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灰色の弾丸-Earl Grey of All Trades-  作者: 旗戦士
Chapter1
6/29

Order6. Back into hell

お待たせしました。

<シカゴ郊外>


 カルとグレイの乗ったトヨタFR-Sはソフィアを攫った連中の黒いSUVを依然として追走している。二台の車は射撃場からシカゴ市内へ向かう荒野を突っ切っている1車線道路を走行していた。唸りを上げて加速していくFR-Sの助手席の窓からグレイは身を乗り出し、愛銃M686のアイアンサイトで照準を定めた。だが運転手には命中せず、彼の放った.357マグナム弾は後部座席の窓を文字通り弾けさせたのみで牽制にしかならない。舌打ちをしながらグレイはもう一度狙いを定め直すも、SUVの後部座席からサイレンサーが装着されたFN社製P90の銃口が現れるのを見逃さない。

「銃撃が来るぞ! 」

「分かっている! 」

P90の銃口が火を噴く直前にFR-Sは大きく右に逸れ、5.7×28㎜弾を肉薄した。空気を切る音がグレイの耳にも届き彼は慌てたように身を屈ませ、銃弾を凌ぐ。FR-Sのボディにも5.7×28㎜弾が命中したようで、ボンネット部分に幾つかの風穴が出来上がっていた。

「……車に傷を付けやがって……! 」

「安心しろよ、俺のは木っ端微塵に吹っ飛んじまった。それに新入りも連れてかれたしな。キレるなって方が難しいぜ」

「……そういう冗談を言えるという事は、正常な証だ」

グレイは肩を竦め、再び窓から体を乗り出すとM686の引き金を続けて二回引く。風切り音と共に軽い炸裂音が周囲に響き、SUVのトランク側の窓を打ち破ると微かな声ではあるが少女の悲鳴が聞こえた。あの車の後部座席にソフィアはいる。そうグレイは確信すると助手席の射撃手にまず狙いを定めるも、アスファルト舗装の質が悪い道路という最悪のコンディションのせいもあってか上手く命中しない。

「おいカル! もう少し近づけられねぇのか!? 」

「……捕まっていろッ! 」

心地よいエンジンの回転が上昇していく音と共に、FR-Sはあっという間にSUVとの距離を詰める。FR-Sが背後についた瞬間カルによってハンドルは右に切られ、FR-Sは舗装されていない砂利道に飛び出す。SUVと平行線上に来たその時、M686の.357マグナム弾が唸りを上げて射撃手に迫った。射出された火薬交じりの鉛玉はいとも簡単に射撃手の額を貫き、文字通り脳漿を撒き散らしながら弾けさせる。

「ビンゴぉ! 」

グレイの声と同時にFR-Sは再びSUVの背後に舞い戻り、追従を再開する。その間、グレイはM686のシリンダーをスイングアウトし、排莢した後にスピードローダーに込められた6発の.357マグナム弾を再装填した。FR-Sのフロントガラスはいくつかの銃創が出来上がっており、グレイとカルの視界を塞いでいる。

「この車、壊しちゃまずいものか!? 」

「借りものだ! 雇い主のな! 」

「ああそうかい、なら大丈夫だ! 」

直後M686の銃口はFR-Sのフロントガラスに向けられ、大きな風穴とヒビが幾つも出来上がる。その後彼は脆くなったフロントガラス目がけてM686の台尻を叩きつけ、窓を叩き割った。冷たい風が一気に車内に入り込み、グレイは視界を広くするために前髪を払う。

「ばっ……! 貴様! 他人のものだと思って! 」

「気にすんな! どうせいつかぶっ壊れる! それよりも――」

グレイはSUVのがら空きになったトランクに視線を傾け、ソフィアの位置を確認した。彼女は後部座席の真ん中に座らせられており、口元はテープで、両腕はロープで縛られている。助けを求めるような眼に涙を浮かべたソフィアの視線がグレイに突き刺さり、彼は怒りに顔を歪ませた。直後グレイはM686で彼女の両端にいる男二人に狙いを定め、火薬と共に鉛玉をその銃口から吐き出す。後部座席のシートごと胸を貫き、同時に2人を無力化したグレイはカルにFR-Sをもっと近づかせることを頼んだ。

