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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第五章 綿津見の随に
30/143

はじまりがおわる。 〜その柒

 インド標準時(IST)で22時。アラビア海に浮かぶ、海上プラットフォーム対応護衛艦「ひゅうが」から、一機の見慣れない航空機が飛び立った。


 ーーー誰にも気づかれぬままに。


 飛び立ったのは三菱社製の試作航空機・XF-3D。日本国航空自衛軍が開発中の超高空仕様飛行機である。


 ただし、超高空仕様飛行機と言ってもロッキード社製のU-2「ドラゴン・レディ」とは真逆に異なる。高空2万0,000mを長時間に渡って巡航を長時間(・・・)続ける事を目的とした機体では、決してない。むしろ、弾道軌道を用いた山形(やまなり)飛行で、宇宙手前の超高空を極短時間(・・・・)だけ通過する事を目標として開発中の機体である。


 そのために、XF-3Dの主翼のサイズは、既に航空自衛軍に配備が始まっている同系の姉妹機達とは違って極端に小さい。同時に薄い。


 長大な主翼が後退角度ほぼなしと言うU-2「ドラゴン・レディ」のイメージではなく、大気を切り裂く様に音の2倍の速度で飛ぶF-104「スター・ファイター」の台形翼のイメージに近く仕上げられている。


 21世紀の大出力エンジンで、大気圧縮が機体にもたらす熱伝達や空気抵抗を最低限で済ませてくれる。そんな推進力の効率化最優先で機体をデザインすると、どうやらこう言う風になるらしい。


 それは当然ながら極端に翼面荷重率が高い機体となる。高速で真っ直ぐ飛ぶ分には都合が良いかもしれないが、どの様な高度であってもまともな機動性の発揮は期待できない。しかし、そう言う過激な特徴がしっくり来る用途は必ず存在している。


 元・通甲板ヘリコプター搭載護衛艦、現・海上プラットフォーム対応護衛艦「ひゅうが」は、アラビア海の()の方までは北上(侵入)出来なかった。借金の(かた)に、人民共和国がパキスタンから無理矢理にもぎり取った土地(無期限租借した拠点)に施設した軍事港湾(租借地)が・・・、いや、より実情に適った物言いをすれば、アラビア海奥部には人民解放軍が誇る二つの国外軍拠点、グワダル平和自由共栄解放特別港とオルマラ平和自由共栄友愛特別港が制御する対空監視網あるからだ。


 そんな海域で甲板から飛行機を打ち出せば、「ひゅうが」自身が、自らが人民共和国にとっての脅威であることをアピールしてしまう。空母中心の打撃艦隊ではなく単艦で隠密活動中の為、人民共和国・国外駐留軍が「ひゅうが」の不穏当な行動に察知すれば無事で済むはずがない。


 当然、グワダル平和自由共栄解放特別港とオルマラ平和自由共栄友愛特別港は、洋上からのステルス機によるパキスタン上空経由の自国への侵攻に備えて、低周波方面の電磁波を使ったレーダーも十分に備えている。備えていない筈がない。


 確かに、その手のレーダーでは、飛行中のXF-3Dの正体や正確な位置などは掴めない。しかし、監視空域を"イレギュラーな物体"が飛行していると察知することはできる。


「ひゅうが」から飛行体が射出されたと気付かれなければ、"イレギュラーな物体"を鳥類かノイズと誤認して見過ごしてくれる可能性は極めて高い。


 だからこそ、XF-3Dの存在への気付きにつながる微かなヒントであっても与える訳にはいかない。これこら、日本国航空自衛軍がやろうとしていることは、敵に些細な警戒心も抱かせてはならないほどに大胆で不敵な訓戒行動だった。


 XF-3Dを電磁カタパルトで射出し終えた「ひゅうが」は、すでに転進を済ませていた。今では、インドの領海を掠める最短コースでインド亜大陸の裏側に当たるベンガル湾やラッカディブ海を目指している。


 XF-3Dがムンバイ上空へ差し掛かった頃は、既に高度3万0,000mを超えて飛行していた。


 速度はマッハ2。


 パイロットの朝間ナヲミ一等空尉は、今までターボジェットとして作動していたエンジンをラムジェットへとモードを進める。


 エンジン内の圧縮用のタービン類が、膨大な大気圧を燃焼室へと迎え入れる為にまとめて"収納"される。


 大気の希薄な高空を完成力による惰性だけで飛びながら、ラムジェット推進への切り替え利用可能と言うメッセージが、擬体にとっての第二小脳に相当する XF-3Dの機体制御管理知性(システム)から伝えられる。


