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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第四章 継ぐ命。接がれる命。
21/143

あさがお と あやめ。 〜その参


 その大規模テロ事件は、私、(もり) 朝顔(あさがお)が母校の校庭から、ヘリコプターの床へと一本釣りで持ち上げられるよりも約2時間30分ほどの過去に始まっていた。


 非積極性と言う態度を貫きながら授業を受けていたあの瞬間には、あちらでの事態はもうどうにも取り返しが付かない所まで転げ落ちていた。


 その日、日本国領土の最南端に位置する地方自治体で、恒例の行事である"戦没者慰霊祭"が開かれていた。当然、「不戦の決意」と言うこの国の首長による伝統表明を行う為に、日本国内閣総理大臣・万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏が現地入りしていた。


 21世紀になってから、彼の地では既に貴人を狙った史上二度目の本格的なテロが起こっていた。もちろん、爆発物を使用する類いの攻撃だっだ。


 爆発を伴う攻撃を未然に防げない場合は、周辺にいる無関係の民間人にまで深刻な被害がもたらされるだろう。そうなると、一般市民のやまとんちゅ全体に対する悪い印象が重ねて焼き付けられる事になる。それだけは避けなければならない。


 だから、それ以来、彼の地で行われる慰霊祭への貴人の方々の参加は、大変に危険(事実上不可能)と見做されるようになっていた。


 その地方自治体は、最もテロで荒れていた頃の、北アイルランドの状況とほぼ同等にまで陥っていたと言える。


 そう言った事情で、貴人の方々は他の、安全が確保される全国戦没者追悼式へと参加されていた。


 だから、その場で唯一の"腐った資本主義国家の長"であり、"合衆国の飼い犬"であり、"反革命主義者"であり、日本を軍事国家へと変えると言う悪辣な野望の権化である"極右政治家"である、「万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏」ただ一人が、最優先で天誅すべき戦略的目標であった。


 もちろん、それらの、虹の七色ほどの多様性に富む、素晴らしい蔑称の数々は琉球共和軍暫定派(暫定琉球共和国軍)=Ryuukyuu Republican Armyとそのスポンサー達が彼女に対して()した物だった。


 だから、その日、その時、その場で大規模テロが発生したのは、想定される筋書きの中でもかなり上位にあった可能性の一つに過ぎなかった。


「まさか」ではなく「やはり」と言うレベルで。しかし、当時の日本国では、その「やはり」へ積極的に対処する事は、政治的に困難極まりない状態にあった。


 その日の、革命家達にとっての華々しい思いで熱中出来るテロ攻撃において、伝統的な道具である"爆弾"とスポンサーから新たに支給された"対物ライフル"と3Dプリンターと違法(密輸)素材を駆使して現地自作したと覚しき"小型散弾銃"が用いられた。


 もちろん、天誅を下すべき戦略的目標とされたのは、この場に居合わせるただ一人のVIPである日本国内閣総理大臣であった。


 事も在ろうに、地元警察と下請けの警備会社が身体・持ち物検査を担当していた、式典の壇上付近の最前列に座っていた人物達が最初のアクションを起こした。


 日本国内閣総理大臣が登壇していた位置から、ありえないほどの至近距離から、隠し持たれていた複数の銃器が火を噴いたのだ。


 そんな事はそれが実際に起こった後である現在でも「起こり得ないだろう」と思う。しかし、活動範囲がじょじょに狭められていた琉球共和軍暫定派(暫定琉球共和国軍)=Ryuukyuu Republican Armyとそのスポンサー達の苛立ちは、「起こり得ない」を「起こり得る」に書き換えるほどに凄まじかったに違いない。


 活動範囲がじょじょに狭められていたのには、確かな理由がある。当初は熱狂していた多くの地元民達も流石に飽きて、更に嫌気が差すまでになってしまったのだ。


 当初は大っぴらに賛同して止まなかった、琉球共和軍暫定派(暫定琉球共和国軍)=Ryuukyuu Republican Armyを長年に渡って下支えして来た人民(・・)であっても気付かざる得なかった。


