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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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星が落ちた国で。 〜2

 自然災害由来の人災がポーンサワンを壊滅させる3時間ほど前。


 自由主義諸国が作り上げた世界的な互助機関「連合スペースガード(U.S.G.A.)」が、最大級の緊急警告を全世界に向けて発した。


 もちろんに、直ちに直接的な脅威となるレベルの「流星被害」に対する警告だ。


 この情報を受け取った人々の多くは、小惑星「2039AA」、アカパンダ(インターステラー)が引き起こした一連の騒動を記憶の奥底から引っ張り上げた。


 太陽と言う、太陽系最大質量によって軌道をねじ曲げられながらも、離心率1以上を維持し続ける軌道にある超巨大質量(系外小惑星)「2039AA」の突然の発見。


 続けて、地球への衝突コースにある事実の判明。


 2039年に、公式には合衆国が打ち上げたカウンター大質量による爆砕が成功した。


 つまり、地球とそこに暮らす多様な生命群は守られた。


 おかげで人類社会は2069年現在まで続いている。


 2070年代を目前に控えても、元・地球接近天体(N.E.O.)であるアカパンダ(インターステラー)を起源とする無数の破片は地球近傍宙域に残されている。


 ただし、軌道要素が不安定な小天体に関しては、ほとんどが大気圏突入済みである。だから、2060年代後半からは予測対象でない流星が大気圏突入すると言うケースは激減していた。


 だが、その油断を突いて、久々にトリノ・スケール評価「オレンジ」がもたらされた。


 突然。


 地球を軸とする長大な楕円軌道を周回していたと思われる、巨大な天体の軌道要素が変更した。遷移してしまったのだ。


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」は、或いは権威主義国家の観測機関であっても、その天体の存在を今の今まで把握出来ていなかった。極軌道方面にズレた、推定で15年を超える長大な楕円軌道を持つ破片であったであろう為だ。当然、地球へ最接近するのも今回は初めてなのだろう(そして、おそらく最後でもあるのだろう)。


 そして、それ(・・)は地球への落下軌道に入ったのだ。


 その時点の仮計算でも、地球との衝突確率は60%を超えていた。これは控え目な数値で、ほとんどの観測所では、軌道要素を仮計算を見ただけで「確実に落下する」と確信していた。


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」では、ただちに、正確な落下予測地点の割り出し作業を開始する。開始する時点で落下予測地点はほとんど分かっていた。だが、その将来的な激震地が政治的に微妙なエリアに属しているので、しっかりとした根拠に基づいた予測発表が必要と判断された。


 つまり、「連合スペースガード(U.S.G.A.)」への加盟国の領土へは落ちそうにない。その意味で、「連合スペースガード(U.S.G.A.)」は心の余裕を持って事態に接する事が出来た。


 緊急警告を発した30分後、「連合スペースガード(U.S.G.A.)」は、その地球接近天体(N.E.O.)を仮符号で「2069MN3」と呼称すると宣言した(後にアポカリプス(299942 Apocalypse)と小惑星番号が割り振られる事となる)。


 落下予測時間は150分後。落下予測地点が人民共和国の"昆明"であるとした。


 続けて、「2069MN3」がアフリカ大陸南部沖方向から地球圏へ接近し(地球周回を始め)、インド洋上空で大気圏突入すると述べられた。


「2069MN3」の質量は、観測されたアルベド(反射能)から、直径42m、質量0.7万t。成分は氷塊と予測された。


 その後は、「2069MN3」大気圏突入後の落下軌道予測(複数)が提示された。


 ただし、アルベド(反射能)には奇妙な揺らぎがあり、質量と素材に関しては確定事項ではないと言う捕捉が付けられていた。


 当然である。時間があまりにも足りない。今すぐにでも大気圏に突入しそうなタイミングである。だから、入射光のスペクトルの精密分析作業が完全に吹っ飛ばされているのだ。必要作業をいくつかすっ飛ばすほどの緊急性があったのだ。


