表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
51/143

星が落ちた国で。 〜4

 自然災害由来の人災がポーンサワンを壊滅させる10分ほど前。


 云南省普洱市北東の上空1万8,000m、南西へと機首を揃えてズーム上昇を掛ける飛行隊の機影が確認出来た。


 ここ以外でも、同じ様なズーム上昇中の飛行隊も確認出来た。しかし、ここほどに機首方向、速度変化、上昇率などが揃っている群は他にはなかった。


 ーーー全体的に、明らかな訓練不足。


 或いは、ぶっつけ本番で難易度の高い飛行に挑んでいる。


 それが、空中レーダーサイトによって情報を捉えられた合衆国とインド共和国とドゥクパ王国の迎撃隊を指揮する合同司令部が下した評価だった。


 ズーム上昇へ入る前の飛行速度から推測して、その飛行隊が目指している高度は2万2,000m付近である事は明白だった(ドゥクパ王国・空軍並みの練度であれば、その程度の高度までは余裕で上がれると言う判断だった)。


 全ての飛行隊は、全12機のAVIC・J-20「威龍」の高高度仕様ヴァリアントに統一された構成となっていた。


 ーーーちっ!!


 与圧ヘルメットの中で、飛行隊隊長が強く舌打ちする。同時に苦虫を嚙み潰した時に見せる表情のそれよりも、ずっとずっと厳しく眉間に皺を寄せて見せた。


 次から次へと部下の機体の上昇ペースが遅れたり、上昇方向が乱れ始めたからだ。モニターを眺めているだけで、あからさまに機体姿勢の乱れが発生しているのが判る。おそらく、該当機体のパイロット達は、必死に対処中だ。しかし、機体姿勢の揺らぎは一度起こってしまった段階で、もう既に取り返しが付かない。


 ーーー弓道で矢を打つ様に、矢が指先から離れた段階で成否の運命は決定している。


 速度エネルギーを位置エネルギーへの変換を開始したタイミングで、上昇可能な高度は既に決まっていたのだ。


 高高度対応迎撃機の場合、ズーム上昇の最終到達高度、最終到達座標、最終到達速度は、上昇を始めるまでに溜め込んだ運動エネルギーの質と量と精度で決まってしまう。


 東アジアの大陸料理の出来の善し悪しの大半がフライパンに火を掛ける前の仕込みの段階で決まっているのと同じで、火を掛けた後=上昇開始後にパイロットが出来る調整の幅は著しく狭い。


 彼は、司令部から流星迎撃の最適ポジションとして指定された、瀾滄ラフー族(少数民族の一つ)が生活する怒山山系南端(横断山脈)上空まで付いて来これずに脱落する部下が出るとして、そいつらを頭の片隅から叩き落とした。


 糞の役にも立たない奴らの為に割り当ててやる脳味噌のリソースは、残念ながら持ち合わせていなかった。


 いや、最大限に恐怖経験を積んで、ビビりとなって、もう飛行機の操縦桿を握れなくなる程度のトラウマを抱えた上で現場からの撤収を決意してくれれば幸い・・・くらいの想いならば留めていた。


 高度2万0,000mまで自機に随伴出来るのは、飛行隊のほぼ半数、7機となると予想。


 おそらく、上昇失敗の原因は3割は機体不調。それは仕方がない。しかし、残りの7割は不適当な操縦が原因であるので、肉体言語を行使する教育的指導を施す必要があるだろう。


 だが、彼も判っている。任務失敗の不名誉は、単なるパイロット達の落ち度ではない。


 十分な訓練と練度をパイロット達に与えられていない社会や組織の方にこそある。


 或いは、十分な技量を持ち合わせていないパイロット達の採用を避けられない組織内文化の方にこそある。


 今回の流星迎撃は合わせて5飛行隊、全機60機が投入されている。しかし、全戦力の半分が迎撃ポジションまで到達出来れば御の字だろう。


 飛行隊隊長の見立てでは、自分の飛行隊以外の隊は、自分のそれより幾分は練度が足りていない筈だった。それは、他の4つの飛行隊では"推薦枠"で受け入れたパイロットの就任比率が高いからだ。


