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灰色の弾丸-Earl Grey of All Trades-  作者: 旗戦士
Chapter1
1/29

Order1. 殺しのテクニック

活動報告にてお知らせした、なんでも屋アールグレイのリブート版になります。

随時更新していくので、皆様宜しくお願い致します。

<フィリピン・密林地帯>


 2002年。フィリピンにおける不朽の自由作戦と称された特殊任務に、アメリカ陸軍のある特殊部隊がゲリラ部隊の討滅作戦に参加していた。名前はハウンド。アメリカ陸軍の指揮下に置かれたこの特殊部隊に、ある一人の若者が参加している。グレイ・バレット。セントルイス州の孤児院出身で士官学校を経て陸軍に入隊、優秀な功績を2001年のアフガニスタン紛争にて残し、アメリカ陸軍特殊部隊ハウンドに配属が決定した。だが……彼はフィリピンのジャングルの中を息を切らしながら駆けている。手にしたコルト社製M4と深緑色の迷彩服に付属したボディーアーマーIOTVの揺れる音を耳にしながら、グレイは必死に先を行く隊長と隊員たちの後へと続く。

「はぁっ……はぁっ……! くそっ……! 」

グレイの背後には誰もいない――否、"誰もいなくなった"という言葉が等しい。フィリピンのゲリラ部隊の奇襲を受け、正に死の恐怖に直面しているといったところか。M4の遊底覆に装着されたホロサイトを覗き込み、敵が草木の陰に隠れていないかを確認する。しかし彼には敵の視認よりも、気になる事が一つあった。なぜ、ゲリラ部隊に自分たちの居場所が知られていたのか。幾つもの凶弾によって同じ部隊の戦友は倒れ、同じ士官学校を卒業した同期でさえも自分を先に逃がすために戦死した。それも目の前で。

「隊長! 背後に敵はいません! 」

「分かってる! 一刻も早く脱出するぞ! 迎えのヘリが来てる! 」

特殊部隊ハウンドの隊長、ジーク・ハミルトン大尉が岩の陰から飛び出した瞬間、グレイは彼の進む方向にM4の銃口を向ける。悲鳴と銃声、そして爆音。妙に耳にこびりついたそれらの音に恐れている暇はグレイにはなかった。クリア、というジークの声にグレイと生き残った隊員は前進を再開し、彼らはようやく密林地帯を抜ける。フィリピン軍の操る軽武装ヘリのローター音が草原地帯に響き、やっと見出せた脱出の希望に彼らは安堵した。すぐにも攻撃の手が迫っている以上、喜びを分かち合う暇はない。

「急げ!! 」

ジークの言葉と共に、ヘリへと駆け出していく隊員たち。負傷した仲間を先に乗せ、あとはグレイとジーク、そして長年の戦友であるセイル・カミンスキーだけが残された。セイルを先にヘリから降ろされた梯子へ行かせた、その瞬間であった。銃声と共にセイルが地面に叩きつけられるドサリという生々しい音が聞こえ、グレイとジークは彼に駆け寄る。グレイが彼を抱え上げると、頭を撃ち抜かれたのかセイルは項垂れていた。そしてグレイの手にこびり付いた、溢れ出る彼の脳漿。即死だという事は、誰もがわかりきっていることだった。

「あ、あぁ……。嘘だろ……セイル……」

助けたかった。あと少しだけ時間をずらしていれば、救えた命かもしれないのに。セイルの体を血に伏させ、グレイはその場にへたり込む。

「馬鹿野郎! 悲しんでいる暇なんかねぇ! 早く――」

交差する銃弾。タイプライターを打つような軽い炸裂音と共に、今度はジークの体も地面に伏せられる。グレイは急いで彼の元へと駆けた。胸を貫かれ、深緑色の迷彩服が続々と真紅に染まっていく。止血しようと銃創に手を当てるも、グレイの手はジークに阻まれた。

「お前……だけでも……生き延びるんだ……ッ! こいつを……頼む……」

「いやだッ! 隊長ッ!! 」

ジークから受け渡されたのは、彼の愛銃であるS&W社製のM686 6インチ。それと彼がいつも大切に懐に忍ばさせていた、家族の写真。もう助からない。既に自分の腕の中で事切れているジークを地面にそっと置き、彼は梯子を掴んだ。不思議と、涙は出ない。