 島の外からやって来た(地元民共通の印象では)RRAが、南国の社会にもたらしてくれた新しいもの(変化・変革・改革)は、彼等が望んだ硬直化した(祭りのように楽しい)社会の(日々の)打破(到来)ではなく、各家庭レベルにおける生活収支(貧困の割合・程度)の劇的な悪化だけであると。


 過激な主張を掲げる革命家達を援助し続けるのと、自分達の首を絞めるのは同じ行為であったのだと。


 どん底の下に新たなどん底を発見した後になって、地元民とRRAの関係は「同床異夢」であったと理解出来たのだ。


 また近年では、RRAはテロ活動の対象を地元の悪徳政治癒着企業人ややまとんちゅう(・・・・・・・)からの資本導入を試みる裏切り者(支配階級)の暗殺や誘拐から、地元の派出所に詰めている下っ端の警察官(街のおまわりさん)商店街の有力者(人の良いオジサン)拘置所の看守さん(末端の平公務員)などの普通の人々(被支配階級)へと切り替えていた。


 テロ活動の内容は、自分達が顔見知った人々に対する辻斬りまがいの暴力行為と言う、極めて陰鬱な嫌がらせへと成り下がっていた。


 何が不味い? それは自分達の身の安全が覚束無くなる。これでは、絶対的な安全圏にいた筈の自分達ですら攻撃の対象となってしまうかも知れないと言う不安を煽ることになる。


 自分よりも豊かな者達が突然の不幸に打ち拉がれている姿を見るのは、彼等にとって最高の娯楽だった。


 貧富の差。これは世界の闇を浮かび上がらせる為の指標としては、いささか不穏当な要素を秘めている。貧しいとは相対的=客観的な「感想」である。ならば、世界で第二位の金持ちは世界で第一位の金持ちより貧しい。村で一番貧しい者は二番目に貧しい者よりも貧しい。


 これら、天と地ほどの違いがありそうな、世界で第二位の金持ちと村で一番貧しい者は相対的=客観的な比較結果では、上位にある者に対して共に等しく「貧しい(格差がある)」のだ。


 この事実は、少なくとも、富の蓄積ゲームにおいて相対的に下位にある者が相対的に上位にある者に対して嫉妬の念を懐く可能性を言及するには十分過ぎる根拠となり得る。


 誰であっても、誰かより富んでいる。月給の手取り差額が1,000円だったとしても、富んでいる。こうなると、同じ町内に住む顔見知りや同士や、同じ学校に子供を通わせる親同士が、誰から誰かを富んでいると嫉妬し、羨み、それを不当として、その怒りをぶつけるようになり得る。


 比較的に富んでいる者なら誰もが粛正対象となり得るのであれば、ほぼ誰もが平等にテロの直接的な被害者になり得る。


 本当に安全なのは、世界で一番の貧者だけだ。だが、テロ実行者がその真実を認識していない場合は、世界で一番の貧者であってもテロの対象となりかねない。


 もう、誰もが安全圏にはいない。火中の栗の届く範囲から逃げ出す事も適わない。


 ちょっと前までは、自分達だけは安全圏にいると思い込んでいた。それで、対岸の火事を眺める事と娯楽の一つとして楽しんでいた。


 やり手と受けて。攻撃者と被害者。もう誰もが月のない夜に外灯のない小道を歩く際に、本気で背後を気を付かなければならなくなる。


 ーーー極一握りの支配階級の被害を楽しんでいたら、自分達も支配階級(人民の敵)とか無産階級(プロレタリアート)の敵と怒鳴られる羽目に陥りそう。


 マクロな視点で眺めれば、貧乏人が貧乏人に嫉妬する構図。貧乏人同志がお互いを"資本主義の犬"とか誹謗中傷する暗黒"異世界"的潮流の成立が危ぶまれる。


 つまり、極一握りの最も貧しい者達以外は、誰もが平等に、RRAによる暗殺や誘拐の対象となり得る可能性が生じた事に気付いてしまったのだ。


 ーーーテロの飛び火を喰らうのだけは勘弁願いたい。


 地元民としては以前のように対岸の火事を見て=RRAのテロの成果を眺めて、気分がスカっとして爽やかになったり、日々のストレスが解消される事はなくなった。むしろ、暗鬱な気分になる事が多くなるのも当然だった。


