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灰色の弾丸-Earl Grey of All Trades-  作者: 旗戦士
Chapter1
2/29

Order2. Roundabout

リブート版第二話です。

旧作とは違い新キャラや改変キャラが多く登場します。

<便利屋事務所・1階>


 依頼を終えた直後、既に時計の針は深夜1時を指している。グレイは自身の愛車アウディA6を路上に駐車し、雇い主であるマスターの元へ向かうために彼のバーの扉を開け、店内へと入った。昼間のカフェとは打って変わり、酒の匂いが辺りに充満している。酔いつぶれた頬に傷のある男、未だに酒の力を借りて騒いでいる若者グループ、カウンター席で一人グラスを煽る老紳士など、ここの客はバラエティに富んでいた。

「いらっしゃいませ。何になさいますか? 」

「よぉ、マスター。ビール頼むわ。あとチップスを頼む」

かしこまりました、という声と共にマスターの姿はカウンターの奥へと消えていく。グレイの言う"チップス"という単語は二人にとって仕事を完遂した、というある種の暗号であった。周囲の客に仕事を悟らせない為、それと裏との区別を図るため、彼らはこういった暗号を交わす事が多い。またグレイの場合は自身の事務所を構えているので便利屋の存在を知った客が彼の元を直接訪ねてくる事もしばしばであった。

「お待たせ致しました。私も一杯頂いて宜しいですか? 」

「おう。んじゃ、乾杯」

グラスを合わせる甲高い音が響いたかと思うと、グレイは既にビールの半分を飲み干す。清涼感とビール特有のアルコールの匂いが彼の口内を刺激し、思わずグレイは声を上げてしまう。仕事を終えた後のビールはやはり格別だ、その仕事が如何なるものであっても。すると、マスターからポテトチップスの袋を差し渡された。おそるおそるグレイが手を突っ込むと、そこにはゴムで丸められた100ドル札の束が彼の手に握られている。慣れた手つきで彼はそれをポケットに仕舞うと、つまみ代わりにチップスを一枚頬張った。

「お疲れさまでした。またお話が来たら連絡させて頂きますね」

「いつもご贔屓にどうも」

不敵な笑みを浮かべながらグレイはグラスの中に残ったビールを飲み干す。すかさずマスターの手が空いたグラスを握り、グレイは彼にウィスキーを注文した。数分後、平たいグラスに注がれた茶色の液体と刺々しい氷を呷りながら彼は一口含む。先ほどとは違う強烈なアルコールの味にグレイは目を瞑り、その後にやって来た濃厚な風味を楽しんだ。

「やっぱりウィスキーはロックに限るな。今日はどこのものなんだ? 」

「スコットランドですよ。シングルモルトです」

「道理で強いと思ったよ。明日も二日酔いだな」

グレイは自嘲気味に肩を竦め、また一口モルトウイスキーを飲み始める。既に角が取れて丸っこくなった氷を一瞥すると、彼はそれを一気に飲み干した。

「おや、今日はずいぶん飲まれますね。何かあったのかお聞きしても? 」

マスターの問いに、グレイは渋々口を開く。

「……またあの"悪夢"が見えてきやがった。昨日だってしこたま酒を飲んだのに、俺の頭の中から消える気がしない。むしろ一向に強まっている感じがするんだ」

「悪夢を見るという事はまだ貴方が人間だという事ですよ。人は辛い記憶を経て強くなっていく……グレイさんもその段階に来たという事です」

「ははっ、なんだか爺さん臭いぞ? 」

「おや、すいません。年を取るとどうにも説教臭くなってしまうんですよ」

グレイは肩を竦め、空いたグラスをカウンターに置いて財布を取り出す。20ドル札を数枚取り出してマスターの眼前に差し出すと、グレイはハンガーに掛かっていたコートを羽織りつつ、座っていた長椅子から立ち上がった。

「ま、今後ともよろしく頼むぜ。釣りはいらねぇ」

「ありがとうございます。ではまた」

バーを出るなり、グレイはすぐ傍にあった階段をゆっくりと上りつつ、事務所と自宅を兼ねた2階のドアを開ける。酒が効いているのか、グレイの体はそのまま寝室へとなだれ込んだ。直後彼はベッドの上で寝息を立てており、グレイの一日は終わりを告げた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<便利屋事務所・寝室>


 けたたましく鳴り響くグレイのスマートフォンの着信音が、酒で寝込んでいたグレイの身体を強制的に起こさせる。信頼のできる人間としか連絡先を交換していない為、掛かってくる電話は確実に知人のものであった。寝ぼけ眼をこすりながらグレイは電話に出ると、やかましい女性の声が彼の耳に響く。