「畜生……ッ! 畜生畜生畜生畜生ォッ!!! 」

地面に横たわった2人の死体を横目に、グレイはゆっくりと梯子を上っていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<アメリカ合衆国・シカゴ>


 「隊長ッ!! 」

2015年、6月。悪夢から呼び起こされるように、男はかつての上司の名を叫んでベッドから飛び上がった。肩で息をしながら、彼は周囲を見回す。自分の事務所に置かれた寝室だという事に気づき、彼は深いため息を吐いた。またあの夢か、と言わんばかりに。男の名前はアールグレイ・ハウンド――知り合いからはグレイの呼び名で親しまれている。

「……少し、飲みすぎたのかもな」

彼の寝ていたベッドの傍らには、水が入っているグラスとウィスキーのボトルが無造作に置かれていた。彼自身あまり酒が強い方ではないが、昨夜は不思議と酔いつぶれたい気分だったらしい。二日酔いで警鐘を鳴らす頭を押さえながら、グレイはシャワールームへと向かう。シャワーの栓を回し、熱湯が出た瞬間に彼は湯を浴び始めた。銃創の残った筋肉質な胸に触れると、グレイは自嘲気味にシャワーノズルを見上げる。

「ったく。いつまで経っても頭から抜ける気がしねぇ」

一通りシャワーを浴びるとグレイは掛けてあったバスタオルを手に取りつつバスローブを無造作に纏った。そのままの状態で彼は自身の事務所のオフィスルームに赴き、留守電を起動する。

『どうも、グレイさん。マスターです。"仕事"の件でお話がありますので、下のバーまで来て頂けますか? 』

中年男性の穏やかな声が、彼にそう告げた。と言っても、仕事の内容は暴力の一言に尽きるのだが。

「毎日毎日、人を殺したい奴がごまんといるとはねぇ。世も末だ」

彼の仕事は主に表向きのものとは違う、所謂裏社会からの依頼を請けるものであった。殺し、違法物や銃器の運送、特定人物の護衛……。依頼の種類は多種多様で、何度も死にかけた記憶が彼の脳裏に呼び起こされる。

「……しゃーねぇ、着替えてマスターのところにでも行くか」

グレイはクローゼットに仕舞われていた下着と黒いTシャツを身に纏い、灰色のシャツに腕を通した。その後彼はダメージ加工の入ったジーンズを履き、テーブルの上に置かれたショルダーホルスターを装備する。愛銃S&W社製 M686 6インチをそこに仕舞うと、彼はお気に入りの黒いロングコートを羽織った。事務所の外に出ると、やけに眩しい日差しが彼を襲う。鬱陶しそうに手で日差しを遮ると、グレイはそのまま階段を下りて1階に建てられているバーの扉を開けた。

「おーいマスター、いるかー? 」

「グレイさん、おはようございます。本日もお日柄もよく良い一日になりそうですね」

「そりゃどうも。そんな日に依頼なんて入れるなよ」

「おや、これは手厳しい」

店内に広がったレトロチックな雰囲気を浴び、グレイはカウンターでグラスを拭く燕尾服姿の男性、マスターに歩み寄る。一見穏やかなバーのマスターではあるが、何を隠そう彼こそがグレイに仕事を持ってくる張本人である。穏健な笑顔に隠されたその裏にグレイは内心恐怖さえ覚えていた。

「何か食べますか? 」

「あぁ、ベーコンエッグを頼むよ。あと……"お話"、もね」

分かりました、と彼は余裕綽々で答え、グレイはカウンター席に座る。雇っていたウェイターが水を持ってくると、グレイは礼を述べて彼の持つお盆に5ドル札を乗せた。マスターが経営するバーは、昼の間は軽食やコーヒーを出すカフェを兼ねて経営されている。水を一口含み、澄み渡った液体と冷たい感覚が彼を襲い、グレイの頭痛が再びうなりを上げた。

「お待たせしました。それとハムエッグとコーヒーになります」

「流石、早いな」

フォークとナイフを使ってグレイは丁寧に目玉焼きとベーコンを切り分けていく。塩と胡椒を目玉焼きの白身に振り掛け、彼はそれを一気に頬張った。二日酔いにはとても軽い朝食で、グレイはあっという間に完食してしまう。次に彼はコーヒーカップを手に取り、ミルクも砂糖も入れないまま黒い液体を口に含んだ。そのソーサーに、一枚の紙きれが挟んであることに気づく。