 まるで、絶妙な笑いを提供していた大好きなコメディアンが、ファンやカメラの前で持ち芸を語るよりも、何故か脈略もなく政治っぽい活動に熱中してしまったみたいに、シラけてしまったのだ。それはそうだろう。今まで自分達に笑いをもたらしていたコメディアンが、自分達を笑いのネタとして執拗に攻撃して来るのが愉快である筈がない。


 地元民や民衆の支持を失った、極少数の意識の高い派による指導を掲げる革命組織が、多数の民衆を焚き付けて社会革命に最後まで成功した例はどれだけ存在しているのだろうか?


(重武装した大軍が国外からやって来て、太刀打ち出来ないほどに強力な武力を背景に、大軍の戦力と比較すれば大した抵抗も出来そうもない民衆に、ありがた迷惑としか良いようのない正しい革命(・・・・・)を成功させる(・・・)のとは話が違う)。


 琉球共和軍暫定派(暫定琉球共和国軍)=Ryuukyuu Republican Armyとしては、治安の悪化(住人の心理的負担)を演出して(を巨大化して)やまとんちゅう(・・・・・・・)政府に、沖縄全域を戒厳令社会を日常とする、スターリン全盛の旧ソ連的なデストピア社会化してもらいたかった。


 少なくとも、強権的な、警察国家的な、息が詰まって、今のままでは我慢が出来ない程に締め付けの強い社会へと改革をもたらしてもらいたかった。


 具体的に述べるならば、沖縄地方において、うちなんちゅう(・・・・・・・)だけでなくやまとんちゅう(・・・・・・・)までも行動、思考、言論の自由を制限される。


 そうなると沖縄地方の大多数の住民達が政府や与党への不満ってくれる。ゆくゆくは、一部地方だけでなく、日本全国津津浦浦の全労働者達や善良、または進歩的な(急進的な)知識人達(世間・苦労知らず共)をまとめて憤慨させるのが狙いである。


 その為には支配下に置くことを目論んでいる人々をスカっと爽やかにさせるよりも、圧倒的に巨大な不満を懐かせる必要がある。


 スカっとさせては、そこで負の連鎖は終わってしまう。負の感情を連鎖へと発展させる為には喜びは不評。だた、ただ、憤慨するべき要素だけと積み上げていかなければならない。


 RRAは、近い将来に自分達が支配下に置くことを目論んでいる人々を現在の支配階級に対して憤慨させる事を目標としていた。


 その為には、スカっとする様なテロは最初期の、自分達への支持を取り付ける期間中だけに行う、赤字無視の特別キャンペーンでしかない。そのまま続けてしまっては、社会のガス抜きとなって、打ち倒すべき現在の支配階級の権威への援護射撃にしかならない。


 例えば、暗殺と言う手段に訴え続けてしまえば、世代交代(適材適所化)による社会運営の効率化を促進してしまっては盤石化を招きかねない。馬鹿な支配者は殺してはいけない。より、民衆に怨まれるべく、長生きして欲しい。


 つまり、RRAとしては、支配下に置くことを目論んでいる人々からの支持を得るよりも、支配下に置くことを目論んでいる人々を現在の支配階級に対して憤慨させ、退陣に追い込む運動へと駆り立てる事の方が重要だったのだ。


