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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
50/143

星が落ちた国で。 〜3

 自然災害由来の人災がポーンサワンを壊滅させる1時間ほど前。


 人民共和国領土内の、何処にあるのかは、とてもとても議論の余地がある。あまりに恐れ多くて、資本主義者の()くれにとっては口の()に上られる事も憚られる。


 ともかく第三次世界大戦が終わった直後に開始されるだろう、棍棒と石ころによる最終戦争の成り行きを涼しい表情で見守れそうな程に強固な地下シェルター。


 つまり、どんな流星が落ちてこようが安全な場所に潜む男は配下の男、いや下男にこう言葉を賜った。


「僕はものすごく流星迎撃に詳しいんだ」


 その男は、太子党若手の有力者の長男だった。もちろん、兄弟はたくさんいるし、妹も少しだけいる。妹の方はより正確な記述に徹すれば「腹違いも含めて」だが。


 不思議なのは、一人っ子政策真っ直中だった時代に子育てをしてた筈の、曾祖父も祖父も沢山の兄弟を姉妹を持っていた。まあ、人生イロイロ、社会のイロイロ。ついでに家庭もイロイロである。


 家族のメンバーは多い事は良い事だ。


 その有力者の長男は胸の前には、「☆」に「ロケット弾(或いはジャンプ弾)」を追加した様なマークのバッジ(記章)を付けていた。


 ロケット弾(或いはジャンプ弾)とは、先端に紙火薬を仕込んで投げると、地上に落下した時に破裂音がすると言う昭和ボーイズが好んで遊んだ玩具だ。今ではほぼ消滅済みだろうが、駄菓子屋なる未成年者向け小売業者の手から買い求めるのが一般的な流通経路であったと言う。


 もし、何かしらの興味を持てた用なら、是非グーグル先生かSiriさんに尋ねてみよう。検索ワードは「ロケット弾 ジャンプ弾 玩具」を三つも並べれば十分だろう。


 有力者の長男は、どうにもそのどこかで見た様な気がするバッジ(記章)を人差し指の爪で弾いた。チーンと不必要なまでに良い音がした。まるで熟練の鍛冶職人が鍛えた火鉢箸であるかの様な、良い音が地下壕内に響いた。


 下男は知っていた。そのバッジ(記章)は、自分の主人に自尊心の一つを形成する重要な要素であると。


 それは、人民共和国が誇る、解放軍空軍の流星迎撃隊の資格保持者を示すものだった。それが示すのは、優秀な航空兵を集めて、それをふるいに掛けて、最後に残ったほんの一握りの上澄み=最もハイリスクな任務を達成する技能の持ち主であると言う人民からの評価だった。


 ーーーBest of best.


 おそらく、人民共和国でも子供達の憧れの職業の一つである筈だ。旅客ジェット機が飛び回る世界より遙か上方の成層圏を自由に飛び回る流星迎撃パイロットの"証し"と言う事だ。


 ただし、下男は知っていた。自分の主人は、その"証し"を持ちながらせいぜい成層圏の入り口をなぞる飛行した経験しか持ち合わせていない事を。ただ、優秀な航空兵を集めて、それをふるいに掛けて、最後に残ったほんの一握りの上澄みの一人を不合格にして、その席に自らの本名を滑り込ませた男に過ぎなかった。


 とは言え、その優しげな人事作業を行ったのは本人ではなく"大好きなパパ"だった。息子が望んだので、軽い気持ちで自尊心を満たしてやったのだ。本人はその絡繰りを知らない。だから、本当に実力で流星迎撃パイロットの資格を勝ち取ったと信じていた。


 なお、その優しげな人事作業を行ったのは彼の"大好きなパパ"一人だけではなかった。他に3人のドラ息子が流星迎撃パイロットの資格を勝ち取っていた。


 何とも、優しい世界である。


 なお、共産主義者が支配する国ではどうだか知らないが、人民共和国の栄光を背負うそのバッジ(記章)は、日本人やタイ人の目から見ると・・・。2069年現代でも子供達の間で人気動画コンテンツである、元祖「ウルトラマン」に登場した科学特捜隊の"流星マーク"と瓜二つに見えた。


「僕はものすごく流星迎撃に詳しいんだ」


 実務経験ゼロの流星迎撃パイロットは、もう一度同じ言葉を口にした。


 その男は、何と今回の流星迎撃作戦の現場指揮者であった。強固な地下シェルターの中から、自国軍や他国軍の高高度迎撃機が展開して行く様子を大きなモニターで監視していた。


