魔法のはなし
どのくらいの時間が経ったのか分からないけれども、エッダの意識が戻った。
「どこか痛いところとかない?」
「くらくらする……」
怠そうに起き上がった彼女は、壁を背にして頭を押さえているのが何となくわかった。倒れた時に頭を打ったのかと心配になったけれど、本人の自己申告で貧血に近いような症状らしいことも分かった。
エッダの顔色を見ようにも、魔導具もどきの明るさではそんなことまでは分からないから仕方ない。
「怠い……」
「精霊にお願いする対価に、魔力が持って行かれるって話したよね?」
「はぁ……。こんなに力が抜けるなんて聞いてないってば」
エッダの意識が戻るまで、僕は何故彼女が倒れたのかを考えていた。どのみち彼女の意識が戻らなければ動くに動けないし、考える時間は十分にあった。
ひとつ考えられるのは、彼女の魔力量が少なすぎること。これは、彼女を助けた時に魔力量が少ないってことは分かっていたし。
あとは光源の魔法との相性がものすごく悪かったのだろう。アリッサさんが言うには、不得意な魔法を無理やり使おうとすると消費魔力が多くなるらしく、光の魔法の反属性は闇だから、彼女の得意な属性が闇ってことなんじゃないだろうかと思い至った。
「エッダが倒れたのって、魔力が少ないのが原因だと思う」
「一回魔法使ったら、魔力が無くなるとか……。それって、無いのと一緒だと思うんだけど」
「まぁ、魔力があっても使えないよりいいんじゃないかな? 不得意な属性の魔法を使うと余分な魔力を使うらしいから、多分エッダは闇属性が得意なんだよ」
少なすぎるエッダの魔力を相性が悪すぎる光の魔法を使ったせいで、一気に魔力切れを起こして失神という流れになったんだろうなと……。
まぁ、憶測にすぎないけれど、多分当たっていると思う。
「……なんか、闇属性ってどうなのさ」
「別に悪いものじゃないよ。光があれば影も出来るでしょ? それ以前に、魔力持ち自体が迫害されているんだから、得意な属性云々は今更だよ」
闇と聞くと悪いものを想像しやすいけれど、光があれば影が出来るだろと言うと、あっさりと自分の得意な属性を受け入れて、闇属性はどんなことが出来るのかと僕に質問し始めた。
気持ちの切り替えが早いなと思いつつ、僕自身が魔法を使えないから実際にどんな魔法があるのか良く解らない。アリッサさんに教えて貰ったことと言えば、闇属性と光属性は特殊すぎて小耳にはさんだ程度なのだ。
「光属性なら、光源の魔法とかの他に傷の手当とかそういったのがあるんだけど……」
「なんていうか、闇なら真逆な感じだね。周りを暗くするとか?」
「基本の四属性よりも結構特殊だから、光属性の回復みたいに特徴的なのがあったと思うんだけど……、魔法陣化しているものも少ないから、僕もあまり詳しくないんだ」
「いいよ、別に。それに魔法が使えたって、あまり使いどころがある属性って訳でもなさそうだし」
立ち上がろうとしてふら付いているエッダにもう少し休むかと聞いたけれど、それほど具合が悪いわけではないから大丈夫だと言われて、僕らは再びゆっくりと歩きだした。
途中で息が切れるのか立ち止まってしまう彼女を暗闇の中に置いて行かないように、僕は彼女の手を引いて勘を頼りに真っ直ぐ進んだ。
所々、天井や壁が崩れている場所もあり、先ほどよりも足場が悪くて酷く歩きにくい。壁に手を付きながら歩いていると僕の方が疲れてきてしまった。
「ルッツは体力ないな」
「……体力がないのは自覚してるよ」
しばらく歩くと、広い空間に出た。頬に風を感じるため、どこかに通じているようなのだが、魔道具もどきの魔石入りの砂もそろそろ交換しないと明るさが心許なくなってきた。
それほど長い距離を進んだわけでもないのに、どうして今になって疲れが出てきているのか気になったけれど、疲れてしまったものは仕方がない。
「エッダの方は調子が良さそうだね。なんていうか、エッダに僕の体力を吸われているみたい……」
「人聞きの悪いこと言わないでよ」
体力が回復してきたエッダに少しばかり体力回復が早すぎじゃないかと違和かと思ったけれど、ここにきて疲労が極限に達したようで僕は休憩と言わんばかりに座りこんだ。
元々、魔道具いじりばかりしていた僕はもやしっ子だけど、これほど短時間に疲れが出たことはなかったと思う。
坑道の状態や歩いた距離の他に、今とその前で何か違いがあっただろうかと考えて、思い至ったのが、エッダと手を繋いでいたことと、それに伴って歩調がゆっくり目になったことくらいだろうか。
ただ、歩調がゆっくりになったのなら、これほどの短時間で体力が消耗するのはおかしいよね?
「ねえ、エッダ。一つ聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」
「なに?」
「さっき、僕がエッダに体力が吸われているみたいって言ったけど、エッダの体力って戻っていたりする?」
「え? 確かに戻ってはいるけれど、休憩もしたし、ゆっくり歩いていたんだから疲れもそれほどじゃないとおもうけど?」
アリッサさんは、闇属性の特異性をなんと言っていただろうか、僕は確かに聞いたはずなのだ。僕はそれを確実に知っているのだけど、喉元まで言いたいことが出てきているのに、言葉に表せないモヤモヤしたものがある。
僕が感じた急激な体力の消耗と、エッダの体力回復?
体力を吸われたみたいって言ったけど―――、吸う?!
闇属性の特異性ってこれなんじゃないか?
「あー!!!」
「ルッツ?!」
「思い出した! 思い出したよ、エッダ!!」
「だから何を!?」
「闇属性の力って、他人からの体力とか魔力の吸収だ! これなら、エッダも魔法が使える!!」
僕の考えは、現状で何もしなくてもエッダは僕の体力を吸い取っている。もやしっ子の僕は体力が少ないから、体力が吸われてすぐに症状が出たけれども、魔力ならば違うと思う。
光源の魔法くらいならば、エッダを通して魔力を使ったとしても、アリッサさんの数倍の魔力を持っている僕なら、魔道具でいうところの魔石の役割は十分に果たせるはずだ。
「アタシはそっちの方面は全然詳しくないから分からないけど、それってアンタの体力も一緒に吸っちゃうんじゃないの?」
「あ、そっか……。でも、そろそろ魔道具もどきも限界だし、やらないに越したことはないと思うんだ」
「確かに」
「やるなら、体力があるうちにここを抜けた方が良いと思う。明るくなれば、もしかしたら道標とかも見つかるかもしれないし、足元の安全確認とかもしやすいだろうし、早く脱出は出来るでしょう?」
「それもそうだね。やろう!」




