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建国の技師  作者: kay
第一章 修理屋の少年と貧民街の少女
9/23

屋内市場の七不思議

 鍛冶屋の依頼を引き受けてから、既に三か月程経ち、女将さんと親方が掲示板と口コミで宣伝をしてくれたおかげで休日返上の魔道具の修理三昧な日々が続いた。

 家事をやって修理の依頼を受けてきて、修理のために出張して、養父が散らかした部屋の掃除をやってという流れが永久機関のように続き、景気が良くない中で仕事が切れないのは嬉しいことだけど、簡単な仕事は容赦なく僕に降りかかってくるせいで、ここ三か月は僕の休みもなく、いい加減疲れてキレたら休みが貰えた。

 養父がびっくりしているところを初めて見た。


 ってなわけで、五日仕事をしたらお休みを一日取ると決めた。洗濯なんかは休日でもやらなきゃいけないけれども、ご飯は外食にすればいいし、仕事が休みっていうだけで本当にありがたい。

 同じく宿屋の手伝いがなかったワイリーが興奮した様子で僕を遊びに誘ってきたので、ワイリーと出かけることにした。



「ねえ、ワイリー。どこに行くの?」


「市場だ!」


「え、なんで市場に? 何か買いに行くの?」


「このあいだ俺の親父が子供の頃の話を聞かせてくれてさ、市場に七不思議って言うのがあるって教えてくれたんだ!」


「七不思議?」


「そう! だから、実際に現場に行ってみて確かめてみようと思ってさ!」



 マルモアの街がただの鉱山採掘の拠点だったころからある市場は、古い歴史があるらしい。魔石産業の発展と共に屋根と壁がついて、現在は迷路のようになっているみたいだ。この街で育ったワイリーも市場の隅から隅まで歩いたことはないようだ。

 確かに市場の鋼板製の看板には錆が入っていたし、ただ年季が入っているなとは思っていたけれども、そんなに昔からある市場だとは思っても居なかった。



 市場に付いてワイリーが言うマルモア市場の七不思議を教えてもらった。

 一つ目が通っていた人が突然消えてしまう人喰い路地。二つ目が顔のない客引き。三つ目が手招きをする白い手が生えている壁で、四つ目が違う場所につながる路地。五つ目が消える黒い女……。



「――で、あとの二つは?」


「えっと、忘れた!」


「それじゃあ、五不思議……」



 七不思議なのに五つしか覚えてないのかと僕は脱力した。

 しかも二つ目の人喰い路地と四つ目の違う場所につながる路地とかって同じ場所なんじゃないか? 違う場所に行ってしまうのなら突然人が居なくなってもおかしくないよね?

 まぁ、ワイリーが楽しそうなので興醒めするようなことは言わないでおいた。



「親父が知ってるくらいだもん、市場で働いている人ならもっと詳しく知ってるはずだって!」


「じゃあ、市場の人に聞くしかないね」



 市場で働く人たちは気のいい人たちが多くて、それぞれが僕らにマルモア市場の七不思議を教えてくれた。



『ああ、三番通りの裏道で黒い服の女が消えていくのを見たよ』


『俺は、五番通りで子供が居なくなるのを見たな。妙に煤けていたから、幽霊かもしれないぜ?』


『坊主たち、これは知っているか? 七番通りの地下には今はもう使っていない廃坑が通っていて、落盤事故で何人も死人が出ているんだ。あそこはいつも妙に薄暗くて、近づくと人を招きよせるみたいに壁から白い手が生えているんだとさ』


『壁から生える手だろ、俺も知ってる。落盤事故の死人だから、きっとゴツくてムサイ腕が生えてくるぞぉ』



 子供が興味津々で聞いていたから大人たちがその場で考えた内容かもしれないけれども、色々と話をしてくれた。まぁ、半分以上からかっているのかと思うような内容だったけれども……。

 大筋はワイリーに教えてもらった内容と同じだったけれども、七不思議という割に話す人によって内容が微妙に違っていて、僕たちはどの話が七不思議なのか解らなくなってしまった。

 


「とりあえず、同じ話みたいなのはなんだっけ?」


「人が消える通りと、黒服の女の人?」


「黒服の女の人の話はなんか幽霊の話みたいだよなー」


「そうかも、じゃなかったら煤けた外套を市場に入って脱いだとか? 後は人が消える通りとかは、地下街につながる道とかかな?」


「それは俺も思った! でも、人が消える通りって三番通りと五番通りだろ? 場所が違うから内容も違うんじゃないか?」



 僕らは顔を見合わせた。

 ここまで話を聞いたのなら、現場に行ってみて自分の目で確認するのが一番だと思ったのだ。


 街が出来た当時からあるマルモア市場は、増築に増築を重ねていて今では迷路のような作りになっている。市場の中には一番通りから十五番通りがあり、通りの名前は作られた順番の番号が振られている。