 大気圏外と大気圏内の両方に、合わせて自国製衛星攻撃兵器(ASAT)を搭載した迎撃機が40機以上が上がっている。その数には管制機や観測機などは含まれない。真に大盤振る舞いである。


 合衆国は大気圏外も含めて全7機。ドゥクパ王国では大気圏内のみで4機。インド共和国も等しく4機。日本国でも2機が上がっているが、それはあくまでも万が一に備えてである。だから、正面迎撃力としてはカウントされない。


 ーーーライオンは兎を狩るにも全力を尽くす?


 カッコヨク言えばそうなのだろう。しかし、人民共和国の場合は現実は少しばかり異なる。


 人民共和国と言うか、権威主義国家群の辛いところは、全てを一カ国で賄う必要がある事だ。権威主義国家群に数えられる国家の数は膨大だ。しかし、流星迎撃を担当出来る戦力を保有する国は皆無だ。また、人民共和国がそれらを肩代わりしてやる事で、親分としての面子が保たれてもいた。だから、この金食い虫の公共事業で手を抜くわけにはいかなかった。


 実質、約60機を自国領空に展開させる。何と誇らしい。気分がとてもとても向上する。この圧倒的防災力なら、万に一つの失敗の可能性だろうと言う楽観。


 突然に飛来する流星を準備期間ほぼゼロで撃ち落として地上への被害を消滅させる。カッコイイ。きっと世界中の人々が人民共和国の偉業を讃えるに違いない。


 流星迎撃作戦の現場指揮者は、弛んだ腹を揺らしながら、そして対象的に細い首を上下に振りながら、一つのアイデアを閃いていた。それを実行する事が世界最優秀である"中原民族"の価値を世界中の愚民共に示す行為だと感じていた。いや、義務であると判ってすらいた。


 ーーーもし、合衆国率いる民主主義国家群が撤退しながら、人民共和国一カ国だけで流星迎撃を達成したならば・・・。


 つまり、カッコイイと。彼にとって、失敗などを検討する行為は反革命行為であり、資本家階級を讃える行為でしかなかった。


「おい。早期警戒管制機の空警2060(ベリエフ・A-100のコピー機)に指示を出す」


「はっ」


 下男は、いや、実は現場では極めて優秀と評価されていた"少校"は、恭しく頭を下げて、彼の上官である"大校"の神託を待った。


「流星通過コースにいる虫螻(むしけら)共を蹴散らしてやれ。電子ビームでも何でも良い。作戦継続を邪魔してやれ」


"少校"は一瞬だけ身体を凍らせた。流星迎撃作戦の現場指揮者は、人民共和国への配慮でわざわざ迎撃機を上げてくれた合衆国とインド共和国とドゥクパ共和国に喧嘩を売るつもりであるからだ。


 流星迎撃に絶対や完璧はない。だから、出来るだけ多くの「矢」を用意して次々と放つ必要がある。その途中でどれが一つが成功すれば良いと言う、確率論的な対処法を採るのがベストとされていた。


 でありながら、自国の前に張られている三重の城壁を自ら排除すると言う。つまり、本丸だけで脅威に対処したいと言っているのだ。まともな神経であれば、いくら本丸に最大迎撃力である60機(すべて核弾頭を搭載)とは言え、宇宙航母や戦略ミサイル軍の助力があるとは言え、そんなアイデアを閃いても実行には移さないだろう。


 どう考えても、セーフティー・ネットの枚数は1枚でも多く重ねるに越した事はないのだ。転ばぬ先の杖とも言うじゃないか。


 ーーーしかし、このドラ息子はそう考えないのだ。


"少校"は、優秀な軍人の意識から、一瞬で忠実な下男の意識へと自らの立場を回帰してみせた。彼が自らに従順であり続ける事を律していた。自分の立場を守る為と言うより、家族の身を守る為と言う要素が強かった。


「さすが司令官です。自らが近い将来に背負う栄光の巨大さを知り、部下達もきっと身震いする事でしょう」


 現場のパイロット達は、本当に身震いするだろう。ただし、栄光ではなく恐怖を感じて。プレッシャーは凄まじいものとなるだろう。これが"少校"が舌の上に乗せられた唯一の厭味だった。抵抗は無駄と知っていたからだ。


