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建国の技師  作者: kay
第一章 修理屋の少年と貧民街の少女
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鍛冶屋の依頼

時間がサクサク進みます。

 夕飯の食材を買い、家路に急ぐ。まだ住み始めて数か月しか経たない下町の借家は、煙と蒸気に紛れて先が良く見えず、未だに迷子になりそうな状態だった。 近所に住んでいる大家さんに聞いてみたら、あそこに見える鉄塔を目印にして進めば間違いないと言われたけれど、『あそこに見える鉄塔』っていうのがどれなのか未だに良く解らない。

 家に帰るとまず目に付くのが、工房として使っている養父の部屋。魔道具の部品が足元に散乱していて、非常に危険。

 


「ただいま。あ、散らかすなよ、ってか何をしたらこんなに散らかるわけ!?」


「手に届く場所に置くとこうなる。晩飯はなんだ?」


「ったく、これから作るんだよ。出来合いのものを買ってくると煤が入り込んで食べられないんだから」


「出来たら呼んでくれ」



 初めての借家の暮らしは意外と快適だと思う。

 各地を転々と旅をしながら、宿屋暮らしが長かった僕たちだけれども、炊事や洗濯なんかはやっていたし、そこに掃除が加わるだけのことだ。まぁ、養父があまりにも家事や片付けが苦手な人種なので、全部僕がやっている。


 僕が見ても良く解らない研究をしている変わり者の養父は、元々どこかの研究所に勤めていたらしい。普段は研究と仕事のことしか話さない養父が最近になってポツリポツリと昔のこと話してくれるようになり、僕はここにきて初めて養父が何をしていたのかを知った。


 研究が命だった養父が研究所を辞めたのは、自身が魔力持ちであることが分かってからだと聞いた。魔力をわずかでも持っていると寿命が数十年も違ってくるために、研究の内容に魔術も含まれていたこともあり、バレたら確実に異端者として処刑されることは想像に難くなく、研究所を辞めた後は各地を旅しながら魔道具の修理を引き受けて生活をしていたらしい。

 捨て子だった僕を拾ったのは、そんな旅の最中だったみたい。

 捨て子だった僕を拾ったのは良いのだけど、研究漬けの生活を送ってきた養父は、ある種の生活不能者だったみたいで、僕は飲食を忘れて研究や仕事に没頭する養父を見かねた宿屋の人たちに育てられたようなものだった。

 宿屋の人には、何度も孤児院に預けたらどうかと言われたらしいけれど、自分と同じ魔力持ちである子供を預けることは出来なかったのだろう。

 魔力持ちだとバレてしまったら、最悪の場合、殺されてしまうこともあるから、僕は変人でも養父に拾われて幸せだと思った。


 そんな育児放棄気味の養父だったけれど、僕と一緒に生活するからには放り出すわけにもいかないとは理解していたようで、魔道具の修理をするやり方や、魔法陣の構造・魔石の研究で知ったことなんかを寝物語として話してくれた。

 当時は養父の話す言葉の意味すらちんぷんかんぷんで、幼い頭で理解しようと頑張るのだが、ところどころで専門用語を使って話されるものだから、全く意味が分からず頭が混乱するうちに入眠するのが当たり前だった。だから僕は寝物語というのはそういうものなのかと思っていたのだけど、旅先で出来た友達にそれは違うと言われて物凄く衝撃を受けたことを覚えている。

 まぁ、養父のことだから子供に聞かせる話を知らなくて、自分話せるものを聞かせたのだろう。不器用ながらも、僕のことを気にかけてくれる養父が好きだった。






 簡単な野菜のスープとパン、燻製の肉を焼いたものを出して、夕飯の準備ができた。この街に来て出会った瓶詰のスープはとても便利で有難かった。他の町でも同じようなものがあればいいのに……。

 没頭するように魔道具を組み立てていた養父を呼んで夕飯を食べ始める。

 僕らの夕飯の時間は、大体今受け持っている仕事の納期やら次に入っている仕事なんかの話をしたりする。本当に親子の会話なのかと聞かれると首をひねりたくなるけれども、うちではこれが普通なのだ。



「そういえば、ワイリーが仕事の依頼を持ってきてくれたんだよ。目抜き通りの鍛冶屋のおじさんが給水の魔道具の具合を見てほしいんだって」


「鍛冶場は、暑いから好かん」


「好き嫌いの問題じゃなくて、仕事の話なんだけど……」


「ルッツが行けばいい。お前なら出来る!」


「まったく、僕の手に負えなかったら父さんが行ってくれよー」


「……」



 僕が宿屋の魔道具を直してからというもの、宿屋の女将さん経由で修理の依頼が入ることが多くなった。なんでも、修理の依頼を取るのは大変でしょうと言うことで、宿屋の掲示板に魔道具の修理をする人を紹介すると貼ってくれたのが切っ掛けだった。

 始めに依頼が舞い込んだのは僕らと同じように借家に住んでいるような出稼ぎの人たちだった。あの宿屋の食堂には出稼ぎに来ている人が多くやってくることもあり、最初の一週間くらいは掲示板を見てためしに依頼をしてみたという人が多かった。

 依頼の内容はというと、大抵の借家には備え付けの魔道具があるのだけれども、出稼ぎが終わって借家を立ち退く際に、魔道具が壊れていた場合は買い替えの代金を支払うことになるらしく、かなりの金額を請求されることがあるのだそうだ。

 そういった理由で、立ち退く前に一度点検をしてほしいと言う人たちから結構な頻度で依頼が入るのだ。点検だけならそれほど時間がかかる訳でもないし、もし不具合があって修理になるなら技術料とかかった部品代程度でやってくれるとあって、一時は宿屋へ依頼の確認に行けないほど忙しかったので、気を利かせたワイリーが僕たちへの伝言係のような感じでやってきてくれるようになった。

 僕としては友達と会えて嬉しいけど、仕事が詰まってきているのでワイリーと遊べる日が少ないのは残念だったりする。

 ワイリーには自分も宿屋の手伝いをしたりするからお互いさまと言われてしまった。



 今回は珍しく出稼ぎの人以外の依頼で、養父に行ってもらおうと思ったのだけど、熱気が籠る鍛冶屋に行くのが嫌だと駄々をこねられてしまった。

 何処から買ってきたのか用途の分からない魔道具いじりに専念している養父に呆れながらも、鍛冶屋の依頼も仕方なく僕が行くことになった。


 別の町に居たころに給水設備なら何度か見たことがあるから大丈夫だとは思うけど、手におえないような状態だったら、養父に任せれば問題はないかな。

 養父は昔から仕事中毒気味の人で魔道具がいじれれば特に不満は持たないけれども、最近ではこんな感じで僕にも仕事が舞い込むようになってきた。

 幼いころからの英才教育(?)のようなもので、僕もどの回路が壊れているとか魔法陣が間違っていて消費する魔力が多くなっているとかが何となく分かるからか、こんな風に養父は僕にも仕事を割り振ってきたりする。

 ただ、自分がやりたくない仕事を僕に押し付けているって予想は、多分間違いじゃないと思う……。


次回の更新は、5月13日(金)7時です。

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