次男坊は同室者を選べない
「転生龍は卵の中で微睡む」と「龍は番を探して放浪する」の続きになります。
学園生活を送ってた頃の話になります。
今日もいい天気だ。問題は山のように残っているけど、とにかく自分的には平和だ。平和であってくれ。
午後の授業も問題なく終わり、俺のように貴族であっても伯爵家の次男坊なんて気楽の肩書なはずがこんなに重いものになったのは、同室のあいつのせいだ。
ここは魔力を持って生まれた国中の子供が集まる場所だ。
まぁ魔力を持って生まれるような子供はほとんど貴族だけどな。
そして階級ごとにクラス割がされている。
俺のようにそこそこの貴族出身でも長男である兄貴はとにかく、俺みたいな次男坊は上級クラスにはまず入れない。
同期に王族やら侯爵家、大公家なんかがごろごろいる場合は、上級クラス、中級クラス、下級クラスの3つで、下級クラスに対しては護衛問題とかその他もろもろの理由で離れた校舎が学び舎になる。
中級クラスは、下級クラスよりは権限が多少あるが、俺のように伯爵家の次男坊や、公爵家の三男坊といった跡継ぎに関係ないものや、子爵家の跡取りなど中級階級が一般だ。
下級クラスにいたっては子爵家のやっぱり下の兄弟、男爵家や、庶民ってのが多い。
女性クラスにも少々違うか似たようにわかれているのだが、下級クラスは同じ学び舎ということで結構仲良くやっているらしい。
逆に上級、中級クラスの女性たちは花嫁修業と家の結びつきを重視している傾向があるので、それ専用の別棟がある。
間違っても学んでいる最中に傷物や心変わりなどされては困る家が多いからだ。
合同のダンスパーティーは基本的にパートナーはほぼ全員が持っている婚約者とであるし、婚約者がいない俺みたいな奴は参加は許されない。
学園にいる間に自分で探すという選択肢が過去にはあったようなんだが、何年も前に婚約破棄など多数発生したためにそれは見送られた。
ここで勉強することは、将来のためであり国の為である。
婚約者を探すのは、保護者の監視のもと参加させられるパーティーのみだ。
つまり、校外でそういう活動をし、学園では勉学に励むという当たり前の構図が今の学園にはある。
下級クラスについては別だ。
そういうパーティーに参加する機会がないものだから、割と自由に恋愛を楽しんでいるようだ。
男爵家に婿入りするために、あえて下級クラスに入る子爵家のやつだっているぐらいだしな。
上を狙うなら学歴を上げるしかないし、勉強に関してはどのクラスでもほぼ平等に学べるようになっている。
まぁ学園の構図の話はここまでにしておこう。
ここで問題なのは俺と、寮の同室者についてだ。
上級クラスは各自専用の寮室を持っているのが当たり前だが、ほぼ全員が自分の自宅から通っている。
そして中級クラスは半分ぐらい。女性は自宅からが多いようだけど、俺たちはほぼ寮生活をしている。
下級クラスも似たようなものだ。
そして寮は二人部屋だと決まっていて、大体同じクラスメイトが同室になる。
だが、特例もあるんだなこれが。
俺の同室であるあいつは『特別』だ。
まず庶民出身でそれも孤児だという。
なのにその跳びぬけた魔力で学園に通うことを許された逸材。
学園に入る前に魔力測定器というものが存在するのだが、それを見事壊しかけた経緯を持つ。
その後ろから見ていたけど、小さな声で『壊すところだった』とつぶやいたのを忘れない。
いったいお前はどんだけ魔力を持っているんだよ。
そういうわけで、俺と同室になったのはまた深い理由がある。
何を隠そう…いや隠してないか。俺の家は魔法一家と呼ばれるぐらい昔からの王立魔法騎士団の重役で、俺も卒業後はそこに所属する予定だ。
兄のサポートとしてそれなりの地位を得る予定であるけど、それなりにいい部下を確保しておくのは得策であるという理由と、こいつがまた問題児で寝食を忘れて本に没頭し、授業になっても図書館から出てこない。
下級クラス程度の魔力しかもたない同学年の者たちもそれなりに授業に出るように、食事をするように、寝るようにと説得をしたようだがこいつは気まぐれで、自分の思った通りしか動かない。
そこで面倒を見ろとばかりに俺に白羽の矢が立った。
将来同じ職場で働くだろうと予想ができ、こいつをサポートする役に必然的になったと思っても過言ではないはずだ。
同室になってから本当に大変だった。
しつこい俺に何を思ったのか、自分の読書の邪魔をさせないとばかりに部屋に結界を張り、俺はドアの前で寝泊まりする羽目に…実家に帰ろうかと思わず思った時に隣の部屋の友人が快く毛布を貸してくれた。
せめてソファーぐらい貸せよと思ったのは内緒だ。
お陰で風邪を引き文句もぶつぶつと言うことになったが、あいつの調合した薬を飲んだからあっという間に治った。
いったい何を飲ませたあいつは。
幼いころに作った古傷まで全部きれいになったんだが…飲んだ俺も俺だが、薬学の授業などお前でてなかったよな?
むしろ、錬金術やら魔道具について念入りに読んでいるよな?