「どうするつもりだ! 」

「俺があそこに乗り込む! そのまま位置を保ってくれ! 」

「無茶を言う……! 」

グレイはその後窓からボンネットの上に飛び乗ってからそのままSUVの内部へと飛び込もうと試みる。一瞬足を滑らせて自身の制御をボンネットの上で失うも、なんとか耐えきって彼は割られたリアウィンドウからSUVの後部座席へ侵入した。

「お、おい!? どこから……!? 」

「はじめまして、あばよ! 」

運転手が腰のベルトに差していた自動拳銃を抜きはらう直前にM686を側頭部に突きつけ、引き金を引き絞る。脳漿交じりの赤黒い血の塊がハンドルとフロントガラスに飛散するも、グレイは気にせずに出来上がった死体をドアを開けて蹴落とした。一瞬だけSUVの制御が失われてしかけるが、なんとかハンドルを握ったグレイは迫り来る対向車を間一髪で躱し切る。サイドミラーが一瞬にして吹き飛ぶ光景を一瞥しグレイはSUVの背後にいたFR-Sに向けて親指を立てると、そのまま路側帯へ停車させた。

「……ふぅ、どうにかなったな」

「ん~! んぅ~!! 」

「あ、悪い悪い。そのままだったわ」

ポケットから愛用しているカランビットナイフM-Tech社製G10を取り出すと、ソフィアの両腕を拘束していたロープを切り落とす。その後グレイは彼女の口に貼ってあったガムテープを剥がし、ナイフを懐に仕舞った。

「ぷはぁっ! し、死ぬかと思いましたぁ~!! グレイさぁ~ん!! 」

「どわぁっ!! いきなり抱きつくんじゃねぇちんちくちん! 」

「だってぇ~!! 本当に怖かったんですからぁ~!! 」

無理やり顔に引っ付いたソフィアを引っぺがし、グレイは拭い忘れていた返り血を改めてふき取る。すると背後から銀髪の青年が手を差し出しながら現れ、グレイと彼は互いに握手を交わした。

「助かったぜ、カル。お前がいなきゃ今頃ソフィアは連れ去られてた」

「お安い御用だ。それが任務でもある。それより……これからどうするつもりだ? 」

カルの言葉にグレイは肩を竦める。

「さあな。俺たちを追う連中さえ分かりゃ苦労はしねぇ。ともかくこのSUVが警察に見つかりでもしたらヤバい。さっさと離れるのが無難だな」

「……そうか。お前たちを追っていた男たちには心当たりがある。俺の車に乗っていけ。休憩がてら、飯でも連れて行こう」

「本当ですか! ありがとうございます、えっと……」

「カルヴィン・ヴェント。カルでいい」

ぶっきらぼうに言い放ったカルの姿はFR-Sの運転手へと消え、グレイは煙草を咥えながらソフィアを連れて助手席に乗り込む。そのままカルの車はシカゴ市内へ向かう道へと消えていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<便利屋事務所・1階>


  ところどころにヘコミや傷が出来上がっているFR-Sを地下駐車場に停め、3人は地上へ上がるとグレイの知り合いが営業しているというカフェへ訪れる。"Wild Seven"と金色の筆記体で描かれた木製の扉を開け、グレイ達は店内へと入った。夜はバーとして営業しているため、入店した瞬間に綺麗に磨かれたカウンターがまず最初に目につく。そしてそのカウンターでコップを丹念に拭う白髪の中年男性が、グレイ達を見るなり笑顔で出迎えた。

