主主義社会に生まれて、生涯を通じてどうしても居心地が悪いと感じる、自己評価と社会が下す自己に対する評価がどうにも噛み合わない(・・・・・・・・・・)一部のこんな人達(白昼夢人達)を除く。


 また、解放すべき人民がその周辺に見当たらないと言う突っ込みは行われなかった。それは、解放すべき人民とは、宇宙要塞「雅克薩(やくさ)」と「寧古塔(にんぐだ)」よりはるか上方の月周回軌道を飛ぶ月軌道プラットフォーム(LOP-G)ゲートウェイ(Lunar Orbital Platform-Gateway)の住人であったからだ。


 なお、彼等が使用する"解放"とは専門用語に属する。"友愛"するとか"ポ○"するみたいなスラングみたいな感じで。


 しかし、民主主義社会も、そこに居場所を得られない人達も、地球を低軌道で周回する宇宙ステーションに、如何に小型とは言え核兵器を常備させている可能性は想定していなかったのは同じだった。


 特に軍事アナリスト達は揃って、「このご時世に(コスパを考えると)、使うのか使わないのかも判らない大規模破壊兵器を、高いコストを掛けてまで低軌道まで持ち上げておく変人がいる」などとは想像も出来なかった。


 だが、そんな変人、いや価値観の異なり人達は存在していた。しかも、後で国際社会から酷く追求される事間違いなしのスキャンダル(国際条約破り)を、気兼ねなく万人に向けて自分からぶちまけてしまった。


 ここに、間近まで迫っている流星の脅威判定が、二派の間でかなり異なっていた事が窺い知れる。


 その様な戦略級の(超重大な)軍事機密と言うカードを切るほどに、人民共和国の偉大なる指導者達は「2069MN3」と仮符号を与えられた流星に対する脅威度を「大」と判定していた。つまり、現場で指揮を取る"ものすごく流星迎撃に詳しい"ボクちゃん大校よりも、現実をずっとずっと正確に把握していたのだ。


 だが、下っ端は支配層の上澄みの心知らず。余計な事ばかりする。


 おそらく、"ものすごく流星迎撃に詳しい"ボクちゃん大校が 「連合スペースガード(U.S.G.A.)」が義理で上げてくれた迎撃隊を追い払った事には、凄まじい憤るか、または失望を禁じ得なかっただろう。


 しかし、常日頃な不退転の決意で民主主義国家群をコケにしていている自分達の発言(強がり)()必要以上に感化された(真に受けた)若僧がしでかした失敗を怒る訳にもいかない。よくよく考えれば、身から出た錆である。


 ーーー民主主義国家群に出来る事なら、自国が同じレベルの事を出来ない筈がない。


 そう強がる事でしか、自らの権威を守る手段を持ち合わせていなかった。


 戦術核弾頭搭載滑空体は、最初は緩やかに、その後は急激に落下を開始した。自由落下とブースターの合成(協業)加速(推進)によって、第二宇宙速度側に近い超高速で移動する物体に少しでも近付きたかったからだ(相対的に)。


 それと同時に、地球の反対側で、自転方向とは逆側から地球の重力に捕らわれた「塊」が周回軌道へ進入して来た。「塊」は、地球を半周する間に中軌道から低軌道への落下を済ませた。


「塊」が、宇宙要塞「雅克薩(やくさ)」の北側(高緯度)を通過した時、「塊」の落下軌道と戦術核弾頭搭載滑空体群の落下軌道の収束が確定した。


 戦術核弾頭搭載滑空体群が、展開翼を利用して大気反発力を発生させる。突然に急上昇を始める。やがて、「塊」との正対に成功する。


 初弾が流星を捉える。起爆成功。


 双方が軌道を交差させる寸前に、残りの戦術核弾頭搭載滑空体群の全弾が起爆した。


 戦術核弾だろうと、大気密度がゼロと言えるほどに薄い低軌道環境では有効破壊半径は驚くほどに狭い。だから、直撃させる位に近接させて打撃を与えるのが最適と言える(その周辺(高度)には大気がないので、爆風の圧力や気体による高熱を伝達を期待出来ない)。


