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空六六六  作者: 浮草堂美奈
第一章 出逢ノ語リ
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ユキ・クリコワの出逢い4

 ガチャリ。

 扉が開く音。

 血塗りの床で腰に手を当てて立つ女。

「来たか、納、蛍」

 ゴッバサバサバサガチャーン。

「えっちょっと何やってんの」

 不穏な物音に思わず普通に驚いてしまう。玄関に駆け寄ると。

 玄関口で納が頭を押さえてうずくまり、蛍が散らばった新聞紙を集めていた。

 納の右半身からかなり出血しているが、押さえているのは頭である。

「……何してんの?」

「敷居で頭打った……」

「その新聞紙は?」

 蛍が勝手に代わりに答える。

「頭打った拍子に靴箱に積んであったの引っ繰り返したんだよ。もー、ほんっとどんくさいんだからさー」

 音からして相当激しくぶつけたらしく、まだうずくまっている。しかしどう見ても血まみれの右半身の方が重体なのだが。

 ユキがひょっこりのぞく。

「ウー、あなた、昨日おっきくなったデスカ?」

「いきなりいう事がキツイんだけどこの白髪女」

「ダメだったデス? 金髪の人」

「もっと言ってやって」

「ラジャーダネー」

「ひどいよ」

 ようやく立ち上がった納が抗議するが、蛍に「ひどくない」と言い切られて黙る。

「あなたたちどういう関係デスカ?」

「メフィストの部下ってカンジ? まー、銃撃ったのさっきが初めてだけどね。ヨロシクー」

「蛍はすごいんだよ。なんでもできるよ」

「お前に比べりゃ大概のヤツはなんでもできるよ」

 ほとんど表情が動いていないのでわかりづらいが、納なりの自慢だったらしい。蛍もそこそこまんざらでもない顔だ。ただしあくまでそこそこだが。

 まあ、これで揃った。

「ほしたら中で話そか。二つ問題があるけど」

「問題?」

 メフェイストは親指で背後を指す。

「一つ目は死体が転がってる。二つ目は世界の命運がかかってる。まあ、大した問題とちゃうやろ」

 ため息。

「後二つ問題があるって、メフィスト」

「何?」

 蛍も親指で指差す。

「そこの白髪女のパジャマが血塗れ。納もたった今こぶを作った上に血塗れ」

 メフェイストは口元に手を当てた。

「! 時間回復タイム・リカバリーをかけるわ。よう言うてくれた」


 リビングの死体の傷口が塞がって行くのを確認して、メフェイストは肘掛付の椅子に座った。残りの三人は床である。

「まあ、話は簡単なんやよ」

 飾ってあった地球儀を手に取る。

「私には大変敵が多い。最下層のチンピラから最上級悪魔のサタンまで。より取り見取りの食い放題。そういうわけで」

 地球儀を放り投げる。

「君たちにはその連中を殺してほしい」

 地球儀を受け止める。

「殺すの? 倒すんじゃなく?」

 蛍の問いにあっさり答える。

「スポーツじゃないからね。殺すに限る。話し合いなんかも望むんじゃないぞ。そんな手間をかけてまで生かしておく必要がない。殺してしまえば簡単に事は澄むんだから」

 空中に亀裂が入る。ゲヘナの入り口だ。そこに手を突っ込んで煙管を取り出す。

「もっかの最重要課題はサタンの殺害だ。古臭い御伽話のように、人類滅亡をたくらんでる。私は彼のために軍勢を揃えた。面倒な男だ」

「ウー、正義の味方みたいダネ」

 ユキの言葉に、メフィストは皮肉っぽく口角を釣り上げる。

「バカ言っちゃいかん。正義と言うものは強いものしかなりえないんだ。勝てば官軍負ければ賊軍っていうだろう? 世の中はそういう風にできているんだ。銃を捨てても多数決で物事を決めるだろう? それは数が多い方が総合的に力が強いからだ。そして現代はこの多数決で決定する、ということを正しいとする力が強い。マイノリティである地点で絶対に正義とはなれない。要するに、正義の味方は人を殺しちゃいかんのだ」

