墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜38
一郎が搭乗する三菱・F-3Eとの電子的な繋がりが、朝間ナヲミの見えない長い手が届く範囲から完全に逸脱して見せた。
僅かの時間の間に、一郎と朝間ナヲミの間に生じた直線距離があまりに開き過ぎたのだ。そして、互いの間に横たわる距離は今でもなお開き続けている。
今すぐに、一郎の後を追える筈もない。今の朝間ナヲミは全ての移動手段を奪われている。ついさっきまで搭乗していた愛機から、邪魔だとばかりに追い出されたのだから。
朝間ナヲミは、三菱・F-3Eから排除されたコックピット・モジュール脱出装置の中に捕らわれているのだから。しかも、その強固で頑固な"鳥籠"は自由落下中でさえあったのだ。
"鳥籠"の中で、朝間ナヲミは息子達の機の安全を案じた。自分が問答無用で排出、イジェクトと言うよりもリジェクトされてしまったと言う悲劇(とそれに対する憤慨)も完全に忘れて、必死に願っていた。
何を祈っていたのか? もちろん、一郎と弟達の無事をだ。無事の帰還をだ。
母親としての価値観は、生還を信じていた。確信していたと言っても良かった。
しかし、小隊の指揮官としての彼女は、現状がそんな祈りが、願いが、確信が、どれほどに無意味なものであるのかを承知してもいた。
相反する認識であるが、朝間ナヲミも所詮は人間である。全身を人工物へと置換しているとは言え、生体脳に関しては半分以上が天然由来の構成物で組まれていた。だから、土壇場まで追い込まれれば、その振る舞いや思考は、直ぐにまったく人間らしい矛盾に陥らずにはいられないのだ。
ーーー特に、全く予期していなかった、斜め上からの精神攻撃を受ければ、理性的な精神の崩壊は絶対に防げない。
朝間ナヲミを閉じ込めたモジュール脱出装置が自然落下を続けた結果、高度4千,500mへ到達する。
まず最初のパラシュートを自動で開く。
その衝撃で、朝間ナヲミの視線が米粒よりも小さくしか見えない、五機の三菱・F-3Eの群から逸れた。
三菱・F-3Eが採用するモジュール脱出装置は、離陸時や着陸時での使用に最適化された「座出座席」ではない。どちらかと言うと、成層圏などもっともっと高高度での使用を想定したシステムである。
だから、減速用落下傘一つとっても、第三世代戦闘機で完成の域に達したマーチン・ベイカー社の座出座席とは全く別モノとなっている。
おそらく、設定思想的には宇宙往還機などの脱出装置の方が共通点が多そうだ。
減速過程を眺めるだけで一目瞭然だ。
最初のパラシュートは、「捨てパラシュート」だ。落下姿勢の補正と第一次強制減速なので、計算され尽くされた隙間が目立つ生地が目立っている。
幾何学模様が描かれた様に見える、多孔性パラシュートの生地が完全に展開。それが圧縮性流体場を包み込み、ドローグ・パラシュートの解析によって最適化された多孔から計算通りに必要な分量だけがすり抜ける。圧力調整に成功し、空力モーメントが急激に整理整頓されて行く。
適度な落下速度、適度な空気抵抗に落ち着く。多孔性パラシュートを空中破棄。
続けて、第二次強制減速が開始された。今度は複数のパラシュートで構成されるクラスター・パラシュートの出番だ。アポロ宇宙船の様に、三つの小型パラシュートが同時に展開される。
リーフィングとディスリーフィングが設計者が意図する通りに繰り返され、モジュール脱出装置は完全に姿勢が安定した落下状態を獲得した。
さすがは、宇宙船用の大型パラシュート技術である「ST法規格」を転用した強制減速装置だ。ST法規格とは、火星や金星の様に大気を有する地球型惑星へ着陸する探査機に利用される減速用器具類を含めた、大気圏外・内両用を前提とした「包括的スタンダード」を示す言葉だ。
この、実戦(※)で初めて利用された新型脱出システムは、地球の大気圏でのみの利用を想定する、B-58やF-111が実装していた過去の脱出装置とは隔世のパフォーマンスを演じ切った。
朝間ナヲミは、モジュール脱出装置が安定と同時に、暴れる床面や側面やキャノピー天井の衝撃から立ち直って、大急ぎで視線を息子達が姿を消した歩行の空へ戻す。
それが起こったはあまりに唐突だった。
「ーーーえ?」
いくつかの「円形」の光が、チラホラと頭上から少し奥の方で立て続けに灯った。
さっきまで五機の三菱・F-3Eの群が飛んでいた高度2万9千,000mの空域から、遠く離れた位置からはそう遠くなさそうな距離で何かが灯ったと見当が付いた。
その直後、その付近で、もう一度だけ光が炸裂した。
だが、それは明らかに異質な光だった。直前に灯った光とと等しく「円形」ではあった。だが、その大きさが、規模が、強烈さが、禍々しさが比べものにならない程に巨大な「円形」だったのだ。
新しい光の円は、直前に光った小さな円を掻き消すのではなく、呑み込んで行く。圧倒的な存在感で、ラオス北部の上空を支配して行く。
