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建国の技師  作者: kay
第一章 修理屋の少年と貧民街の少女
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少年と老人2

「てめぇ! 俺んちに何か文句でもあるのか!!!」


「な、なにが!?」




 ただいま僕は、見知らぬ男の子に壁に縫い付けられています。


 どうしてこうなった……。

 




 こうなった原因は多分宿屋の焜炉を修理したことが切っ掛けなのかなと思う。

 だって、宿屋でたまに見かけた子供で、目元が女将さんにそっくりだったんだ。


 この前、修理した焜炉は中身をしっかりと掃除した結果、前よりも使いやすくなったと女将さんに言われ、僕は直したかいがあったと思った。

 まぁ、僕と養父は二人だけの生活だったから、稼いだ分のいくらかは家計に入れることにしている。

 前の町に居た時の友達にそれを言ったら、自分で稼いだ分を取られて不満にならないのかと聞かれたこともあったけれども、僕は養父と二人だけだから二人で暮らすうえで決めたことだ。養父もかなり高齢だからいつ働けなくなるか分からない。家計に余裕がある分には困らないし、余った分はいざという時の貯蓄に回しているから問題はない。

 それに、家計に入れると言っても、稼ぎを全部家計に入れる訳じゃないから、自分の懐が温かくなることには変わりはないもんね。


 さて、養父はというと部品やら作業をする場所が取れそうな部屋が見つからないみたいで、連日のように借家探しに奮闘している。人付き合いが苦手な養父のことだから、探すのは大変かもしれなけれど、絶対に妥協しない性格だからかなり粘って探してきそうな気がする。


 そんなわけで引き続き留守番になった僕はと言えば、宿屋の近くで日用品を買いそろえたり細々した用事を済ませているけれど、部屋が決まらない限り本格的に買いそろえることもできないのでやっぱり暇になっている。

 養父がどこかから手に入れてきたのかさっぱりわからない魔道具の開発資料と言う名の論文を眺めてみるけれども、専門用語過ぎて意味が分からず結局手持無沙汰になった。

 暇を持て余した僕は宿屋の魔道具の整備をしようかと女将さんに提案をしてみた。修理の押し売りみたいになったなと思ったけれども、僕が問題なく修理できることを知っている女将さんは、僕の提案を二つ返事で了承することになり、不具合があった魔道灯をいくつか修理することになった。

 その結果、僕は宿屋のご主人と女将さんにたいそう気に入られてしまったようで、日に日に食事の量が増していくことになってしまい、これには僕も養父も困ってしまった。

 体の小さい僕ではそんな量は食べきることもできず、養父に至っては言わずもがなだ。

 結局は残すことになってしまうのだけども、出来る限りご飯を残さないようお腹がはち切れる程食べた後で、女将さんに申し訳ないが、僕らはそんなにご飯は食べられないと伝え、女将さんは気が回らなくて申し訳ないと言って、宿代を少しだけサービスしてくれることで手打ちにして、爆盛り料理の問題は終わったと思っていたのだけれども……。


 そんな僕と女将さんとのやり取りを見ていたのが、現在僕を壁に縫い付けているこの男の子だった。



「えっと……、きみは宿屋の子?」


「そうだよ! なんで親父たちが作った料理を残してんだよ! もったいねえだろうが!!!」


「それなんだけど……。僕の体格じゃ食べきれないし、昨日、女将さんに申し訳ないけれども食べきれる量にしてくださいって言ってあるんだ。ご主人の作る料理はとってもおいしいし、残すのも申し訳なかったから……」


「……」


「……それに大きくおなりっていっぱい盛られても、植物じゃないんだからすぐには大きくなれないし、今度は逆に横に太くなりそうで……」


「……お前の体格なら、そうなりそうだな」


「……うん」



 背が低くてガリガリとまではいかないけれど同じ年頃の子供よりも、あまり体系的に恵まれていない僕は気の毒に見えるらしく、かなりの高確率でご飯のオマケが付いてくるんだ。