 一瞬の静寂。

 納が破る。抑揚もなく。

「だけど、僕は殺すべきだと思うよ」

「ほう」

 メフェイストが目を細める。

「大多数の人がなんで殺さないという選択肢を取るのか分からないもの。殺してしまえば解決するでしょ? 確かに今の法律では人を殺しちゃいけないけど、それは法律が間違ってる」

「たとえば?」

 うーん、と納は考える。

「そうだね……たとえば、電車でベビーカーに文句を言う人がいたとして。その人は線路に投げ込んでしまえばいいと思う」

「それは電車が止まるぞ」

「ベビーカーが救えるんだよ? みんな我慢できるでしょ」

「文句を言っていた人が改心する可能性もある」

「するかしないかわからない改心を待つより、その場で殺した方が早くて確実でしょ」

「その人にも大切な家族や友人がいるかもしれない」

「我慢すればいいんじゃないかな。悪いことをしたんだから仕方ないよ」

「ふむ」

 なんやろなあ、メフェイストは関西弁に戻る。

「言ってることは私と大して変わらんのやけど、君がすごく怖い子に感じる」

「そうかな?」

「だってメフェイストはいかにも悪い顔して言うケド、オサムはスゴく淡々と言うネー」

 ユキはさっくりと言った。

「ちゃんと育ってないみたいデス」

 きょとんとする納の表情が人形めいている。

「ちょっと話戻そ。さっきの化け物もその敵なわけ?」

 蛍に頷く。

「そうや。あれがサタンの軍勢の最下級悪魔、食人鬼グール。まあ、向こうも動き出したってことやな」

「ちゃんと勝算あんのかよ?」

 パチンと指を鳴らす。

「今は無いに等しい。よって君たちを鍛える」

「勝手なんですけど」

「戦争はいつだって勝手なもんや。それを不服に思うのは負けたヤツのすること」

「言ってくれるじゃん」

 蛍は両手を広げる。

 それはそれとして。

「ここ死体と血だらけでキモいから帰りたいんだけど。つかれたしさあ」

「もっともな意見やな」

 突然ユキが慌て出す。それはもう目に見えて。

「帰っちゃうデスカ!?」

「そうやよ」

「私どうすればいいデス!? 死体だらけダヨ!」

 あっさり

「一緒に帰りゃいいじゃん」

「へ!? なんでデスカ! なんで私も一緒に帰るデスカ!?」

 納が少し考えるそぶりをする。首を傾げている。

「おなかすいたから?」

「それはお前だろ」

「だってすいたし」

「こんな死体だらけのとこでなんで食欲わくんだよ」

「いっぱい動いたから」

「動物か」

「後、眠い」

「完全に動物か。俺絶対今日何も食べられないから」

「蛍の分も食べていいの?」

「ポジティブか」

 ユキに向き直る。相変わらず表情は変わらない。

「山分けしよう」

「ヤッター?」

 はいはい、と大げさなそぶりでメフェイストが手を叩く。

「撤収撤収。ユキ」

「ハイ?」

「引っ越しや。十三番街へようこそ」

 暫く戸惑い。

「ハイ!」

 じんわりとぬくもりが広がる。


 なお、その晩。

「ホタルってホントスゴいんダネ!」

「ね、なんでもできるでしょ?」

「ウン! びっくりしたヨ! すっぴんになったら目が無いに等しかったネ!」

「……あれ、朝になったら目が開くのかと思ってた」

「違うヨー。すごくいっぱい盛ってるヨー」

「元からツラの良い連中は黙ってろ!」

≪空六六六ぷらす! ご!≫


正しい回答をせよ。


蛍「あー、正月太りしちゃったー」


100点の回答。

納「ふーん……全然気づかなかったけど……ちゃんとチェックしててすごいね」

蛍「えー、そう? まあダイエットするって」


0点の回答。

ユキ「やっと自覚したデスカ? ヤバいヨー。がんばってくだサイ」

蛍「ざっけんなお前の方がデブだろうがよ!」


100点の回答の裏

納「一日に10キロ単位くらいで変動しないとわからなくない?」

ユキ「観察力が足りないんダヨ!」

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