『おっはようございまーすっ! ご機嫌如何でありますかぁー? 』

「……たった今お前のせいで最悪になった。何の用だよ、ミカエラ」

『いやぁ、今日の訪問の件ですよぉ。忘れちゃったのでありますか? 』

グレイは頭を掻きながらベッドから起き上がった。このけたたましい電話主の名はミカエラ・ウィルソン。便利屋として活動するグレイに武器や弾薬を提供している武器商人である。仕事も早く気も回る有能な人物ではあったが、このように性格に難があるのが悩みどころであった。

「あー、そういや言ってたな。弾薬を売るついでに仕事をお願いしたいって」

『えぇ、そうであります! もう、グレイさんはドジっ子ですねぇ! レディの約束は覚えておくものでありますよ? 』

「そんな物騒な約束あるかっての。とにかくもう起きたから、いつでも事務所に来てくれ。話はそこで聞く」

『ああっ、ちょっとぉ! もう少しお話を――』

電話を切ってようやく騒がしい声が止んだと思うと、グレイは深いため息を吐く。いつも通りに彼はシャワーを浴びてから冷蔵庫を開け、コップ一杯の牛乳とこんがりと焼けあがったトーストを平らげた。そうして数十分後、事務所のドアベルが何回も鳴らされる。

「うるせぇ! いつもチャイムは一回でいいって言ってんだろ! 」

「やはは、私が来た事を知らせた方がグレイさんも安心できるでしょう? 」

「余計なお世話だっつーの」

紫色のカールが掛かった長髪と赤縁眼鏡を携え、ミカエラが事務所へとやって来た。黙っていれば気立てのいい女なのだが、とグレイは内心頭を抱えた。彼女をオフィスに招き、客人用のソファに座らせると彼はティーカップに入った紅茶を差し出す。

「それで、仕事ってなんだ? お前んとこで従業員するつもりはねぇぞ」

「いやだなぁ、そんな雑用じゃありませんよ。殺しと言った方がいいかもしれませんね」

グレイは彼女の言葉に眉を顰める。普段ミカエラはこのような仕事を持ってこない人物であり、妙な珍しさを彼は感じたからだ。

「……詳しく頼む」

「ここからすぐのミドルアパートがあるでしょう? 赤色の。そこの4階に住んでいる方々を殺して頂きたいんですよねぇ」

「報酬は? 」

彼の問いを聞くなり、ミカエラの手には銀色のアタッシュケースが握られ、テーブルの上に置かれる。彼女がそれを開けると幾つもの100ドル札の札束が入っており、思わずグレイの目は釘付けになった。

「前金でこれだけ支払うでありますよぉ。完遂できたらもう一つ、このケースを渡しましょう」

「そんなに面倒な奴なのか。標的の情報とかはあるか? 」

「ギャンググループです。私から銃の値切りを迫った挙句にお金も払わないときました。まあ、報復というやつですね」

これだけの大金を目にして断るようでは死の芳香の名が廃る。深いため息を吐きつつ、グレイは了承の言葉を彼女に告げた。

「さっすがぁ! 持つべきものはビジネスパートナーでありますなぁ」

「最近弾薬不足なのを付け込みやがって……。あと弾薬は売ってくれるんだろうな? 」

「勿論! ミカちゃんのお手頃価格で提供するでありますよぉ! さてさて、何がほしいんで? 」

「357マグナム弾と9㎜パラベラム弾、あと12ゲージも頼む。持ってきてるか? 」

満面の笑みでミカエラは手にしていた大型のキャリーバッグからウィンチェスター社製の白い箱を数個グレイの眼前に置く。直後彼女の手には緑色のレミントン社製の12ゲージ弾の箱が握られ、大きな物音を立てて彼の目の前に現れた。

「全部で230ドルになりまーす! お得ですよぉ? 」

「250でいいか? 釣りは要らん」

「そういうとこ、私好きであります! 」

はいはい、とグレイは彼女の辞令を軽くあしらうと銃弾の入った箱たちを自身の金庫へ収納する。

「時間は今日の夕方19:00から。連中には銃を売る為に従業員を送ると言ってありますので、侵入は難しくないはず」

「あいよ。仕事が終わったらまた連絡する」

「どうもー。それじゃあお気をつけて」

どの口が言うんだ、とグレイは彼女を見送りながら内心毒を吐いた。まあ大金が入るのは悪いことではないが、些か手間の掛かる仕事は自分が怪我をする確率も当然高くなる。やれやれ、とグレイは肩を竦め懐から煙草の箱を取り出した。ラッキーストライク。タール11㎎、ニコチン1.0㎎の重い感触が、グレイの口と喉を刺激する。

「……今日も安息日とはいかなそうだ」

そんなことを呟きながら、グレイは身支度を始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<シカゴ市内・ミドルアパート4階>