 余りに高速な第二宇宙速度の余韻を保ったまま、地球の大気の上層部に突入した為、「塊」は電子の目にも非常に認識し易い。また、音速の23倍を軽く超える速度で自由落下しているので、落下軌道に干渉する滑空要素を排除する事が出来た。


 だから、ハレーションの処理を可能な減光フィルターと映像処理エンジンを搭載する費用をケチらなければ、弾頭本体群が搭載するセンサー群と大気圏内外からの観測結果を掛け合わせる事で、流星の迎撃の位置の未来予測はそれほど難しくはなかった。


「塊」の落下軌道の予測は比較的容易だった訳だ。


 やがて、「塊」は、到来を待ち兼ねていた戦術核弾群の有効破壊半径の外縁部に突入した。史上初めての、低軌道プラットホームからの放たれた対地上攻撃兵器(対民主主義国家兵器)を転用した割には、なかなか高いの誘導精度を実現した。


 人民共和国としては、この第一波攻撃が「本命」であった事が窺い知れる。だが、人事を尽くしても、天命が必ず応えてくれるとは限らない。


「塊」は、何と、灼熱と高圧力の有効破壊半径を何事も無かったかの様に通過した。もし、流星の構成物質が想定していた通りの氷塊であれば、何のダメージもなしで通過出来る筈がない。


 それなりの体積の表面構造物が蒸発し、構造全体に(クラック)が入り、直後の大気圏突入による減速時にバラバラに砕けてくれる見込みだった。


 しかし、宇宙要塞「寧古塔(にんぐだ)」は、観測によって、「塊」の質量が戦術核弾群と接触する前後でほとんど変化していない事実を認めた。


 それによって、小天体「2069MN3」の構成物が氷質隕石であるとする初期想定が完全に崩れた。後に発表された論文によれば、極短時間行われたスペクトル測定の解析結果によって、「2069MN3」が氷質隕石ではなく、ケイ酸塩鉱物であると言う証拠が多数見付かった。小天体表面を覆っていたゴミが剥がされた事により、より正確な測定結果を取得出来たのだ。


 つまり、間もなく地表へ到達するだろう流星は、もっとも迎撃が困難な石質隕石であったと言うオチだ。


 接近時に観測された反射光(光度)の解析結果の正体は、実は質量の大きさだった。構成物がスカスカの氷であれば反射率が高いが質量は小さい。構成物が高重力下で形成された高密度な岩石であれば反射率が低いが質量は大きい。


 見誤った。


 小天体「2069MN3」は、思った以上に質量が巨大だった。ハデに光る小さな氷だと思っていたら、照り返しの少ない岩だった。扱いやすい氷質ではなく、破壊しづらい石質だった。


 陽キャが調子に乗って馬鹿しているだけと思って適当に受け流していたら、陰キャが引き起こす生涯に一度だけ引き起こす大爆発(渾身の一撃)だったので大慌て。みたいな。


 だが、次の手がない訳でもない。


 第二波攻撃として、人民解放軍・ロケット軍がぶっ放す大陸間弾道ミサイル(ICBM)と中距離弾道ミサイル(IRBM)が、大気圏突入がもたらす断熱圧縮のプラズマに包まれた「2069MN3」を迎え撃つ。青海基地、雲南基地、瀋陽基地の辺りから打ち上げられていた、上昇ステージ中の誘導・起爆スケジュールが一瞬で変更された。


 初期のスケジュールでは、弾頭が薄くも広域な有効破壊宙域を形成する様に指示が出されていた。しかし、第一波攻撃でほとんど意味の有る戦果を挙げられなかった事で、易々と砕くことが出来る流星でない事が判明した。そこで、弾頭が「2069MN3」に対して一直線に並ぶスケジュールへとアップデートされた。


