子犬1
お知らせ
11月1日よりミッドナイトノベルズに連載を移行します。恐れ入りますが、ブクマの変更をお願いいたします。
URL https://novel18.syosetu.com/n3506ft/
また、個人サイト「キクムラサキ式」でも同作品が連載中です。こちらは年齢制限がありません。
URL http://zankokusyosan.moe.in/
11月1日より、pixivでも同作品を連載開始予定です。現在ページを作成中です。
移動先でもよろしくです♡
「昼間の飲酒は咎める者は、悩みという重みを持たぬ者だ」
「んなわけあるかい。昼間っから酒飲んどるご本人にいつも悩んどるわ」
酒場の店主が言ってもなあ……。と、キムの矛盾を指摘しようとしたが、正論に矛盾など存在しない。黙っておかわりを注文する。
ゴールドラッシュという名前通り、満員かガラガラしかないのがこの店だ。
今日はメフィストしか客がいない。時計は正午を指している。エアコンはうるさく稼働している。
「「ストップ! ステイ!」はないやろ……」
「後悔すんねやったら、そんな毅然と言いきんなや」
「柳のようになよなよと命じられて、動く軍人なんかおるわけないやろ」
「ほんならグチグチ言うな」
「いや、あんな噂はアカン……。若いつばめを調教中はアカン……。アカン、酔おう」
決断するが早いか、自身の腹に腕をつっこむ。しばらく探し、臓器を一つ取り出す。
「よっと」
空間のひび割れ――ゲヘナ――に、放り込む。キムが渋い顔をしている。
「公共の場所でやるな」
「ええやん。血も肌も見せてないねんから」
おかわりのヘネシーを一口。とたんに腹がじんわりご機嫌に。頭の方はご機嫌とは言いがたいが、そのうちほろ酔い程度のご機嫌と変わるだろう。
悪魔が内臓を抜いてまで楽しむ酔いを、人間は内臓を守るために控えねばならないとは! 気の毒千万!
やっとハンドバッグから”仕事”を取り出す。鼻歌交じりでキューブ状の物体を解いていく。
「ルービックキューブなんぞ家でやらんかい」
「ルービック……? それは知らんけど、今、家ん中ちょっと喧嘩中でな」
「喧嘩……?」
1時間前。
ユキが「一大事ダヨ!」とリビングに飛び込んできた。デニムのホットパンツとタンクトップから溢れる健康美。白いロングヘアと赤い瞳も明朗な、ロシアハーフのアルビノ娘。黙っていれば美少女なのだが……。
「納の部屋にエロ本とかAVが一コもナイ!」
黙っていないので台無しである。
「必要ないもん」
納がめんどうくさそうに返答する。潜入捜査官奇跡の脱出を邪魔されて不服らしい。深夜に再放送中の海外ドラマ。最近毎回録画し始めた。
「必要ナイ!? それはムラっときたときのリアルなお相手に不自由してないということデスカ!?」
「そういうんじゃないよ」
「っつーか、ひとの部屋を勝手にあさるんじゃないよ」
隣から蛍が口を挟む。当節の流行らしきあまり上品でない服に、金髪に染めたロングヘア。今日はアップにしている。最近あけたピアスを見せたいのだろう。ドラマは流し見である。展開が読めているので。
「納だってこないだ私の秘蔵本、勝手に見たからおあいこダヨ!」
「別に隠してなかったもん。本棚にどーんとおっきな漫画があったから何かと思って」
「百合神様の再録集ダヨ!? 大事に本棚にしまうに決まってるデショ!」
「ゆり……?」
現代知識に不足がある蛍に、納が答える。
「フィクションのレズ」
蛍は暫く考え。
「じゃ、ユキは女が好きなわけ?」
と問うた。
「これだから一般人はわかってナイ! フィクションの恋愛に生身の人間が入ったら毒物混入なんダヨ! 私はいらない存在ナノ! ただ見つめるだけの存在ナノ!」
「……ふーん」
「理解してないしする気もないけど気持ち悪いなって反応!? ふざけるなヨ! こうなったら蛍の好きなエロを見つけてやル! 部屋入るヨ!」
「入れてやるわけねーだろ」
「そうだよ。入らなくていいよぅ」
来週に続く! のテロップを見ながら。
「SMの縄系が好きな程度だよ。スマホに入れてるから、勝手に触っちゃダメだよ」
納はあっさり暴露した。
「こういうわけで、うちは今めっちゃ喧嘩中」
「帰れや。止めろや」
「今、ちょっと落ち着いたとこでせなアカン作業やってんねん。お、開いた」
中から手紙を取り出す。懐かしい封筒。最近はデザインは同じでもインクジェットが多い。
「そのルービックキューブかからくり箱かが?」
「うん。開封手順を間違うと半径30メートルが消し飛ぶ」
「帰れええええッ!」
二度目に向かう銀座。
道中教えられたことを、再び展開する。
【ソロモンの小さな鍵】
大英博物館地下所蔵。
展示されているものと異なり、ソロモン王が七十二霊の悪魔の力を、「魔方陣程度で召喚されると錯覚されるほど」弱める呪法を施した原本である。
「じゃあ、悪魔って魔方陣で呼べないの?」
「最下級の食人鬼程度なら呼び出せるけどな。ソロモン七十二霊は本来上級悪魔。貴族やから無理」
「えらいと簡単に来てくれないの? なんで?」
「悪魔はリアリストやからね」
「リアリスト?」
「そ。よく、契約の対価に魂を奪うって伝説きくやろ? せやけど、魂って存在をどんな科学を使っても目視できへん。つまり、存在せえへんもんやねんな。なら、魂とは何を意味するか?