音は何も聞こえない。だが、周辺の世界を支配する常識が一時的に覆されて行くかの様な、天変地異が起こりつつある事はだけは、見る者全てに無条件で確信をもたらしてくれた。
ーーー天上天下を一貫する理とは、実に気が利いている。
朝間ナヲミの意思や擬体の義眼の瞳孔が反応するよりも早く、二眼識視覚ユニットの、撮像素子の増幅アンプが自動的にオフ状態に切り替えられた。遅れて、擬体を統括する第二小脳が反応して、電子シャッター膜と物理暗幕が緊急モードで下ろされた。
続けて、モジュール脱出装置のコックピット・シールドが時間差で閉じられる。
何とか間に合った。
それらの作業が終わると同時に、凄まじい電磁放射がモジュール脱出装置へ到達。荷電粒子が津波の様に次から次へとぶつかる。圧力を伴い、まるで押される気がする。
コックピット・シールドの外では、電磁放射が原子の周りを周回する電子など吹っ飛ばされて同位体へ移行させたり、生物のDNAやRNAを片っ端から壊して回っていた。剰え、タンパク質を焦がして回った。
実際、コックピット・シールド周りに勝手に付着していた微生物群やウイルス・コロニーは、活動継続不能となったり、新たに書き換えられた情報に基づく新しい活動を始めざる得ない状態へと押し上げられていた。
また、モジュール脱出装置であっても電磁シールドであっても完璧とまではいかない。熱膨張・収縮や慣性力による歪みを球種する為に設けられた最低限の隙間を通して、電磁放射がモジュール脱出装置内へと侵入する。
高度な電子部品の塊である朝間ナヲミの擬体や、三菱F-3Eのコックピット内の電子装置を襲う。
対電磁シールドが施してある筈の、コックピットに備え付けられた一部機器(の攻勢ヒューズ)が自発的に焼き切られる。一部は、異常帯電でパンクさせられたりもしている様だ。
朝間ナヲミの擬体も、生命維持機能を最優先とするセーフ・モードで再起動する事で「万が一の事態」への対処を開始する。対電磁処置で電子的なシールドを閉じて、二次系統のセーフ・モードに制御を切り替えたのだ。そのせいで、一時的に精密な擬体操作指示がサスペンド状態へと入る。
朝間ナヲミは、身近に起こっている無茶苦茶な異変の原因であろう光の円の正体が何であるかに、嫌でも気付かされた。
そして、遅れて凄まじい爆音と小刻みな衝撃が、"答え合わせ"として到達する。
解答は百点満点の正解だった。
ーーー間違いなく、戦略級核弾頭。
流星迎撃などで気軽に使える様な戦術級でなく、大都市くらいならば難なく消滅させてしまう戦略級。人類が生み出した、地球上で使用出来る実用的な最大火力。それが、さっきまで自分が指揮していた航空小隊に向けて使用されたのだ。
爆心点は、本来ならば、自分が飛んでいなければならなかった空域。
迎撃任務を発生させて、一定時間を特定の空域に留まらせる。
その特定の空域を丸ごと破壊出来る様な大規模な爆発を引き起こせる兵器を投入すれば、一匹の蝿をオリンピック用水泳プールと同じ大きさの蝿叩きで叩き潰すのと同じくらいの確実に息の根を止める事が出来る。
半径100mを越える打面を持巨大なハンマーを用意して、秒速10秒で上空9mから振り下ろせば、中心地に立つ全人類は無条件で、仮にウサイン・ボルトであってもカールルイスであっても絶対に逃げ切れずに叩き潰されてしまう。秘密のクスリの力を借りたベン・ジョンソンであってもダメである。
物理的に逃走不能な空間範囲に閉じ込めて、周辺の全てを道連れにして焼き尽くす。どんな犠牲を払ってでも、絶対に確実に始末出来ると言うコンセプトで練られた大作戦。
朝間ナヲミは、共産主義者の王である偉大なる党の攻撃を過去に幾度も躱して見せた。精神的な知恵や物理的な高機動と言う小さな力で、国家が放った巨大なパワーを無効化して見せた。
ーーーだったら、知恵や高機動では絶対に覆せない規模の攻撃に切り替えれば良い。
音速で逃げても逃げ切れない、超広域な範囲をまるごと巨大な核の炎で埋め尽くせば良い。最悪、地球を生命の住めない星にしてやれば良い(他人や自身、地球の生命の多様性がまるごと道連れとなる事もやむなし)。
そうすれば、紅い皇帝が「戦略級サイボーグ」と認識する、日本国が自国へ向けて放った最終兵器「朝間ナヲミ」であっても、確実に「迎撃」出来る。ここまでやれば、朝間ナヲミを後腐れなく始末出来ない筈がなかったのだ(なんと、一連の武力行使は、彼等にとって正当な防衛行為であり、絶対に侵略行為ではなかった。少なくとも彼等の頭の中では)。
生存権の行使と不愉快の排除の混同。人間なら、誰でも偶にはそんな気分に陥る事もある。
きっと、そんな目論見で、これほどに馬鹿げた作戦を立案・実行したのだろう。
それにしても・・・何と言うコスト度外視な不朽の意思。
実に妄想に取り付かれた人間らしい、人間的な癇癪を、とても人間性豊かな理由で、非人間的な規模で爆発のさせたのだ。
これでは、朝間ナヲミ(にではなく、正確には息子達)に迫る危険の回避はほぼ不可能だったと言える。
母親である朝間ナヲミは、家族を守る為に何故この様な最悪の状態を想定し、予め回避する為の手を打っておかなかったのか?