「深夜11;35分。仕事内容は暗殺。シカゴ市外の湖畔沿いの5番倉庫」

その紙切れを彼は慣れた手つきでコートのポケットに仕舞い、コーヒーカップから口を離した。普段マスターの出すコーヒーとは違い、後味に甘い風味が残っていることに彼は気づく。

「マスター、今日のコーヒーは違うやつか? 」

「えぇ。ハワイのコナコーヒーを仕入れてみたんですよ。それで、お味はどうですか? 」

「ちょっと甘すぎるな。コーヒーってのは渋みがあってこそ、だろ? 」

「女性受けを狙ったんですよ」

ほほほ、と上品に笑うマスターを見てグレイは肩を竦めた。時代に取り残されないような措置、という事だろうか。この老人はそういった冗談を挟んで来るからたちが悪い。変に憎めない性格だ、とグレイは内心毒づいた。だからこそ彼が信頼して依頼の請負を任せているのもある。

「ま、そろそろ行くよ。ごちそうさん、マスター」

「はい。あと、頼みましたよ」

「あいよ。俺に完遂できない依頼はない、ってね」

振り返らずに別れを告げ、グレイはマスターのバーを後にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<シカゴ市外・5番倉庫>


  夜の帳がシカゴの街を包む頃。日中に着ていたロングコートとは打って変わり、グレイの服装は黒一色に染まっている。自身の愛車であるアウディA6を5番倉庫から少し離れた所に駐車させ、彼はトランクを開けた。そこからグレイは黒いボディーアーマーIOTVを身に纏い、彼はH&K社製HK45をレッグホルスターに差し込む。HK45にサイレンサーを取り付け、素早い動作でそれを構えた。アイアンサイトに一寸の狂いもない事を確認した彼は、双眼鏡で5番倉庫の様子を見始める。

「護衛はなし……警備兵は数人……。情報通りだ」

よし、とグレイは呟くとアウディA6のトランクの底を剥がし、隠されていたH&K社製 HK416を取り出した。忘れずにサイレンサーを銃口に装着し、グレイはナイトビジョンを頭部に括り付けると、彼は5番倉庫に向けて歩みを進める。

「おっと、忘れてた」

思い出したかのように愛車の元へ戻り、グレイは愛銃 S&W M686をもう一つのホルスターに差し込んだ。もはや御守りとなっているこの銃を忘れていたことにグレイは安堵の溜息を吐く。そうして彼は、5番倉庫が見渡せる通りにたどり着いた。周囲には街灯が一つ倉庫を照らしているだけで、視界はかなり悪い。グレイは頭のナイトビジョンを起動し、警備兵の行動を盗み見た。

「正面に立っているのは2人……。さて、悪いが仕事の開始だ」

その言葉と同時にグレイはHK416のホロサイトを覗き込む。距離はおよそ数百メートル。昼間ならば気づかれている距離だが、今回は暗闇が彼に味方してくれている。トリガーを引き絞り、突っ立っていた一人の警備兵の頭に深紅の噴水を作り上げた。

「なっ……!? 」

有無を言わせず、グレイは残ったもう一人の警備兵の脳天に5.56㎜弾の鉛を撃ち込む。間もなくして同じような血の海が出来上がり、グレイはHK416の銃口を周囲に向ける。気づかれていないことを察知した彼は暗闇に紛れて5番倉庫の正面口へとたどり着いた。瞳孔の開いた眼を閉じさせ、グレイは静かに正面口の扉を開ける。倉庫の内部は標的のいる周囲にだけ照明が照らされており、彼はその影を縫って放置されたコンテナの陰へと隠れた。どうやら警備兵たちが殺された事には気付いていないらしく、静かにグレイは息を吐く。

「……よし、以上で今日の業務を終わりにする。おいお前ら、ちゃんと倉庫にカギは閉めておけよ」

「了解です、ボス」

(どっかのギャング連中か……? それにしても警戒が足らないねぇ)

そう傍らで思いつつ、グレイは集団が散り散りになっていく様子を静かに観察した。各々が銃器を所持しているが、スーツの男だけは何も持たずに護衛を数人配備しているだけである。警備兵によって倉庫の照明が落とされた瞬間、グレイはコンテナの陰から飛び出した。既に彼はナイトビジョンを装着しており、周囲の様子など一目瞭然である。サイレンサーが銃声をかき消す度、倉庫内にとどまっていた警備兵は次々に倒れていった。

