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建国の技師  作者: kay
序章
3/23

とある研究者の手記

帝国歴六六七年 ○月 ×日


 鉱山の町で研究用の魔晶石の仕入れに行ってきたが、店先に並ぶのは純度の低い魔石ばかりだった。既に魔晶石は枯渇したと思ってもいいのではないだろうか。

 あの町には、かつて帝国一腕の良い魔道具職人や研究者たちが居たというが、店があった場所は既に空き家になっているところも多く、先細りする産業から若手が手を引いた結果だろう。早めに自分の将来を考えなければいけなくなったのは、魔力が使えなくなり寿命が短くなった結果だろう。


 私の研究でもある純度の低い魔石の活用法は既に実用段階にはなっているが、いかんせん魔晶石に比べて鉱石が持っている魔力が少ないために魔道具の稼働時間が少ないのも問題になっている。

 ではどうすればいいのか、魔道具の回路をより効率の良いものにすれば、魔石の消費は抑えられるだろう。だが、それにも限度はある。魔晶石を使えば数十年も稼働する物が、魔石なら長くても一年、早ければ数か月で魔力が切れるのである。

 魔晶石はもはや採掘できなくなって久しい、現状は稀に取れる純度の高い魔石を魔晶石と称して売っているようなものだ。おそらくはあと百年もしたら魔石も枯渇するだろう。そうなったら、帝国の地盤を支える魔道具は使えなくなってしまう。大戦のあとの暗黒期を再び迎えるのを待つだけか?

 いいや、私の研究を進めるのはそのような未来が来ないようにするためである。


 


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帝国歴六七〇年 ×月■日


 純度の低い魔石の活用した回路が皇帝陛下に認められることになった!

 効率の良い魔力回路の開発はかなりの時間を要したが、ここまで作ったかいがあった。帝都の研究者たちは苦虫を潰したような顔をしていたが、散々馬鹿にされていた私が結果を出したことが悔しかったようだ!!

 奴らの鼻を明かしたと笑ってやりたい気持ちもないではないが、私のやるべきことは別にある。

  皇帝陛下に認められた技術は、現状の保留に過ぎない。魔石の採掘もいずれは枯渇をみせるだろうことは、想像に難くない。そうなると、帝国は第二の暗黒期に入ってしまう。それを防ぐには魔晶石・魔石に代わる新たな資源が必要になってくるのだ。

 まずは頂いた報奨金で研究所を作ろうと思う。

 魔晶石の鉱脈がどのようにしてできたのかは学者たちが研究をしていたが、その研究者たちを仲間に引き入れられないか検討してみることにする。




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帝国歴六七一年 ×月○日


 ようやく私の研究所が完成した。

 魔晶石の研究家たちの殆どは、魔晶石が採掘されなくなってから職を追われていたために、喜んで私の研究所の職員として働くことに賛同をしてくれた。

 職を追われたとはいえ、彼らの研究も捨てたものではなかった。一人の研究者が調べていた、魔石が持っている魔力の増減についての研究は、新たな資源の確保にあたり光明をもたらすものであったのだ!

 簡単に記すならば、魔晶石や魔石に含まれる魔力は長い年月が経っても全く劣化しないのだ。ということは、魔晶石や魔石が採掘された際に出た岩石にも魔力が含まれている可能性があるということだ。

 幸いにして研究所を立てた西方の鉱山には、坑道が数多くあり、排石処理場の鉱石を拾ってくることは簡単だった。

 鉱夫たちは『そんなくず石を拾ってどうするのか?』と聞いてきたが、これが宝の山になる可能性が出てきている以上、研究をしない手はないと私は考えている。

 くず石の研究が頓挫した場合も考え、別の班には他の資源の活用方法の研究指示を出しておくことにする。




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帝国歴六八〇年 ■月×日


 研究がなかなか実を結ぶことができない、くず石を利用して魔力を取り出すところまでは巧くいく。だがその場合かなりの量のくず石を消費しなければ、魔石と同じ出力まで持っていくことができないのだ。

 皇帝陛下からは矢の催促で結果を出せとの知らせが届いている。この研究を始めて既に九年の月日が経っている、こちらも結果を出さねば研究費などの打ち切りもありうるだろう。

 何とかくず石から魔力を抽出する方法を見つけなければ……。




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帝国歴六八〇年 ○月×日


 なんということだろう!

 これほど良い研究の成果が出たのは初めてだ!!

 きっかけは、第二班の研究者と私の部下の言い争いから始まったことだった、くず石の研究に思っていた以上に時間がかかり、それに対抗するよう第二班が独立をしたいとの話が出たところだったのだ。

 既にここまで内部がボロボロになっていたのかと私は愕然とした。

 だが、この言い争いも結果としてみれば良い方向に進むきっかけになった。

 部下たちの言い争いの際に研究資料が投げ込まれたのが研究資材として使用済みになっていたくず石の山だったのだが、投げ込まれた試薬がくず石と思わぬ反応を起こしたのだ。

 くず石が試薬と反応した時に光を発したのだ! それも、魔石が魔方陣と反応するときと同じような赤い光だった!

 薬品を投げ捨てることは感心できなかったが、何もかもが行き詰っていた私たちにはこの反応がもたらした影響は大きかった。

 私たちは、その反応を再現すべく第二班と合同で研究を進めることなった。

 

 第二班が持ち込んだ薬品と魔力を含んだくず石は混ぜると反応することは分かっている。この反応がどのような結果をもたらすのか観察することにした。

 結果としては、試薬の一部がくず石の持つ魔力を一時的に増加させることが分かった。

 更にさまざまな手法で試薬とくず石の反応を実験したところ、熱した試薬とくず石の組み合わせが一番大きな反応を見せることが分かったのだ!!

 試薬として使われたものは、過去の大戦前にはよく使われていた魔法薬と呼ばれる薬であった。使用用途としては、消費された魔力の回復らしいのだが、帝国民には既に魔力持ちは存在していない。流石にそのようなものが魔石に効果をもたらすとは思いもよらなかった。

 

 私は魔石の研究者ではあるが、この際に過去の魔法に関する研究も並行して行うべきか。

 魔術を使う者は反逆者であるとの認識が強い帝国で、魔術を研究するということはあってはならない事かもしれないが、過去の魔術を学ぶことで何か魔石について分かることがあるかも知れない……。




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帝国歴六八五年 ■月△日


 遂に長年研究をしていた、くず石の利用の目途が立った。

 研究者の一人が小さいながらもくず石から魔力結晶を取り出すことに成功したのだ。

 出来上がった結晶は、小さいながらも長年研究をしてきた魔晶石と同じく赤く輝いていた。

 まだまだ現実的に利用できる大きさではないが、担当者が言うにはこれを大きくするのも可能であるとのことだった。

 結晶を効率よく作り出すことや、結晶自体が使い物になるかどうかを確かめる研究も残っているが、私の研究はここまでのようだ。


 私が魔術の研究をしていることが帝国の官吏にバレたのだ。魔術の研究を進めるごとに私の身にわずかながら魔力があることも分かった。

 研究者として帝都で働いている知人から、逃げろとの知らせがあった。

 私は研究者として、魔道具の技術者として帝国に尽くしてきた、後のことは研究ノートに書いておいた。優秀な部下のことであるから、今後の研究の心配はない――






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