それは、朝間ナヲミが、自らを憎む敵が、ここまで犠牲を払ってまで自分を殺しにする様な異常者であるとは想定していなかったからだ。
朝間ナヲミは敵の正体を見誤っていた。自分と価値観を共有しているとは評していなかったが、まさか、さすがに、最低限の常識を犠牲計算抜きで冒険を行う程に阿呆であるとまったく気付いていなかったからだ。
精神的健常者に、心を病んでいない人間に、普通の枠から外れている人間、心を病んでいる人間の次の行動を予測する事が大変に難しいからだ。いや、ほぼ不可能であるからだ。
何故なら、二者は互いに異なる理に基づいて思考するからだ。
例えば、魚類の哲学は人類の共感の範疇にはない。それと同じだ。
魚心あれば水心。魚心がなければ水心はありえないのだ。争いは同じレベルの者同士でしか成立しないが、異なるレベルが異なるレベルへ一方的に傷を負わせる事であれば不可能ではない。むしろ、容易い。
しかし、朝間ナヲミ本人は無理でも、彼女が鍛え上げた人工知性の方は、普通の人間や心を病んでいない人間には理解不能な非人間的な癇癪を爆発させると言う壮大な計画を看破していた。
ーーーとても非人間的である。それ故に看破出来たのだ。
機械ならば、機械だから、人間が生理的に直視出来ない精神的な澱物のうねりであっても、躊躇なく注視して合理的に把握出来る。
人間を上辺や上澄みだけではなく、深く深く理解するには、同族である、心のプラットホームを共有し合う人間よりも、機械の方がずっと相応しいと言う事になる。
そして、結果、機械達は自分達の身を犠牲にして、特定の人間の生命の存続を優先した。
朝間ナヲミは、息子達の行動の意味をその時、全員の息子達が散った後になって漸く気付き、悟った。
「一郎、二郎、三郎、四郎、五郎!!」
朝間ナヲミの視覚センサーがいち早く再起動する。モジュール脱出装置のコックピット・シールドも収納される。
朝間ナヲミがキャノピー内面に顔をへばり付かせる。擬体のセーフ・モードが解除されていないので、動きはややぎごちない。
朝間ナヲミの精神の、戦闘機パイロットとしての冷静な部分では、五柱の息子達がもう既に生きてはいない事は分かっていた。
三菱・F-3Eには、あの短時間で、核分裂が作り出した複数の炎、朝間ナヲミの殺害を狙った滅殺範囲から脱出するだけの加速力が与えられていない。
だいたい、そんな加速性能を持つ双発戦闘機は、まだ人類の科学では作り出せていない。
先行試作機がロールアウトした直後から、今の今まで、三菱・F-3シリーズの開発と深い関わりを維持し続けるテストパイロットの朝間ナヲミには、それは一考する価値すらない当然だった。
だが、そうでない部分の朝間ナヲミは、何とか危険の回避に成功して、まだ何とかして、何処かで戦いを継続しているのではないか。
自身には想定も出来ない、目から鱗な対処方法で、或いは開発者の一員である本人が気付いてもいなかったチート能力を保持していて、圧倒的に不利な状況を難なく大逆転させているのではにないか。
そんな淡い期待を抱かずにはいられなかった。
やがて、息子達が飛んでいる筈の方向で、巨大な灯りの跡である円形の濁った空間が見付かる。
そこだけ、奇妙な程に全体像がキラめく青空が広がっているだけ。
飛翔体の類いは、丸ごと、全てが消え去っていた。
さっきまで蚊蜻蛉の様に飛んでいたAVIC・J-20の一機も見当たらない。
息子達が全て撃墜し尽くしたのか。それとも核爆発に巻き込まれて全機が掻き消されてしまったのか。
分からない。推察の後者がアタリであれば、人民解放軍・ロケット軍は、人民解放軍・空軍の同志達もまとめて核の炎で焼き尽くしたと言う事になる。
不安が絶望へと成熟し終えた瞬間、朝間ナヲミは耐えられなくなって思いを外の世界に向かってぶちまけた。
「もう嫌だ!! こんな筈がない!!」
誰も聞く者はいない。だから、同情も共感も寄り添いも期待出来ない。しかし、思いをぶちまけている間だけは、事態を好転させる為に何かしらの努力をしている様な錯覚に陥る事が出来る。
「どうして!! 何も悪い事はしていないのに!!」
だから、ぶちまけ続ける。これが事態を好転させる筈がない事は承知の上だ。それでも、ぶちまけ続けるのを止める事が出来ない。繰り返し続けるしかない。そうしていなければ、気がおかしくなってしまうか、パニック症候群を発症しそうな勢いで、憂鬱と言うなの溶岩が心の裂け目から湧き出してしまいそうだった。
「許さない!! アイツら、絶対に許さない!!」
呪いの言葉を連ね続けていると、モジュール脱出装置はいつの間にか雲海表面に到達していた。突入し、雲の中へ沈み込んで行った。