「軽いもんだな。いつもこう上手くいけばいいんだけど」

ぼやきつつ、グレイはスーツ姿の男が上がっていった二階へと静かに忍び寄る。標的は既に帰宅する準備を行っているらしく、男がいると思われる一室に護衛が監視を強化していた。まるで自分の居場所をグレイに知らせているかのように、その部屋から光が煌々と漏れている。グレイはHK416からHK45に持ち替え、部屋の護衛の一人に飛び掛かった。

「て、テメェ! 何者――」

そう言いかけた護衛の一人の顎に膝蹴りを浴びせ、気絶させた節に9㎜弾を男の脳天と胸に叩き込む。物音に気付いたのか、もう一人の護衛がグレイに銃を構えて襲い掛かるが、グレイは左手に握っていたカランビッドナイフを護衛の喉元に突き刺し、その銃口を無理やり逸らした。止めを刺すように最後の護衛にHK45の銃口を突きつけ、脳漿交じりの血の海を作り出す。扉の向こうでグレイの姿を警戒する物音が聞こえるが、彼はM686に素早く持ち替え、扉に向けて.357マグナム弾を数発放った。直後ドアの向こうからドサリという何かが倒れる音が聞こえ、グレイは恐る恐る扉を開ける。

「がっ……ごはっ……ごほっ!! 」

「Good evening, ミスター。調子はどうだ……なんて聞くまでもないか」

「お、お前……ゴボッ!! 死の……芳香……ッ! 」

絶望に包まれる男の表情を見るなり、グレイはニヤリと口角を吊り上げた。体に大きな風穴が出来ているあたり、扉越しのマグナム弾に貫かれたのであろう。グレイは不敵な笑みを崩さないまま、地に伏す男の元へと歩み寄る。

「お前さんが何をしたのかも知らないし、やらかした事も知らない。ただ、お前の存在が厄介だって依頼主が言うもんでな」

「ぐぅ……! ぐぅっ……!! 」

「そう恨みなさんな。安心しろ、一発で昇天させてやるよ。あ、一発じゃなかったか」

涼しい表情を浮かべつつ、グレイはM686の銃口を男の顎に突きつける。

「俺はその呼び名が大層嫌いでね。まあ、冥土の土産に覚えときな。"ケンカを売る相手を間違えた"、って」

引き金を引き、痛みに悶えていた男の体は間もなく停止した。飛び掛かった返り血を拭い、グレイはジャケットのポケットから白いハンカチを取り出すと原型を留めていない男の顔に投げ捨てる。出来上がった無残な死体を一瞥しつつ、グレイはもう片方のポケットから煙草とライターを取り出すと、その白に包まれた煙草に火を点けた。

「ふぅーっ……」

紫煙がグレイの口から吐き出され、辺りに煙草の匂いが充満する。煙を鬱陶しそうに手で払うと、グレイは死体が出来上がった部屋を抜け、5番倉庫の正面口を静かに閉めた。まるでそこに何も起きなかったかのように。直後グレイはプリペイド式の携帯電話で依頼主へと電話をかけ、数コールの後に老人の声が彼の耳に入る。

「おう、依頼主さんか? 連中は地獄に行かれたぜ」

『そうか。いつもの鮮やかな手際、感服するぞ。死の芳香』

「そりゃあどうも。でも今後はグレイって呼んでくれよな。その名前はあまり好かないんだ」

『すまない。処理はこちらで済ませておく。助かったぞ』

あいよ、とグレイは通話を強制的に終わらせた。その後携帯電話を湖へと投げ捨て、彼は灰の溜まった煙草を地面に捨てる。6月だというのにやけに冷える空気だ、とそう吐き捨てながらグレイは自身の愛車に腰を落ち着けた。

「死の芳香、ね。まあ営業文句としては及第点か」

自嘲気味に笑いつつ、グレイはアウディA6をシカゴ市内へと走らせる。そう、彼の名はアールグレイ・ハウンド。"死の芳香"と恐れられる、シカゴの便利屋。かつての名前を捨て、彼はこの街に腰を落ち着けていた。

というわけで改めて投稿し直していただきました、なんでも屋のリブート版です。

キャラの削減、改変のなどがありますのでこれから頑張っていこうとおもいます。

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