"推薦枠"。実に厄介な制度であり、自国の伝統人事でもある。


"推薦枠"が多ければ多い方が、飛行隊の組織内での評価は上がる。補給・整備が優先的に施され、休暇が取り易くなり、その一方で練度などの能力チェックが甘くなる。


 また、空軍や飛行隊の幹部達の組織内の栄達だけでなく、引退後には利益誘導までアンダーテーブルで行われるアフターサービスを期待出来る。


 それは何故か。彼等のほとんどは、労働者的にやんごとなき血筋の体現者であるからだ。赤い貴族達の師弟である。


 それも、次男とか三男などの末っ子と言うもっとも甘やかされて育った青年達だった。党の重職の方は長男(或いは有能な養子)に継がせるため、特に末っ子には将来の夢を叶えてやりたいと願っている。


"推薦枠"のパイロット達の親達は必死になる。自らのコネクションや貯金を駆使して特典を捻出する。


 平たく言えば、縁故採用だ。深い縁のある者を、素知らぬ顔で強く推薦すると言う意味で。


 だから、多くの流星迎撃隊にとって"推薦枠"は美味しい。そんな事情で、平均的な飛行隊隊長達は「来る者は拒まず」と言う()のある態度をとことんまで貫いていた。


 もし、"推薦枠"のパイロット達が揃って精鋭であったならば、この飛行隊隊長も喜んで受け入れただろう。それこそ、三顧の礼をもって。


 しかし、実際の"推薦枠"のパイロットは、その本人の資質が(かす)れて見えなくなる程に多く特典が真横や背後に控えている。大多数の人事権保持者は、肝心なパイロット本人ではなく、特典の方を目当てに採用の判子を書類に突く。それはつまり、既に特典を目当てとする様に調教された採用人事担当者の心中に、正しい"角度"を付けてやらなければならない。


 多くの場合、無理を押し通す慣習には、地雷要素の強い問題が隠されていると邪推して間違いない。それでも、


 ーーー需要と供給の法則は絶対だ。


 資本主義国家であっても、共産主義国家でも、その法則の絶対的有効性だけは揺らがなかった。前者はその法則によって長く繁栄を享受し、後者は極めて短期間で国家組織その物が壊滅した。


 この世界は厳しい。例えば、前代未聞のトンデモ理論で経済をダイナミックに回そうとする者に対してすこぶる厳しい。


 これは比喩である(揶揄ではない)


 アニメの円盤であれば、政策委員会に自らが作り上げたコンテンツの売り上げに自信が持てなければ、人気声優を総動員する特典をてんこ盛りする。


 それは握手会に留まらず、音声通信による直接会話、更に同行旅行ツアーなどへの応募券(・・・)など。コンテンツの何を隠して余る程の化粧を施す。


 流星迎撃隊への入隊希望者の場合、"推薦枠"で採用されたパイロット達は、クソシナリオ+画質崩壊+不人気なアニメも真っ青になる程度の需要しかない人材だった(自尊心と気概だけは、聞かされれば誰もが驚く程に立派なレベルまで高められていたが)。


 クソシナリオ+画質崩壊+不人気なアニメであっても、憧れの美人・美男声優さんとのコミュニケーションを図れる唯一の手段であるとして、何らかの手段で調達した"大枚のユキチ"を調達した上で、喜んで膝を地に付く(そえば、最近こんな話聞かなくなったな)。


 これと同じ理屈で、多くの流星迎撃隊では、そんなゴミを喜んで受け入れた。


 ゴミであっても、本人と相応の特典を一体化させれば=需要的要素を極限(貧乏人の目を眩ます)まで(程の)高めてやれば(大金を積んでやれば)その供給性(総合的な価値)は無限力の域にまで登り詰める。


 ゴミと揶揄された"推薦枠"のパイロット達の多くは、ほとんどが操縦技術不十分者だった。更に、上官に対する命令不服従の傾向も強かった。


 それでも、お断りするのは賢い決断ではなかった。変な気概を示して"長いものには巻かれろ"と言う人生の(慣習的)知恵(ウィズダム)に真っ向から逆らっても、ある種の社会では(ろく)でもない結末に至りそうだ。だから、保身を目的として、上方向からのリクエストを本気で(最後まで)拒否する者はとても少ない。


 だが、そうでありながら、この流星迎撃隊の飛行隊隊長だけ例外だった。こともあろうか"推薦枠"のパイロットの受け入れを基本的に断っていたのだ(どうしても断れない場合もあるが)。


 彼は、「流星を迎撃成功して国民と国土を守るよりも、大切な事はない」と言う単純な理屈=歴史的倫理を弁えていた。


 そして、流星迎撃と言う難易度が極度に高い任務を担う以上、万が一の事態を避けるためには"本物の(・・・)精鋭"を集める必要があったからだ。


 一方、彼以外の人事権の保持者は、「流星を迎撃成功して国民と国土を守るよりも、ずっとずっと大切な事はある」と言う単純な理屈=歴史的倫理を弁えていたのだ。こともあろうか!!