 そうやって、支配下に置くことを目論んでいる人々に日本国政府に対する巨大な不満に火を着ける事で、日本国全土での革命達成に繋げたい。


 しかし、彼等の正しい(・・・)計画や思惑が、日本国内では何故か広く上手く広まらなかった。


 どう言う訳か、とてもピンポイント的な人々に、海の向こうから訪れる同志達が思わず退いてしまうほどの宗教的熱狂で迎え入れられるだけに留まって久しい。


 何故、偉大なる党の想定通りに事が進まないのか。それは、民主義国家で生まれ育ったと言う経験を持たない者達には、自分達が信じている革命ロジックが外の世界では全く通用しないと言う事実を理解出来ないからだ。


 ーーー子供の嘘では大人は騙しきれない。


 それと同じ理屈と構図がそこにはあった。


 RRAとそのスポンサーには、支配下に置くことを目論んでいる人々が擁する価値観をまったく理解出来ていなかったと言うことだ。自由な社会に生きて来た人々を、不自由な社会で生きて来た人々には理解出来ない。選択が許される社会に生きて来た人々を、選択が許されない社会で生きて来た人々には理解出来ない。


 自由は選択の幅を乗算的に広げる。不自由ほどに選択がもたらす結果の幅が狭く(可能性の数が矮小で)はありえないのだ。


 つまり、RRAとそのスポンサーには、「こうすればこうなる」と言う戦略は、彼等と文化を共有する人達にしか通用しなかったのだ。


 ーーー一言で述べれば、単なる外の世界へ対する「不勉強(傲慢・不謙虚)」である。


 彼等にとっては残念だか、日本国にとっては幸運な事にかも知れないが、彼等による「僕たちの考えた最強の革命計画」は、少なくとも日本国内の最南端でもこのままでは(・・・・・・)企画倒れに終わりそうだった。


 母に呼び出された事で私が体験する事となったあの(・・)テロ事件が終結してからずっと後に、私が個人的な立場を利用して、聞いたり、調べたり、もたらされた情報を総合的に検討した結論では、慰霊祭におけるテロの兆しは間違いなく直前に捉えられていた。


 テロが実行される直前に、何と、県知事一行の全員が屋根や壁のない屋外会場から屋内待機室へと移動を強行していたのだ。体調不良を訴えて、有無を上せずに与えられていた座席から、同時多発的に立ち上がった。何と体調不良を訴えているに関わらず、その様子は群として実に統率の取れた、小気味悪い(・・)小走りであったらしい。


 本土から派遣された警備担当者達は、そろって"何かある"と直感した。


 だから、要人警護のセキュリティポリスや、航空自衛軍と陸上自衛軍のエージェント達の全員に激しい緊張が走った。


 正直、慰霊祭を即座に中止して、日本国内閣総理大臣をガードしながら現場から立ち去るべきであった。


 しかし、それは不可能な選択だった。


 その日、そこで行われていたのは、戦前にはずっと"基地なし県"であり続けた彼の地で行われた、占領作戦で散らされた沢山の命へ捧げられる慰霊祭である。


 また、その会場に多くの地元民だけでなく、県外からの国民(同県出身者)も集まっていた。この状況で日本国内閣総理大臣だけが、慰霊会場に日本国民を見捨てて逃げ去るのは、歴史的に(・・・・)大変によろしくない。


 日本国内閣総理大臣の「不戦の決意」の決意表明演説は、危険を承知でそのまま実行するしかなかった。


 ーーー謀られたのだ。


 そう言う自滅的な政治的判断をするしかないと見込んでいたのだ。間違いなく、テロ実行者達は、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏が身の安全が確保されていない事を認識しながら、自らの身を危険に曝すしかない状態を作り上げたのだ。


 万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏が壇上から原稿を読み始めて約30秒が経過した頃、最前列で花束を抱えて座っていた一般小学生代表者である筈の少年と少女が突然に足し上がった。


 そして、日本国内閣総理大臣が登っている壇上目指して走り出す。現場に残されていた沖縄県警の警察官達は何故か気が付かない振りをしていた。だが、他県から応援に駆け付けた警察官、セキュリティポリス達は、即時に行動を開始する。