 朝間ナヲミ一等空尉は、機内のバッテリー残量を最終確認してから、ラムジェットのために、新たに燃料噴射を始める。


 変形済みの空気取り入れ口から、ブーストされた大気と航空燃料が安定した状態で混合する。


 次の瞬間、混合気が自然発火する。爆発的な推力増加が、XF-3Dとパイロットを襲う。


 ラムジェット・エンジンに火が入った。そして、その新しい推力は空気取り入れ口から燃焼室へ入り込む混合気を改めて高く燃焼させる。


 パイロットは、突然にあばれ馬と化したXF-3Dの手綱をキツく握る。上へ下へと機種を振る。通常の推力を扱うための機体に、無理矢理にラムジェット・エンジンを腹に抱え込んでいるのだから、扱いづらいのは全て承知の上だ。


 本来は、この特殊な機体は超高空で流星を迎撃するために開発された防災用具だ。そして、現在の仕様のままでは、残念な事に極一部のパイロット達にしか乗りこなせない未完成品だ。


 朝間ナヲミ一等空尉は、この暴れ馬の調教師として開発に最初期から参加していた。また、一番最初に飛行と着陸を成功させたテストパイロットでもあった。


 この夜も、この暴れ馬は、予想通りに乗り手を振り落とそうとロデオを繰り返した。


 しかし、時間にしてたった、無限に感じる約5秒の濃い時間を乗り切ることで、XF-3Dはその後は真っ直ぐに飛ぶ様になった。


 この魔の約5秒間で、今まで3機の試作機が墜ちた。そして、その中の一人のパイロットが重傷を負わされた。


 このじゃじゃ馬のロデオは人間の手には余る。どちらかと言うと、まともな人間にとっては、エンジンの安定化がなされるかどうかは、本人の実力よりも、神が与える運の要素が不可欠だった。


 だか、朝間ナヲミ一等空尉は、近い将来にこの問題は解決されると楽観視していた。


 しかし、いつか訪れるかも知れない(・・・・・・)近い将来を待たずに、非軍用の流星迎撃用途ではなく、想定外運用に当たる実戦用途へと引っ張り出したのは、それほどに状況が緊迫していたからだ。


 これから、アラビア海〜ヒマラヤ〜白京(パッキン)にある赤の広場〜アラスカ、という遠大なルートで、ステルス機による超高高度からのスマート(ピンポイント)爆撃を行うのだ。これを熟せる機体は、日本国には開発中のこの機体しか存在しなかったからだ。


 ただし、あくまでも作戦目的は、象徴的な(・・・・)攻撃に留めている。赤の広場周辺を焼け野原にしようと言うのではない。


 ーーーお前たちもまた、我々と同様に狙われていると知れ。


 ーーー自分達だけが安全地帯にいる訳では決してない。


 これらの自重を求めるメッセージを伝える為の攻撃だ。今までと同じメッセージ(外交ジェスチャー)を、確実に伝えようとする目的で、穏便な罰を繰り返して与えて来た。穏便と言うのは、実は失うが(被害は出るが)名は失わずに(被害を隠し通せる)済ませる(規模に留める)と言う意味である。


 一応、相手の面子だけは守れる様にとの配慮を決して忘れなかった。


 だか、それらは全て無駄だった。


 困った事に、メッセージ(外交ジェスチャー)の真意が送り先に全く通じなかったのだ。価値観と文化が違い過ぎた。だから、敢えて施した最後通牒や最終勧告が、例外なくこちら側の弱腰であると誤解されたのだ(そうでなければ、敢えて無視を続けた(天然を振る舞い続けた)に違いない)。


 だから、今度は()の精神的な拠り所である首都。そこにある、権威主義的独裁国家の政治における中心的施設の隠しようのない破壊を通じてを、支配者達にではなく、非支配民の方に 「民主主義国家群は既に切れている(・・・・・)」と言う現実を見せ付けてやることにした。


 今頃は、人民解放軍は、合衆国のグアムやその同盟国の基地を飛び立つ爆撃機の様子を全力で監視中だろう。


 その隙を突いてというか、従来の常識ではあり得ない、超航空弾道飛行機の打ち出しに対応した海上プラットフォームから、小型ステルス爆撃機は飛び立ったのだ。


 如何に合衆国であっても、ボーイング社製の戦略爆撃であるB-52「ストラト・フォートレス」を空母から飛び立たせることは出来ない。


 しかし、電磁カタパルトと日本国が誇るドルフィン・スキン技術を併用すれば、2,000m級滑走路でも長さが足りない様な高い翼面荷重の機体でも、超過重量で更に重くなってしまう爆装状態であっても、キチンと飛び立たせることが出来た。