 実際、未熟を理由に流星を撃ち漏らしてしまえば、その後に確実に訪れるのは地上への深刻な流星被害である。それは誰の価値観に照らしてみても、取り返しの付かない事だった。


 しかし、取り返しが付かない事を前にして、「それは仕方がないことだ」と言い訳して、躊躇なく不適当な選択する能力を持ち合わせる人類は案外と多いものだ。


 実際のところ、十分な訓練と十分な整備・補給を施したとしても、まともなパイロットを取りそろえたところで、流星迎撃に完璧はない。想定外のトラブルが必ず持ち上がる。首尾良く流星迎撃に成功しても、「ヒヤリハット」な冷や汗を体験せずには基地への帰投は絶対的に出来ないものなのだ。


 人類共通の問題なのだが、"人事を尽くして天命を待つ"と言う迎撃状態が慢性化している。攻めているつもりで守っている。いつでも成功は危ない橋を渡った結果に過ぎない。成功と失敗の差は紙一重であり続ける。


 流星迎撃隊では訓練中の重大事故の発生も珍しくない。


 それほどに重責と危険が伴う任務であるに限らず、「ウチの末っ子や甥っ子を栄光ある流星迎撃隊に」と圧力がとても強い。それは流星迎撃任務資格や流星迎撃任務への従事経験は、どう間違ってそうなったのかは知らないが、偉大なる党に於ける栄達に強く影響するからだ。


 飛行隊隊長としては迷惑千万だ。


 流星迎撃任務資格や流星迎撃任務への従事経験が欲しいなら、流星迎隊の定員を二倍にでも三倍にでもすれば良い。


 膨大な余剰人員枠で、なんちゃって(・・・・・・)流星迎撃任務資格者を迎え入れれば良い。そして、実際の任務はなんちゃって(・・・・・・)でない流星迎撃任務資格者だけで行えば良いのだ。


 名誉など欲しヤツにはいくらでもくれてやれば良い。そうやって虚栄心を満たしてやれば良い。その一方で、流星を迎撃出来る能力を持つヤツは、ストイックに自分の義務を自覚して、成すべき事だけを忠実に実行すれば良い。


 システムをその様に改変すれば、機材と予算の都合で限られた数しか行えない実戦形式の訓練の途中で、不慣れな高高度で、技能不適格者が機体制御をミスって、フラットスピンに陥って、飛行隊隊長の主観によれば、とても貴重な高高度対応機体とゴミ屑ほどの価値もない愚者の命の両方を同時に失わずに済む。


 しかし、現実はそうならない。Best of Best. 流星迎撃隊の定員は少なくなければ精鋭臭が漂わない。誰でも割り込める様では付加価値を醸し出せない。


 昔、"インドシナ半島とマレー半島の両方に跨がる、とある王国の奨学金制度"と言う摩訶不思議な文化があったらしい。全学費免除の奨学金受給者であれば、間違いなく成績優秀者であるとされた。それが災いした。


 奨学金が新しい形のステイタス(地位)となった。受給者は同列に並んでいる者を一歩前に押し出してくれるプリヴィリッジ(特権)を手に出来た。


 おかげで、本来は奨学金が不要である筈の富裕層の父母が、コネクションとマネーを最大限に利用して愛息に全学費免除の奨学金を獲得させる様になった。


 受給者の母達は、自らのヘアースタイルを雄ライオンの(たてがみ)風に整えて、個々それぞれが属する社交界で「タクの息子は全学費免除の奨学金受給者となるほどに優秀ザマスの」と自慢のネタとする。


 だったら、全学費免除の奨学金枠を拡大すれば良い。そうすれば本当に必要な者にも奨学金が届く様になる。しかし、そうすると受給者の総数が増えてしまう。数が多ければ有り難みが減る。希少価値が落ちる。だから、そんな改革を許せる筈もない。