「どうも、グレイさん。お久しぶりですね、最近お店に来られなかったでしょう? 」

「まあ野暮用でな。どこか3人用の席は空いてるか? 」

「今混雑しておりまして……カウンター席ならすぐにご案内できますよ」

マスターの言葉に従い、グレイは彼の前の席に腰を落ち着ける。グレイにつられる様にソフィアとカルも椅子に座り、羽織っていた上着をハンガーラックに掛けていた。

「グレイさんがこんな大所帯で来られるなんて珍しいですね。明日はきっと嵐でしょうなぁ」

「おいおい、俺だってたまには群れるぜ。それにこのちんちくちんは俺んとこの新入りだ」

「ど、どうも! ソフィア・エヴァンスっていいます! 」

グレイの新入りという言葉にマスターの目つきが一瞬鋭いものに変わるも、すぐににこやかな表情を浮かべソフィアと握手を交わす。同じようにしてカルも簡単に自己紹介を済ませると、マスターの姿は既にカウンターから消えていた。

「……じゃあ早速本題にでも入るか。カル、お前の持っている情報を教えてくれ。必要なら金も出す」

「いや、それも任務の一環として俺は判断する。金は必要ない。まず、俺は社長……ミカエラの用心棒として雇われている護衛の一人だ。あんたを尾行していたのも、社長がアールグレイを護衛しろという任があったから。ここまではいいな? 」

「あのお調子者がねぇ……まあいい。現にお前は俺たちを助けてくれた。そこはカルに免じて不問にしとくよ」

そう言ってくれると助かる、と言わんばかりにカルは首肯する。

「それで? お前の心当たりとやらは何なんだ? 」

「あんたが社長に依頼されてヴィクターアームズの社員としてレストランに来た時があっただろう。おそらくその時にやって来たアルフという男が、今回の首謀者だ」

グレイはカルから渡された一枚の写真を受け取った。その写真には黒い革ジャケットを纏ったオールバックの男が多くの護衛を引き連れてアパートへ入る瞬間が隠し撮りされており、グレイにもこの写真の男には見覚えがある。アルファレド・ホプキンス。グレイがミカエラからの依頼で全滅させた小規模ギャンググループを傘下としていた幹部の男だ。

「ほぉ……こいつはもう俺が殺ったって事に気づいている訳か。それにソフィアの身元も……」

「おそらく、な。なあソフィア、なぜ元々一般人だったお前がギャンググループの標的になった? それも中規模の連中に」

「それは……私がこの人たちに誘拐された時、財布を盗まれたんです。その時に入っていた看護師免許とか、身分証とかからかもしれません」

ふむ、とグレイは顎に手を当てる。このまま自身の事務所に留まっているのならば、確実に場所を特定されて殺しに来るだろう。それに夜の依頼の際に外出し、そのあとを狙われたら元も子もない。

「カル。こいつの居所、分かるか? 」

「……なぜそんな事を聞く」

「興味本位だよ。いいから教えろって」

グレイは呆れた様子を見せるカルから一枚のメモ用紙を受け取る。その紙には住所が記されており、しかもその住所はシカゴ市内の高級アパートを示していた。あそこの区画は夜になると人通りが少なく、車の数も減少する。

「……くくっ、はははっ。馬鹿なやつだよなぁ、自分から証拠隠滅を手助けするなんてよ」

「な、なに言ってるんですか? 」

「まさかお前……殺る気か? 」

カルの問いにグレイは不敵な笑みを浮かべた。不安げな表情を浮かべるソフィアを一瞥し、グレイは消すことのできない笑みを二人に向ける。

「俺の愛車をぶっ壊して、更には俺自身と新入りにも傷をつけた。自分の手は汚さずにな。これで黙ってちゃ、便利屋の名が廃るねぇ」

「……やれやれ。どこか頭のネジが吹っ飛んでいるようだな、あんたは」

「誉め言葉として受け取っておくぜ、"銀の死神"。それとお前にも手助けしてもらう。護衛対象が死んだらダメだろ? 」

「ま、まさか……カチコミってこと? 」

グレイはソフィアの問いに満面の笑顔で頷いた。心配そうな彼女の表情が更に絶望したものとなり、彼はソフィアの頭に手を置く。

「ははは、だから言ったろ。危険な就職先だって。まあまだ新入りだし、今回ソフィアは後ろでサポートしてくれ」

「うぅ……もう鉄火場はイヤですぅ……」

ソフィアの心からの願望が届くはずもなく、グレイとカルは作戦を立てていく。その後マスターの手によって食事が運ばれると3人は即座に平らげ、カフェを後にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<シカゴ市内・ミレニアムパークアパート>