 朝間ナヲミ一等空尉とXF-3Dは、ヒマラヤ山脈を遙か足下に見下ろす宙域を弾道軌道で通過する。


 飛行高度はさらに上がる。ほとんど左右には曲がれない。だが、直進と上昇ならば推力頼りで無理なく維持できる。


 沢山の少数派民族を育んで来た土地である筈の砂漠や土漠エリア上空を通過する。


 次に長江と黄河のお陰で土地が比較的に湿っているエリアに際しかかる


 XF-3Dによる弾道軌道は、白京時間で丑三(うしみ)つ時に合わせて、標的である赤の広場の手前で最大高度を迎えた。


 朝間ナヲミ一等空尉は、自分の元級友であり、親友であり、愛人であり、今自分が育てている養女の生みの親である日本国の前総理大臣・万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)の命を奪ったクソどもに、特別に強力な拳骨を見舞う事にした。足下にあるウェポンペイを解放して、怒りを込めた大型兵器を放り落とした。


 本来ならば、その超高高度から「上で向かって(星の世界へ向けて)」放り出すべき荷物を、「下へ向かって(柵みだらけの人界へ)」放り出した。この行為は開発者にとっては、想定外の運用方法だった。


 だが、例えそれが想定外の使い方であっても、全行程は立案者が想定した通りに機能してくれた。


 その「下へ向かって」放り出されたスマート爆弾の制御は、すでにパイロット兼オペレーターの手から完全に離れていた。


 今では、衛星経由か現地工作員によるレーザー誘導のいずれか、または併用が開始されていた。


 彼女は、ただの配達員に過ぎなかった。望まれたところまでスマート爆弾を、あまたの障害を乗り越えて確実にお届けするだけの。


 そこから先は地上攻撃のオペレーションは専門家に丸投げする。実際、遠足と同じで帰るまでが作戦だ。お届けを終えた後にキチンと友軍の滑走路へと辿り着かなければならない。しかし、そのためにはスマート爆弾の誘導にまだ関わっている余裕はない。


 スマート爆弾の攻撃目標は、赤の広場の象徴である初代主席様の肖像画でだった。


 まあ、近くに落ちれば多少落下位置がズレても巨大なブロマイドを粉々に砕いてくれるだろう。


 本当ならば、合衆国に土下座してでも核弾頭を調達して、誤爆(・・)してやりたかった。


 何。一発くらいなら誤射であるかもしれないのだから、問題ないだろう。日本国が誇るクオリティー・ペーパーがそれ(・・)を保証してくれているのだから、試してみる価値がきっとあるのだ。


 しかし、その軽はずみは、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)の一人娘がこれから生きていく世界までをも(かたき)と共に破壊してしまうと諭され、今回だけは実行を諦めた。


 ここからは無理なく、成層圏上層から地表まで高度を下げながらアラスカの滑走路を目指す。その 「無理なく」が難しいのだ。機体への負荷を最低限に収めながら、大気圧縮が(もた)らす高熱に耐えながら減速、降下、誘導を行わなければならない。


 高度を落とすとそのまま速度へと運動エネルギーは変換されてしまう。陽気で気ままに降下してしまっては、機体は熱分解でバラバラに解けてしまう。


 だから、そうならない限界を見極めて操縦する。しかも、アラスカ州へと着陸しなければならないので、下降に要する時間も距離もそれなりに制限されている。高高度飛行の難しさはそれらの両立にこそある。登るのもむずかしいが、降るのも同様に難しい。きつい山への登山ととても良く似ている。


 最悪、コースから外れてしまった場合は、合衆国の五大湖の辺りを遠地点とする、円軌道を取ってアラスカへ戻るという手もある。しかし、そうなると、隠密作戦故に、合衆国やカナダの空軍や州軍にスクランブルでお出迎えされる大事になってしまうかも知れない。そうなると攻撃対象にも、XF-3Dの正体、推力、軌道などの情報を与えてしまうことになる。出来れば、それは避けたい。


 人事を尽くして天命を待つ。どれだけ深く心配しても結果は変わらない。


 攻撃の効果判定は着陸後に聞かせてもらえるだろう。


 機体各所に塗布されていた廉価版ドルフィン・スキンは、ラムジェット推進の副作用である圧縮空気面が挙って発生させた熱抵抗によって漏れなく剥ぎ取られている。


 これなら、万が一、敵勢力に実装する機体やその破片を奪われても、ドルフィン・スキンの材質とその構造を正しく読み取られる心配はない。だが、日本国としては、それらの可能性がもたらす不利益を大した脅威とは見做していなかった。


 すぐに消耗してしまう廉価版ドルフィン・スキンが、自国領土外で運用される事が前提の機体に採用されていた第一の理由は機密保持ではなく、飽くまでも予算削減と運用効率向上の両立を目的としていた。まあ、第四の理由くらいの順位でなら、機密保持と言う目的がない訳でもなかったが・・・。


 ただし、日本国やメーカーである富士見重工の技術者達は、材質、構造、制御などの現在の仕様が強奪されたとしても、大した問題はないと考えていた(わざわざ、(ほどこ)してあげる必然性もないと考えていたが)。


 もしかしたら、"採取したドルフィン・スキンそのもの"のデッドコピーは作れる様になるかも知れない。しかし、新しい状況に適応する為の、プログラム的な創造的修正技術の獲得は不可能なのだ。