と、思った時何か作りたいものがあるのかと聞いたのがきっかけだったのかもしれない。
今思えば。
何がしたいのか聞いてみたらあっさりと答えが来た。
魔力の塊の素材に魔法陣を組み込んで、それがバレないように隠匿したいという。
それをさらに縮小させ小粒サイズにって結構無理難題だな。
どういう理由でそれを知りたいのか聞いたら、行方不明の彼女を探すためだというからびっくりだ。
お前そんな相手がいたのかよ。
どういう相手なのかは教えてはくれなかったが、初めて見たぞこいつの笑顔。
そんな相手がいるなら、探したいよな。
別に死に別れてるわけではなく、なんでも彼女が妖精使いらしく同じ気配を妖精から感じるらしい。
絶滅危惧種のようにめったに見ない妖精を見たってのかよ。
そんな人材国が黙ってないだろうに。
行方不明なら探してみる価値はあるな。
それから俺たちの作業がはじまった。
あいつの発案に、こうしたらどうかと俺も一緒になって考えた。
斜め上の発言をされるたびに、頭を悩ませながらこうして他の奴の意見を聞くと新たな発見をするという楽しみを教え込んだ。
それからというもの、あいつは授業に出るようになった。
今は必要ないかもしれないが、何がきっかけで新しいものを思いつくかわかないし、本にも様々なことが書いてあるが実際使ったものの話や、本にも乗ってない最新の話を聞くものも勉強になると言い聞かせた。
授業に出るようになってから、奴は少し変わった気がする。
今日はこのような授業があったのだが、何故こうなるのかわかりかねると俺に相談するようになったんだ。
確かに教授が説明した通りより、こいつがこうした方が早いって言ったの方が正論だったがこれってある意味こいつの言い分の方が凄いんじゃとかそういうことが何回もあったから困り者だ。
お陰でこの変わり者の同室者の完全な保護者扱いを学園ではされるようになったのは時間がかからなかった。
人間は寝る、食べる、生活をするが当たり前だと教え込み。
最低限の生活を保持させる。
いつか彼女が見つかった場合に、一般的な生活習慣を身に着けていなかった場合彼女が苦労するぞと脅したのも効いたのかもしれない。
何故か『生活習慣など考えたことなかったな』と感心させられたけど、普通当たり前のことだからな?
それからあれこれあって、あいつの試みがそろそろ完成間際ってときに図書館でばったりと、侯爵家ご令嬢と会う機会があった。
彼女は時の人だ。
現王太子様の婚約者で、パーティーの花とも呼ばれる聡明で美しいと評判のご令嬢だ。
図書館はどの階級の人間でも出入りは可能だけど、上級クラス専用のラウンジがあるので使用人が本を探してそこで読むのが一般的で俺たちのように直接本棚があるエリアに来ることなどないはずなのに。
俺とあいつがよく使っているのは、図書館の奥にある小さなラウンジだ。
少々薄暗いがたくさんの本を持ち込み誰も寄り付かない場所ってことで隠れ家的場所となっている。
大体の生徒がここが俺とこいつのスペースだって知っているけどな。上級クラス以外は。
そんな場所にご令嬢が来るとは驚きを隠せなかったが、彼女曰く『ひとりでゆっくりと読書ができる場所を探したら見つけましたの』という理由だったのでまぁ俺たちの場所と勝手に思ってるだけで公共の場所であるには変わらないので、共有で使わせていただくことにした。
狭いラウンジとは言え、ソファはいくつか存在しているのだから問題ないだろう。
それに男女二人になるわけではないし、俺とこいつの二人と何か問題が起きるわけでもないだろう。
入り口には彼女の護衛らしい侍女もいるしな。
それから彼女は何度もここに来ることになる。
会話をすることなんてほとんどない。
ただ、彼女は俺とあいつのことを時折眩しそうに見ながら、侍女の出すお茶をのんびりと飲んでいるだけだったのだから。
そして運命の日。
『できた……』あいつがつぶやいた横で、俺は茫然と見守ることしかできなかった。
聞いてないぞと叫びたい気持ちを抑えながら。
確かに魔力の塊に魔法陣を組み込みたい隠匿してわからないようにして、小さくしたいとは聞いていたがその素材が……
龍の鱗なんて聞いていない。
その後、あっという間に旅立って行ったあいつを俺はどうしたらいいのかわからない。
それ作ったら用がなくなるよな。そもそもここに来た理由がそれ作るだけのためで、学園とか国とかほんと関係ない。
思い知らされた現実に、あいつが勝手に消えた理由を上に報告しなきゃいけない俺の立場は?
いや、それよりも別れの挨拶すらしない薄情者になんて訴えればいいんだ!
今日もいい天気だ。問題は山のように残っているけど、とにかく自分的には平和だ。平和であってくれ。
とりあえず、今のところはあいつがいなくなったことは外部に漏れてない。
小食だった理由もわかったから、あいつの分の飯は俺がありがたくいただいている。
錬金術に夢中で部屋から出てこないと言えば、数日はこの状況を保てるだろう。
だがどうしたらいいんだ?
心の底からため息をついて、誰もいないはずの寮室に戻る。
‥‥‥って何でいるんだよ。俺の悩みを返せ!!
は?強固な結界があって中に入れなかったので、結界の隙間を探してそっと入れるような魔法具を開発する?
中にいるお前の嫁にお前が結界に入るの悟らせないような魔法開発?
それは、なんと言えばいいのか。
いや待て、それってちょっとおい。寝るな待て説明は終わってないぞ!
こうしてこいつとの付き合いはまだまだ続くようである。
勢い大切だと思うので書いてみました。
真の苦労人の次男坊君登場!たぶん。
続き期待されると調子にのる人がここにいます。書いてて満足ですw
最後まで読んでくれてありがとうございました…そろそろ長編に切り替えたほうがいい気がしてきました。うん。