 何とか危険人物と日本国内閣総理大臣の間に割って入ろうと、何の指示も受けぬままに既に持ち場を離れて飛び出していた。


 その、何と言うか、良く見ると、日本人にしては雰囲気が妙な、前歯で虫歯で一本も無くなっている少年と少女がテロ攻撃を試みていた。


 二人は外見が子供だが、行動その物はどう見てもプロフェッショナルとしか思えなかった。何より、動きに一切の無駄がない。


 県外から派遣された警察官達やセキュリティポリスに飛び掛かられて身柄を抑えられないと言うギリギリの距離を見定めて、そこから花束に隠していた小型散弾銃を無駄のない動きで取り出す。


 だが、バレルは水平発射ではなかった。突然に上空に向けられた、まるで威嚇射撃の様な発砲で終わった。


 パーン!! と乾いた音が会場全体に響いた。


 警備担当達も、これで日本国内閣総理大臣を狙ったテロは、ギリギリの段階で防げたと判断して安堵した。


 しかし、テロリスト達のテロに掛ける情熱は、警備担当達ほどに冷めやすくはなかった。


 誰もが、日本国内閣総理大臣を視野から一瞬だけ外してしまった。


 その直後、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏の前に、身体を曝そうとして跳躍しながら伸ばしていた、航空自衛軍の朝間ナヲミ一尉の左腕が千切れて宙を舞っている事に気付いた。


 ーーー義肢が上腕から見事に砕かれて、肘の付け根から上と言う腕が真っ青な空に向けて、凄い勢いで吹っ飛んだ。


 そして、義肢を貫通してしまった弾丸は日本国内閣総理大臣の頭部への着弾が避けられたが、軌道がねじ曲げられて第10肋骨を砕いて腹部へと着弾した。


 後に行われた現場検証へ参加した鑑識官の見立てでは、50口径の対物ライフル用弾丸が命中した様だ。


 かなり遠距離からの狙撃だった。


 おそらく、小学生の様に見えた二人テロリストの発砲は、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏を狙ったものではなく、本命であるスナイパー攻撃の射撃音を誤魔化す為であったらしい。


 近距離からの小型銃の発砲と遠距離からの大型ライフルの射撃の音は、完全に重なって聞こえた。そのせいで、スナイパーの攻撃を予期して、実際に反応まで出来たのは、航空自衛軍の朝間ナヲミ一尉一人だけだった。


 陽動の発砲と本命攻撃の射撃が行われた二つの射撃地点。それらの距離と空気中の音の伝達速度から計算して導き出されたタイミングで、現地では同時に破裂音が響き渡るようにと、それぞれテロリスト達が個別に発砲・射撃したのだ。


 これほどに高度な連携作戦を行うなど、高度な遠距離射撃訓練を受けたスナイパーの方だけでなく、小学生の様に見えた二人の方も、相当に高度な訓練を受けた工作員達であったに違いない。


 事実、一度は取り囲まれた小学生風の二人は、迫って来た警察官とセキュリティポリス達を死傷させて、その場から見事に脱出してみせた。その後、混乱の極みにあった雑踏に紛れて完璧に姿を眩ませさえした。


 活路を見言い出す為に、スペツナズ・ナイフの様な刀身の射出器を使って、的確に急所を狙って確実な刺し傷を与えてた。


 警察官向けに用意されている防弾ベストなど装備の重なりが薄くなって生じる、いわゆる隙間的な弱点まで完全に把握していた。この件から、警察組織内部にもテロリストが入り込んでいるか、シンパが存在している事が疑われた。


 今回のテロ活動の現場に参加した工作員達は、揃って海の向こうから派遣された手練れ中の手練れだったに違いない。


 警視庁や海上保安庁は、本物の小学生代表を入れ替わるために直前に沖縄本島へ潜入したと推測している。


 スナイパーの射撃は一度だけではなかった。本土から派遣された警備担当者達が小学生風の二人を取り囲んでいると、初弾による頭部の破壊に失敗した事を悟ったスナイパーが、二回目の長距離射撃を実行した。ただし、照準が不完全であった為、最初に狙った頭部や心臓のある胸部を破壊する事は出来なかった。