 例えば、XF-3Dと同じ空力状況を持つ航空機であれば、デッドコピーは利用出来る。しかし、取得者等独自の、XF-3Dとは空力状況が異なる航空機への応用はほぼ不可能なのだ(エアブレーキなど、力任せな用途であればある程度は応用可能だろうが。しかし、それにはその応力に見合う構造の改修が必須となるので、付け焼き刃的な応用には相当で相応な危険が伴う)。


 ドルフィン・スキンと言う科学的に完全に解明されていない技術を取り扱うには、ある種の特殊な価値観の持ち主が筆をとったり善し悪しを判断する作業(必要)が不可欠だった。それは、日本国としても、想定外の事態且つ状況である事は、ドルフィン・スキンに興味を持つ諸外国の機関と同様だった。


 当初、日本国はドルフィン・スキンの技術を合衆国に高く売り付けるつもりだった。だが、合衆国には、ある種の特殊な価値観の持ち主と言う要因を理解したり、証明する事ができなかった。そのせいで、暫定的ながら、ドルフィン・スキンは日本国の機材のみが実装する装備であり続けた。


 兎に角、人民共和国の防空識別圏からの脱出に成功した。


 意外も、人民解放軍によるお出迎えやおもてなしは、最初から最後まで一切無かった。


 ミッションは穏やかに始まり終わった。


 だが、心持ちは穏やかからは程遠かったが。


 公海上に出てから、エンジンをカットした。ここから先はもうラムジェットを作動させ続けるだけの大気圧力を以上出来なくなる。正確には、減速に入る為、ラムジェットの作動を維持するだけの対気速度を維持できない。


 着陸に備えなければならない。だから対地速度を落とさなければならないからだ。


 しかし、ターボジェットモードへと飛行中に戻すことはできない。ここから先は、無動力のグライダー飛行となる。


 滑空だ。リフティングボディーでもないと言うのに。


 もし、ここで敵が迎撃機を後方から送り狼させていたならば、手も足も出ないだろう。


 第二次世界大戦中のドイツが運用していた、戦闘を終えて燃料を使い果たして基地へ帰投するコメートの様な心細さがある。


 実際、連合国は、コメートやジェット機は、戦闘中には敢えて徹底攻撃せずに、燃料の尽きた後に滑走路を目指す帰投時を敢えて狙ったとも聞く。


 本来は、XF-3Dは本来は対流星迎撃用途の機体である。だから、安全な空域を非武装で飛行することを念頭に設計されている。


 しかし、2040年代になると流星迎撃飛行中の非武装機体を、予告なしで襲撃するとんでも国家が出現した。


 ます最初に、高高度を訓練飛行中だったドゥクパ王国の空軍機が撃墜された。


 続けて、流星迎撃作戦従事中の日本国の航空自衛軍の機体が撃墜された。


 前者のパイロットの命が奪われて、後者のパイロットはギリギリの所で機外へ脱出した後に救助された。


 この後、合衆国とその同盟国や賛同国では、流星迎撃隊に対して、迎撃宙域手前まで護衛目的にエスコート部隊を随伴させる様になった。


 不毛なコスト増しとなるが、海賊や山賊の様な、と言うより空賊が成層圏を跋扈する以上は、仕方のない出費だ。


 こう言った嫌がらせが起こるたびに、合衆国を中心とする民主主義国家群とその他の集まりである権威主義こっちの群の間に出来た溝の幅は広がって行った。


 もう、修復不可能なほどに。まるでホモサピエンスと言う人類が、異なる二つの新種へと分裂して進化をはじめたかの様に。


 もしかしたら、今後、交配不可能な異なる人類が地球の支配区域を二分する様になるのかも知れない。


 そんな事を考えながら、朝間ナヲミ一等空尉は、自機を確実に降下減速させていた。


 自分の第二小脳経由で、フェアバンクス空軍基地への進入ルートの指示を視覚的に受け取った。


 合衆国のレーダーサイトは、エンジン部が丸出しになって前方向に対してステルス性が落ちているとは言え、フェライト塗料で覆われているXF-3Dの位置を確実に捉えていた。


 おそらくは、撮像素子を利用した実像から位置を割り出しているのだろう。


 正直、舌を巻いた。


 XF-3Dを、スペースガード指揮下の偵察作戦に従事していた合衆国宇宙軍所属機として公式に誘導を開始した。


"キング・オブ・クローバー"と呼ばれる事が多くなった、あの男による政治介入が行われたのだ。おそらくは「日本国へ恩を売る」と言う名の元に、旧敵(FireFox)が被った精神的な惨状に対して「共に分かち合う用意がある」と言う同情を示すと言う実を取ったのだろう。