 


「悪かったな。俺からも母ちゃんに言っとくよ」


「うん。もうちょっと早く言えればよかったんだけど、女将さんたち忙しそうで……」


「ああ、うん。悪かったよ。俺、ワイリーっていうんだ。お前は?」


「僕、ルッツ。よろしく」



 なんやかんやあったけど、僕とワイリーはこんな感じで友達になった。

 ワイリーは近所に住む子供は殆どが年上で、自分と同じ年くらいの子供が少なかったこともあって、僕のことを弟分みたいな感じで構うようになった。僕の方はというと、旅の間で出来た友達はワイリーみたいな面倒見のいい性格の子が多かったせいか、既に諦めの境地にはいっているかな。

 だって、僕の方が身長低いからどうやっても弟分にしかなれないんだもの。こういう時に身長が低いって悲しいと思う。




 数日もすれば、養父が借家を見つけてきた。どうにか条件に会う物件を見つけられたみたいだった。養父が納得した借家に行って見れば、確かに養父の条件に会っている家だった。古いとはいえ給水設備や魔道灯も付いているし、作業スペースとして使えそうな部屋もあった。工具や木槌の音が響くときがあるから、周りに迷惑をかけたと言われて追い出されやしないか心配だったけれども、大家さんにそのあたりの話を聞いたら、この家の周りの殆どが魔石の精製工場だったりするから、騒音の問題とかもあって壁は分厚く作ってあるんだって。木槌を叩いたくらいじゃ音は漏れないと言われて安心した。

 あの木槌の音で、何度宿屋を追い出されたことか……。冬の寒い時期に放り出されたこともあったし、思い出しただけで涙が出そうになる。



 それほど長くは定住できない身の上だけど、宿屋じゃない場所に住むのは初めてだった。僕たちは少ない荷物を備え付けの棚に仕舞い必要なものを買いに行くことにした。

 どうも出稼ぎの人が泊まる下宿のような場所だったみたいで、ベッドは備え付けになっていた。これなら布団を持ち込めばすぐにでも住めそうだ。あまり大きな荷物を増やしたくはなかったしお金も潤沢と言えるほどはなかったから、その点はありがたかった。



「やれやれ、相変わらずこの街は空気が悪い……。空気を浄化する魔道具が早々に必要になるな」


「え、買うの?」


「まさか! 部品と魔石さえあれば作れるもんをどうして買わねばならんのだ、その辺の魔道具屋よりもずっといいものが出来る」


「……父さん、それを人がいる場所で言っちゃ駄目だよ?」


「知れたことを……。ワシらは興味をもたれないことが重要だからな」


「うん」



 養父と二人で食器をそろえるために雑貨屋と食料品を買うために市場に行った。市場は魔石の精製所から出る煤が入り込まないように大きな建物の中にあった。手前は大きな建物だけど、奥の方は廃鉱になった坑道を使っているそうで、入ったら見かけ以上に広くて驚いた。

 大きく出入り口が開いているのに、良く煤が入り込まないなと思ったら、室内市場の出入口のところに魔道具があって、外の空気を室内に持ち込まないように風の壁が作られているんだそうだ。

 通りで出入口を通った時にスッと涼しい感じがしたと思った。

 市場の入り口で警備をしていたおじさんの話を聞いたら、多分単純な風を発生させる単純な魔道具だと思うんだけど……。

 風を起こすだけの魔法陣なら何となく想像がつくけれども、風とか空気みたいな形が定まっていない物の位置を固定するのは難しい。風の強弱はつけられても位置をの固定にどんな魔法陣が刻んであるのか分からなくて、ものすごく気になった。あんな魔道具を作る凄い人がこの世に居るんだと思った。




市場入り口の風の壁はエアーカーテンみたいなものです。


次回の更新は、5月5日(木)0時です。

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