 流星迎撃作戦の現場指揮者は、"少校"の厭味にまったく気付かなかった。むしろ、もっと良い気分になった。


"少校"は、最高司令官や総司令官や偉大なる指導者のあたりが間違いに気付いて正してくれる事に一縷の望みを繋いでいた。


 しかし、その無茶な命令は実際に実行された。早期警戒管制機の1機の空警2060と2機のY9電子戦機と1機のSAC・J-16D電子戦機が戦列から離れた。


 下僕は、この現場の采配を見て少し安心した。サボタージュだ。最大で1/3の確率の有効性しか発揮出来ない機材割り振りだ。ネパール共和国領空を侵犯中の高高度長時間滞空無人航空機の無偵7を一機も差し向けていない。


 差し向けた中の2機、Y9電子戦機には上昇能力に制限がある。だから、有効な電子戦を行える高度まで登れない事は分かり切ってる。


 現場でも、この下僕と同じ考えを持つ指揮者が存在している事の証明だ。民主主義国家に密かに送っている本音のジェスチャーだ。


 だから、民主主義国家の軍も、自分達の様な沢山の下男達の寒い事情を察して、迎撃戦力を引き続き残すなどの配慮を期待しても良い。ここは"助け合い"じゃないか。そうだ。そうかも知れない、と少しだけ事態の行く末を楽観視した。


("助け合い"なる美句を口にする輩は・・・総じて、仮に助けられても、決して助け返したりはしないものだ。その手の社会常識をこの下男は十分に弁えていたのだが。)


 だが、やはり、小さな楽観は直ぐに大きな悲観へと転じた。


 それからたった3分後。合衆国とインド共和国とドゥクパ共和国は迎撃機を後退させた。少なくとも迎撃可能なポジションからは外れ、作戦内容を観測業務へと切り替えた。


 沢山の下男達は配慮を受ける事は叶わなかった。いや、本質的にはより多くの、億の単位にも達する正真正銘の無産階級者達の群が、だ。まあ、仕方がない。そんな人類の一勢力は、民主主義国家にとっては納税者、或いは有権者ではないのだから。


 以上の経過を辿り・・・。


 ーーー王様はハダカになった。


 それも自ら望んで。


"少校"は、素直に喜んでいる流星迎撃作戦の現場指揮者の後頭部を眺めながら、暗鬱な気分になった。きっと安っぽい向上感に浮かれて、瞳孔は開きっぱなしなのだろう。汚れのない心で見付ければ、もしかしたら二つの瞳がキラキラと輝いていると言う印象を受けるかも知れない。


 いや、後ろにいる彼の二つの瞳が構成する視界からは窺い知れないが、もしかしたら、緩くなった口元から少々ヨダレが垂れ始めている。そうであれば、ただの阿呆という印象しか受けないだろう。


 主人には悪気が全くないことだけは知っていた。だが、それは彼が聖人君主の末席に連ねている事を意味したりはしない。


 単に善悪の区別を付ける教育を施されてないだけだ。または、放任教育を良しとする世代が続いたことで、遺伝的に喪失してるに過ぎない。


 それによって、自分が好ましいと感じる事態は、世界の誰とでも共有出来ていないはずがないと言う強烈な自信を獲得出来ている。故に、自分が望む道がどれほどに大それたものであろうと、「絶対に上手く行く」との確固たる根拠を持ち、保ち続ける事ができる。


 それを聞かされれば彼以外の人間であれば、限りなく希薄な根拠しか持ち合わせていないと感じるだろう。


 ーーー世間とズレている。それも盛大に。


 だが、この素養や傾向は悪い事に作用するばかりではない。妄信する信念の内容が、時と状況と需要と完全に合致すると言う劇レアなケースもありえる。人類の歴史は、その種の最大の幸運に恵まれたレア・キャラクターを指して「英雄」と呼ぶ。


 下男が仕えさせていただいている(・・・・・・・)主人に限れば、「大それた事」を躊躇なく実行すると言う一点に限れば、客観的には英雄と同じ行為に勤しんでいる言える。


 英雄との明確な違いはたった一つしかない。それは、「大それた事」を躊躇なく実行した結果が「社会を救った快挙」ではなく「取り返しの付かない愚行」に終わってしまう事だ。