 見た目だけは少女、全身サイボーグである"エース・オブ・クローバー"を公私ともに唯一のパートナーと公言した事から、以前は"人形遣い"と呼ばれる事の方が多かった男の事である。


 随分と人間らしい身の振る舞い方を身に付けたものだ。それはきっと、以前と違って"クイーン・オブ・クローバー"と呼ばれる事の方が多くなった、元共犯者兼現パートナーの貢献によるものに違いなかった。


 しかし、日本国がまだ試験運用にすら落ち込めていない、合衆国空軍の価値観によれば「Y」の番号すら与えられていない開発中の真っ新(まっさら)な機体を、これほどに沿岸部から遠く離れているに拘わらずフォロー出来てしまっている事には、舌を巻くどころか、閉口するしかない。


 合衆国の技術開発に注げる国家的なパワーは、明らかにずば抜けている。日本国とは桁違いのパワーで、開発困難を乗り越えてしまう。


 まさにチート級である。


 朝間ナヲミ一等空尉は、合衆国空軍から丁寧に指定された通りのグライドパスへ接近する。割り振られたコード「FireFox 3」を使用して、管制官との遣り取りを始める。現地観測値の風速情報などを生で受け取れるのは、大きな助けになる。


 特に、着陸間際には極めて小さな揚力しか発生させてくれない、空気抵抗を抑える目的で採用された極めて小さな翼しか持ち合わせない機体を操る者としては。


 朝間ナヲミ一等空尉は、安心・安全を確信して自機にギア・ダウンを命じる。胴体カブに突然に出現した空気抵抗のせいで、フライ・バイ・ライトによる姿勢制御が怪しくなる。


 まだまだ、この機体が躾の最中である事を思い出し、擬体に実装されている義舌を器用に打つ。


「こうやるんだ」と自機に学習させる為に、主翼の前後フラップを展開させて、少ない揚力に出来るだけ上乗せしようと試みる。


 地上支援なし、夜間着陸と言う状況を、この機体が十分に体験出来ていなかったせいだ。


 XF-3Dの人工知能は、その直後に、まるで「指示されなくてもこうしていた」と言う素振りで、姿勢制御の効率を急激に上げた。


 一連のF-3の実用機、F-3A、F-3B、F-3Cの三つのヴァリエーションには、朝間ナヲミ一等空尉が躾けて与えた知恵が多分に盛られている。


 そう言う意味で、彼女には機械ではあるが、育ての息子や娘が多数存在しているとも言える。多くのパイロット達が、朝間ナヲミ一等空尉が育て上げたシステムに支えられている。


 彼女はこう考えている。おそらく、自分が死んでも育て上げたシステム達は生き続ける。育ての親の手を離れた後は、個別に経験を重ねて勝手に賢くなって行く。


 子供のうちはナーヴァスである。それは、人の子でも機械の子であっても何も変わらない事を、彼女は実体験を通じて納得出来ていた。


 手の掛かる子供ほど可愛いと言う意見には同意出来ない。しかし、時に嘘を付く、満開を予感させる蕾たちこそ最も愛おしいと言う意見には全面的に同意していた。


 そして、経験を積んで独り立ちして行くシステム達は、やがては次世代のシステム達を生み出す基盤となり、ついには新しい経験を取り込む為の器やキャンバスとなる。


 つまり、岐阜の技術開発本部を巣立っていった三菱・F-3達に朝間ナヲミ一等空尉が焼き付けたミームは、この先ずっと、どれほどかが分からない程に先の未来まで受け継がれて行く事が確定している。もしかしたら、コンセプトが纏められつつある次世代機「三菱・F-4」や近い将来に不可欠となるだろう宇宙往来機へも引き継がれるのかも知れない。


 自分がいなくなっても、自分の志を継いでくれる(体現し続ける)者達がいる。そして、志を継いでくれた者達(志の体現者達)が、更にその後に登場する未知なる後継者達を次から次へと再生産し続けてくれる。


 自身が、永遠に継がれて行く"魂"と言う柱へとなれそうな気がしてしまう。


 自分は、生まれるだけでなく、生きる事が出来た。その証を、この若さですでに手に入れつつある。


 家に帰れば、二人の娘。向日葵(ひまわり)朝顔(あさがお)がいる。


 何と言う素晴らしい人生なのだろう。何と言う言う幸運に恵まれたのだろう。全身の生身を失った事など、今となっては大した不運ではなかった。そうだと公言して憚らない。


 そこで、高揚する心に冷や水がかけられて、一瞬で(はや)る心が消沈してしまう。


 一方で、現職の日本国・総理大臣として暗殺された万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)は、そう言う確かな何かを残す事が出来たのだろうか?