 朝間ナヲミ一尉が対物ライフル弾を喰らって吹っ飛ばされた直後、ガードがガラ空きになった万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏の右肩を第二射撃が命中した。


 弾丸の唐突と同時に、物凄い物理エネルギーが解放された。肩の骨が完全に砕かれるだけでなく、そのまま身体が一回転して後方へと吹っ飛ばされた。


 これで終わりではなかった。


 続けて、壇上の間近で時限信管式と覚しき多数の爆弾が、ほぼ同時に点火された。


 壇上は、爆風の死傷効果半径に確実に収められていた。


 壇上付近にいる者達は、全員が爆風と炎と致死性の速度で飛んでくる破片に捉えられたと思われた。


 しかし、ギリギリのタイミングで救いの手が届いた。陸上自衛軍の装甲擬体化兵達が、壇上付近で倒れている万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏と朝間ナヲミ一尉の身体の上に、それぞれ捨て身で覆い被さってくれた。


 C4(コンポジット・フォー)で起こされたと推測される爆風と炎と致死性の速度で飛んで来る大量の破片を、真面に受ける事となった装甲擬体化兵は擬体外装に深刻なダメージを負った。


 だが、ドンパチを想定した装甲擬体であった為に、死守するべき"具"である生命維持機能が深刻な被害は受ける事は避けられた。


 その後の慰霊祭会場は、阿鼻叫喚に陥った。警備を目的に数だけは集まっていた地元警察官は、何故か姿を現さない。部外者である他県から応援として派遣された警察官達は、慰霊祭参加者達を外へと誘導している。


 しかし、外が安全であるのかどうかは分からない。海外で起こる爆弾テロは、最初の爆発で民間人を安全と覚しき方向へ移動され、その移動経路や移動先で本命である最大威力の爆弾を使用する。


 こう言う嫌な常識は知って置いて損はしないので、これを縁として覚えて欲しい。または、群衆と逆の方向へ逃げると言うのもありだ。


 もちろん、テロであればだ。戦争時だと話は変わって来るのかも知れない。多分、究極の正解は戦争が起こりそうな場所には、決して近付かない事であるに決まっている。その火薬庫が母国であると言うならば、徴兵に応じる気がないならば、早々に国外へ脱出すると言う選択までをも含めて。


 大混乱の最中、巨大な衝撃(インパクト)を受けて機能停止状態に陥っていた擬体の再起動に成功した朝間ナヲミ一尉。残された片腕で、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏を辛うじて脇に抱きかかえて、煙に身を隠しながら独断でその場を離れた。


 いつまでそこにぶっ倒れている訳にもいかない。遠距離射撃で万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏を即死させられなかったテロリスト達が、現場にまで別働隊を送って来る可能性が高いからだ。


 誰にも気が付かれない間に、そっとこの場から万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏を連れ去って安全な場所で保護する必要があったのだ。


 擬体の不調か、脳震盪を起こしているのかは分からない。そこら辺に転がって動けなくなっている陸上自衛軍の装甲擬体化兵達には申し訳ないが、無視させてもらった。朝間ナヲミ一尉は、自衛三軍の最高司令官である日本国内閣総理大臣の安全だけを優先する事にした。


 一人だけでは、出来る事と出来ない事がある。


 周辺にいる人に助力を求めるのは危険と判断した。


 現段階では、この場にいる警察官もセキュリティポリスをも完全には信用出来なかった。


 地元警察官や警備員だけでなく、この場で公務員の制服を纏っている者達は、全員がテロリストが用意したコスプレイヤーである可能性を疑って当然だった。だから、独力で、至近にある安全地帯と見立てた航空自衛軍・那覇基地まで緊急搬送するつもりだった。