  そうして、ミカエラからの仕事が始まる時刻となる。いつもの服装は打って変わり、今のグレイはスーツに身を包んでいた。当然殺し屋だと疑われない為でもあるし、ミカエラの社員である事を証明するためでもある。黒いジャケットに黒いネクタイ、そして黒いスラックスとまるで喪服のような服装にグレイは皮肉なもんだ、と不敵な笑みを浮かべた。これから会う連中の葬式となるのだから。

「すいません。商品をお届けに来ました」

木製のドアをノックし、間もなく扉は開かれる。部屋の中は大麻の匂いが充満しており、一目で一般人ではないと分かるような風貌をした男たちがテーブルに座ってポーカーで遊んでいた。数はおよそ5人。だが、グレイはに奇妙な人物が一人いる事を見逃さない。椅子にロープで縛りつけられた小さな女の子。ガムテープで口を封じられ、目には涙を浮かべている。ボブカットの茶髪に、猫の目のような愛らしい顔つきをしている少女が、確かにそこにいた。

「あぁ、こいつの事は気にすんな。ちょっと所用でよ」

「……えぇ、そうですか」

そう言い残し、グレイは応対してきた赤いシャツの男と共に個室に入る。商談を済ませるためなのだが、無論グレイにはそのつもりなどない。だがあの少女を巻き込まない為にも、今回大きなボストンバッグに入っているショットガン・レミントンM870は使えない。

「それで、本当に値切った価格で売るのか? 」

「はい。社長も不況のせいか、客は一人でも多くほしいらしく」

「はは、そりゃいい事だな。それで、肝心の商品は? 」

「こちらになります」

個室に設けられたテーブルにグレイはボストンバッグを置く。グレイがバッグのジッパーを開け、中身を見せると男は感嘆の声を上げた。夢中になって中身を漁る男の後頭部にサイレンサーのついたHK45を突きつけ、間髪を入れずに引き金を引く。この鞄に入っている銃たちはほとんどがダミーであり、標的の目を欺くための罠。まんまと引っかかった男は悲鳴も上げずに絶命し、個室に血がいくつも跳ね返っていた。直後グレイは大声を上げ、傍らにあった花瓶を地面に叩きつけた。

「何があっ――」

部屋の扉が開いた瞬間、グレイはすぐ傍にいた男に飛び掛かりつつ、鼻っ柱に膝蹴りを浴びせる。その男の脳天に9㎜パラベラム弾を撃ち込んだ直後。只事ではない物音を聞きつけた他の連中が一斉になだれ込んで来るが、彼の握るHK45の凶弾により数人がその場に倒れた。少女は声にならない悲鳴を上げつつ、飛び交う銃弾を交わすように椅子ごと倒れる。

「あと2人ぃっ!! 」

嬉々としたグレイの表情に恐れをなしたのか、生き残りの2人は互いをカバーしつつ部屋の外へと出ようとした。グレイは即座にM686に持ち替え、トリガーを数回引き絞る。.357マグナム弾の驚異的な威力によって逃亡も阻まれ、二人はついに最後の一人となってしまう。仲間が目の前で死ぬ様子を目撃したのか、最後の男は腰を抜かした。握っていた自動拳銃の弾も切れ、迫り来る革靴の音に悲鳴を上げる。

「お、おまえ……! その銃は……!! 」

「へぇ? 俺も有名人になったもんだ……」

有無を言わせずグレイは.357マグナム弾を男の脳天に直撃させ、返り血を一気に浴びた。顔とスーツに掛かった血を涼しい表情で拭い、彼は拘束されていた少女の元へと向かう。まず少女の手足を縛りつけていたロープをナイフで切り、その後口を塞いでいたガムテープを剥がした。困惑した表情を浮かべる彼女を一瞥し、グレイはそのまま立ち上がると個室に置いたボストンバッグを手に部屋を出ようとする。

「ま、待ってくださいっ! 」

「……命は助けた。このことは誰にも言うなよ」

「誰にも言いません! 警察にも! だから聞いてくださいっ! 」

眼に涙を浮かべる少女の訴えに、グレイは深いため息を吐いた。呆れつつも振り返ると、まるで小動物のように体を震わせる少女がグレイの視界に映る。突如としてグレイの脳裏に、幼少期の記憶が蘇った。自分を捨てて蒸発した両親と、一人孤独に路地裏を彷徨う日々。

「お前、名前は? 」

「へ? 」

「名前だよ、名前。助けたんだからそれくらい教えろ」

未だに恐怖の感情を露わにしている彼女にグレイは歩み寄る。すると彼女は涙を拭いて、グレイに名前を告げた。

「……ソフィア。ソフィア・エヴァンス、です」

この出会いがグレイの運命を左右する事に、彼はまだ気づかなかった。

今後は彼女がヒロインとして物語に多く関わってきます。

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