初依頼
クエストボードの周りは大勢の人が集まっていた。そのなかを蒼太は縫うようにして通り抜け、やっとのことでボードの前までたどり着いた。
ボードにはF~Aランクの依頼が数多く張り出されていた。さすがにSランクの依頼はなかったので、Sランクの依頼がどんなものか知りたかった蒼太にとっては少し残念だった。蒼太が受けることのできるF.Eランクのクエストのなかで、Fランクの依頼は採集が中心のクエストだったので、魔物を討伐してみたいと思っていた蒼太はEランクの依頼を中心に捜し始めた。
捜し始めて10分たった蒼太の目に留まったのは
・ゴブリン5匹の討伐 ランクE
目的地;トラント廃坑
追加報酬あり
というクエストだった。
蒼太はこのクエストを初めての依頼として受けることにした。
ギルドの職員によると、トラント廃坑は王都を東門から出てすぐにある草原を少し歩いたところにあるということだったので、蒼太は王都に東西2個ある門のうちの東門へ向けて歩き出した。
王都は蒼太の想像以上に以広く、蒼太が東門の前まで行くのに30分もかかっていた。
東門は大体200メートルくらい離れていてもわかるくらいの大きさだったので、相当大きいだろうなとは予想していたものの、東門は間近で見ると蒼太の想像していた大きさよりも1周りほど大きかった。
東門の前にいた門番に通行許可をもらい外に出た蒼太は、あっけにとられてしまっていた。
そこには、日本にいた間には見ることのできなかった、青々とした雄大な草原が広がっていた。そして、蒼太があたりを見回すと、あちらこちらに冒険者と思われる、人族とそれと戦う魔物たちが数えきれないくらいいたのだ。
蒼太は魔物が実在することを自身の目で見て確認することができ、自分も早く魔物と戦ってみたいという衝動に駆られていた。しかし、蒼太の思いは魔物に通ずることなく、魔物は蒼太の前に現れることなく蒼太はトラント廃坑の入口が見えるところまで来てしまった。
ギルドの職員に言われた通りトラント廃坑は東門を出て30分位歩いた所に入り口があった。
入り口は草原の真ん中にぽつんとある岩山の中腹にある洞穴だった。
光が差しているからか蒼太はさして躊躇することなく洞窟の中へと足を踏み入れることができた。
洞穴のなかはそれほど暗くなく所々に松明が差してあったので照明もいらず進むことができた。
洞窟の入口付近では何も起こることなく蒼太は奥へと入っていった。
洞窟に入って10分ほど奥に向かって歩みを進めていた蒼太の進行方向になにか黒い人の影のようなものが静かに動いていた。
「ギギャアーー!」
いきなりゴブリンが蒼太の目の前に飛びかかってきた。
「うおっ!」
蒼太に武器は魔物と戦えるということでテンションが上がっていたため何も用意することなく来てしまったため武器もなく素手で殴るしかなかった。
「バキイィ!」骨が折れるような音を立てながら蒼太に殴られたゴブリンは吹っ飛んでいった。
蒼太に殴られたゴブリンは道の真ん中から壁までふっ飛び叩きつけられ言葉に形容できないようなグロさのゴブリンのミンチ肉になっていた。
「おおっ!?めっちゃ強いな俺‼」
こんな惨状を前に自分が強いということが分かった蒼太は呑気であった。
「そういや、ただ倒すだけでは通した事が分からないから討伐部位がいるって言ってたな。」そう言って蒼太は壁に叩きつけられて跡形もなくなりかけている、ゴブリンに近付いていった。
「これは討伐部位の耳の判別もできないな。それに、素手よりは武器があった方がいいだろうからスキル関係で武器になりそうなものがないかさがしてみるか!」
15分後…
・魔力剣
魔力を集めて剣の形として実体化させる。
切れ味は完全に魔力に依存する。
「これ使ってみるか。」
蒼太の魔力によって形つくられた魔力剣は綺麗な赤色をしていた。
蒼太は魔力剣のスキルを発揮しながら奥へと進んでいった。
蒼太の尋常ではない魔力により形作られた魔力剣の切れ味はすさまじく、出てきたゴブリン達は蒼太の魔力剣による軽い一振りにより真っ二つになり動かない屍へとその身を変えていった。
ゴブリンは最初の1匹が蒼太の前に姿を現すと次々と絶え間なく飛びかかってきた。そのたびに魔力剣によって切り刻まれていった。
そして、蒼太により斬られたゴブリンの耳の数が3桁に届こうとしていた。
「おい!そこの平民!」
突如、蒼太の後ろから声が聞こえた。
蒼太は暗い中でいきなり後ろから声をかけられたため驚いてしまった。
「あぁ!」
蒼太は声のする方へと振り返った。
すると、こんな洞窟の中なのに華美な装飾のついた服を着た貴族然とした男と燕尾服をきた執事であろう男、首輪のつけられた少女がいた。
蒼太は少女の埃にまみれていてもわかる余りの美しさに言葉をうしなってしまっていた。
貴族風の男は蒼太が自分に対して驚いていると思ったのか、蒼太に向けて口を開いた。
「そこの平民、お前が持っているゴブリンの耳をすべて私に寄越せ!」
今度の蒼太は男が何をいっているのか理解できずに固まっていた。男は蒼太の反応がないとわかると怒鳴りながらもう一度意味不明なことを言ってきた。
「お前の持っているものを貰ってやると言っているのだ!」
「はぁ!?」
「貴族に向かってその口の聞き方はなんだ平民のくせして、生意気だぞ!」そう言って男は「炎の精よ、我に導く火を《ファイアーボール》」魔法の詠唱と思われる言葉を発しこちらに向かって30センチくらいの真っ赤に燃える火球を放ってきた。
蒼太は未だに少女に見とれていたため、火球に反応できずに直撃してしまった。
蒼太のいたところは床の砂埃が舞い上がり、蒼太の姿は貴族の男達からは見えないようになっていた。
「ざまぁみろ!平民ごときが貴族に逆らうからこうなるんだ!」そう言って男は笑っていた。
「そっちから攻撃してきたんだからこっちも正統防衛で反撃しても大丈夫だよな。」蒼太の声が聞こえたため、笑いは止まっていた。
ヒロイン登場です。