 そう考えると、心の一番に深い部分の何かが凍り付く様に寒くて痛くなる。


 ーーーしかも、その無い筈の心臓が疼く想いを共有出来る人間が、もう(・・)この世界には一人もない。


 こんな(おも)いは、妻である(もり) 葉子(はこ)にさえ漏らす事が許されない。


 そんな時、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)の遺伝子を直接に継いでいる朝顔(あさがお)を、自分が育てている事を思い出す事にしている。


 菖蒲(あやめ)の想いは、きっと、あの()が何時の日が受け止めてくれるに違いない。


 それで、何とか心の整理が付いた。


 朝間ナヲミ一等空尉は、心の(かす)を殴り捨てるかの様に、推力を弱めて、自機を微かに失速させた。


 時速約240kt(450Km)で、XF-3Dのランデング・ギアを滑走路のコンクリートに叩き付けた。


 F-104「スター・ファイター」やSR-71A「ブラック・バード」を遙かに超える着陸速度だった。高速ランディングは、翼面荷重が高い機体の顕著な特長である。


 ボーイング社の737系旅客機なら時速約130kt(240Km)。無動力で地球低軌道から制御されながら落下して来るスペースシャトルでも時速約300kt(560Km)である。


 XF-3Dは、1万5,000フィートもの長さを誇る長大な滑走路の端まで使う。旅客機の逆噴射が出来ないため、車輪のブレーキと後部に展開するドラッグシュートの力だけで完全停止した。


 直ぐにトーイングカーが現れて、自力でももう一歩も動けなくなった無働力機体を牽引して、滑走路からそこそこ大きな飛行機を動かしてくれた。そして、屋根付きのハンガーへと誘導した。


 その頃、台湾海峡では、別の戦闘が始まっていた。


 台湾民国による、海峡対岸への逆上陸作戦である。史上初めて、島側から大陸側への侵攻を実行したのだ。


 人民解放軍の海軍戦力が激減したばかりのたった今こそが、最高の機会だった為だ。アジア周辺の海に出ている原子力潜水艦は、密かに全滅させられていた。水上艦艇も海中に潜む敵勢力の潜水艦を恐れて、台湾海峡へは近寄る事も出来ない。


 さらに不幸は続く。人民共和国は台湾民国を舐め切っていた為、想定されていた大陸沿岸部への有効な陸上戦力の集中配備を怠っていた。常に自分達の方にだけ、武力を使ったコミュニケーションを行う地勢的な主導権があると過信していたせいかも知れない。


 国内にまだまだ十分な戦力はあるが、直ちにそれらを戦場まで移動させる事は叶わない。正面戦力に予算を割き過ぎて、輸送力や補給力が極めて不十分だったせいだ。


 陸軍戦力や海軍戦力による防衛が戦闘に間に合わない人民解放軍は、独力で高速移動可能な航空戦力による台湾民国軍の上陸阻止に努めた。しかし、ソーティの回数が増えて行く度に、航空戦力の実行力がすごい勢いで減衰して行った。


 当初であれば、数的には防衛側の方が有利だった。だが、着陸した後で二度と飛べなくなる機体が増えて行ったのだ。これが防衛側の効果低下を、一目で分かるほどあからさまに落としてしまった。


 エンジンに限らず、機体全体の耐久性が低すぎる事が判明した。手本としたソ連軍が掲げていた、短期間での総力戦を実行出来れば良しとする 「圧倒的な数を揃えた先制攻撃で勝敗を決する」または 「敵による大規模攻勢を短期間だけ凌いだ後に自国内へ引き摺り込んで持久戦に持ち込む」と言うドクトリンを、その手下として活動していた人民解放軍もまた見習ってしまった為だろう(今となっては、最も先鋭的な共産主義者を自称する彼等は、この歴史的な真実を絶対に認めないだろうが)。


 これは、壊れた訳ではなく仕様である。それで当然なのである。少ない予算で大量の戦力を保持する為には、それしか選択がないのだ。旧ソ連的な運用思想では、たった一度か二度の総力戦を行う事しか想定していないのだから。


 ーーー合衆国製兵器の価格が、旧ソ連系の兵器に比べて大変に高価な理由はそこにある。


 また、あまりに大量の戦闘機の同時並行整備に、整備隊が根を上げたりもした。与えられたタスク量が彼等にとっての物理的な限界を遙かに超えていた為である。


 再出撃前に施すべき重度の機体整備に手間がかかり過ぎたり、まともに整備できる整備兵が不足したり、交換部品も帳簿上は豊富であるに関わらず、使おうとすると行方不明である事が判明し続けた。


 これは現場の問題ではなく、統括部、しいては軍と党の上層部の無知が招いた失策の結果だった。ただし、それでも、後の責任追及で腹を切らされるのは現場の方となるのだろうが。