 シカゴの街を夜の帳が包むころ。普段の革ジャケットとは違い、紺色のスーツに身を包んだアルフは疲れ切った体に鞭を打ち、15階建ての内5階にある自分の部屋までエレベーターで向かっていた。今日の彼の業務は薬物の取引であり、大きな組織との商談であった為に正装で仕事に赴いていた。エレベーターが5階についたかと思うと彼は護衛を部屋の前まで待機させ、着慣れないスーツのジャケットを放りながらネクタイを解く。

「ふぅ……なあリック、なんでこうもスーツってのは着心地が悪いんだ? 余計に疲れちまうよ」

「はは、ビジネス街の中心でそんな事言っちゃあいけませんよボス。ま、だから俺や他の連中も着崩してますがね」

「あぁ……そういや、あのギルバートとやらはどうなった? 無事殺ったのか? 」

アルフの問いにリックの表情はどこか重い。彼は一瞬で察すると、キッチンにある冷蔵庫から馴染み深い瓶ビールを二本取り出し、リックに渡した。

「気を落とすな。誰にだって失敗はあるし、それに殺せる時はいつか来る。それよりも俺たちは更にグループを拡大させなきゃならん」

「ボス……すいません。気を遣わせてしまって」

「俺とお前の仲だろう。今更気にするな……ん? 」

瓶ビールの蓋を栓抜きで開けようとした瞬間、携帯電話のバイブレーション音が部屋に響く。リックに視線を合わせると、どうやら彼の携帯からではないらしい。アルフは先ほど脱ぎ捨てたジャケットのポケットからスマートフォンを取り出すと、画面には"ギルバート・サリバン"の着信が来ている表示が映っていた。おそるおそる彼は着信に答えると、左耳にスピーカーを当てる。

「……もしもし」

『よぉ。アルフさん、だっけか? 俺だよ、ギルバート・サリバン』

「テメェ……どの面下げて電話掛けてきやがった」

受話器越しのギルバートはアルフの言葉に笑い声を残した。既に部下を何人も送り込んでいるのにも関わらず、彼が余裕でいられるという事はアルフの神経を逆なでする。深呼吸をしながら、アルフは口を開いた。

「笑っているのも今のうちだ。お前を必ず見つけ出し、殺された部下の仇をとってやる」

『そうかい。じゃあちょうどタイミングがいい。意外と気が合うのかもな、俺たち』

「……何を言ってやがる」

『今あんたのアパートに来てるのさ。いいとこ住んでるねぇ、ミレニアムパークが一望できるとはたまげた』

ギルバートの言葉に驚愕を覚え、焦りつつ閉められたカーテンを開けて窓の外の景色に視線を移す。確かに下のエントランスに、電話を片手に黒いコートを羽織っている長身の男が立っていた。

『5階だな。教えてくれてありがとうよ、マヌケ』

そう言って電話は切れ、アルフは携帯を地面に叩きつける。リックが何事かと焦りの表情を浮かべてかれに近寄ると、彼はゆっくりと立ち上がった。

「奴が来やがった。ここにいる部下全員に知らせろ、あの男をなんとしても殺せ」

リックの愛用するスタームルガー SR9のスライドが開閉する心地の良い音が聞こえたと共にリックの姿は部屋から消え、アルフはソファに腰を下ろす。傍にあった小さな机の引き出しから彼も自身の愛銃であるFN ブローニングハイパワーの空弾倉に9㎜パラベラム弾を込め始め、ハンマーを降ろすとショルダーホルスターに差し込んだ。直後耳にスマートインカムを装着し、それを起動させる。

「全ユニットに告ぐ。例の標的がノコノコやって来やがった。なんとしてもここから出すな」

次回、ついに決戦です。

そろそろ1章は終わりですかね。

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