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2017年/短編まとめ

平和に今年最後の挨拶を

作者: 文崎 美生

コタツに入ってミカンを揉む俺を、(サク)ちゃんは冷めた目で見ていた。

その手は忙しなく動き、ミカンの白い繊維を取り除いている。


「え、なに……?」

「それ嫌」


それ、と指し示されたのは揉んでいたミカンで、作ちゃんは緩く首を左右に振った。

いつもは丁寧に結えられている髪も、後頭部で大雑把なお団子になっている。


俺はミカンを揉む手を止めずに「なんで?」と再度問いかけた。

作ちゃんは綺麗に繊維を取り除いたミカンを、広げたティッシュの上に並べる。

俺はそれもどうかと思うけれど。


「甘くなるから、嫌。後、手付きが嫌」

「手付きが嫌?!」

「うん。何か凄く気持ち悪い」

「気持ち悪い……」


何がどうとか上手く言えないけど、と珍しく濁った言葉を吐く作ちゃんに、俺は、そ、そう、と弱った声を出す。

「あ、後さぁ」思い出したように言葉が続く。


「何か、温くなって人肌って考えると気持ち悪くない?ボク、冷凍蜜柑とか好きだよ」


並べたミカンを一つ一つ、剥いた時と変わらない丁寧さで口に放り込んでいく作ちゃん。

なんとなく、なんとなくだが、言い分は分かるような気がする。

それから俺がミカンを剥いて食べるまで、作ちゃんはつまらなさそうな顔でテレビを眺めていた。


「後、テレビはガキ使とジャニカンだった」

「え」

「ガキの使いとジャニーズカウントダウンライブ」

「え」


はて、と作ちゃんが首を捻る。

首を捻りたいのはどちらかと言えば俺の方で、淡白な作ちゃんがお笑い?ジャニーズ?と頭の中が回り、ミカンがこたつ布団の上に落ちた。


「まあ、ボクは部屋で本読んでたけど」

「……季節感ないねぇ」

「テレビに固執しないから。だから、紅白とかも崎代(サキシロ)くんと暮らし始めてから、初めて見たよ」


その初めては微妙かなぁ、とミカンを拾いながら呟く。

ダラダラとした年末というのは、まぁ、学生の頃から良くあったことで、学生という肩書きを外した後でも、実家を離れても、ダラダラ出来るのは、ある意味幸せだ。


ミカンの入ったカゴへ片手を伸ばしながら、ぺたり、頬をテーブルに引っ付けた作ちゃんが「後は、年越し蕎麦を茹でるのが怠いので緑のたぬきです。ボクは好き」と、年末最後の怠惰を口にした。

まぁ、俺も好きだよ、そのおそば。


「どっちがお湯入れるかじゃんけんしよっか」

「え、俺が入れてきても良いけど」


じゃあお茶も、割と遠慮のない作ちゃんが、俺は好きだよ。

何故か『締切』と大きく書かれた湯呑みを手を手渡され、立ち上がったが、あ、と間の抜けたような作ちゃんの声で、中腰のまま止まる。


「今年も有難う御座いました」


折り畳んでいた体を起こし、ゴツン、テーブルに額をぶつけながら頭を下げる作ちゃん。

ゴツン、俺もテーブルに額を打ち付ける。


「こちらこそ、ありがとう御座いました」

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