 マルモア市場の入り口を入ってすぐの大通りが一番通りで、市場の中で一番古い。この通り沿いを歩けば大抵の生活必需品がそろう。二番通りは魔道具関連の専門店ばかりで、魔道具や部品を売っている店が軒を連ねている。ここも既に老舗の域に入っているけれども、入れ替わりも結構あるらしい。魔道具には流行り廃りがあるから、確立した技術を持っていないと、いくら老舗と言っても潰れることもあるんだ。

 三番通りは魔晶石が採掘できていた時代には高級魔道具を売る店があったみたいだけれども、魔晶石が取れなくなってからは、空き家の方が多くなってしまっているらしい。通りが一番街から一番遠い場所にある。過去の遺産と呼びたくなる古びた魔道具が陳列棚に並んでいるけれども、店が閉まっていて人がいる気配がないような空き店舗が多く、三番通りを眺めてみたけれども、あまりに不気味すぎて僕らはこの通りだけは入ることを躊躇した。

 五番通りから九番通りは三番通りよりも奥まったところにある割に人がいるけれども、どこかに地下街への入り口があるみたいで、非合法の商品の売買をしている店があるらしくかなり治安が悪い。初めて市場に来た時に道具屋のおじさんに行くなと言われた路地は大体この辺りだろうし、鍛冶屋の親方が行っていた部品屋があるのも多分この辺りの通りだろう。

 残りの十番通り以降は、通りの長さが短くて比較的新しく出来た通りで、飲食店が多い。ワイリーと一緒に七不思議の話を聞いて回ったのは屋台が多い十二番通りだった。

 


 それぞれの通りを入り口から奥の方を眺めただけだったけれども、広い市場をぐるっと一回りしてきた僕らは屋台の前で休憩をすることにした。旅暮らしだった僕はそれほど疲れてはないけれども、ワイリーが座りたそうにしていたから飲み物を買って近くにあったベンチに腰を下ろした。

 それから屋台の串焼きも買ってみた。塩と香辛料で味付けをされたそれは結構美味しかった。お小遣いで買える程度の値段だったから丁度よかった。疲れては居ないけれども、小腹が減っていたんだよね。


 

「なんか広い割に、お店が少なかったね」


「まぁ、この市場も古いからなぁ。俺も行ったことない場所が多かったからちょっと驚いた。四番通りなんか閉鎖されてたし」


「五番通りと七番通りの話は、治安が悪すぎて多分危険だから子供だけでいくなって言う意味で作られた話なんだろうね」


「多分な。そうなると三番通りの話は本当っぽくないか?」


「そうかも!」



 僕らはそんなノリで三番通りに向かった。あそこは人通りがないことと薄暗くて不気味そうってだけだったから大丈夫だと思った。

 さっきまで歩き疲れていたワイリーも行くと決めてしまえば疲れも吹き飛んだみたいで、僕らは意気揚々と三番通りへ乗り込んだ。


 他の町の裏路地なら昼間のうちはある程度、先が見通せるくらいなのに、ここは其れすらできないほど薄暗い。申し訳程度に付いている魔導灯の光でぼんやりと浮かび上がっている。そんな場所を僕らは進んだ。

 


「な、なあルッツ……、あそこで何か動いてないか?」


「え、ど、っどこ?!」



 ワイリーが赤い魔導灯が光っているあたりを指さして言った。確かに、何か黒いものがすうっと動いて―――。



「ぎゃーーーーでたー!!!」


「おおおお、女の人??!!!」



 噂に違わない裾の長い黒いローブをまとった女の人がこちらを振り向き、壁の中に消えていくのをこの目で見てしまった。

 慌てて三番通りから逃げ出した。


 逃げ込んだ先の道具屋のおじさんに、さっき見たことを叫ぶように言ったら。この街の子供はみんな七不思議の探検をするんだそうだ。どういう訳か女の人は市場の殆どの人が見たことがあるらしく、本当に有名な話だった。

 


「あれは俺も見たことがあるくらいだ。亡霊なのか精霊なのか分からねえが、捕まえられるようなものでもないしな」


「捕まえる?」


「何代か前の領主様が捜索をしたみたいだが、なーんにも見つからなかったんだとよ。俺らにとっちゃ、悪さをするわけでもないからある意味市場の名物みたいなもんだな」


「そ、そんな名物いらないよ!」


「はははは!!」



 僕とワイリーの七不思議の探検はこうして終わった。

 ただ、この後で七不思議の秘密に触れることになるとは、このときの僕は思いもしなかったんだ……。


次回の更新は5月21日(土)7時です。

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