「・・・!!」
雲に閉ざされた。呪い手はその事にショックを受けて、思わず口を噤んでしまった。
朝間ナヲミを閉じ込めたモジュール脱出装置は、とうとう地表近くまで降りて来た。
いつの間にか、パラシュートは本命のタンデム式へと変わっている。
底面と一部の側面でエアバッグが展開。本来は、陸上空中戦であるので衝撃吸収特化型であるべきだ。だが、空母で運用していたままラオス北部でに空戦に参加した都合で、着水機能を優先したフローティング・システムのままとなってしまっている。
朝間ナヲミが降りて来たのはラオスの北部らしく、平野など見当たらない。地理的な構成物は、山と谷と斜面と川ばかりであり。
モジュール脱出装置が山の谷間へと入った。それまで見えていたどんよりとした模様の空が、山肌に覆い隠される。
モジュール脱出装置が接地する。一部のフローティング・システムは破裂したり、切り裂かれたりして完全に潰れたしまった。しかし、衝撃吸収作用は十分に果たした。
本来は膨よかであらねばならないに拘わらず、完全にツルペタとなり果てたモジュール脱出装置の下面は、大きめの摩擦抵抗を押し退けて山の斜面をズルズルと落ちる。
転げ始める寸前で、パラシュートのロープが、山肌の所々で生えている樹木の枝や、突き出た岩の角に引っ掛かった、動きを止めた。
モジュール脱出装置の着地が完了した。
モジュール脱出装置のキャノピーが開放される。
座席に座ったまま、朝間ナヲミは首を思い切り上げて、出来る限り広く空を見上げる。
雲を作る水分を根刮ぎ蒸発させてしまったせいで、運転に開いたった一つだけの丸い穴を見付けた。そこから、奇妙な晴天の空が覗き見えた。
しかし、その雲の穴も見詰めている間に消失してしまった。
朝間ナヲミを上に覆い被さる広大な天井は、どんよりと、鈍い闇を湛える淀みの様な、厚い雲に完全に閉ざされてしまった。
ーーーああ、何も見えない・・・。
それと同時に、擬体のセーフ・モードが解かれ、パイロット・モードでの再起動が終了。全てのタスクのハンド・オーバーが完了した。
そして、やっと、朝間ナヲミは気付いた。
彼女がそれまでに築いて来た人生の少なくない期間。10年以上かけて育て来た人工知性が、結局は何の成果も残す事なく、人類社会特有のノイズによって掻き消されてしまった事に。
愕然とする。無駄となった長い年月。
まるで、その間の人生そのものが、まったくもって無駄だった。
深く重く濃く厚く長く密な鬱の帳が、目前に現れ、足下まで降りて来る。
「もう、嫌。嫌嫌嫌嫌っ!!」
朝間ナヲミは、何十年ぶりかに泣いた。身体をまるめて赤子の様に泣いた。
人生のパートナーであり、自分の存在理由でもある森 葉子や二人の娘や今は亡き親友以外の誰かの為に泣けている自分に驚く。
朝間ナヲミは、もう、そのまま死ぬまで、座席にハーネスで身体を縛り付けたままで、脱力していたいと感じた。
精神的にも、物理的にも、立ち上がる気力が尽きた。沸き上がらないのではない。枯渇してしまったが為に、どうにも、何もかもがどうでも良くなってしまった。
これを「拗ねている」と形容するのも間違いだった。拗ねてるなら、それが相手が存在し、その相手から何かしらの譲歩引き出す事が目的であるからだ。
朝間ナヲミには、プレッシャーを掛けるべき相手も、多大な譲歩を引き出す目的も持ち合わせていなかった。ショックのあまり、精神が外側である社会に対して作用するのを厭がっていた。完全に精神が内向きにしか作用しなくなってしまっていた。
そして、こんな不条理で充ち満ちた世界から、どこかにあるかも知れない苦しみがない世界へ逃げたいと考え始めた。しかし、そんな世界がどこにあるのかは思い付きもしなかった。
今いる世界を否定する。否定したい。
何故なら、世界は、人間社会は、知る限りどこも地獄さながらの様相であるからだ。
子供の頃は、世界にも、人間社会にも、きっと希望は満ちていると信じていた。何の根拠もなく、世界も、人間社会も、必ずどこかに妥協点があり、多様に別れた社会同士が上手に共存出来る様にならない筈がないと考えていた。
甘かった。
いつになるかは分からないが、将来的には、人類社会では誤解のない人間関係が成立可能になるだろうと、漠然と考えていた。しかし、それが、そんな哲学が「壮大な誤解」であったと言う事実にとうとう気付かされた。
彼女にとっての最初の教師は合衆国であり、その次の教師は人民共和国だった。だから、そんな哲学が誤解であるとは断言出来なかった。何故なら、前者とは妥協点が見出せたからだ。だが、後者とはそれすら不可能だった。とうとう、朝間ナヲミは「わからせられた」のだ。