 そんな数え切れない不幸が重なり、最後は世界の半分の国家や軍組織による下馬評に反して、台湾民国側が力技で押し切()てしまった。


 人民解放軍空軍は、陸軍や海軍が現場に到着する前に、台湾民国軍が大量の地対空ミサイルや主力戦車を用いたハリネズミの様な要塞陣地の構築を許してしまった。


 こうなると、今度は逆に人民解放軍側が攻め手となり、台湾民国側が守り手となる。攻城戦を敢行するならば、台湾民国側が圧倒的に有利となり、人民解放軍側は少なくない被害を被る事は避けられない。


 しかも台湾海峡の軍事勢力の優勢は台湾民国側にあったので、台湾民国軍の上陸部隊は定期的な補給を受けることも可能だった。こうなると、攻めてはさらに辛く苦しく難しくなる。


 隙を突いたつもりで逆に突かれた。


 沖縄県全域を掠め取る為の、将来に向けた確実な一手を指したつもりだった。


 だが、多くの失態を招き、失地に免じる事となった。


 その結果に、人民共和国を支配する偉大なる党は、愕然とした。


 自分達の近代兵器が、敵国の近代兵器の前に敗れ去ったのだ。つまり、二種の近代兵器群と運用技術は、同じレベルにあると信じていたに関わらず、そうではなかったと戦果を持って見せつけられたのだ。


 それをアジアの故事になぞらえるならば、


 張子の虎


 と言える現象である。


 また、運用思想そのものでも、勝てる見込みがないと一部の懸命な指導層には容易に理解出来た(その新しい認識を口に出す程に勇敢な者はいなかったけれども)。


 この攻勢を通じて、台湾民国は、歴史上初めて大陸側に難攻不落の橋頭堡を確保した。


 もちろん、台湾民国に、元領土とそこに取り残された元領民を取り返すつもりはない。失ってから、あまりに長くて時間が経ち過ぎてしまったからだ。袂を別つには十分な時間が経過していた。これは現実主義の徹底である。


 だからこそ、独立宣言時に、国号に台湾民国と言う新国家名を選んだのだ。過去との決別により、未来永劫民主主義勢力側に席を置き続けるという決意を表明したのだ。


 台湾民国としては、今や占領地の保持には何の魅力も感じていなかった。ただ、今後の外交と交渉の足しになれば良いくらいだった。


 返還もやむなし。受け取る代償次第では。


 台湾民国は、領土型国家である事を放棄する決断をしたのだ。何故なら、台湾民国の国民数では、総動員したとしても大陸側での優勢を永続的に維持することは不可能だったからだ。


 拡大政策で西欧を圧迫したオスマントルコや全盛期のビザンチン帝国に対した、イタリア都市国家群の中で唯一ナポレオンの時代まで国体を保持し続ける事が出来たヴェネツィア共和国の国家方針の様に、狭い国土だけを最大限に楽園化することを一貫して望んだのだ。


 だから、海峡の向こうで、誰がどんな暗黒国家を築こうが、海を越えてこちらへ干渉しないと言う節度さえ守ってくれれば、台湾民国側も将来的展望としては不干渉の原則を貫いても良いと考えていた。


 日本国の内閣総理大臣が、人民共和国などの外部勢力に踊らされた名ばかりの国内過激派によって暗殺され、日本国の沖縄県と九州各所が弾道弾などで攻撃される事で始まった騒動。それは、この様に、少なくとも仕掛けた方としては全く想像していなかった結果で第一幕が閉じられだ。


 自国だけが国際政治の舞台で主導権を握っていると勘違いし、自信満々で藪を突いたら、飛び切り大きな毒蛇がそこから飛び出て咬まれてしまったみたいな感じで。


 しかも、最近奪った領土ではなく、有史以来の自領と信じている沿岸部を逆に占領されてしまったのだ。これは人民共和国を保有する偉大なる党としても、手痛い失点となるだろう。場合によっては最高指導者は、失地王などと揶揄されかねない。


 もちろん、人民共和国にもまだ面子を守る手段はいくつか残されている。例えば、台湾民国があいにく持ち合わせていない核兵器による有効な即時反撃も可能だろう。しかし、その場合、台湾民国を支持する国々からどれほどに熾烈な報復が待ち受けているのか、想像するのは容易だ。また、中立国からの蔑視も避けられない。


 しかも、恫喝だけでなく実際に使用した場合、なけなしの核弾頭を用いた攻撃の全てを、台湾民国の支持国の援助によって迎撃されてしまう心配すらあった。


 その場合、人民共和国は保有している虎の子打撃兵器である核爆弾でも国家間恫喝の道具には不十分な影響力しか持ち合わせていないと、不都合な真実を世界に対して知らしめてしまうかもしれない。


 核兵器。兵器とは、望んだ場所で自在に爆発させられるから恐ろしい。仮に、自国内の実験場や製作現場近くでしか爆発させれないとしたら、それはもう環境保護原理主義者にとっての脅威でしかない。つまり、兵器としては失格である。