 確認して見ると、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏の右肩の骨と関節が完全に砕かれているのが分かった。弾丸の進入角度が斜めで、受け止めた骨が強い構造だった為に、完全に貫通出来ずにどこかへ反れている様だ。長距離射撃に不向きなホロー・ポイントでなく、貫通力重視のフルメタル・ジャケットの弾丸だったのだろう。


 今や右腕は体幹からぶら下がっているだけで、治療後にも箸や湯飲みを持ったりするマニピュレーターとしての機能の再現はまったく期待出来そうになかった。しかし、こちらの傷の方は、早く処置をして大量出血さえ食い止めれば命に別状はないと思われた。


 朝間ナヲミ一尉としては、最悪、右腕の義肢化処置や全身擬体化処置を施せば何とかなると想定していた。


 むしろ、腹部に負ってしまった非貫通銃傷の方がよほど重傷だ。間違いなく、弾丸が体内で暴れて内蔵をズタズタにしている。腸から体内に散った、"便"由来の大腸菌などの各種病原菌がもう各所で悪さを始めている筈だ。


 朝間ナヲミ一尉は、万が一のケースを想定して用意してあった、とても要人が乗車する様には見えない小型車のレンタカーの後部座席に日本国内閣総理大臣の身体を放り込んだ。


 後部トランクから応急キットの止血パテ(フジツボセメント入り)を取り出して、万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)氏の肋骨下に盛りまくる。空気と反応するとすぐに表面に強力な張力を作り出した。皮膚と接してる部分は物凄い粘着力でへばり付く。これで、圧迫止血と同じ状態となった。


 とりあえず、大量出血による即死は免れる。生身の人間は、たった4Lの血液を体内から失うだけで、あっけなく死んでしまうのだ。4Lなんて約1ガロンだ。合衆国のショッピング・モールなどで度々見掛ける(珍しくもない)アル中のパン・ハンドラーなら、その程度の量の安ワインなら一気のみ出来る程度の量に過ぎないと言うのに。


 後は、自衛軍基地の軍医に任せた方が良い。


 朝間ナヲミ一尉は、自動車道を逆走したり他車の車体の角や側部を無遠慮に擦りながら、那覇基地を目指した。しかし、テロリストは彼女が想像していたよりもずっと勤勉だった。既に、仕留め損ねた場合の日本国内閣総理大臣の逃走経路の先に那覇基地があると見越して、その手前で新たな新たなテロ活動を起こして交通を遮断していた。


 ここで戸惑っていると、街に散らばっているテロリストに再捕捉されて取り囲まれる。そうなれば、今度こそ日本国内閣総理大臣にトドメを刺されてしまう。


 そこで、朝間ナヲミ一尉は行き先を即決で変更した。運転するレンタカーを逆方向にあるキャンプ・フォスターへ、つまり合衆国海兵隊基地司令部へと向けた。


 流石、合衆国海兵隊基地である。既に慰霊祭でのテロ事件を察知して、基地の護りを固め始めていた。


 県道81号線の所で、朝間ナヲミ一尉は自分の擬体を使って両軍が共同使用している戦術ネットワーク「リンク16」へ接続して、自分の現状と現在位置を合衆国軍へ送り始めた。すぐに、誘導信号が返信されて来た。あちらの方でも、ある程度は事態を把握していたのだ。つまり、朝間ナヲミ一尉と重要な"怪我人"の受け入れを表明したと言う事だ。


 朝間ナヲミ一尉は、我が意を得たと言わんばかりに、合衆国海兵隊と基地フェンス越しに銃撃戦真っ最中のテロリスト達の背後からレンタカーを突っ込ませた。減速もせずに、半分くらいは外国人に見えるテロリスト達を車輪で遠慮なく挽き潰して、その勢いでキャンプ・フォスターの金網を突き破って、合衆国憲法が適応される基地敷地内へと飛び込んだ。