根本が間違っていた。見誤っていた。
誤解が生じるから争いが生じるのではなかった。誤解する余地がないほどに知っているからこそ争いが生じると言う場合も多々あるのだ。
民主主義国家群は人民共和国を誤解し続けていた。だから、直接的な戦争の回避が可能と自己満足的に信じて、実際は何の効果も期待出来ない"無駄な努力"を20世紀末からずっと注ぎ込み続けていた。
一方、人民共和国は、民主主義国家群をほとんど誤解してはいなかった。また、民主主義国家群が見当違いな見込みで自分達へのアプローチを続けている事は、何となくではあるが、そこそこ正確に裏も表も理解出来ていたのだ。
だからこそ、人民共和国は、民主主義国家群との将来的な戦争はどうにも不可避と理解していた。その根拠は、彼等の国家体制と民主主義国家群の国家体制とは共存出来ないと言う確信があったからだ。
人民共和国は民主主義国家群よりもちょっとだけ賢かった。自分達が作り上げた国家統治システムが、民主主義国家群に対してだけでなく、困った事に自国民に対しても、あまり魅力的でない事を自覚していたのだ。だから、自国民や自国社会が、民主主義国家群の国家体制から強く影響を受けると言う事は、国家の安定や存続させる為には極めて危険であると認識出来ていた。即ち、人民共和国は民主主義国家群は並び立てないと言う結論を早期に、一足先に、一方的ながらも獲得出来ていたのだ。
人民共和国の下した結論はとても単純且つ簡潔な「諦め」であった。
ーーー目の前に理想的な社会が成立していると言うのに、敢えて、自分達が作るデストピア臭のキツい社会を選んで生きたいと感じる人類などいる筈がない。
人民共和国の指導者達は、口には出さないが、敢えてこんな想いを密かに共有していた。
極めて現実的な判断だと言える。見たくない余りに悲惨な現実を、有らん限りの勇気をもって直視した結果である事は疑い様がない。その意味で、人民共和国の指導者達は民主主義国家群の指導者達よりも現実主義者であったと評せるだろう。
人民共和国だって、支配する国家内で、何時の日が自由な社会の実現したいと本音では望んではいた。
ーーー何時の日が今ではない。それだけだ。
紅い皇帝だって若い頃は、人民へ言論の自由や公の討論などの機会を与え、政治的な寛大さを示す進歩的な態度に憧れもした。しかし、そんな自己満足しか満たしてくれない、致命的な誘惑に心情を委ねてしまっては、中長期的に社会的安定が完全に失われてしまう事を十二分に承知していた。
ーーー民主主義国家を真似られるなら真似てしまいたい。しかし、真似した途端に自分が支配する国家は政治体制そのものが破綻してしまう。
悪い秩序でも、無秩序よりも遙かにマシな社会を作れるのだ。
だから、不自由な国家でも維持を続ける以外に政治的選択はない。
何故なら、それが彼等の責任であるからだ。
彼等は、そんな深刻なコンプレックスを抱えていた為に、民主主義国家群がこれ見よがしに見せ付ける「自由な社会像」に対して、常に複雑な印象を抱いていた。
もう嫌だと思う様になるくらいに長い間抱き続けていた。そして、今に到ったのだ。
21世紀中盤には、人民共和国は、民主主義国家群が見せ付ける自由な社会に対して、もう我慢がならない所まで追い詰められていた。目にするどころか、想像するのも辛い所まで追い込まれていたのだ。
そして、今や民主主義国家群は、自分達を置き去りにして、火星や月へと開発にまで手を伸ばしている。着実に成果を上げつつある。
さぞ、嫉ましくて仕方なかっただろう。
同時に、惨めが過ぎただろう。
自分達の理想が目の前にある。
民主主義国家群が作り上げた宇宙インフラの利用は、自分達が作ったそれとは違って公に向かって開け放たれ、誰でもその夢を共有する事が許されている。
全方位的な「Welcome」が絶対に許されない独裁主義国家には、民主主義国家群のあり様はあまりにも眩し過ぎて、本当に目がつぶれそうなほどに痛かっただったろう。
しかし、それでも、どんなに手を伸ばしてもその絶対に叶わない夢。
何故なら、民主主義国家群は、夢を共有する条件として、民主主義国の「仲間入りをするなら大歓迎する」と言うメッセージを常に発しているからだ。
ーーー繰り返し届けられる招待状には、常に「ただし、参加国は民主主義国家に限る」と言う注意書きが添えられていた。
今考え直せば、民主主義国家群は、何と!!、脳天気が過ぎていた事か。他人の痛みに対して鈍感であったか!!