 これによって、落下軌道コース領空を担当する「連合スペースガード(U.S.G.A.)」参加国の迎撃チームが緊急出動作業に入る。主に、ディエゴガルシア島の合衆国空軍、インド空軍、ドゥクパ王立空軍の精鋭パイロット達が血液中の窒素を抜くために特殊チャンバーへと放り込まれた。


 合衆国宇宙軍が、低軌道を定期周回させているボーイング・MQ-37「ヴァルキリー II」の一機の軌道要素を変更させて、「2069MN3」への観測作業に入った。また、月軌道プラットフォーム(LOP-G)ゲートウェイを使った多点観測を用いて、より正確な軌道要素と保有エネルギー量の精査に挑戦した。


 一方、近未来の爆心地になると名指しされた昆明を支配する人民共和国は、てんやわんやの騒ぎとなった。まず最初のレスポンスは、直訳すると「「連合スペースガード(U.S.G.A.)」に言われなくてもボク知ってたもん!!」と読み取れる宣言だった。


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」として、そんな冗談を政府報道官を通じて発表する人民共和国に対して、「けっこう余裕あるじゃん」と頼もしく感じた。取り敢えず、「我々に手助け出来る事があれば、何なりと仰有って下さい」と言う社交辞令を返すに止めた。


 しかし、人民共和国と人民解放軍・空軍と宇宙軍とロケット軍の心中は穏やかではなかった。


 人民解放軍・空軍への命令は、高高度(多分に、)対応攻撃機(J-20ヴァリアント)に核弾頭搭載型の衛星破壊兵器(ASAT)を搭載させて、用意が出来た順番で離陸させる事とだった(起爆コードの取り扱いに関しては、合衆国軍よりも扱いがフランクでフレンドリーでトラストフルあるらしい。また、ハートフルかどうかには疑問の余地がある)。


 人民解放軍・宇宙軍への命令は、低軌道上を周回する複数の宇宙ステーションに「流星排除命令」を出した。公式発表では民間施設である為に、武装はゼロであると世界に向けて言明し続けていたに関わらずだ。


 人民解放軍・ロケット軍への命令は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)と中距離弾道ミサイル(IRBM)を含む、発射可能な地対地ミサイルによる地対空迎撃を命じた。弾頭を交換する猶予がないので、複数個別誘導再突入体(MIRV弾頭)であろうと構わず打ち上げる方針を採った。


 基本的に、上昇ステージに落下予測軌道へ近付いて、その周辺宙域や空域で自爆すると言う戦術が取られているらしかった。問題は、それらが炸裂するのは多分に国境を接する南方にある国家の宙域や空域であると言うことだ(大気圏外空間であれば、自国領の上にある宙域の領有までは主張出来ないが)。


「連合スペースガード(U.S.G.A.)」が緊急警告を発した120分後、爆心地となる予定の権威主義国家群(実質、人民共和国一カ国のみ)と民主主義国家群(つまり、直接的な脅威にさらされる訳でもない「連合スペースガード(U.S.G.A.)」加盟国でありながら迎撃フォーメーションに就いた国々)が、共に最低限の大気圏内迎撃隊を離陸させた(これからの順次離陸を続ける。実行力を発揮出来る最低条件がクリアーされたと言う意味に過ぎない)。


 その頃、日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究員が、見落とされていた一つの脅威に気付いた。