 富裕層の余興によって、本当に全学費免除の奨学金が不可欠な人材、育った家は貧しいが優秀な学生=苦学生への奨学金枠が激狭(ほぼ消滅)となっているのが日常化していた。とか。いないとか。まあ、あれだ。


 この出所不明の噂の真偽は如何に(棒)。


 初見では"なんだそりゃ"なバッフ・クラン(バッフの地球)の社会も、この手の我々の地球の社会も、等しく訳が分からない。筆者の見立てでは、文化(常識)が圧倒的に違う気がする。


 いや、とても人間らしい葛藤(弱さ/弱点)を抱えて悶えるドバ・アジバには、(くだん)の国の倒錯文化と違ってけっこう共感出来るかな。Youtube(サンライズch)で無料公開されている伝説巨神イデオンを見て映画の後半(発動編)を思い出すと、本気でそう思える。


 実は、これらと同種の倒錯行為が人民共和国の社会でも繰り返し行われていた。人類世界では、どこの社会でもこの仕来(しきた)りだかシステム(悪徳)はけっこうな普遍性があるのだろう。


 大小、高低、多少の差はあるが、人類は、多かれ少なかれ、この種の愚行にとても寛容な生き物なのだ。たぶん。


 飛行隊隊長は、その歴史が証明済みの真実の傾向に(いら)ついていた。別に潔癖症と言う訳ではないのだが。


 そして、更にもう一つの問題を知って、与圧ヘルメットで覆われていて触れられない自分の頭を抱えたくなった。


 ーーークソがっ!!


 人民共和国へ向けた暗黙の支援として、合衆国とインド共和国とドゥクパ王国がわざわざ展開させてくれた歴戦錬磨の迎撃隊を追い払ってしまった。何と、司令部の判断で電子的な活動妨害を加えたらしい。


 飛行隊隊長としては、自分達が保有している迎撃隊の実行力は、特にドゥクパ王国の猛者達には遠く及ばないことを熟知していた。彼等は、迎撃活動初期では、竹細工の玩具の様な高高度戦闘機(NF-104A)を駆使して、迎撃成功率(撃破率)90%を叩き出していた。


 一方、彼の飛行隊では、彼等よりもはるかに先進的な高高度専用戦闘機を駆使しながら、迎撃成功率(撃破率)70%に及ばない(公式には迎撃成功率(撃破率)100%と発表されている)。


 どうせ、難易度の高い迎撃シーンで活躍するところを記録させて、人民共和国・国民を高揚させるとか、幹部の誰かが退任後の偉大なる党での出世レースのネタにしたいと言うのが本音なのだろう。


 少なくとも飛行隊隊長はそう考えた。実際の所は、無責任な責任者(←日本語としておかしい)の一人が「漢のロマンを追(そう言うの嫌いじゃな)(いぜ)した」だけだったのだが。もし、彼がその経緯(事の真相)を知ったならば、小一時間は開いた口が閉じられなくなってしまっただろう。


 貴族と平民。それらの価値観の違いは相当な開きがある。そして、人民共和国の様に生活様式が貴族(プロレタリアート)平民(貧乏人)に別れた社会では、相互隔離の継続期間が長引けば長引くほど、まるで別種の生物であるほどに感受性の分化、いや、多様化が進んでしまうのだ。


 飛行隊隊長は、彼の世代では珍しい生真面目な価値観に縛られていた。金が大好きな事は臆さず公言する。もちろん、老後の生活を保障する利権にありつける様なコネクションも欲しい。それでも、国家の防衛はそれらの全ての渇望よりも優先すべき義務であるとの信念を持っていた。


 それでも、本来は精鋭だけで構成されるべき彼の飛行隊も、"推薦枠"が3席も埋められてしまっていた。彼の持つ人事権よりも、更に上位の人事権と言うものがある。それどころか、逆に彼の飛行隊は本物の精鋭だけを集めるとの噂が立ち、彼の部下に加えられる事が一つのステイタス(利権)と評価されたりもしていた。


 本末転倒である。


 マルクス(とエンゲルス)があの"奇本"の執筆時に共に知らなかった概念。物価に対する付加価値と言う要因。需要と供給のバランスによって、売り物/サービス/情報の価値が上下変動すると言う現実。