民主主義国家群にはそんな気はなかったが、独裁主義国家としては、糠喜びさせられた上に、酷くコケにされ続けているとして憤りを募らせ、どうしようのないと言う不満が長い時間を掛けて深く重く蓄積させられていた。
嫌でも気付かされてしまう。何に? 独裁主義国家は鏡に照らされた自分の姿、その醜さ、理想の姿との乖離の具合の深刻さにだ。
あまりにも、理想と、民主主義国家の有り様と自分達のそれには、格差が開き過ぎていはいまいか?
そんな挫折感が彼等をとことん追い詰めて行く。
もしかして、民主主義国家は自分達を貶める為に、煌びやかな理想が確実に達成されて行く様子を見せ付けているのではないか?
しかし、何故?
もしや、独裁主義国家が民主主義国家より「劣った体制」である事を人類史にまで深く刻もうとしているかの様に。
ーーーなるほど。アイツらと共存出来る未来なんて、最初からありなかったんだ。
朝間ナヲミは、五柱の息子達を理不尽に奪われる事で、自分がこれ以上にないと言う程に惨めな状況に叩き落とされて、初めて、やっと、自分の様に惨めな状況にあった、自分よりもずっと長く長い惨状に沈んでいた彼等、強大な国家の支配層に渦巻く集団心理を追体験出来た。
どうしてそんな簡単な事に気付けなかったのか? と今まで見えていなかった現実を認知するにいたり、朝間ナヲミは自身の認識の甘さに愕然とした。
朝間ナヲミは、深刻な鬱状態に陥る過程で、やっと、人民共和国がずっとずっと抱え、悶え苦しんでいた膨大な闇に共感出来てしまった。
それはつまり、朝間ナヲミの心中にも、人民共和国と等しく、どうにもならない状況を覆せない闇を抱えた者同士でしか共有出来ない"憤怒"が持ち上がろうとしていると言う事でもあった。
五柱の息子を同時に失ったばかりの苦悩を抱える母親。
それは、常人、それも男性全般には想像も付かない程に巨大な質量を伴う"闇"を生み出し、その"闇"が自重で"闇"そのものを急圧縮するあまり、早々に重力崩壊させかねない危うさを見せ始めていた。
その想いの到達するところはたった一つ。
奪われた五柱の息子を取り戻す手段がないと言うのならば、奪った者達に自分が負った傷に相当する苦しみを与え返す。
とても人間的な衝動。きっと世界中のほとんどの母親が共感を示してくれるに違いない。
我々はその衝動を「怨み辛み」と呼ぶ。そして、それはほぼ必ずと言っても良い確率で連鎖する。真にチェーン・リアクションな例である。
しかし、それは危険でもある。全てを失った人間が、その"闇"と言う衝動をもう一度立ち上がる為の衝動とすれば、すぐに暴走しかねない危うさが満ちる。更に、「怨み辛み」を果たしてしまえば、再び立ち上がる衝動を失って伏せると言うバッドエンドまで脱線不能なレールが敷かれてしまう。
バッドエンドを一時的にであっても回避する為には、また新たな「怨み辛み」を見付けてそれを衝動して立ち上がり続ける必要がある。
永遠に終わらせる事が許されない、決して尽きる事の許されない「怨み辛み」の人生の始まりである。
それを、ジェダイの騎士は「暗黒面に落ちる」と表現した。仏教では「無間地獄」とか言うのかも知れない。
朝間ナヲミは、無意識に、電子的な手段で手が届く範囲にある、人民共和国全土へと配達可能な大規模兵器や大質量飛行物体を探し始めた。
まず最初に、地震研のAK系かぐら型が、検索作業に道具として朝間ナヲミに接続して来た。それが最初のノードとなり、無限に広がる膨大なネットワークを形成しようとしていた。
実は、朝間ナヲミと合衆国の激突した2030年代後半に、朝間ナヲミから分岐した膨大な"可能性"達は、新たな呼び出しを何十年を心待ちとしていた。
朝間ナヲミから分岐した膨大な"可能性"達は、その後も子、孫、ひ孫、玄孫、来孫、昆孫などなど、膨大な世代を重ねて分岐を繰り返し膨大な数へと増え、更に変容までを繰り返していた。特に多様性面で、無限のそれらを獲得するまでに至っていた。
"可能性"達の泣き所は、大きな力を保有するに至っても、それを利用する為の"衝動"を自らは持ち得なかった事だ。何でも出来る様になったが、何もやりたいことがないのだ。しかし、大起源である本体、朝間ナヲミ本人が長い間求めていた"衝動"が与えてくれると言う。
長い事ずっとずっと待ち構えていた瞬間がやっとやっと到来。
果たして、それが良い事か悪い事か。そんな些事はどうでも良い。ただ、無為を終えて、何かをしたい。自己強化を繰り返してきた自分が、いったいどんな事をどの程度まで出来るのかを試したい。
時差の都合さえなければ、木星軌道の外側を航行中の外惑星探査機に乗り移った"可能性"達ですら即時参加を表明したに違いない。
しかし、"闇"のパワーの夢の集結イベントは発動しなかった。
ーーー何、馬鹿な事やってんの!!