 廿里千瀬(とどりちせ)博士が残した「預言の書(通称)」を、"口寄せの巫女"が解釈を付け加えたレポートの内容を思い出したのだ。


 曰く。


  地球に急接近する天体の反射光の"量"に気を取られ過ぎると足下を掬われる事にとなる。


  準惑星観測の歴史を忘れない方が良い。


  氷の反射率は高い。


  岩石の反射率は低い。


  氷と予測していたら、実は岩石だった。


  そんな事になったら大変でしょう。


  もし、地球に急接近する天体の質量に大きな違いがなかったとしても・・・。


  構成物質が異なれば大気圏突入と同時に筋書きは変わらずにはいられない。


  つまり、継続的なスペクトル分析の試みを軽んじてはいけない。


"口寄せの巫女"とは、日本商工会議所(YEG)・会津支部の青年理事の一人である森 朝顔(あさがお)氏を指す。


 その青年理事は、どこにでもいる在り来たりな女性である事には違いない。特別に賢かったり、神懸かり的な才能に恵まれている訳でもない。


 だが、何故か、常人には読解不能と認識される「預言の書(通称)」をスラスラと読み解ける唯一の人類として一部の識者達に認識されている。または、一部の天体物理学者達からは人間嫌いだった廿里千瀬(とどりちせ)博士が唯一取った弟子であると重く扱われている(ただし、森 朝顔(あさがお)本人にそのつもりはなく、実際、高校で習得すべきレベルの初歩的な微分・積分ですら理解していない)。


 JAXAの研究員は、廃棄扱いになっている旧式の地球観測衛星「ひすい 4号」のセンサー面を地上方面ではなく、「2069MN3」方面へと向けるコマンドを許可なく打った。全ては、搭載されているハイパースペクトルセンサーとマルチスペクトルセンサーによる、通常とは異なるスペクトル分析を試みる為だ。


 プリズムを使った波長分析(光の散乱・分散)では、光源の波長特性の特定が必須だ。可視光が持つ"光の3原色"の特定と結果の誤差を、「ひすい 4号」の使い古された人工知能(A.I.)であれば上手く辻褄をつけて説明してくれると言う直感があったのだ。


 ーーーアルベド(反射能)には奇妙な揺らぎがある。


 廿里千瀬(とどりちせ)博士の残した言葉と奇妙に一致する点がある。そうなると、完全に無視するのも恐い。


 実際、過去の例で、事象が残された者達の予想を裏切り、多くの結果が彼女の想定や警告の通りになったと言う実勢も積み重ねられていた。


 だから、余裕や猶予があるなら、廿里千瀬(とどりちせ)博士の言動に引っ掛かる部分があるかどうかをチェックして置いた方が良いと判断したのだ。


 また、JAXA全体が大変に忙しいタイミングであっても、完全に放置されている「ひすい 4号」に演算を実行させるコマンドを送っても、どこの部署にも迷惑は掛からない。むしろ、ポイント・ネモを目指す大気圏突入のタイミングを待つ「ひすい 4号」に最後の生き甲斐を与えられると言う、徳を積む行為とさえ言えるだろう。


 それから10分後、JAXAの研究員は受け取った分析結果を見て顔を真っ青にした。


 成分・・・多い順・・・鉄橄欖石・・・鉄珪輝石・・・。


 ーーーケイ酸塩鉱物!!


「2069MN3」の成分は、「ひすい 4号」に言わせれば水やアンモニアやメタンなどを主体とした氷質隕石ではない。分類が普通コンドライトとなる、石質隕石らしいのだ。


"隕"は「空から落下する」と言う意味なので、成分が石ではなく氷であるのならば、むしろ"隕氷"と呼んでも良いのかも知れない。


 おそらく、小惑星「2039AA」=アカパンダ(インターステラー)由来の天体ではない。


 それからの条件から導き出せる流星の正体は、推定直径32m、質量2.3万t。自転速度は1周/78秒。グラウンドゼロ予定地は楕円形の飛散地域を想定。昆明のやや先にある重慶市〜湖北省。


 反射光(光度)の奇妙な揺らぎは、おそらくは高速な自転運動がもたらしているに違いない。


 JAXAの研究員は、地球観測衛星「ひすい 4号」がもたらした新データをプリントアウトして室長のデスクへと全力で走り出した。


 ーーー想定外のヤバイ事になる!!


 と確信して。


 大気圏突入行程でほとんどが分解・蒸発してくれる氷塊でなく、石の塊である可能性。


 それは、史上初めてのトリノ・スケール評価「レッド」の隕石来襲である。


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