思考を司る脳か? 思考するだけで行動できなければ意味がない。
生活を司る富か? わざわざ人間の手を借りるまでもなく入手できる。
命を司る心臓か? 一番いらない。使い道皆無。
魂とは、その人間の今後の人生。悪魔自身が人間と対等の存在であるほどに己を低うして、それでも手に入れる価値がある人生を持つ者にのみ、悪魔は契約を持ちかける」
「どうやってそんな人生かわかるの?」
「そこは悪魔としての力量。せやから、大概の悪魔は人間と契約せえへんよ。リアリスト。損しそうなこと、わざわざしない」
「僕はそんな人生の可能性がないから、一方的な下僕にしてくれたの?」
「一方的な下僕になりたがったヤツは他におらんよ」
そこでメフィストはクラクションを鳴らした。話がそらされた気がした。
「ソロモン王がどんな手段を用いて、その呪法を可能にしたかは解明されていない。ま、解明されてたら解消もされてるわな。
現在中級程度に魔力を抑えられているソロモン七十二霊にしてみたら、なにがなんでも解消したい呪法や」
「弱くされたのが嫌?」
「そういうこと。君かていきなり小学生にされたら嫌やろ? せやけど、人間サイドからしたら、非友好的で強力な悪魔の力は削いでおきたい。
そういうわけで、大英博物館の地下で英国国教会の精鋭が封印してたんやけど。その結界が破られた」
「誰が破ったの?」
「表沙汰にできない王族は、墓か教会行きと相場が決まってるもんや。結界を破ることが目的……、いや、それで大混乱が引き起こされるのを想像してニヤニヤするのが目的やな。もう死んでるし悔いもない」
「そっか」
「だから今回は、英国王室のけっして公開してはならない依頼かつ、全面的なもみ消し行為が保証された依頼いうこと」
「もっかい結界張るの?」
「詳しいことは今から行くとこで、私の昔なじみから――」
急ブレーキ。
「うわっ」
どうしたのと聞くまでもなく。
運転席側の窓に掴まっている者。
受けるクラクション。スピンするような道路脇への移動。掴まり続ける、クラシカル風のメイド。
ベンツを路上駐車。メイドは飛び下り、そのままスカートをつまんで一礼する。
「お久しぶりです、メフィスト陛下。ユーリ・レッドローズです」
メフィストの明るい声。
「ユーリ! えらい大きなったなあ!」
メイドの微笑。
「光栄です。失礼ながら挨拶は後ほど。奥様より言づてを預かっておりますので」
「何何ー?」
ユーリと呼ばれたメイドはすっくと顔を上げる。
「はい。一つ目。ただいまよりあちらのヘリを撃墜いたしますので、ルート変更をお願いいたします」
上空にヘリコプター確認。推定距離4000メートル。
「二つ目。たいへん不確かな情報ですが」
爆音。
「敵勢力にローマ・カトリック教会が関与している可能性アリ、です」
落下。落ちてゆくヘリコプター。
「うわー、ユーリ! もうすっかり一人前になったやん!}
「はい! 僕は優秀なメイドですからね」
得意げな20歳前後青年の背後。
道路でヘリコプターが大炎上した。
≪空六六六ぷらす!≫
ユキ「と、いうわけで、私は百合が好きだけど二次元オンリーで、BLと夢は守備範囲外なんだヨ!」
蛍「よくわかったけどさ……。よくそんなことそんなにハキハキと言えるな……」
ユキ「ああ……。一番キツいのを乗り越えちゃうとネ……」
蛍「キツいの?」
ユキ「寝る前に食卓で百合漫画読んで……、うっかりそのままにして寝落ちして……、起きたらお父さんが一晩中その姿勢だったんだろうなって顔色で食卓についてタ……」
蛍「うわあ……」
ユキ「ハートマーク乱舞なシーンのページを開いて、「では、このどちらかの女性に自分を投影しているわけではないのですか?」とか聞かれる地獄……」
蛍「めちゃくちゃ気の毒だけどさ。全面的にお前が悪いよ」
令和元年十月一日
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