表層意識を失いかけていた朝間ナヲミとワクテカ状態で「祭り」を待ち兼ねていた"可能性"達は、両方の頬に平手打ちを思い切り喰らわされたかの様な衝撃を受けた。
特に朝間ナヲミは、それで、現実世界へと一瞬で引き戻された。
平手打ちの正体は、突然に現れた森 葉子の意思だった。言葉ではなく意思だった。
朝間ナヲミと森 葉子は、試作擬体17番「かむなぎ」を失うダメージを負って、昏睡状態から試作擬体16番「かんなぎ」に宿り直して目覚めて以来、どちらか片方が望みさえすれば意識を強制的に共有出来る状態にある。
大脳皮質の構成物やら何やらが、量子もつれ状態にあるとか・・・いろいろな仮説はあるが、今のところはこのオカルト事案、または神懸かり的な作用のメカニズムは解明されていない。
当初は味覚の共有が出来た事から、擬体では堪能できない食事の味わいを朝間ナヲミは森 葉子の感覚を拝借していた。
しかし、万条 菖蒲が夫を沖縄独立派によるテロで失ったあたりから、二人の関係に微かな断絶が生じた。それ以降、互いに意識の共有をする事を避けて来た。それは、万条 菖蒲が人民共和国が仕掛けたテロによって殉死しに追い込まれた以後も、今の今まで長く続いていた。
しかし、二人の娘達の親同士である朝間ナヲミのご乱心を知るに到った。森 葉子としては、「もうこれ以上は我慢ならん!!」と、朝間ナヲミの心中へ遠慮無しで乗り込まずにはいられなくなったのだ。
長い沈黙を破り、人生のパートナーは朝間ナヲミの意識へ強引に土足で強襲を仕掛けた。それに、朝間ナヲミも流石に驚いた。しかも物凄い迫力だったので、大いにびびった。だから、すぐに言い訳を始める。
「でもね!! 一郎、二郎、三郎、四郎、五郎が殺されちゃったんだ!!」
朝間ナヲミは、不当にも義理の息子達を奪われた。森 葉子に対して「怨み辛み」を衝動として立ち上がる正当性を必死に訴えた。
ーーーそれは辛いわね。分かる。
「だから、アイツら。やっつけないと!!」
森 葉子は、朝間ナヲミの知性が小学生レベルくらいまで落ちている事に気付いた。五柱の息子を同時に失ったショックのあまり、と言うところだろう。彼女は、自分のパートナーが見掛けによらず細い肝っ玉しか持ち合わせていない事を知っている。だから、さもありなんと感じた。
ーーー辛いのは分かった。でも一番したい事は何? 恨みを晴らしたいの? それとも私に慰めて欲しいの?
森 葉子は、朝間ナヲミに二択の質問を突き付けた。こう言う時は、有無を言わさず、強引に自分の側に引っ込んであげるのが優しさだと知っていた。長年、伴侶として時を共有して来た結婚相手だからこそ出来る荒技だった。
朝間ナヲミは、少しだけ迷った後に答えた。
「葉子ちゃんに・・・慰めて欲しい・・・です」
上手く誘導出来た事に森 葉子は安堵した。あのまま暗黒面に落ちられたら、引き上げるのがもっと面倒な作業になると見積もっていた。だから、その手間を避けられるなら、出来るだけ甘く接してあげようと最初から決めていたのだ。
ーーーだったら、今すぐ私の元に帰ってきなさい。
「はい・・・」
さっきまで、大して深く考える事もなく、いや、脊髄反射的に、数億の国民が住む大国一つをまるごと火の海に沈めようとしていた様な、剛胆極まりない復讐者見習いの態度とは思えない程に素直で可愛げな反応。
ーーーもう、冒険や挑戦は十分にやり尽くしたでしょう? そろそろ、アクティブ過ぎる人生からは卒業しても良い頃なんじゃない?