 残念な事に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)と中距離弾道ミサイル(IRBM)の三割が新スケジュールへの対応に失敗して軌道がズレた。戦力外通告が出され、自爆指令によって構造がバラける。落下による加速で大気がもたらす断熱圧縮をまともに喰らい、構造がどんどん細分化し、大部分の物体が燃え尽きる。


 残り七割の戦力が小天体「2069MN3」との交差軌道に入る。流星は、大気との摩擦で幾分だが移動速度を低下させている。


 第二波攻撃は互いにすれ違う交差軌道での最接近となった。上昇ステージ真っ最中など言うのにエンジンが燃焼を停止。定められて手順で、弾頭がブースターからすんなりと切り離される。弾頭はブースターが与えくれた加速の勢いが残っているので、まだ放物線の上昇線(前半部)を描いている。


 超高速落下状態がもたらす大気ブレーキによる急減速中の流星と違って、迎撃弾頭の方は大気の抵抗力を真剣に考慮すべき速度差は持ち合わせていない。つまり、流星と違って断熱圧縮と言う行動制限要素とはまったくの無縁だ。


 それは、熱圏を超える上空には極めて希薄な大気しか対流していない御陰である。故に、弾頭などあらゆる飛翔体を誘導する行為=機動する上で無理が生じないだけでなく、能動的に環境情報を収集するセンサー類や誘導指令用受信アンテナ等も"イオン無く絶好調"で稼働中だ。


 急激に下降する「2069MN3」と上昇する核弾頭群が、互いに近付く。すれ違いは本の一瞬。起爆するなら軌道が交差する前でる必要がある。しかし、今回は至近または接触を念頭に置いた誘導が行われていた。


 幸運にも、弾頭の初群の一つが小天体「2069MN3」と物理的に接触すると同時に起爆に成功した。後に続く核弾頭群も後追いで、五割が起爆に成功する。


 ロケット軍司令部としては、直接に打撃を加えた部分に残りの破壊力が襲い掛かると期待していた。上手く(クラック)が入れば、多数の切れ目を(きざ)み込んで、その後の大気圏突入時のプラズマ嵐などの破壊エネルギーが「塊」そのものの構造崩壊へと導いてくれるのではないかと期待していたのだ。少なくとも、過去の流星迎撃ではそれで上手く行っていた。


 ーーーだが、この流星は構成物が違っていた。


 次の瞬間、ロケット軍司令部の期待が裏切られた事が判明した。彼等の渾身の攻撃は「2069MN3」の質量を三割削ぎ落とす程度の成果しか上げられなかった。熱圏通過中の隕石は、複数の物体群へと分割されていた。しかし、全てが"破片"とは言い難かった。ほぼ中央に"本体"と言える構造物が存在していた。


 しかも、僅かに落下軌道が変化していた。人民解放軍の攻撃によって、落下位置の緯度が上がった。そして経度も東にズレた。


 流星被害爆芯円が重慶や成都までを捉えてしまった。


 昆明と比べれば、そちらの方が遙かに重要な領土だった。


 何より、「原水爆実験などは少数民族の故郷で行う」と言う彼等なりの常識と伝統があった。


 ここに偉大なる党と、その偉大なる指導者は、国家の栄光を創出する為に重大な決断に至る。


 ーーー流星の完全撃破方針を放棄。


 ーーー隕石の落下地点を南方へ反らす新方針を採択。


 人民共和国が保有する現状有効な打撃力は、大気圏内に浮かべている航空隊のみ。第三波攻撃に当たる、それらの破壊力では「2069MN3」の完全破壊は不可能と判断した。


 そして、重慶や成都を守る為に、西から、ミャンマー連邦、ラオス人民民主共和国、ヴェトナム人民民主共和国、そして僅かに昆明へと流星被害を誘導するべきと決断した。


 その迷惑な事実を、これから多大な迷惑を被る事になるミャンマー連邦、ラオス人民民主共和国(ソーポーポー・ラヲ)、ヴェトナム社会主義共和国、昆明で生まれて、育って、死んで行く人々は知る余地もなかった。


 ラオスのポーンサワンを襲った被害が、自然災害由来の人災である理由はここに成立した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