 ーーー物の価格(物価)と労働力の量の関係が確実に一致する(同一変化する)筈ないじゃん。


 つまり、似非科学に過ぎないマルクス経済学で、人間相手(市場)に、物価を完全制御する事は絶対的に不可能と考えて問題ない(偉大なる党が支配する某国家の、国家統計局だか、国民経済総合統計司の話によれば、かの国の経済ではデフレは起こらないらしいが・・・。党がそれを許さないから起こらないのだろう。きっと)。


 ーーー一度でも良いから見て見たい。共産党が作るまともな社会主義国家。


(日本国が最も成功した社会主義国家と言う揶揄は除く。また、彼等にとっての究極目標である共産主義国家の方は、どれもこれも原始共産主義国家として誕生して、例外なく筆舌に尽くしがたいバッドエンド(アジア的優しさ)を迎えた歴史的事実があるで、ちょっと勘弁。)


 この飛行隊隊長の部下になると言う選択は、他の飛行隊よりも狭き門であるが故に、相対的な価値が高見(・・)へと変動していた。高い需要に対して、少ない供給であるが為に。何とも資本主義的な因果である。


 しかし、供給不足がもたらしてくれた飛行隊隊長の高い価値を以てしても、自国が自ら招いた失策を取り繕う事はできない。


 この飛行隊隊長は良心的な流星迎撃者(スター・ファイター)であったが、残念な事にその事実を共に成層圏を飛ぶ仲間達に対して伝える(すべ)を持ち合わせていなかった。


 だから、民主義国家群の(コマ)達は揃って今回の流星迎撃作業から身を引いた。誰だって、邪魔をする相手に対して、ヴォランティア精神を発揮して自らの命を危険に曝し続ける義理は感じない。


 だが、それでもまだ基地へ帰投せずに高度6千,000m付近を周回飛行中だ。ADS-B(放送型自動従属監視システム)をオンにしているので、早期警戒管制機の空警2060が送ってくれる空域情報からフォロー可能だ。


 ーーーまだ、懲りずに今後も自分達と繋がり続けてくれるのだろうか?


 この飛行隊隊長は、将来的に共同作戦を張れる事を祈って民主義国家群の(コマ)達の基地帰投までの無事を祈った。


 そして、自分達の迎撃戦力の現状確認を行う。高高度長時間滞空無人航空機の無偵7が、無数にミャンマー連邦の領空(成層圏下層)に集まっている。低軌道を周回中の宇宙ステーションと共同で、「2069MN3」の監視を行っているのだろう。


 早期警戒管制機の空警2060が送ってくる情報は、アップデートされる度にハデに予想軌道が変異する。三軸まるごとズレているので、今のままでは"当たるも八卦当たらぬも八卦"だ。


 ーーー組織の()の連中は、我が国の機材の公式スペック(メーカーの営業トーク)を丸ごと信じているらしい。


 御目出度(おめでた)い奴らだと感じ、飛行隊隊長はまたまた眉間に皺を強く寄せた。


 公式スペックなんて、条件付きで達成可能であろう(・・・)理想値でしかない。また、航空兵個人の練度の問題ではなく、航空兵を集めて協調させて作戦を実行させる訓練も不十分だ。サッカーで言えば、シュートやドリブル等の個人技の練習は出来ているが、試合形式で選手達が共に連携して戦う訓練の方はお座なりみたいなイメージだ。


 極度に個人技に頼る。これが、彼の属している組織の典型的な問題だ。


 飛行隊隊長のAVIC・J-20「威龍」が、司令部からの指示通りに空域に到着した。予想通り7機しか自機に付いてきていない。上昇失敗して落下した一機は、たった今、隣国のミャンマー連邦領空を侵犯してしまい酷く焦っている様だ。続けて、ADS-B(放送型自動従属監視システム)をオフにした様だ。


 ーーー馬鹿だな。それじゃ、あちら様(ミャンマー)も仕方なくスクランブル対処する以外の選択がなくなるぞ。


 流星迎撃目的の途上で発生した事故なのだから、素直にミャンマー連邦の航空管制官とか防空オペレーターを呼び出して、こちら側の不手際を伝えた上で領空の無害通過を宣言するべきだったのだ。


 ーーー"推薦枠"のガキどもはどいつもこいつも世間知らずで困る。


 飛行隊隊長は部下の不始末を無視して、精鋭7機のポジションを再確認する。高高度仕様ヴァリアントであるから、主翼と副翼がノーマル仕様機よりも一回り大きい。エンジンもベスターノズルではなく、ソ連のMiG-25程ではないにしろ、巨大なノズルへ変更されている。