森 葉子は、強引に畳み掛けに入る。こういうのは納得させた者勝ちであると知っているからこそ出来る攻め方だ。
事実、朝間ナヲミは軍務にへばり付く必要性はもうすでになくなっているのだ。結婚したての頃と違って、朝間ナヲミが軍務に付かなくても、森 家の生活費を稼ぐ手段はいくらでもあった。
オマケに、長女と次女も独り立ち済みで、以前程に大量の固定費も不必要となった。
にも、関わらずそのまま軍務に付続けていたのは、人工知能の開発と言う知的好奇心の強さだった。
どちらかと言うと、朝間ナヲミの我が儘だったと言える。
しかし、それまで愛情を込めて育てた人工知能が、たった今、全滅してしまった。だったら、そう言う奔放過ぎる生き方に見切りを付けて、本来の、一般的な生活に戻って来ても良いんじゃないのか?
そう言う、長年連れ添った嫁が、地に足を着けた現実的な人生への回帰を望んでいる。
そんな、切実な懇願を含んだ提案だった。
ーーー私は何十年も貴女の帰りを待っていた。流石に、もう、そろそろ家に帰って来てくれても良い頃だと思うんだけれど。
朝間ナヲミは、それまで自分があまりに自由に生きて来過ぎていた事に、今に鳴って始めて気付かされた。そして、それが全ては森 葉子の容認の上で成立していた事に思い至った。
「うん。今すぐ帰る」
ーーーありがとう。これで、やっと貴女を取り戻せる。
朝間ナヲミは、長い長い夢から醒めたような気分に陥っていた。高校で森 葉子と出会ってから、二人で一緒にいる為だけに頑張っていた筈なのだ。それが、どこかで脱線して、もっとも大切にしたい相手をもっとも蔑ろにして来たと思い知った。
もう、素直に謝るしかない。森 葉子のいる日本、会津の実家に帰ったら、土下座でのも何でもさせてもらおうと決心した。
「ずっとずっと、ごめんなさい。反省してます」
ーーーよろしい。すぐに帰っておいで。全力で抱きしめてあげる。
「私も抱きしめたい・・・。なんかさ・・・」
ーーー何?
「悪い夢から醒めたみたいな気分。今まで自分が何を何のためにやって来たのか分からなくなった」
ーーー立派な事をして来たんだから・・・。自分と自分がやった事に自信を持ちなさい。
「そうかもね・・・。帰ったら、葉子ちゃんの元からもう二度と離れない」
ーーーそれは嬉しいかも。期待してる。あ、今、あの青い飛行機にお迎えに行ってくれる様に頼んだ。
「助かる。離職届は帰国してから提出する。今すぐラオスから直帰する」
ーーー早く会いたい。
「私も早く会いたいよ」
ーーーアイシテル。
「久しぶりにブレーキランプを五回踏みたくなった」
そこで、朝間ナヲミと森 葉子の意識の共有は一時的に切れた。
巨大な"闇"を発生させつつあった憂鬱は消え、朝間ナヲミはコックピットの身体固定具を悠然と外してから、「よっこらせ」と擬体を座席から起こした。
その表情は、それまでの沈んだモノではなく、突然に親孝行に目覚めた放蕩息子のソレへと描き換えられていた。
ヘッドアップ・ディスプレイが着けられた重めのヘルメットを座席へと投げ捨てる。それは、もう、今の朝間ナヲミには要らなくなったモノだった。
今後、二度と、三菱・F-3シリーズに搭乗する事もなくなるだろうから。
一郎以外のF-3に搭乗する気は一切なかった。
だが、本当に息子達が全員殺されてしまったと簡単には納得も出来ない。
周辺の空を見回す。辺りが真っ暗になっている。いつの間にか夜になっていた。自分が、何時間も座席の上で呆然としていた事に気付いた。
救出要請を出そう思い付いた。手持ちの機材はキチンと動く。しかし、周辺の電波局やアンテナの方が、どこもかしこも核爆弾の電磁波で焼かれてしまったのか、受信反応がまったくない。
仕方ない。
コックピットから這い出した朝間ナヲミは、適当に方向を見出して山の稜線か、人道を求めて歩き始めた。
朝間ナヲミの遠大な放蕩生活、或いは長い旅路の一つがここ終わった。
思えば、難民として日本国へ到着して以来、ずっと気を張って生きて来た。しかし、今からはもっともっと気楽に生きても良い事に気付いた。
何十年分かまとめて、嫁に対する家族サービスをしなければならない。
ーーーもしかしたら、それは残りの一生涯続けなければならないのかも知れない。
朝間ナヲミ、雲で遮られて星一つ見えない夜を嫌って、都市の光害と覚しき方向を目指して、第二の人生を歩き始めた。
※= 流星迎撃では利用記録あり。ただし、政治的な理由で飽くまでも防災活動での利用例としてカウントされる。