 望んだ場所に、あらゆる妨害を避けてお届け出来る能力があって、初めて脅威となり得る。もし、お届けする前に迎撃可能であるなら、世界の世間様によって脅威であるとは認めていただけないのだ。


 そうなると人民共和国は、裸同然の防衛体制しか持ち合わせていないことになる。


 国境の向こう側には、今まで度重なり譲歩だけを強いて来られた国々ばかり存在している。それらの内のいくつがが、共謀して自国の革新的利益に対する挑戦を始めるかも知れない。


 そんな問題が立て続けに起こるかも知れない。それとも、意図的に借金まみれに仕立てた海外債務国の利子の支払いや指導への従順姿勢が怪しくなるかも知れない。


 国内の不満分子たちもその流れに呼応して地下活動を活発化させるかも知れない。そうなると、国内を安定させるために、今まで以上に強く弾圧を実行せざるを得なかなる。


 さらに、21世紀初頭に問題となり、世界各国の地下や裏社会に潜った「在外人民の運転免許証(ウィーン条約では厳禁)更新サポートを(の他国での行政行為に)オンラインで行う(熱心に勤しむ)拠点(組織)」の活動が、民主主義国家群との摩擦の拡大上等の意気込みで深刻化する事になるだろう。


 それらには、新たな巨額予算が必要になる。弾圧に対して、良心に咎められる事はないだろうが、先立つモノが無駄に消費されるのは不愉快極まりなかった。


 権威主義国家の為政者、または僭主の権威が落ちるとはこう言うことである。国民の総意とは言わないまでも、多数の支持を得ずに運営する国家、社会の存続の難しいところはここにある。


 例えば、権威主義国家における経済不況などの国民の不満の原因は全て、為政者に求められるから。何故なら国民には、国家の運営方針の決定プロセスに関与する余地が事実上皆無だからだ。


 もちろん、権威主義国家なりの選挙イベントはあるかも知れない。だが、それはあくまでも共和主義コスプレ=形骸に過ぎないことは、それらを実行している為政者当人以外であれば広く深く心得ている。


 しかし、これで人民共和国の気ままで奔放すぎる活動家が完全に封じられた訳ではない。何故なら、世界には権威主義国家の方が、民主主義国家よりもよほど多数派として国連へも名を連ねているからだ。


 地球の全人口比でも、権威主義国家に属する人類の方が圧倒的多数だあるからだ。


 そして、イデオロギーを超えた経済的な(ことわり)で、両陣営は密接につながっていたりもする。


 この種のケーキは、こう言ったパイ菓子は、かくあるスイカ球は、決して切り分けられない。表裏一体。陰影同士。だからこそ、厄介なのだ。


 互いが互いを必要としている。だからこそ、互いを互いで助けたり殺したりする。そこに好き嫌いの原理が入り込む隙はない。


 人類が誕生してから歴史的に何千年経つのかは知らない。しかし、太陽系全域に生活圏を拡張した時代になっても、人類の本質に(かく)たる変化は訪れていないだろう。


 どこかのスペースオペラの様に、はるか未来の時代でも、スケールだけ大きくなって銀河系レベルのドンパチと兆や京単位の人類を巻き込んだ愛憎劇を繰り返している様な気がしてならない。


 万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)と朝間ナヲミは、その様な共通する展望を共有していた。前者は確信で。後者は予感で。


 その意味で、同志であり、互いが互いの良き理解者同士だった。


 善意で始まった行動が、究極の悪意で始まった邪悪さを遥かに超える最悪をもたらすことも珍しくない。


 悪意で始まった行動が、飛び切りの善意で始まったひそやかな改革を遥かに超える真っ当な変革をもたらすことも珍しくない。


 これらを眼前にして、まさか! ではなく、やはり! で受け止めることのできる価値観。


 そればかりは、朝間ナヲミが生涯のパートナーとして選んだ(もり) 葉子(はこ)にとっては、逆立ちしてもう共有が叶わない倫理観だった。


 だが、その倫理観を分かち合えていた中の片方が地球から永遠に消滅してしまった。


 新しいアンバランスは、新しい不和を時代に招き入れてしまうのかも知らない。


 ともかく、日本国と極東アジアは極めて貴重な出る食いの中の一本を永遠に失ってしまったのだった。


 取り返しのつかない事。それは多くの場合、始まりの終わりを告げる鐘の音である。


 それは新たな時代の到来を告げる、極めて一方的な宣言でもある。


 時代は流れる。古き良き時代、或いは古き悪き時代の終わりを告げる鐘の音なのである。同時に、善し悪しのいずれに転ぶかは誰にも予測できない、全く手付かずの新しき時代へと突入している。


 抵抗は無駄である。人間はただただ受け入れるしかない。


 覚悟せよ。我々は、賢かろうが愚かであろうが、所詮は時代と言う大河に流される無数の木の葉の一枚に過ぎないのだから。


 この理に、決して例外はない。

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