 ラジエターを潰して、バンパーの内側から冷却水が白い煙を上げるレンタカーを、事前に待機していた合衆国海兵隊が取り囲んだ。明確な命令が伝達されているらしく、何の迷いもなく、外国の要人でありながら自らの身体を盾と使って、完全なカバーを実現してくれた。


 合衆国海兵隊が擲弾発射器「M203」から多数の対人榴弾を送り付ける。予期もしていなかった事が突然に起こった事で呆気にとられているテロリスト達には、それでだけで何とかお引き取り願うことが叶った。


 もしかしたら、お引き取りになられたのではなく、三途の川の向こうへ送り届けられたのかも知れなかった。しかし、朝間ナヲミ一尉と合衆国海兵隊司令部としては、「それこそが何よりの僥倖」と言う統一した意思を持ち続けていたので、何の問題も無かった。


 ニューナンブの様な豆鉄砲でなく、本物の兵器で弾幕を張った。御陰でたった一斉射で多数のテロリスを無力化出来てしまった。点や線ではなく、面の征圧が瞬時に達成されてしまった。


 これが正しい、武装勢力への対処方法である。まずは話し合いから始めて、味方に多数の死傷者を出してから「武力行使は最低限に留めて脅威勢力を無力化せよ」では困るのだ。それを命じる社会に寄生する自称平和主義者達は、その無駄な努力によって積み重ねられた兵士や警察官の遺体を受け取る遺族達に向かってどう言い訳するつもりなのだろう(多分、言い訳もせずにそそくさと逃げるんだろうけど)。


 実際、日本の自衛軍であれば、対人榴弾の使用はおそらく躊躇してしまっただろう。即時使用でなく、最終的な使用も難しかっただろう。こんな風に、厳しい訓練で培った強靱な手脚を雁字搦めに縛られて、まるっきり身動き出来ない自衛軍と、部隊単位でそれなりに自由に行動出来る合衆国軍との大きな違いがそこにある。


 だいたい、一年三百六十五日二十四時間を通じて、誰の目にも明確な敵勢力なんて今の世界に存在するのだろうか? 大声で叫びながらテロを実行してくれるアホが21世紀のテロ現場に残っているのだろうか?


 敵勢力は大抵の場合、卑怯にも民衆の影に隠れている。影の中から一瞬だけ姿を現してテロ攻撃を仕掛けて、再び影の中に逃げ戻る。


 元寇の初戦で鎌倉武士が、戦場で元軍兵士と相まみえて名乗りを上げている間に聞く耳を持ってもらえずに一方的に仕留められたと言う話が残っている。日本国の兵士は、まさに鎌倉武士である事が強く要求されている。しかし、テロリスト達は元軍兵士の様に何の縛りもなく殺しにやって来る。


 日本国民は、社会科見学とは修学旅行でテロ攻撃がどういうものであるのか、社会に出る前に一度は体験してみた方が良い。インドくらいまで行けば、体験出来そうな場所も多いだろう。州首都レベルの大きな鉄道駅や大型バスターミナル。それに巨大な市場が併設していれば、すべての条件が揃う。または、マイノリティーの宗教施設付近。


 平和ぼけを揶揄する極論はこのくらいに。兎も角にも、この認識のアップデートが、味方や民間人の死傷者の数を減らすのに多いに役立つ(だから、多数のテロリスト(実行部隊)を抱えている主義者達や政党の皆さんは、警察力や自衛隊の能力向上を絶対に許さないのだ。それらの向上した能力が、違法な活動にデフォルトで従事している自分達やその仲間の身の安全を脅かすからである。彼等だって自分達の身の安全を確保した上で、陽気にテロ活動を行いたいと願っているのだ)。


 そして、それからほぼ2時間後に、キャンプ・フォスター北部に隣接する合衆国空軍が管理する嘉手納空軍基地に、私が到着したそうだ。


 つまり、ナヲ母さんの飛行機は、部分的に超音速を出してそこまで飛行して来たと言う事になる。


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