 どの機体も、流星迎撃ミッションにおいてはとても不器用に飛んでいる。日本国が開発し、同盟国に提供しているラムジェット・エンジン搭載型の高高度専用戦闘機の様な、流星迎撃の特化していながら、高高度迎撃ミッションに対する柔軟な運用が出来る様な機体が欲しい。


 飛行隊隊長は道具は選べない。結局、誰でも有る道具の中からどうにか仕えそうな物を選んで任務を達成しなければならない事は承知している。しかし、おそらくドゥクパ王国が運用している三菱・F-3の流星迎撃ヴァリアントを好ましいと評価し、密かに慕っていた。


 彼は、AVIC・J-20「威龍」が駄目な戦闘機だと言いたいのではない。異なる任務であれば極めて有用な機体であると高く評価してさえいた。


 だが、流星迎撃にAVIC・J-20「威龍」の高高度仕様ヴァリアントを利用する行為は、松坂牛のステーキをプラスチック製の使い捨てナイフとフォークのセットで食す程にミスマッチが甚だしいと考えていた。


 つまり、適材適所の思想に反すると言いたいだけなのだ(隠密行動である事が不要の流星迎撃で、何故ステルス構造機体を原型とする機体を運用し続けるのか? など。問いたい点は山ほどあった)。


 飛行隊隊長は、飽きもせずにまたまだ舌打ちした。本来なら5編隊の5箇所から流星に向けてミサイルを発射する予定だったに関わらず、結局5編隊で総数29機しか迎撃ポジションに付けなかったと理解したからだ。


 早期警戒管制機の空警2060から、データ通信で「作戦開始」が告げられた。


 ーーー大丈夫なのか? 「2069MN3」の位置と軌道はちゃんと把握出来ているのか?


 飛行隊隊長の心配を他所に、続けて二つの通達がなされた。


 1)核弾頭搭載型の衛星破壊兵器(ASAT)の起爆コードは開封処理済み。


 2)閃光防御の徹底。


 一番は、AVIC・J-20「威龍」各機に搭載される核弾頭管理コンピューターに離陸前に予め登録された起爆コードが、早期警戒管制機の空警2060による遠隔操作でアクティブ状態に移行された事を示している。これで、ミサイルを撃てば核弾頭が作動する状態に移行した。


 二番は、ロケット軍がぶっ放す大陸間弾道ミサイル(ICBM)と中距離弾道ミサイル(IRBM)が既に離床済みであることを示している。どうやら、10発を打ち上げた様だ。大盤振る舞いだ。


 高コストな大型ブースターの大盤振る舞いは、管制側の迎撃に対する自信の無さの裏返しとも言える。標的である流星の軌道予測の追い込みが出来なかった為、想定されるいくつかポイントに狙いをバラしているからだ。


 ーーーとにかく、この空域に浮いていられる間に衛星破壊兵器(ASAT)の発射指示を送れよ。


 飛行隊隊長は、AVIC・J-20「威龍」の高高度仕様ヴァリアントは、三菱・F-3の流星迎撃ヴァリアントと比較すると、ミサイル発射ポジションにとどまれる時間が短い事を気にしていた。勢いとエンジンによる合成推力が低下して降下が始まってしまうと、流星を狙ったミサイルの命中精度があからさまに落ちる。何より、ミサイルの到達高度までも相当に下がってしまう。


 飛行隊隊長は、与圧ヘルメットの標準装備である二枚目の遮光バイザーを下ろした(電子的な操作(デジタル)で減光させるよりも、アナログで物理的に減光する方が確実)。それと同時に、愛機が大規模な電磁波の直撃を受けた事を知らせるサインを出した。耐電磁波ショック(E.C.C.M.)回路が自動で起動し、AVIC・J-20「威龍」の作戦継続を保証してくれた。


 どうやら、低軌道の宇宙ステーションからの核弾頭搭載ミサイル(非公式搭載機材)の発射と起爆が成功したらしい。もし、流星の軌道予測が正しく、更に狙った宙域で核爆発が狙い通りの規模で起こっているのなら、大気圏内の迎撃隊の出番はこれで消滅した可能性もある。


 だが、飛行隊隊長は、空調の効いた機密服に包まれている筈の背中が、どうにもむず痒く感じる(湿って不快と感じる)"嫌な予感"を打ち消せずにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