 下男が仕える主人が「大それた事」ではないので躊躇せず実行出来るのは、自分がやっている事が大それた事」であると言う自覚がないからだ。


 だが、過去の英雄達も意外に彼に近い価値観で「大それた事」を実行してしまったのかも知れない。英雄譚とは、単に"終わりよければ全て良し"と言う幸運な愚者が残した業績の積み重ねなのかも知れない。


 その意味で、下男が仕える主人は幸運に恵まれそうにない。「大それた事」を実行する力の源となる妄信する信念の内容が、時と状況と需要と完全に合致しそうにない。


 ーーーつまり、後世はおそらく彼の冒険の結果を「英雄譚」には分類しまい。


 下男が仕える主人は人生最初の取り返しの付かない挫折を、間もなく体験する事になる。


 故に、下男は小ぶりな同情を禁じ得なかった。


 彼の主人は生まれて来るタイミングと、現在の地位に就くシチュエーションが悪過ぎた。


 ーーーどれほどに先鋭的な愚者であったとしても、本人の努力だけでは"共産主義者三大虐殺者"に継ぐ程の殺戮を実行不可能なのだから。


 大事件や大惨事の発生は、歴史的にそれらが起こる条件が整っている場合が多い。逆説的には、条件が整ってさえいなければ、どのほどの大物であってもそれらを引き起こすことは出来ない。仮に挑戦しても失敗に終わる。


 そう言う意味で、彼の主人は"共産主義者三大虐殺者"に継ぐ程の惨事をこれから引き起こすのだから、特別な運命の下に生まれていると言える。言い換えれば、本人の努力だけでは絶対に成し遂げられない悲劇を巻き起こす場面(カード)に出会える(を引き当てる)だけの、ある種の激レアな才能の持ち主であった訳だ。


 この一点だけは認められて然るだろう。彼は、歴史によって実行者として選ばれたのだ。


 実は、この男の下男は、自身の本物の主人はこのアダルトチルドレンの方ではなく、竹のカーテンの向こう側に身を潜める父親の方と認識していた。それでも十二分に気遣って、便宜上の主人よりも前方に立ったり歩いたりした事はなかった。勿論、非常時になれば「仕方なく(政治的判断)」ではあるが、身を挺して凶弾から庇うのだろうが。


 だが、彼の主人は、今まではそんな不運(バッドエンド)には無縁だった。そして、主人は身を護身目的であろうと、部下に自分の前を歩かせる事を嫌った。それは、「支配者たる者は常に先頭を歩く」と言う文字通り不眠不休の信念に基づく行動であったらしい。


 彼なりの美学なのだろう。100%の悪人は存在しづらい事の証明でもある。


 だからと言って、ノブレス・オブリージュと言う訳でもないだろう。


 実際の所は、凶弾の可能性を秘めた群衆の前に立つ事の本当の恐ろしさがこの年齢になってもピンと来ないから、そんな男気を発揮出来ているだけなのだ。或いは、きっと、敵の弾丸は自分にだけは避けたりすり抜けたりと信じているのだ。主人公補正的理屈で。


「連合スペースガード(USGA)」の流星迎撃隊の指令官が、知らずの中に対決しているのは、こう言った人物である。もし、仮想敵の指揮者がこの全容を今この瞬間に知る事が叶うならば、きっと呆れ返るに違いない。いや、心から怖れるだろうか?


 ーーーそれとも、仮想敵国がポイントをまた一つ失った事を素直に喜ぶだけだろうか?


「僕はものすごく流星迎撃に詳しいんだ」


 実戦経験ゼロの流星迎撃パイロットは、もう一度自らの主張を繰り返した。


 そして、科学特捜隊の"流星マーク"と瓜二つの()章を指先の爪で(はじ)いた。


 とても良い音がした。


 その音色に、やんごとなき、とても正しい労働者階級(プロレタリアート)血統(血筋)の体現者は自らが作り出した現状に、心から満足していた。


"少校"は、一人娘を日本国の大学へ留学させていた。


 ーーー良い日本人を適当に見繕って生涯の伴侶とせよ。


 彼は、「帰国は無用」と言う主旨のメッセージを送ろうと決心した。ただし、このピンチを無事に潜り抜けて、全てを解決した後に彼自身に少しばかりの自由(猶予)が残されていれば・・・であるが。


 ーーー上官の失敗は、全て自分の失敗となる。


 彼の現実的な判断力では、既に詰め腹を切らされているものと割り切れていた。


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