表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国の技師  作者: kay
第一章 修理屋の少年と貧民街の少女
6/23

少年と老人3

 屋内市場の中は、煤だらけで視界が悪い外よりも快適でした。

 蒸気や煤で空が見えず始終薄暗い外とは違って、街が運営しているだけあって魔道具をふんだんに使っていて、外よりも室内の方が明るい印象を受けた。

 それから、市場は屋根があるのに何故か通路沿いの地べたには、何かの部品やらガラクタにしか見えない魔道具のようなものが並べてある露店があったり、食料品に関しては野菜が少なく加工された食品が多かったりと、他の町の市場とは様子が違っていて、僕は周りをキョロキョロと見渡しながら養父の後を付いて歩いた。



 養父が雑貨屋で食器を見繕っているところで、店主のおじさんに声をかけられた。 



「坊主、この街は初めてか?」


「う、うん」


「はっはっは、どうして分かったって? この街の市場に来た奴らはみんな坊主と同じ顔をするんだ! 後は、服が煤けてないからな。そうだ、坊主にいいことを教えてやろう! マルモアの市場で迷子になったら、あそこに見える大きな紋章が見えるだろう?」


「あの、竜の首みたいな模様のこと?」


「そうだ、あの紋章のある場所には警備が常駐しているから、何か揉め事があったときなんかもあそこを頼るといい。街のどこの場所でもあの紋章があるから探しておくと便利だぞ」


「へぇ。ありがとうおじさん」



 なんで僕がよそ者だってわかったんだろうと不思議に思っていると、口をぽかんと開けてあたりを珍しそうに見ていて、服が煤けていないからだって言われた。確かにそうかもしれないな、この街の人たちの服は黒ずんでいると言うか、上着やベストは茶色と灰色と黒っぽい服ばかりだったなと思い至った。

 外出すればするほど煤を服に着けて帰るんだろう。

 ……洗濯するのが大変になるのが予想できて、ちょっとだけうんざりしてしまった。



「いいってことよ! あとな、裏路地と地下街には近づくんじゃねえぞ? あそこは、ならず者たちのたまり場だからな」


「え!? この市場って地下もあるの?」


「いや、俺も詳しくは知らねえが、廃坑の上にあった市場の一部が崩落したんだとよ。ま、崩落したところは幸いにも人が滅多に行かないような裏通りで、怪しい店ばかりだったみたいだから、あまり被害は大きくなかったらしいんだが。ぽっかり空いた穴に、昔から廃坑を住処にしていた貧民街の輩が、梯子をかけて地下街みたいにしたらしい。今じゃ、あそこは警備も奴らも手が出せなくてな、何があるのかさっぱり分からねえ状態なんだと」


「へぇ……」


「だから、裏路地には近寄るんじゃねえぞ?」


「わかった!」



 雑貨屋のおじさんの話では、地下街というならず者の巣窟があるとのことだったけど、僕にはあまり縁はなさそうだなと思った。だって、そんな危険な場所に行くとしたら真っ先にカモにされそうなのは僕だもの。それに、そんな場所に関わる程この街に長居をするとも思えないし、修理屋の手伝いなんかをするとしたら、そんなことにかまっている暇もないと思った。


 養父の買い物も終わり、僕たちは雑貨屋を後にした。

 調理器具や布団なんかは、旅の時に使っていた毛布があるから後回しにしても大丈夫。家具なんかは備え付けで当座は大丈夫そうだ。あまり荷物を増やすのも良くないから必要になるまではあれでいい。

 後は、食料だけど、市場で売っている食料はどんなふうに使うのか想像できないものでいっぱいだった。

 何かどろっとした茶色い液体が入った瓶詰を手に取り、売り子のおばちゃんに声をかけてみる。うっすらと透けて見えるのは、何か野菜のように見えるのだけど、何に使うのかさっぱり分からない。



「ねね、おばちゃん。これはどうやって使うの?」


「ああ、坊ちゃんはこの街は初めてなのかい。これはスープだよ。水で薄めて後は少し具材を入れて味を調節して使うんだ」


「スープなの?! これが?」


「こっちはトマト味・こっちは肉が煮込んであるやつ。結構便利だから、この街ではみんな使っているよ。結構しょっぱいから、二人で食べるなら何回かに分けて使えるよ」


「じゃあ、これは?」


「そりゃ、味付け肉が煮込んである奴だ。瓶ごとをお湯に沈めて、温めて食べればいい。使い方を説明してあげようか?」


「う、うん。お願いします」



 街が変われば食材も変わるけど、この街は他の町とは全く違っていた。こうやって加工された物は露店で売っているのに、ここでは瓶詰になっているんだもの。

 親切なおばさんに瓶詰の使い方を教えてもらい、少しだけ味見をさせてもらった。

 うん、確かにこれは薄めればスープになるね。

 


「それにしても、なんでこんな瓶詰が多いんだろう……」


「そりゃ、料理する時間がもったいないからさ。この街は出稼ぎの奴らが多いからね。出稼ぎ衆は料理が出来るやつも居れば出来ないやつもいる。出来ない奴に関しては、外食することが多いけど、金を稼ぎにやってきて金を落としていくのも勿体ない話だからね、こういった瓶詰で簡単に料理が出来るようにしたって話だよ」


「そうなんだ?」


「まぁ、アタシも婆さんから聞いた話だから本当かどうかは知らないけどね。主婦も手軽に使えるから、この瓶詰が流行っちまったって話もあるくらいだもの」


「便利なのになんで他の町で売ってないんだろう……」


「そりゃ、あまり日持ちがしないからさ。瓶っていうのは割れたりするからね。馬車なんかで運んだ日には、儲けの方が少なくなっちゃうだろうさ!」



 本当に出稼ぎの人が多いんだなって思った。だって、瓶詰を作った理由が出稼ぎの人の為とか思わないもん!

 そんな感じで、おばさんのおすすめをいくつか購入。後は、腸詰めの店とか野菜を売っている店を教えてもらって、そちらは少しだけ買った。

 瓶詰はしょっぱいから日持ちしそうだけど、他の食材は早々に食材保管庫を作らないといけないなぁ。冷気の魔道具と密封箱を作れば割と簡単に作れるから、あとで養父と一緒に部品をそろえに行かないとだな。



 必要なものをそろえて家に帰るころには、外はもう真っ暗になっていた。マルモアの街は全体的に薄暗いために、夕暮れ時くらいには既にあたりはすっかり暗くなっていた。

 市場が屋内にあるため、外の様子が分かりにくいから、今後は少し気を付けなきゃいけないなと僕は心に刻んだ。



「あれ、ここ何処だっけ?」


「ワシは知らん」


「えー。確か、4本目の路地を右に曲がった気がするんだけど、こんな道だったっけ?」


「大家の話では、鉄塔を目指せば大よその場所に付くと言っていたが」


「……鉄塔ってどこだよ」



 養父と一緒に元来た道を戻るにしても、魔道灯があるから分からなくはないけれども、壁伝いにある配管から漏れる蒸気のせいであたりがぼんやりとしていた。暗がりに路地があるのは分かるけども、何本目の路地を曲がればいいのか数え間違えて、結局は雑貨屋のおじさんが教えてくれた警備の人に道を尋ねる羽目になり、僕は早々に日暮れ前には家に帰ろうと心に決めたのだった。


次回の更新は、5月9日(月)7時です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